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仔は、スレを立てググった

「それじゃあルシファー、今件の打ち合わせを始めようか」


 マスターがルシファーを名指しして声を張り上げた。

 もちろん、今正に“時の人”であるルシファーに声がかけられ、その場の全員が注目する。

 ……まあ『皆』と言わない所が、彼のプライドなんだろうと思う。 


 だがその合図を遮る者が居た。


「待てルシファーよ! 何よりも先ず、言っておかねばならん事がある!」

「はいっ! 何でしょう!?」


 ラムガルだった。

 ラムガルのその鬼気迫る口調に、ルシファーの背が伸びる。

 ラムガルは、低く威厳ある声で告げた。


「……今件に於いて、余はそなたの親戚、若しくは兄弟という事にして貰おうか」

「……」


 その場が沈黙する。

 ……“おじちゃん”になりたいんだね。ラムガル……。


 皆が沈黙する中、ラムガルはその様子に何を思ったのか、満足げに頷いた。


「……沈黙はYESと取る」

「ええ、分かりました。よろしくお願いします」


 ルシファーも苦笑しつつ、頷いた。

 更に続いてルドルフも声を上げる。


「ちっ、俺も流石に気になるからな。おい、ルシファー。【テイマー資格】をとっとけ。時が来たらお前と契約結んでやるよ」


 プライドの高い獣王の申し出に、ルシファーは慌てて手を振る。


「え、いや、そんな事しないでも別に今のままで……」

「馬っ鹿! 人間の中に混じるんだろうが。何も無しに行動を共にしたら、疑われるだろうが!」

「そ、……そうか?」


 あぁ、ルドルフ……。『馬鹿と言った人が馬鹿』と言うのは、世の定説なんだ。

 そしてその世の中にも、【覚醒】レベルを持つ聖獣を従える人間は、まず居ないんだよ……。


 ルシファーが笑いながらルドルフの前脚をポンポンと叩いていると、精霊王も声を上げた。


「じゃあ僕も、力を貸してあげる。ゼロス様も弱体化するみたいな事言ってたし、僕の仲間(精霊)ってことにすれば良い」


 なる程。ゼロスが“精霊クラスの力しか出せない”と言っていた事を聞いてたんだね。

 ルシファーはまた笑顔でうなずき、皆のそれぞれのポジションが決まっていった。


 天使達は空から神々を見守り、神獣達は様子を見ながらの参加。クロノスとマナ・カイロスは相変わらずダンジョン内での管理調整を行うとの事。

 そしてクリスはたまに遊びに来る“知人の娘さん”で、マスターは“知らない人”と言うことに話は纏まった。

 そして“人間”の振りをする者に関しては、偽名を使うと言う事も決まったんだ。


「……全く、なんのお遊戯会のつもりだよ」


 そう言って呆れ果てた顔で周りを睨むマスターに、ルシファーは笑いかけた。 


「皆、楽しみにしてるんだよ。それだけだ」


 マスターは深い溜め息を吐き、そして何故か懐からハーティーのレリーフが刻まれたコインの様な物が付いた“ペンダント”を取り出した。

 そして、それをルシファーに差し出す。


「なんだ? お守りなら要らねぇぞ」

「そんな不確定要素の強い無意味な物、僕が渡すはず無いだろ」


 そう言ってマスターは掌の上のペンダントトップを裏返す。

 裏側には、細いアメジストの結晶のようなものが嵌め込まれていた。


「これは僕が作った【通信用魔道具】の端末(デバイス)だ。【鑑定】魔法を参考に作ったその通信システムの名を【Smart (スマート) Letter(レター) Dedicate(デディゲート) Divine(ディヴァイン)】……つまり、神々へ献身する為の迅速な通信手段と言う。使い方は簡単、この紫の魔晶石の根本を押さえ、立ち上げる。後は、音声もしくは入力でメッセージを上げる。これを持っている者同士であれば、誰しもが書き込め、文字による会話ができる様になる」


