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世界樹の呟き 〜チートを創れる可愛い神々と、楽しく世界創造。まぁ、俺は褒めるだけなんだけど〜  作者: 渋柿
最終章 起点回帰【邪神と呼ばれた少女は世界から溺愛される】
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稽古試合の見学②



 《ガラムおじさん視点》


 イヴからの声援を受け、シアンは距離を詰め始めた。

 間合いが詰まった分攻撃の手数は増える。

 スピード自体は私の方が上だが、魔法での攻撃もシアンはしてくるため、その手数は徐々に奴の方が上回り始めた。



 《イヴ視点》


重力場(グラビティフィールド)!」


 シアンがガラムおじさんの上を取った時、シアンは重力の魔法を使った。

 途端に辺りの草は地面に張り付き、自重で折れた木の枝が弾丸のようにガラムおじさんに向かって落ちていく。

 でもガラムおじさんは、そんな重力なんか感じていないように、軽やかに落ちて来た木の枝を切り払った。

 でもシアンも止まらない。

 重力で勢いを付け、更に追い風を送り、自分もガラムおじさんに突っ込む。

 そんなにシアンを見据えたガラムおじさんはゆらりと動き、腰を落とし構える。

 いつの間にか私は拳を握りしめ、訳のわからない興奮で足が震えていた。

 その興奮に任せ、私は他の冒険者さん達に混じって“応援”した。


「シアン! そのまま行ったら受けられるよっ! 手数で攻めてぇ!」


 シアンの肩がピクリと動いた。そして勢いを殺さずガラムおじさんの懐に飛び込む。

 私も立ち上がって拳を上げた。

 シアンはその一撃をガラムおじさんに当てず、身を捻ってガラムおじさんの構えをすり抜けたのだ。


「いいよ! シアンそのままっ《地割り》っ!!」


 私が叫んだ瞬間、シアンは魔法を解除した。


「【フィールド解除】!!」


 そして勢いそのまま、シアンはガラムおじさんの足元の地面を殴りつけた。


「!」


 土や小石が四散し、大地は砕け、ポッカリと一メートル程の半球の穴が出来上がった。

 突然足場がなくなって、魔法禁止のガラムおじさんが空に投げ出された。。


 ―――あ……っ隙が出来た! 


 私は一番大きな声で、シアンに向かって叫んだ。


「まだまだぁ! 足払いっ!」


 ローキックでシアンがガラムおじさんのくるぶしを蹴りつける。

 キレイに入ったキックだけど、鋼の様に固いガラムおじさんの重心は、まだブレずに安定してる。―――っでも……!


「シアン! もう一発!!」


 シアンが回し蹴りで同じくるぶしポイントに、もう一発叩き込んだ。

 とうとうガラムおじさんのバランスが一瞬ぐらりと揺れる。


「今だよっ! ぼでぃー! 下っ、下からっ!!」


 シアンがガラムおじさんのぼでぃーに正拳突きを入れるが、太い腕でカバーされた。


 ―――違うよ、シアン。重心が崩れてるんだから、更に崩しながらやらなくちゃっ!


「そこっ! シアン下っ、ヤれえぇぇ!!」


 シアンはやっと気づいたのか、気合と共に下段に狙いを定め、気合と共に拳を突き出した。


「っはあぁぁぁっっ!!!」

「!?」


 受けきれなかったガラムおじさんの体幹が、更に崩れる。そこにシアンは足を振り上げた。

 私も拳を突き上げ叫ぶ。


「そうっそれ!! からのぉー!! 二段蹴りぃ!」


 ……と思ったけど、シアンは一蹴しかしなかった。

 まあいい。


「次上段へワンツーショットっ、上に跳んで踵落とし!!」


 テンションが上がってきた。楽しい!


