表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/582

番外編 〜人間達に不要と言われたオレ。暫くして戻ったら、勇者を遥かに凌ぐチートになってた件⑥〜

 それからオレは、取り敢えず人間達コミュニティー内で1番大きい所に来てみた。


 一応、精霊達からの情報を元に、聖域にいる間も世界情勢や地理についての勉強はしてあったのだ。

 中でも人間の歴史についての勉強が多かったのは、ハイエルフ達がいつかこうなるだろうと見通してくれてたのかも知れない。


 だけど聞くと見るとでは大違いだ。

 ハイエルフの里は全員集合したって306名だったが、この王都という所はとにかく凄い。

 とても広い上、どこも過密状態に人がいる。


 人の建築物はオレの感覚からはとても綺麗とか、美しいとは言えなかったが、無駄としか思えないものが雑多にあり、それが寄り集まりこの街がまるで1つのアートのようにも思えて、オレはなんだかここが好きになった。

 そしてここに来て一番驚いたのは人々の活気だ。

 森の奥ではハイエルフ達から“常に落ち着き、内なる自分を見つめよ”と教えられていたが、これはどうだ。

 皆がみんな中身など関係なく、如何に自分を主張するかを競い合っている。

 あるものは街頭で踊り、ある者は大声で客寄せし、ある者は着飾り、ある者は知人に無駄知識の披露をする。

 それらが合わさりこのマーケットと呼ばれるエリアは、頬を火照らすほどの熱気に湧いていた。


 うーん。

 軽くカルチャーショックだ。


 それとただ歩いてるだけなんだが、さっきから老若男女問わず、街の人達がオレをチラチラと見てくる。

 なんだ? 格好が変なのか?

 殺意は感じ無いから無視しても良さそうだけど……。


 そんなことを考えながら通りを歩いていると、ふと妙なマナの流れを感じ、オレはそちらに目を向けた。

 そこに居たのは、カフェに座る若い女の子。

 何かを書き留めながら、小さな魔法の火をポッポっと指先に出しては消してを繰り返している。


 ……人間はこんなに多くの人が密集しているところで、魔法練習をするものなのか? レイス様達ですら、実験の際は帳の外に出たり、危険のない場所を選んでらっしゃったぞ?

 オレはそう思い眉を顰めたが、どうもカフェに座る他の人たちも顔をしかめている。

 ―――ああ、成る程。人間の社会でも、やっぱり非常識な迷惑行為なんだな……。

 オレは肩を竦め通り過ぎようとした。


「―――っっ!?」


 だが次の瞬間、オレは思わず駆け出していた。


 だってその女の子が、次に着火させようとしている気体が“メタン”だったから。


「馬鹿か!!」


 オレは怒鳴りながら、その子の手元に空間指定した内部衝撃吸収型のシールドを展開した。


 ―――ッドンッッ!!!!


 直後、腹の底に響く爆音がして賑やかだったマーケットは一瞬にして静まり返った。

 あ、しまった。防音シールド忘れた……。


「え? ……え??」


 目と鼻の先に浮かぶ白くけぶるボールを呆然と見つめて固まる少女を、オレは怒鳴りつけた。


「馬っ鹿ヤロウ!! こんなトコでメタンに火を付けようとする奴があるか!! 店吹き飛ばす気か!? お前のアタマだって吹き飛んでる所だったぞ!」


「え? ……えーと、ゴメン、……なさい?」


 状況を飲み込めていないようで、未だ呆然目を瞬かせている少女。

 とその時、誰かがオレの肩を叩いた。


「あのー……」

「はい?」

「あんた先生ですか? その制服。その子ノルマン学園の生徒さんでしょう? 他のお客の迷惑になるんで、その子連れて出てってもらえませんかねぇ?」


 片手にチョコレートケーキを持った、熊のような大男店主が、額に3つほど青筋を浮かべてオレの背後に立っていた。

 と、今度は目の前の少女がオレの上着の袖を引く。


「い、いい、行きましょう、センセー! あ、店員さん、これお代ですぅ!」

「はぁ? せんせー?」


 これまでオレは聖域でもある程度察したり、空気を読んだりってことはしてきた。

 だけどこの流れは無理だろ。意味不明すぎる。


 少女に腕を引かれながらよろめくように歩き出すと、チョコレートケーキを持った熊が親指で首を切る仕草をして、舌を出しながら言う。


「出・禁」


 なんで? オレ関係なくない?

