お伽噺㊤
※長くなってきたので、
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
のプロローグから読んで頂ければ一応分かるように書いています。それ以前の話は全て“裏話”です。
《イヴ視点》
「はい良いわよ。良く出来ました」
検診が終わったのか、ジョーイさんは寝転がった私のお腹を押さえた後にそういった。
私は起き上がって服を着ると、ワクワクしながらその瞬間を待った。
「はい、じゃあ頑張った子には【キラキラシール】ね」
来たぁ―――――――っっ!!!
私はジョーイさんの差し出してくれた封筒を、奪うように受け取った。
これはこの様々な規制のある【魔境】に於いて、この【キラキラシール】はレア中のレアアイテムなのだ!
「ありがとうジョーイさん!」
私はそう言って封筒を開け、中を確認した。
そこには……まるで輝く湖畔の水面の様にキラキラと光る、青いドレスを着た、雪の中に佇むお姫様のシールが入っていた。髪飾りやドレスにも氷の結晶が散りばめられ、それもキラキラと輝いている。
「ほ、ほおぉぉ……しゅご……すごいぃ……キレイだねぇぇ……っ!」
あまりの感動に、少し噛んでしまった。
「ふふ、気に入った? クロくんはモンスターシリーズのキメラだったわ」
ジョーイさんはクスクスと笑いながら、そう教えてくれた。
クロは男の子だから、モンスターとかが好きなのだ。
でも私も好きだからちょっと気になる……。
だどけどやっぱり、きっとこれには敵わない気がする!
「あとでみせてもらう! でもね、私はすっごい、すっごいこれが気に入ったの! 私、ずっとこう言うのが一番欲しかったの!! ありがとうジョーイさん! 宝物にするね!」
「……うん。―――……シール一枚でここ迄っ……箱であげたいけど……それは本末転倒おぉ……っ」
ジョーイさんが何か苦しそうにしていた。……大丈夫かな?
◆
検診が終わり、ジョーイさんを交えて昼食を食べた後にコーヒーを飲みながらジョーイさんが言った。
「シアン、私この子達にお話をする約束をしてるの。良かったらその間、外してくれてもいいわよ。モヒカンのお友達も寂しがってたし、外にグレイがいるから乗せていってもらえばいい」
グレイさんとは、リリーの妹で運送屋さんのお姉さんだ。
たまに荷物や、お客さんを届けてくれたり、持っていってくれたりする。でも、シアンのことはあまり好きじゃないようで、シアンと顔を合わせれば、眉間にシワを寄せて怒っている。
私はグレイさんにシアンが送ってもらうと聞いて、内心ハラハラしたけど、シアンは気にした素振りもなく笑った。
「え、良いのか?」
「夕食までに戻ってくれれば私は構わないわ。ただ、この子達のおやつなんかは準備していってね?」
「分かった。それじゃあ頼むよ」
シアンはそう言うと、私達に言った。
「二人共、女医さんが遊んでくれるって。オレはその間、少し出掛けて来るけどいいか?」
「いいよ! 父ちゃん!」
……私はジョーイさんとシアンと、みんなで一緒に居たかったけど、クロがそう言ったから私も頷いた。
だってお姉さんだから……我慢しないといけない。お姉さんとは本当に大変だ。
「そうか。じゃあ夕食までには戻るから良い子でな。……ロゼは、待ってる? それとも一緒に行くか?」
「行く!」
「そっか。じゃぁ、はぐれない様に籠から出ないようにしてくれな」
「分かったよ!」
一緒にお出かけのロゼが、少し羨ましかった。だけどロゼは最近お出かけ出来ていないから、今回は何も言わないであげた。
それから直ぐ、片付けを済ませたシアンはあっという間に出かけていった。
それを見送った後、ジョーイさんはこちらを振り返って言った。
「―――じゃあ、お布団の中でおやつを食べましょうか!」
「!?」
「!」
私は驚いた。だってそれ“良い子”じゃない!
「ふふ、シアンは間違いなく夕刻まで帰ってこないわ。それまでは自由。そしてそれ迄に全てを元通りにして、帰ってきたシアンに『良い子にしてた』と言えば“良い子”なのよ」
……なんて悪なんだ! ジョーイさん!
だめだと思う反面、悪い事をする事に私はドキドキした。
「いい? シアンは細かいわ。キチンと後始末をしないとバレて怒られる。だけど取り繕うことが出来れば、ベッドの上でお菓子を食べても、褒められることができるのよ!」
凄い! ジョーイさんって本当に悪だ!!
「まぁ、片付けは私も勿論やるわ。どう? おやつの時間じゃ無いのに……おやつ、食べちゃう?」
私達は悪魔の囁きに賛同した。
◆
私達は家中から、ありったけのクッションを引っ張り出し、ベッドの上にふわふわの秘密基地を作ってお菓子を持ち込んでだ。
私達は、シアンが焼いてくれていたドライフルーツケーキとブランクッキーを食べながら、輪になって寝転がる。
「楽しぃねえ。ジョーイさん、お話して」
「そうねぇ、どんなのがいいかしら?」
ジョーイさんは、色んな話を知っていて沢山お話をしてくれるのだ。
私はふと、さっきのキラキラシールの事を思い出して言った。
「お姫様。さっきのキラキラシールのお姫様のお話しがいい」
私が言うと、お菓子に夢中でのクロは特に反対もせず、ジョーイさんは頷いた。
「いいわよ。じゃあ……昔々、氷の女王と呼ばれる女の子がいました」
ジョーイさんは話し始めたけど、私は直ぐにジョーイさんの間違いを訂正する。
「女の子? お姫様だよ。お姫様がいいの」
「そう? じゃあ、お姫様がいました」
―――お姫様はいつも意地悪ばかりしていました。というか、お姫様自身が、意地悪をしているという自覚がありませんでした。
お姫様は周りの人達に自分の価値観を押し付けて、それにそぐわない者達を対等と認めなかったのです。
無視をして歯牙にもかけないか、酷い事を言って自分の枠に収めようとしたのです。
そして、それが当たり前と思っていました。……だからお姫様の周りには誰も寄り付かず、お姫様はいつも一人ポッチでした。
だけどある日、そんな一人ポッチのお姫様はなんと悪魔にさらわれてしまったのです。
悪魔はお姫様を地下の牢獄に閉じ込めて言いました。
『三日後の月が消える夜、一晩だけオレの嫁になってくれ』
お伽噺の参照
番外編 〜ルシファーの花嫁 悪役令嬢と、悪魔のプリンス〜