「からのぉー!! 重力左目っ! 投擲ファイヤー!!」

「【重力点(グラビティポイント)】セット! ッオラアァァァァ!!!」


 シアンがまた魔法を発動し、ガラムおじさんの顔にミスリルの短剣を投げつけた。


「!」


 ガラムおじさんは目を見開き、身体を反らしてそれを避けた。

 だけど左目に【重力】をつけられたガラムおじさんを追って、ナイフはその起動を僅かに修正させる。


 ガラムおじさんは咄嗟に頭を庇おうと更に仰け反り、腕で庇った。





 ―――パキンっ……


 その拍子にシアンの放った短剣が、ガラムおじさんの持つ木剣を掠った。

 木剣は呆気なく、真っ二つに折れる。


 私は、目を見開いたガラムおじさんに隙を見つけ、またシアンに応援を送った。



「よっし! シアン! 今だよっ!! とどめのローキック&頭蓋割りぃぃっっ!!!」


「「「「……」」」」


 ……私は叫んだけど、シアンは動かない。

 冒険者さん達も応援をやめ、硬直して静まり返っている。


「……」


 ガラムおじさんも動かず、私はふとその時、自分がソファーの上で立ち上がって両手を上げるポーズをしている事に気づいた。

 

 ……みんなに気付かれないように、私はそっと腕を降ろす。


 そのままちょっと恥ずかしくなって、私はソファーに座り直し、リリーのスイカの様な胸に額をこすりつけた。

 そしてその柔らかいスイカのような胸をこちらに寄せて、その後ろに隠れる。


 リリーは、そんな私の頭を撫でながら言った。


「シアン様の勝ちですわね♡ ガラム様は武器を壊してしまいました事により、失格ですわ♡♡」



 途端、静まり返った天蓋の下に歓声が響いた。


「っっうおぉぉ―――っ、すっげぇぇ―――!! シアンが勝った!」

「教授ぅぅ!! 信じてましたっ、凄かったっ……凄かったですぅぅ!」

「父ちゃん強いぃぃ!!」

「ガラムも惜しかった! でもやっぱ、あんた等すげぇわ!! 賭け金なんざ、見物料にしても安いくらいだよ!!」

「おおぉぉぉ―――っ!!!」

「いいもん見せてもらったぜえぇ!!」


 歓声の湧き上がる天蓋。シアンも嬉しそうにガッツポーズを決めると、こっちに歩いて来た。

 あっちこっちボロボロで傷まみれのシアンは、嬉しそうに笑いながら私達に言った。


「見てたか? 叔父さんに勝てたぞ! 強かっただろう?」

「うん! 父ちゃん凄く強かった!!」

「……」


 即答するクロ。

 だけど私は、何故か『うん』と言いたくなくて、リリーのスイカ胸に隠れたまま黙っていた。


 ―――だって私だったら……。


 私はふとリリーを見上げ、尋ねた。


「ねぇリリー。今日ね、お魚のお料理しようと思ったら、上手にできなかったの」

「お魚を? まあ凄い♡ お魚をキレイに料理するのは、私でも難しいんですのよ」

「いつもシアンのを見てたから、どうしたらいいのかは分かってたの。こうしなくちゃって分かってたのに、思い通りにお手てもナイフも動いてくれなかったの。何でかなぁ?」

「練習ですわね。出来るまで、何度も練習すれば良いのですわ。そうして、自分の身体の使い方を覚えてゆくのですわ♡」

「“れんしゅう”って何?」

「出来るまで、繰り返す事ですわ」

「うん、わかった。私練習するね」

「ええ。お魚料理、上手に出来れば良いですわね♡」


 私が頷き、スイカのような胸から顔を出せば、シアンはまたガラムおじさんと話をしに向こうに行っていた。


 その時、ガラムおじさんはシアンの話を聞きながら、何故かじっと私の方を見て詰めていた。





 ◆◆





 《シアン視点》



 ―――初めて勝った……。


 ハンデがあったとはいえ、勝ったんだ。……自分でも信じられなかった。


「―――……っしゃあ!!」


 オレは嬉しさに任せ、ガッツポーズを取ると天蓋に駆け寄った。

 目の前に集中していたから、あんま意識は向けられていなかったが、天蓋の奴らが声援を送ってくれてたことには気付いていた。

