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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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遠乗り

 《イヴ視点》


「飯食ったら何して遊ぶ?」


 私がサンドイッチにぱくついていると、黒麒麟のルドルフが尻尾をパタパタと振りながらそう声をかけてきた。

 ここは前にシアン達と来た、湖畔の岸。

 私はサンドイッチをを咀嚼しながら、ルドルフの答えを考える。


 何して遊んだらいいんだろう?


 クロと一緒なら、何だって楽しかった。

 シアンがいれば、やって欲しい事がいっぱいあった。

 でも……一人だとよく分からない。


 何したらいいんだろう?


 私はしっぽをパタパタと振っているルドルフに答えた。


「わかんない」

「わ、分かんない!?」

「うん、分かんない」

「な、何かないのか? 木登りしたいーとか、釣りしたいーとか……」

「うん、ない」

「……っ」


 ルドルフは暫く変な顔で固まった後、顔を背けて『分かんねぇ……ホント分かんねぇ……ホント子供ってやつぁ未知生物だ……』とか言っていた。


 私はルドルフに尋ねる。


「ルドルフは何したいの?」

「俺? 俺は別に何だっていいぞ」

「……」


 ……困った。折角お外に来たのに、やることが何も無い。

 私が無言で考えていると、ルドルフがおずおずと私に尋ねる。


「シアンのヤローとは、外で何して遊んでたんだ?」


 ……何してたっけ? お花積み? 砂遊び? 追いかけっこ? かくれんぼやけんけんパ。……最近は……どれもやってない。


「分かんない」

「まじか。……ったく、あのヤローは一体何やってんだ?」


 ルドルフがブツブツと呟くようにそう言ったから、私はシアンは悪くないと伝えようと説明した。


「シアンはね、私の事が世界で一番大好きだったの。だからいつも抱っこしてくれたし、私の言う事は何でも聞いてくれてた。たまに怒るけど、それは私が危ないことをしないように守るためなんだって」

「……そうか。……なんだ、ちゃんとやってんじゃねーか」


 ルドルフは頷いた。

 ……だけど最近はそうじゃない。


「でもね、クロが手術してから、シアンはクロのお世話が大変で、前みたいに遊んでくれなくなったの。絵本も一日三冊しか読んでくれないし、お風呂も『早く出よう』って言うの。ご飯を食べるのも、寝るのも着替えるのも『早く早く』って言って、私の支度が終わったらすぐクロの所に行っちゃうの。一緒にお出かけし無くたなったから、お風呂に行くときしか抱っこしてくれないし、私がベッドに入ったら、一緒に寝るふりしてこっそりお出かけしてる事も、私は知ってるんだよ」

