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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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夜の酒場 〜リリーの呟き〜

本日2投稿目。


分割した後編です!↓

 《引き続きシアン視点》


 酒場の扉を開けるとそこには、カウンターで子供椅子に座ったまま、机に突っ伏し眠るイヴの姿。

 その手には子供用のフォークがしっかりと握りしめられ、噛りかけの唐揚げが刺さっている。


 ―――……可愛い……。


 ……じゃなくて、驚いたのはその周りにいる面子だ。

 リリーとルドルフと女医さんは元より、ガラム叔父さんや虹色に輝くプラチナの髪を持つ美少年【精霊王】様までいる。

 その方々が眠るイヴの周りを、ものっすごい真剣な顔で取り囲んでいたのだ。

 オレは思わず、顔を引きつらせながら声を掛けた。


「……な、何をしてるんスか?」


「「「「「撮影会ですが、何か?」」」」」


 キレイにハモった。

 可愛いのは分かるが、こうして見るとヤバイ人達以外の何者でもない。

 とは言え、ここにいる面々は基本オレより格上の人達ばかりなので、その感想は胸の内だけに留めた。


「ガラム叔父さん、来てらしたんですか。それに精霊王様も」

「うむ、イヴが怪我をしているのが見えて、駆けつけたのだ。その後イヴの食事風景を見ていたのだがな……こうして食べながら眠ってしまったのだ」


 そう言って、物凄くいい笑顔で微笑んだ叔父さん。

 ……てか、どっから見てたんだこの人は。


「僕は【ポシェット】が治ったから持ってきたんだよ。そしたらイヴが怪我したって聞いてビックリしたよ」

「あ、直ったんですか。ありがとうございます!」

「いいよ、ロゼ様は?」


 精霊王様に尋ねられてオレは、『あぁ』と頷く。


「それが、クロの手術の翌々日位からでしょうか。睡眠時間が増えだして、ここ数日は一日中眠り続けていますよ」


 オレの話に、精霊王様の眉間が寄る。


「……それって大丈夫なの?」

「ええ、初めの頃に尋ねた時に『“()の調整”に集中してるだけだから、寝てる分には問題無い。一〜二年くらい寝てても気にしなくていいから』と言ってましたので」


 オレの答えに精霊王様は少し考え込み、納得したように頷いた。そして草を編んだ掌ほどのポシェットを差し出しながらオレに言う。


「まぁ、ロゼ様の時間の感覚は僕等とは違うからね。じゃあこれ、直したポシェットだよ。もうタオルなんか詰めちゃ駄目だからね!」

「いえ、オレが詰めた訳じゃ……」

「っ監督不行届なんだよ! 本当は僕だってロゼ様のお世話したいのにぃっ、呼び捨てとか何様だよ!?」

「はい、すみませんっ」


 理不尽なお叱りに言い訳をしようとしたら、更に理不尽な逆ギレを受けた。

 まあ、精霊王様にとって、ロゼはかけがえのない存在なのだから仕方ないと言えば仕方無いのだが……。


 なんやかんやで賑やかしくなりつつあるこの場から、オレは眠るイヴを避難させるべく歩みを進めた。

 店内にいる面々には、すれ違いざま声も掛けていく。


「精霊王様、ポシェットの件ありがとうございました。そしてガラム叔父さんにも心配をお掛けしました。女医さんもルドルフも、今日はありがとうな。それにリリーも唐揚げ食わしてやってくれてサンキュー」


 そして辿り着いたカウンターからイヴを抱き上げると、叔父さんが尋ねてきた。


「起こすのか?」

「いえ、このまま寝かせておきます」

「風呂は? 歯磨きもさせていないが」

「構いませんよ。明日すればいい。今日はイヴはとても頑張ってくれた。だから今日は“何にもしなくていい日”なんです」


 女医さんが笑う。


「ふふ、そんな日はないわよ。几帳面なシアンが珍しいわね」

「はは、そんな日もあるんだよ。ま、風呂なんて入らなくても、死にゃしないさ。じゃあオレも今日はこれで失礼します」


 オレも笑いながらそう答えると、皆に会釈をかわして踵を返した。

 眠るイヴを抱き抱えたまま扉をくぐれば、後から優しい声が幾つも飛んできた。




「おやすみ、イヴ」




 ―――うん、そうだな。おやすみ、イヴ。





 ◇



 《リリー視点》


 シアン様がイヴ様を連れて帰ってから、その他メンバーは帰るどころか何故か逆に腰を落ち着け、話し始めた。

 クロ様の経過を見ると言って残っているジョーイはともかく、他は意味がわからない。

 早く帰ればいいのに。


「リリー、何か飲み物をもらえる?」


 そう言ったのは精霊王。ってか貴方達は基本飲食は不要な存在でしょう?


「ええ♡ 勿論♡」


 とは言え、別に逆らう理由も無く頷く。

 ……はぁ、ダルい。

 シアン様やイヴ様なら喜んでお茶でも酒でも出そう。ジョーイもシアン様の体調面で世話になっているから水くらい出すとして、それ以外はなんの旨味もない。

 ガラムだって昔の上司だからなんだと言うの?

