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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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薬局のおじさん

 私が【ルシファー】への感想を言えば、クロも少し控えめに頷き言った。


「おれも思った。でも父ちゃんに『魔物みたい』って言ったら、父ちゃん嫌な気分になっちゃうだろ?」


 なる程。確かに嫌な気分になるかもしれない。

 クロがさっきシアンに教えようとしなかった理由が、今やっと分かった。


「そうだね。シアンには内緒にしよう。シアンに『魔物に似てる』とか『こっちの方がかっこいい』とか言ったら、多分シアン泣いちゃうからね」

「……え? イヴ何言ってるの? 父ちゃんは今のままの方がカッコイイと思うよ?」

「……え?」


 ……クロは何を言ってるんだろう? 骨の翼がある方がカッコいいに決まっているのに。……まあいいか。

 私はキラキラシールを大切に封筒に仕舞うと、クロに渡した。


「見せてくれてありがとう。元気になってほんとに良かったねぇ、クロ」


 だけどクロはなぜかシールを受け取ろうとせず、ポツリと言う。


「……それ、イヴが欲しかったらイヴにあげるよ」


 一瞬ドキリとした。キラキラシールは欲しい。

 でも、クロもキラキラシールが大好きな事を私は知ってる。

 欲しいけど、私はクロに優しくすると決めたから、私は首を振ってクロに言った。


「キラキラシールは好きだけど、これはクロが手術を頑張ったから貰えたの。だからこれはクロのだよ。……だけど、また私が見たくなったら見せてね?」


 クロは一瞬驚いたような顔をして、直ぐに満面の笑みで頷いた。


「うん! イヴになら、おれいつだって見せるよ」


 私も笑いながらもう一度シールを差し出せば、今度はクロはそれを受け取り、自分の鞄に大事に仕舞った。

 それからまた私達は手を繋いで『シアンのところに戻ろうか』と頷きあって、踵を返した。


 ―――だけどその時だった。


 空からヒュンと、私の拳程の何か丸い物が落ちて来た。

 ボール? ガラス玉? よく分からないけど、その丸い物は地面に落ちると、弾むことなく吸い込まれるように溶けて消えた。

 私は不思議に思い、それが降ってきた空を見上げながらクロに声を掛ける。


「今の見た?」

「うん……。なんだろう? 変な感じ」


 そう言ったクロは空では無く、辺りをキョロキョロと見回している。

 私は首を傾げながらクロに尋ねた。


「『変な感じ』って何が?」

「うん。何かここお外なのにね、()()()()()みたいになった気がするなーって。……急にね、食べたいと思う物があんまり無くなったの」

「ん? それは変だね。クロは食いしん坊なのに」


 私がそう言って、先程と何も変わらない景色を見回していると、突然後ろから男の人の声があがった。


「―――なる程。【マナ】を求めるあまり、無意識に【マナ】の流れや濃度に敏感になったんだね」

「!?」

「!?」


 私は驚いて振り向き、クロは振り向きざま私の前に飛び出して来た。

 私が首を傾げ、クロの背中越しに声の上がった方を見る。

 クロはじっと、さっきシールを取り出した木を睨んでいた。

 すると一拍の後、木の後ろから見た事の無い一人の男の人がスッと出てきた。

 白いシャツに黒いズボン、それに森を歩くには適さなさそうな革靴を履いて、膝下まである白い羽織を着た、シアンより頭一つ分小さな茶色い髪の男の人だ。


 男の人は『何もしないよ』とでも言いたげに、手のひらを見せるポーズを取りながら、私とクロに笑いかけてきた。


「あはは、ごめんね。僕は怪しい者ではないよ」


 ……いや、怪しい。物凄く怪しい。その笑顔が胡散臭すぎる! 