 天蓋に戻って見れば、叔父さんに賭けてた奴らも手を叩いてオレの勝ち星を喜んでくれてる。

 まあ、気のいい奴らだと思う。


 そしてオレはイヴとクロにも自慢した。……まあ、イヴは何故か恥ずかしそうにリリーの影に隠れて出てこなかったけど、大声を出したのが恥ずかしくなったのかも知れない。

 お年頃と言うやつだろう。


 一通り応援してくれた奴らに挨拶して回り、また叔父さんの所に駆け戻った。


「手合わせありがとうございました、叔父さん」

「―――……うむ」


 叔父さんは、何か考え事をする様に空返事をした。

 不思議に思い、叔父さんの視線の先を辿ればイヴがいる。


 ……まぁ、いつもの事だとその時は思ったが、叔父さんは次に、とんでもない言葉を言った。


「―――シアンよ。もしあの子が、自分の手に余ると感じれば、いつでも私に預けてくれて構わない」

「!!?」


 オレは目を見開いた。

 これまでだって、ここに引っ越してきたいだの何だの言って、叔父さんがイヴの側に来ようとしていたのは知っていた。そしてそれはしょうがない事だとも思ってた。

 ……だけど、ここ迄ストレートに言われた事は初めてだったのだから。


「いっ、いえ!! ちゃんと面倒は見れてますしっ! それには及びません!!」


 声が裏返りそうになりながら、オレは慌てて断言した。


「……ふむ。あの子等に、“戦い方”を教えたことはあるのか?」

「いえ、今までは無いですが、これからは徐々にと思っていますのでっ、だから大丈夫です!!」

「―――そうか。まぁいいだろう。私はいつでも構わない。何かあれば言うがいい」

「はいっ! ありがとうございました!!」


 叔父さんはそう言って笑うと、踵を返した。


「ではな、私はもう行く。フィッシュパイ、美味かったぞ」

「は、はい!」


 そう言って去っていく叔父さんに、オレは別れの挨拶すら忘れ、ほっと胸をなで下ろしていた。


 叔父さんは楽しそうに何かを呟いている。


「なるほど、ローキックからの頭蓋割りか。……容赦が無くて潔が良い。くく、さぞ痛かろうな……」


 ……だけど、あの子達についてこれ以上何も言われたくなくて、引き止めて聞き返す事はしなかった。


 ふと耳元で、鈴の音がした。


「シアン、ドロドロだねぇ」

「あ、ロゼ」


 振り返れば、呆れ顔のロゼが居た。


「見てたの?」

「んーん、見てない。ねぇ、早く洗ってきなよ。アップルパイ食べちゃった。だからガラムの持ってきた“チェリータルト”食べよ?」

「……はは、分かったよ」


 この方は本当に……、ほっこりさせる天才だなぁ。

 オレは苦笑し、イヴとクロに声を掛けた。


「二人共ー! まだ早いけど、一緒に風呂入るかー?」

「入る! 水鉄砲していい?」

「いいぞー」

「私かえるちゃん入れていい?」

「いいぞー」


 二人はお気に入りの玩具を取りに行く為に立ち上がり、走り出す。

 そしてそのまま、当たり前のように二人はオレの手の中に飛び込んできた。

 オレはなんの疑問も無く、イヴとクロの小さな手を繋いで、並んで歩き出したんだ。


 

知らない人「格闘技……好きなんですか? まずくないですか?」

樹「そうかな?まぁ“個性”だよ」

知らない人「個……っ!?」

樹「五歳くらいまではね、全て“個性”で何とかなるものなんだよ」



読んでくださってありがとうございます!

次話始まって以来、初の鼻血必至の入浴シーン!?


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― 新着の感想 ―
[一言] 至福でございますわぁ… リリーさん…! わかります!わかりますよ!悶ますよね! ロゼ様…なんて和むのかしら? イヴちゃん…ダイジョブ?  戦い好きは変わらないのね… でも一番はマスターね! …
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