 ルドルフなんてボッチだったところをシアン様に友達になってもらってるような関係だ。寧ろ何か差し出して貰わなければいけない気すらする。

 精霊王に至っては、かつてシアン様へ逆恨みによる嫌がらせをした相手だから、論外な訳ではあるんだけど……。


 早く帰ってくれないかなと思いつつ、小さなグラスに三割程度だけ水を入れたグラスを配る。

 どうせここのメンバー達だって、雰囲気的な物が欲しいだけで何だっていいのだ。そもそも好みを知らないし、興味も無い。


 私は、配り終えるとまたカウンター内の隅に引きこもり、何をするでも無く、ダレて……もとい大人しくしていた。


 まずはガラムが、やや不満げに口を開いた。


「クロの話は聞いていた。しかし今回の件、如何ともし難い。シアンはちゃんと出来てるのか?」


 ジョーイが頷く。


「クロくんの状態が状態だから、シアンは精神的に随分参っているようです。聞いた話では今回の件、誤って部屋に入ったイヴちゃんにクロくんが襲い掛かり、シアンはそれを止める為に手を上げようとしたとか……。とっさとは言え、普段の彼では考えられませんね」

「そんな事はいいのだ。殴ってでも止めようとしたのなら、なぜイヴが怪我を負う?」

「はい。イヴちゃんがシアンからクロくんを庇ったと聞きました。その拍子にイヴちゃんは接近しすぎてしまい、クロくんに噛まれたそうです」


 ガラムは溜息を吐きながら額を押さえた。


「……あいつは四歳の子供も止められんのか? それともイヴが止めさせなかったとでも言うのか? いくら何でもまだ幼子だ」


 ……まぁ、イヴ様の戦闘センスは私から見ても末恐ろしい物を感じる。

 多分前の手合わせの時も、イヴ様の()()()()動けていれば、シアン様は木剣を折るどころか、普通に打ち勝っていた筈だ。


 その時、ルドルフがシアン様を養護する声を上げた。


「でもよ、昼間イヴから聞いたんだが、ちゃんと飯は食ってるし、風呂もあの通りだ。外出は減ったらしいが絵本三冊は日課で室内遊びはちゃんとしてるらしいぞ」

「……クロくんを診ながら? 良くできるわね……【ノルマン】へのレポート作成や食材調達は?」

「イヴの話から察するに、イヴ達を寝かしつけた後に全部やってそうだな。小器用な奴だ。多分夜の内に家事やら食材調達やら、そこいらの仕事やら全部やってんだろ」

「……」


 ガラムは『うむ』と頷き、ジョーイは『また寝てないのね』と、溜息を吐いていた。


 ルドルフは更に続ける。


「まぁ、そんなシアンに対してイヴは『構ってくれなくて寂しい。自分はシアンの世界で一番じゃなくなった』なんて言って泣いてたけどな」


 ジョーイがポツリと呟く。


「……子供って……残酷ね」


 ガラムも頷いた。


「まぁ、私は育てた事はないが、歴代の勇者達の幼少期を見てれば似たようなものだな。そして放置すれば不貞腐れ、世界を滅ぼそうとした事もある。……まぁ、アビスその本人がそうだ」


 ……また懐かしい話を。

 その頃私達はまだこの人の下に付いていた。

 だけどあの一件を境に断食を言い渡され、私達はこの人に不信を持ち始めたのだ。


 ふとそんな思い出に浸っていれば、ルドルフが弾んだ声を上げた。


「まじか! あれ一時すげぇ噂になったよな。偽神とか偽勇者とかいろんな噂が出ててさぁ」

「……うむ……。まあその点、シアンは頑張っていると褒めておこう」


 その件についてはもうあまり突っ込まれたくないのか、ガラムはそう言って黙った。

 そう、シアン様はちゃんとしてる。外野は黙ってれば良いのだ。

 私が白けた目でその様子を眺めていると、ふと店の外から人の気配がした。

 そして少ししてから扉が開き、間延びした若い男の声が上がる。



「こんばんわー」



 私は立ち上がり、胸の前で手を合わせてその方をお出迎えした。


「まぁ! ロロノア様♡ いらっしゃいまし♡」

「やぁ、すみません夜分遅く……ってまだ8時半か。ははは」


 そう言って頭を掻きながら笑うロロノア様。


 癒やされる……!


「うふふ♡ 何かご入用で? それとも何か飲んでいかれます?」

「あ、ええ。持ち帰りでワインを2ボトル頂けますか? 先輩に頼まれてしまって」


 私は手早くボトルの準備をしながら、微笑みながら社交辞令を交わす。


「ジル様に? あらん、持ち帰りなんて酷いわぁ♡ 折角なら一緒にお飲みしたかったのにぃ……」

「ですよね。僕もそう言ったんです。でも何故か先輩は『あの面子の中で飲めるかっ』て怒鳴ってきまして……そして僕に『平気ならお前が酒買ってこい』とか言ってきたんですよ」

「……」

「あ、ここ笑う所ですよ? だって皆さん凄くいい人達そうですのにねえ。僕もお酒飲めれば良かったんですが、昔っからどうも下戸でして……」


 ロロノア様はそう言って、照れ臭そうに笑った。


 ―――癒やされる……!


 ってかこの面子とお酒を酌み交わしたかったとか、寧ろ凄いわね。素敵!

 私が胸をドキドキとさせていると、ロロノア様はあどけない笑顔を浮かべながらカウンターに一枚の金貨を置いた。


「じゃあこれお代です。ありがとうございました」

「えっ、もうお帰りになるの!?」


 私の癒やしがっ!


「ええ、先輩が待ってますので。それじゃあ皆さん、お邪魔しました」


 ロロノア様はそう言うと、何事もなく店を去っていった。

 ……私は無言でそこに居座る面子を睨んだ。


 そして震えながら、悔し紛れに呟く。





「―――……帰れよ……まじで」






 ―――それから三秒後、私の店には誰も居なくなった……。





次話、三ヶ月後に飛びます。

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