 寧ろ店を守ったよ? ねぇ……。


 だけどこの流れに逆らえる程人里に慣れてるわけでもなく、オレは少女に手を引かれるままその場を離れたのだった。

 あー、ちくしょう。精霊達から聞いてた人間の“スウィーツ”……食べてみたかったのにな。



 それからマーケットを離れ、誰もいない寂れた広場にやってきたところで、少女はやっと足を止め振り返った。

 そして、無理矢理連れてきたくせにオレを睨んでくる。


「あなた誰?」

「知らねーよ。前こそ誰だ」


 オレは即答する。

 少女は少し驚いて、それからホッとしたように呟いた。


「魔法学園の関係者じゃないの? ほんとに……私を知らないの?」

「知らん。どうしようもないバカとだけは理解した」

「何よそれ。私ね、こう見えても国立魔法学園ノルマンの最年少主席卒業なのよ。今は院生をしてるけど、美貌の天才リーナとはズバリ私の事。勇者パーティーに、一番近いと言われてる存在なんだからね。……ま、そのせいで変に妬んでくる奴らとかもいて、迷惑してる所ではあるんだけど」


オレは頭を抱えた。


「……知らん。それに美貌って冗談だろ? こんな子供に対して」


 どう見ても16歳前後。23歳の俺から見れば十分子供だ。

それに肌や髪の手入れも行き届いておらず美貌とは程遠い。


「子供言うなし! 私もう13歳よ!」

「え、13……ってマジで? 老けてね?」

「……」


 そしてオレは殴られた。グーで。


 納得できない。

 バカの命を救って率直な感想を述べただけなのに!

 だが次の瞬間、おれはふと一つのことに思い当たった。


 ……そうか。ゴメン、オレ同じ人型だからって、ハイエルフ達と比較してたわ。


 それからオレは暫く少女の言い分に耳を傾け、謝り倒していたのだった。



 ◆




「えー!?ガルシアさん、23歳なの!? 信じられない! 肌だってつやつやしてるし、髪もサラサラだし、なんか……私よりいい匂いしてるし……」


 互いの自己紹介を終えると、リーナは大仰に驚きながら、ぐぬぬと悔しそうに唸った。


「普通に手入れしてればこんなもんだ。寧ろ街の奴らが手入れ怠り過ぎだと思うが」

「そうかな? 王都の人達は皆キレイにしてると思うけどな。私の故郷なんて‥ゲフン! それに旅人なんて言うのも信じられない。シンプルだけど、とっても上等な服着てるもの。始めどこかの貴族の人かと思ったわ」

「ん? この服か? 生地を織る所からオレの手作りの服だ」

「いやいや、何処まで自作よ。冗談でしょ?」

「丁寧に作れば誰にでも出来るよ。それよりお前が首席なんてそれこそ冗談だろ? じゃなきゃ、なんで街中であんなテロ行為をしようとしたんだ?」


オレが先程の暴挙を問い詰めようと、リーナははて、と首を傾げた。


「なんの事? 私はただ次の論文発表の為に、簡単なサンプル収集してただけよ。まだ未発表の話しなんだけどね、実は空気の中には様々な種類の空気が混じってる事を私は発見したのよ。一般の火の魔法は、風魔法の応用じゃないかって、とある歴代勇者の手記を元に、業界では議論になってるけど、これはそれを決定づけられる発見よ!」



 嬉々として語りだしたリーナに、俺は逆に目を座らせた。


「や、風はないだろ。風とは、広範囲で空気が流れる現象を指す。そんな大雑把な空気の流動じゃ火は起こらんて」


 空中に火を生み出す魔法の基本は、空気の圧縮と燃焼気体の分量調節、それから着火に必要な何かしらのエネルギー(※オレの場合は、気体摩擦による静電気)だ。これらを何かしらの形で揃えることができれば火が起こる。

 それに、そもそも火の魔法ってなんだよ。火ってのは発火と燃焼という反応現象の一種だ。

 確かに“火の魔法”の方が言いやすくていいかも知れないけど。正確には“熱と光魔法”なのである。


 そしてオレはふと気付く。

 もしかして……人間の魔法学ってココからか!?