 マスターがそう言って、アメジストの端に触れると、滑らかな動作でクリスタルは立ち上がり、白く光る文字盤が映し出された。


「神の前で人は皆平等。だから発信者が自身の名を入れる必要はない。もちろん入れることも可能だが、無意味だね。全ての者が対等に、そして節度を守り語り合う為の物だ」


 ふんと鼻をならすマスターに、ルシファーが至って簡単な質問をする。


「……オレだけ持ってても意味無くないか? 一人で会話しとけとか言ったら泣くぞ?」

「そんなわけ無いだろう。数は準備してある」


 マスターはそう言うと同時に、ルシファーの前に山と積まれたペンダントが現れた。


「連絡を取りたい者に渡すと良い」


 ルシファーは驚いてそのペンダントの山を見つめていたが、直ぐにそのひとつを拾い上げ、ラムガルに渡した。


「じゃあ、ラムガル様。持っていてくださいますか?」

「ふざけるな。誰が賢者の道具など身に着けるものか」


 即答したラムガル。マスターも言い返す。


「は、そうだね。そんな奴には渡す必要はない。これはあくまで【神】の為のもの。そんな身勝手な魔物に渡す必要はないよ、ルシファー」


 マスターとラムガルの間に火花が飛ぶ。

 だけど言ってる内容は、実は全く同意見なんだ。本当に、ある意味凄い気が合ってると思う。


「いや、しかし魔王様。道具はあくまで道具です。それにこれがあれば魔眼通信だけでは無く、【画像】もアップ出来ますし……」


 っ!?


「っ!?」


 画像!? アップしてくれるの!? 俺も欲しい!!


「ふっ、確かに賢者の作ったものとはいえ、道具は所詮道具。別に奴から貰った訳ではないからな。良いだろう。余はルシファーから、それを受け取ろう」

「……ちっ、ルシファーがそう決めたのなら、僕は別に何も言わないけどね……」


 そしてルシファーはその場に居た者たち全員に、【Smart (スマート) Letter(レター) Dedicate(デディゲート) Divine(ディヴァイン)】を配った。……というか、長いから【スレッド】で良いかな?


 ……そして俺は、わくわくしながらその山と積まれた【スレッド】の端末が配られていく様を静か見ていたのだが、それが配り終えられ、残りが荷物袋に仕舞われても、ルシファーは俺にそのペンダントを渡してくれる事はなかった……。


 そして皆が手にした端末のクリスタルを立てたりして、動作確認をしている中、マスターがまたルシファーに声を掛けた。


「実はそれには、オプション機能がついてる。魔晶石を立てれば“通信”だけど、右に魔晶石スライドにより半回転させれば、情報ボックスに繋げることが出来るんだ」

「情報ボックス?」


 ルシファーが首を傾げながらマスターに尋ねる。

 他の皆は質問はしないものの、聞き耳を立ててその説明を聞いていた。


「そう、僕の知り得るこの世界の歴史と、そこで産み出された万物の基本情報の全て記しておいた。分からないことがあれば、そこから情報の閲覧ができる」


 ルシファーは、言われた通りアメジストを右に捻る。

 すると、また光の文字盤が浮かび上がった。しかし、さっきは何も書かれていない白枠だったが、今回は枠の中にこう書かれてあった。



 □□□GGL検索システム□□□



 検索   [         ➤]


 データ更新[         ➤]



 □□□□□□



「これは【Genial(ジーニアル) Genesis(ジェネシス) Legendary(レジェンダリー)(優しい創世記録)】と言う検索システムだ。利用者による更新も可能で、この端末を持つ者なら誰しもが利用可能だ」


 マスターがそう解説した後、皆はしばしマスターの“あら探し”の名目で、様々なデーターを読み漁っていた。

 ……というか、やっぱり長いから【ググる】でいいよね?


 暫くしても、誰一人ミスの指摘を上げてこない静まり返ったその場で、マスターがせせら笑った。


「残念だけど、僕はあんた達に指摘される様なミス入力はしていないよ」


 その時、ふふんと得意げに言ったマスターの前に、スッと一つの画面が近付いてきた。




 □□□GGL検索システム□□□


 検索   [レイル 賢者   ➤]


 概要◆

 生前の記憶を持ち生まれ落ちた、ロスタニア王国第七王子。類稀なる端麗な容姿を持ったその天才は、幼少期に世にある史書の全てを読み尽くした。青年期、魔物に誘拐された事件をきっかけにシリウス学園を早期主席卒業し、後に各地で様々な功績(※歴史参照)を残した。その実績と並外れた智力(ちりょく)からレイルは【賢者】の称号を得た。


 歴史◇

 注釈◇



 データ更新[         ➤]



 □□□□□□




 ルシファーが自分の開いた画面を見つめながら、呆然と呟く。


「……確かにミス入力は無い。だけどこれを自分で入力した……? 嘘だろ、お前の恥力(ちりょく)本当に並外れてるよ。勇気あるなぁ」

「……」



 ―――ビシィ!!



 そしてマスターは、ルシファーの持つペンダントを無言ではたき落としたのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] マスター「じ、辞書からの引用だから!」
[一言] ほっ、ほらアインスさんは世界中を感知してるって知られてるから……仲間外れとかじゃないからΣ(・∀・;) アインスさんは尊敬されつつ哀愁漂うお父さん。ルシファーは…お母さん?というかオカン的な…
2020/06/26 15:43 退会済み
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