 クロも同じように思ったのか、ずっと私の前に立ちはだかって、男の人を睨み続けている。

 男の人はそんな睨むクロを気にした様子も無く、ゆっくりとした口調で私達に話し掛けてきた。


「こんにちは。イヴちゃんにクロくん。僕はね、君達が“ジョーイさん”と呼ぶ人から頼まれて、お薬を持った来たんだよ」


 クロは男の人を睨んだまま、首を振って言い放つ。


「……お薬なら、いつもグレイ姉ちゃんが持って来てくれる。お前なんか知らないっ」

「その“グレイ姉ちゃん”とやらは、いつも僕の所から薬を運んでいたんだよ。だけどとうとう『もう僕の顔を見たくないから薬を取りに来たくない』と言われてしまってね、仕方なく自分で持って来たという訳なんだ」


 私はどうした物かとチラリと後ろを振り返り、シアンに目をやった。

 シアンは相変わらずじっとこちらを見ているが、別に気にした素振りは無い。


 クロが首を傾げながら、おずおずと尋ねる。


「……“薬局のおじさん”?」

「―――……。……うん、そう。君達にとってはそうかも知れないね」


 男の人は一瞬言葉を詰まらせたが、笑顔でコクリと頷いた。

 確かに黒いズボンに白い白衣のようなものを纏っているから、絵本で見た“薬屋さん”に見えなくも無い。

 じとりと私達が観察していると、男の人はダメ押しとばかりに空中から、ひと抱えほどの紙袋を取り出した。

 まるで手品のようなその動きに、私達は思わず見惚れ、歓声を上げた。


「「……ほぉ!?」」


 私達が目を見張って驚いていると、男の人はクスクスと笑いながら、袋の中から小瓶を取り出して私達に見せてきた。

 途端にクロが、小瓶を指差し声てを上げる。


「あ! それ、おれのいつも飲むお薬だ!」 

「って言うことは、……やっぱり薬局のおじさん?」


 私そう聞けば、男の人は……いや、薬局のおじさんは無言でニコリと笑った。

 その人の正体を知った私達はほっと胸をなで下ろし、薬局のおじさんに各々に口を開いた。


「ジョーイさんに頼まれたの? ジョーイさんはね、今リリーの店に居るよ!」

「ほら見て、あそこにシアンも居るよ! 呼んできてあげようか?」


 薬局のおじさんは困ったように笑いながら、必要無いと手を振る。


「いいんだよ。僕は少しクロくんに会ってみたかっただけなんだ。だから今回シアンやジョーイさんに会う必要はない。薬は……すまないけど、イヴちゃんからシアンに渡しておいてくれるかな?」