 国立の院生とか言ってたけど、頼むから冗談であってくれ。国立の中でも底辺学校だよね!?


 オレは頭が痛くなるのを感じながら、喜々と語るリーナの話を白い目をしながら聞いていた。


「確かに風で火が起こることはないけど、空気の中には見えない小さな粒がたくさんあってね、それをマナで操作して、ぶつかり合わせると火が出ることは実証出来た。そしてそれが火魔法の原理に大きく関わってるんじゃないかと私は思ったの。そしてね、その仮設を軸に実験してたのよ。そしたらビンゴ! 空気の粒の種類を抽出して、それらをぶつけ合わせたら、火の威力が変わった!これをもっと調べていけば、一般的な(ファイヤ)だけでなく、勇者のみに許された魔法、火の玉(ファイヤーボール)爆炎(ボム)だって一般化できる可能性があるの! って、あなたには難し過ぎたかしら?」


 おほほと笑うリーナ。


「んなこと知ってるわ。ってか、内容にツッコミどころ満載すぎるぞ。まぁお前の学校のレベルは知らんがオレが言いたいのは、その“実験”をあんな人の多いとこですんなってコト! いいか? さっきお前がしようとしたのはこういう事だ」


 そう言ってオレは賢者の石は使わない、普通の(ファイヤ)を出した。

 小さな蝋燭の灯り程の火が空中に留まり、ゆらゆらと揺れる。


「あ、あら。ただの服職人の割に上手に魔法が使えるじゃない。……と言うか、ちょっと何秒灯してられるの!? 私でも3秒が限界……ゲフン」


「基本だろ。で、これが酸素量を増やした場合」

「!?」


 オレの前でチロチロと燃えていた灯火のような火が、一気に燃え上がり炎となった。

 まぁ酸素と言っても、燃焼を維持させる為に不純物も結構混ぜてはいる。

 更にオレは自分とリーナにシールドを展開し、空に広場を包み込む様な結界も張った。


「これが水素を増やした場合」

「ひっ……」


炎が爆炎へと変わり、リーナが小さな悲鳴を漏らした。


「これがブタン」


爆炎が勢いを増す。


「そんでこれが、さっきお前がしようとしてたメタンだ」


 そういったときにはもう、結界で庇った広場は炎の渦に包まれていた。

 自分達にもシールドを掛けてるとはいえ、震えるような少しの振圧と熱気、それから空気の燃える、バキバキと言う轟音が肌や鼓膜に伝わってくる。


「っは……」


 リーナが腰を抜かしへたりこんだ。


「お前、これをあの街中でかまそうとしてたんだぞ。オレがシールド張って防いだけど」


 そう言って、オレはシールド内への気体の流入を止めた。

 すると燃焼気体を燃やし尽くした炎は一瞬で掻き消え、燻る煙と揺らめく熱気だけが広場に残った。


 それも風で散らすと、まるで言葉通り魔法が解けたように広場は元通りになった。


 因みにシールドは賢者の石を使って展開したが、炎の方は、自前のマナだけでやった。

理屈を理解して調整に慣れれば、人の微量のマナでもこの程度は出来るのだ。

と言うか出来ないと、聖域で一人暮らしはまず無理だな。


「あ……あなた何者?」


リーナがへたり込んだまま、オレを見上げて聞いてくる。

さっきも名乗ったけどな?


「オレはガルシア。神から遣い事を賜った者、だよ」



 リーナは平伏した。


 ……いや、待て。

 オレはリーナに言葉通り“火遊びはやめろ”と言いたかっただけなんだ。


 おーい……聞け!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