「……そりゃ」


 自分で言ってて気付いてしまった。

 ずっと胸の中でモヤモヤしていた気持ちの答えに。


「―――……きっと……シアンは、私の事がもう“世界で一番”じゃなくなったんだ……うっ……うえぇぇ…うえぇん」


 泣けてきた。

 理由がはっきりした今、寂しくて、悲しくて、涙が止まらなかった。


 私がまた大泣きしてると、ルドルフが困ったように鼻を私の頭に擦り付けてきた。


「なる程な……さっき泣いてた理由もそれか。本当は俺と遊びたかったんじゃなくて、シアンと遊びたかったって訳か」


 私は頷いた。


「でもね、一番はシアンとクロとルドルフも、みんなで一緒に遊びたいの」

「―――……うんっ! ……いや、じゃなくって……ち、ちょっと今のナシだ……」


 ルドルフはとても嬉しそうに頷き、その後すぐに何故か頭を振った。


「えーと、アレだ。イヴは何か勘違いしてるな? 話を聞く限り、シアンは別にイヴを下になんか見てないぞ」

「だってクロばっかりだもん」

「そりゃ今は、クロスケの方がシアンの助けが要るんだ。いくらアイツが小器用に立ち回れるからって、身体は一つしかねぇからな」

「……」


 そんなの分かってる。だけど寂しいんだから仕方ない。


 私が頬を膨らまし黙り込んでいると、ルドルフがまた鼻先で私の頭を小突いて来た。


「ストレス溜まってんだろ。分かった。んじゃ、やりたい事もないなら、俺と走りに行こうぜ。そんな時はかっ飛ばして発散すんのかいちばんだ」

「走りに? 森の奥へ?」

「ま、背中に乗れ。ちょっと遠出しようぜ」


 私は言われるがまま、手に持っていたサンドイッチを口に押し込むと、ルドルフの背によじ登った。



 ◇◇



「どうだイヴ、気持ちいいだろ?」


 前方から、私の耳にルドルフが直接話し掛けてくる。

 私は瞬きも忘れて、流れる景色に目を見開いていた。




 ―――あの湖畔でルドルフは私を背に乗せると、高く、高く跳躍した。

 その跳躍は別に大した力も加わっていなさそうなのに、私達を森を遥か下に見下ろす高さまで一気に飛び上がらせる。

 私は思わずルドルフの背にしがみついた。

 ルドルフが笑う。


「心配すんな。保護膜を張って風を相殺してる。普通に乗ってりゃいいさ」


 そう言ったルドルフの四本の脚の蹄から銀色の炎が凄い勢いで吹き出した。

 それから空中で高く竿立ちになると、囁くように言った。


「行くぜ」

「―――……!?」


 次の瞬間、目の前の景色が変わった。

 眼科に広がっていた大森林が消え、真っ青なキラキラした水面が彼方の空の境目迄続いていた。

 私は思わず叫ぶ。


「凄い! ワープしたの!? こんな広い湖って見たことない!」

「へっ、違うぜ。単に踏み込み、走っただけさ」

「踏み込み? シアンの使う【瞬歩】みたいな?」

「あんな二本足のヨチヨチ歩きと比べんじゃねえぜ? それからこれは“湖”じゃない。“海”だ」

「―――海!? 【魔境(ジャック・グラウンド)】を出ちゃったの!?」

「おうよ、あんな狭い所うろうろしてるだけじゃ“遠出”なんて言わねーだろ?」

「っほ、ほおぉぉ!!」


 私はあまりのスケールの大きさに、思わず感嘆の声を上げた。


「海をよく見てみろ。黒い筋みたいなものが走ってるだろ? あれは世界最深の【大海溝】だ」


 ルドルフに言われて見れば、確かに海の一部が他と暗く見える部分がある。


「大昔に神様が、この海溝の底に一つの街を沈めたって噂だぜ」 

「街を!? どうして?」

「さぁ? 気に入らなかったんじゃねぇか?」

「……気に入らないと街を海に沈めるの? 酷いよ」


 私がそう言えば、ルドルフは目をふっと逸らせて何か考え込むように唸った。


「……いや、うーん……まぁ、この話は終わりだ」

「……うん?」

「それよりなんか見たいもんはねぇか? 連れてってやるぞ」

「分かんない」

「そっか、なら有名ドコロでも周ってくか!」


 ルドルフはそう言うと、またあの不思議な光のような速度で駆け出した。 


「学園都市【ノルマン】に、砂漠の底に宝が眠る【グリプス砂漠】、それにアレが悪魔の巣と言われる【暗い森】だ」


 ルドルフは駆けては立ち止まり、様々な景色を見せてくれた。

 その全てが美しく、何処か懐かしい景色だった。


「凄いねぇ! 綺麗だねえ、大きいねえ!」

「そうか? 俺やシアンにとっちゃ、庭みたいなもんだぜ。よく二人であちこち駆け回ったもんさ」

「シアンも全部行ったことがあるの?」

「勿論。それにまだまだ見所はあるんだぜ!」


 ルドルフはまた駆け出す。

 空に浮かぶ大地【楽園(エデン)】に、世界で最も美しいと言われる街【カロメノス水上都市】、それに隣接するドワーフの里【ディヴェルボ火山】……。

 クルクルと変わる景色に浮かぶそれ等は、美しく、または活気に溢れ、とても面白かった。


 そして色んなところを見て廻り、ルドルフは最後になんの変哲もない大きなただの森の前で足を止めた。

 私は不思議に思い、ルドルフに尋ねる。


「ルドルフ、ここは?」


 ルドルフは地面に降り立ち、何もない森の上空を見上げると、目を伏して誰かに挨拶するように沈黙した。

 そして、私の質問に答えてくれた。


「ここは【聖域】だ。ハイエルフや神獣様方の守護する【聖樹】がこの奥に居られる」


 まぁ、大きな森だし珍しい木の一本や二本は在りそうだ。

 ……それにしても“樹”に、『居られる』なんて、何だかおかしい気がした。

 私はルドルフに尋ねる。


「その珍しい樹を見に行くの?」

「いや、この先は【俺達の世界】じゃないからな」

「ふうん?」


 よく分からず、私は曖昧な返事だけを返した。

 ルドルフは森からくるりと踵を返すと、私に言った。


「じゃ、そろそろ帰るか。【魔境(ジャック・グラウンド)】の【ハウス】へよ」


 ルドルフにあわせ私も森に背を向けた瞬間、一瞬なんだか切ないような、不思議な感覚にととらわれた。

 私はルドルフの背の上で、身体を捻ってまた森を見上げる。

 ……だけどそこは、やっぱりなんの変哲もないただの森だった。

 私はまた、前に向き直るとルドルフの鬣に顔を埋めた。


「うん!」


 ルドルフが頷いて駆け上がった。


 ルドルフは走るのが速い。

 シアンとガラムおじさんの手合わせすらスローモーションに見える程チラチラと流れる景色を横目に見ながら、私はふと思い立ち、空と海の間を駆けるルドルフに言った。


「ねえ、ルドルフ。“風の断膜”取って」

「……」


 一拍後、私は空気の壁にぶつかってルドルフの背中から弾き飛ばされた。






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