 そう言って薬局のおじさんは、私にお薬の紙袋を差し出してきた。

 紙袋を受け取れば、それは予想外に軽くて少し驚いた。

 私は紙袋を両腕でしっかりと抱きしめ見上げると、何故か笑顔の薬局のおじさんに、どこか寂しそうな雰囲気を感じた。

 そして私はふと一つの結論に辿り着き、薬局のおじさんに力強く頷いた。


「任せて、薬局のおじさん! 私がシアンに渡してあげる! ……だけどね、シアンはとっても優しいから大丈夫だよ?」

「ん? ……『大丈夫』とは?」


 ふと薬局のおじさんが首を傾げた。


「だって薬局のおじさん、恥ずかしがり屋さんなんでしょ。だからシアンやジョーイさんに会わないんだよね? 恥ずかしくて直接渡せないんでしょ!」


 図星だったのか、薬局のおじさんの顔が引き攣ったように固まった。

 私は胸を張って、薬局のおじさんに教えてあげた。


「今日は私がちゃんとお薬届けるよ。だけどまた来てね! シアンのご飯美味しいから、一緒に食べたらきっお薬局のおじさんもニッコリしちゃって、皆と仲良くなれるから!」

「……ああ、うん……お薬は頼むね。でも僕は別に仲良くはならなくていいんだよ」


 薬局のおじさんは、それからクスリと小さく笑い『優しい子だね』と言って、私の頭を撫でてくれた。


 ―――うん。この人は“内気ないい人”だ。

 シアンに言って、今度お家に呼んであげよう。


 私はそう思って、薬局のおじさんに尋ねた。


「薬局のおじさんは、食べ物で何が好き? 私はねぇ、お姉さんだからお野菜が大好きなんだよ」

「そうなんだ。僕は……うーん、ふろふき大根かなぁ」


 薬局のおじさんはそう言って、私の頭から手を離した。


「じゃあね、二人共。お薬頼んだよ」


 私達は頷いた。


「うん、バイバーイ!」

「お薬ありがとう! 薬局のおじさん!」


 薬局のおじさんも笑顔で手を振り返してくれた。

 私達は踵を返し、シアンの所に向かう。


 その途中で、また薬局のおじさんの声が後ろから聞こえた。


「あ、後一つだけいいかな! シアンに『もうすぐクロくんの誕生日になるから、()()()()()()()()』と伝えておいてくれるかな?」

「はーい!」

「いいよー」


 私達が返事をしながら振り返れば、またいつの間にか薬局のおじさんは居なくなっていた。

 ……不思議な人だ。


 私達がまたシアンに向かって走って行くと、途中でシアンが驚いた様に立ち上がってこっちに駆けてきた。


「イヴっ、クロ!! どうしたんだ!? 何だその袋は!」


 慌ててそう叫ぶシアンに、私達は立ち止まって首を傾げた。


「え? さっきそこで貰ったんだよ? シアンも見てたでしょ?」

「……何言ってる? ずっと見てたが誰もいなかったぞ。ちょっとその袋貸してみろ!」


 ……シアンは何を言ってるんだろう? 

 私が首を傾げ袋を差し出すと、シアンは奪うようにそれを取り上げ、中身を確認した。

 そしてホッとしたように小さく呟く。


「あぁ、何だあいつか。……ビビらせやがって」


 それからシアンは、私達に指を突きつけて言った。


「いいか? 今回は良かったが、知らない人から物を貰ったら駄目だぞ? 変な物かも知れないからな!」


 少し怒ったようにシアンはそう言ってきたけど、私は口を尖らせ言い返す。


「知らない人じゃないよ。シアンとジョーイさんの知り合いって言ってたし、クロのお薬を作ってくれる薬局のおじさんだもん」


 私がそう言った途端、シアンが目を丸くした。


「薬局のおじ……? あいつが……そう名乗ったのか?」

「うん」

「―――ぶふっ……」


 突然シアンが吹き出し、何故か震えながら笑い出した。

 クロがシアンに言う。


「そうだ父ちゃん、なんかね、薬局のおじさんが『もうすぐおれの誕生日だから、わかったら教えて』って父ちゃんに言っといてって言ってたよ」


 シアンがまだふるふると震えながら『あぁ』と頷いた。

 楽しそうなシアンに私は嬉しくなった。

 やっぱり別にシアンは薬局のおじさんを仲間だと思ってる。なら、薬局のおじさんだって勇気を出せば、シアンと仲良くなれるはずだ。

 私は薬局のおじさんの為に、ちょっと鈍い所のあるシアンに教えてあげる事にした。


「『分かったら教えて』って、てきっとクロの誕生日パーティーの“日取り”のことだよねぇ? 薬局のおじさんも参加したいんだよ。あ、でも薬局のおじさんは恥ずかしがり屋さんだから、シアンから呼んであげてね」

「……ふっ……ぷぷ……何だって?」


 シアンが自分の口を押さえながら、やっぱり嬉しそうに笑ってる。


「だってね、薬局のおじさんは『シアンと仲良くならなくていい』って言ってたんだもん。内気だから恥ずかしくて、自分で声を掛けられないんだよ」

「ふ……ブフっ……そ、そうなの? なら呼ぼうか……くくっ」


 シアンは震える程に笑いながらそう言ってくれた。


「……あ、そうだシアン! 後ね、薬局のおじさんはふろふき大根が好きだって言ってたから、シアン作っておいてあげてね。そうしたら薬局のおじさんも『わぁー! ふろふき大根だぁ(裏声)』って言って、きっとニッコリしちゃうと思うから!」

「ッッブフゥーッッ!!! も、もぅダメだっ! アッハッハッハッハッッ!!」


 シアンはまた盛大に吹き出し、今度はそのまま蹲ってお腹を抱えながら笑いだした。

 何がツボに入ったのかは知らないけど、それからシアンはその日一日中、時折思い出し笑いで突然吹き出しながら、楽しそうに笑っていた。


 シアンをこんなにも笑わせてあげる事の出来る薬局のおじさんが居るなんて、私はちっとも知らなかった。

 そして私は、あの白衣を着た薬局のおじさんの事を思い出しながら、今度会った時は私もあの恥ずかしがり屋の薬局のおじさんに、もっと仲良くしてあげようと心に誓ったのだった。



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[良い点] マスターが出たところ マスターが薬局のおじさんになったところ [一言] マスターをありがとう
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