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神はマナと呼ばれる魔力素と、命の水を創り賜うた

 ―――この世界に【ハーティ】と言う植物が創られてから、三万年の刻が経った。


 かつてはテニスボール程だった大地は、今では地平線が見える程の、広大な大地になっている。

 地表にはグリーンの絨毯のようにハーティ草が茂り、風が吹くたびに緑は揺れ、大地を波打たせていた。


「アインス、水だよ」

「ありがとうゼロス」


 一万年程前まではゼロスとレイスは、ただ俺の話を貪るようにじっと聞き、一緒にハーティ草を眺めるだけだった。

 だがあるとき突然、レイスが自分の意思で実験を始めた。

 育ち、枯れていくハーティ草の生育環境の条件を変えてみたのだ。

 暑くしてみたり、寒くしてみたり、明るくしてみたり、暗くしてみたり、風を強くしてみたり、水を与え過ぎたり、逆に水を与えなかったり。

 そんな事を始めた。


 ハーティ草は、その条件下で様々に姿を変えた。

 茎が間延びしたり、色がグリーンから赤に変わったり、白い花が、ピンクになった事もあった。

 一度やり過ぎてハーティ草が全滅しそうになった時、ゼロスはレイスを怒った。

 ゼロスが『自分の愛するハーティ草を虐めるな』と、レイスを責めたのだ。

 それ以来レイスは、あまり過激な環境変化は行わなくなった。だけどレイスはそういった実験を行い、観察するのが好きなようだ。


 興味に任せ、実験と観察をすると言う“好奇心”を持ち始めたレイス。

 そして自分の大切なものを守る為に、怒る事の出来るゼロス。

 二人とも素晴らしい成長だと思う。



「どうしたの? アインス」


 ふと思い出に浸り無言になっていた俺に、ゼロスが心配そうに声をかけてくれた。


 本当に優しい子だ。


「いや、ちょっと昔の事を思い出していただけ。お水を貰おう。所でレイスは?」

「レイスなら“雨雲”の調整をしてたよ。太陽の距離を近づけたから、蒸発率を計算し直してる。そしてアインスの話にあった“積乱雲”を作るって言って……あ」


 そこまで言ってゼロスは、ハッとしたように慌てて口を抑えて黙り込んだ。


「どうかしたのかい?」

「……。……これ内緒だったんだ。アインスにとびきり大きな入道雲を見せて、ビックリさせる計画だったの」


 なんと! この子達は内緒事や、サプライズ計画迄出来るようになったのか。

 俺は嬉しくて思わず微笑んだ。

 まあ、顔はないけど気持ちだけ。


「それじゃあ、これは聞かなかった事にしておこう。―――……コホン。レイスは遅いなぁ、どこに行ったのかなあ?」


「ありがとう、アインス」


 俺がおどけて言うと、ゼロスはイタズラ気に笑った。


 ゼロスがジョーロから、俺に水を優しくかけてくれる。

 この水は、レイス特製の特別な水。

 ハーティ草に与えている様な雨水ではなく、“マナ”と名付けた物質の液体結晶だ。

 物質と言ってもその実態は、電子レベルの極小エネルギー体。

 空気や水、土や炎に至るまで、あらゆる所あらゆる物に包有させる事ができ、マナの含まれる物や場所は、マナに決まった命令式を下す事で、レイスのみならずゼロスや俺の意志でも自在に操ることが出来るんだそうだ。まぁ、俺は出来ても見てるだけだけどね。


 また、本来エネルギー体である訳だから、高純度のマナは俺にとって、甘露とも栄養ドリンクとも言える。

 レイスの降らせてくれる雨水とともに、定期的にコレを取ると、元気が出て葉がみずみずしくなる気がするんだ。

 そうだな。名付けるなら【命の水】とでも名付けておこうか。


「ゼロスっ!」


 俺が命の水を味わいながら摂取していると、レイスが戻ってきた。


 レイスはあまり命に頓着しない。

 “踏まれて枯れるならそれも仕方無し”とでも言う勢いで、ハーティ草の草原を疾走してくる。


 ゼロスも諦めたように溜息を吐きながら、その光景を眺めていた。


「一体どうしたの、レイス? そんなに慌てて」

「っ凄いの、見つケタ」


 そう言って、レイスがゼロスに差し出したのは、よつ葉のハーティ草だった。


「これは!?」

「レイスも初めてミタ。環境に適応しきれなかった弱い株がこうなった」

「っだめだよ! こんなの! このハーティ草は、僕とレイスとアインスの三つ葉だったんだから! 四葉じゃ意味がないよ!」


 ゼロスが四葉を見て、不満を口に漏らす。

 ……自分の創った“大切な宝物”を壊された。ゼロスはそんな気がしているのかもしれない。

 俺からしてみれば、四葉であっても当然のごとく、愛しい存在なのだけど。


「だったラ、四人目を創ロウ」


 レイスの一言で、今日することが決まった。

 ゼロスも今まで怒っていた事を忘れ、目を輝かせながらそれに賛成した。


「いいね! 僕が創りたい」

「ゼロスはハーティ草を創った。次はレイスのバン」

「ニ人でそれぞれ創ればいいんじゃないかな」

「え―? 四人目だよ? ニ人でそれぞれ創ったら、五人になってしまうから駄目だよ」

「ん? 別に構わないんじゃないのかな? ニ人で創る方が楽しいし、大勢になったらもっと楽しい」


 また喧嘩を始めそうな2人に俺がそう言えば、ゼロスは少し悩んで、直ぐに納得したようでレイスに笑いかけた。


「一緒に創ろう」


 レイスは自分の分と、ゼロスの分の肉をちぎり一つを渡すと、自分の分の肉を真剣な顔でこね始めた。


「どんなのがいいかな? そうだ!」


 ゼロスもウキウキとしながら、肉をこね始める。


「……ねえ、レイス」

「何? ゼロス」

「今回創るやつは、死なないやつにしよう」

「どうして?」

「ハーティを見ていて思うんだ。種で新たに芽吹くのは確かに嬉しいんだけど、枯れていくのがやっぱりどうしても悲しいって」


「そう、わかった。じゃあ、死なないのにスル。だけど死なない奴は、種を落とさないように創ろう」

「そうだね。土にならないのに増えてばかりじゃ、大地が狭くなってしまうからね」


 2人はそんな話をしながら、仲良く肉をこねていた。




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