神は、神託し賜うた㊦
本日、ニ投稿目です!(^^)
ゼロス様は胸に抱いた赤ん坊の頬を、優しくくすぐりながらオレ達にその説明を始めた。
「この子に【魂】はまだ無い。レイスの持つ【始まりの砂】を特殊な殻で包んだ物がその【魂】の代用になるからね。だから生きてはいるが、まだ目覚めず、成長もしない」
赤ん坊の胸は穏やかに上下している。
「だが皆も知っているように、レイスの力は無限に溢れ出している。特別な核に閉じ込めているにしても、その圧を逃さないといけないんだ。その時の出力をいなす為に、クロノスとマナ・カイロス。二柱に助力してもらいたい」
「なんなりと」
クロノス様は優雅なお辞儀してそう答えた。
ゼロス様はその対処を簡潔に話す。
「うん。種に入っている間、レイスから噴出されるエネルギーを、マナ・カイロスの砂時計に繋ぐ。クロノスは増える砂で時計が壊れないように【転移者】の設計をし、外へ逃がすんだ。場合によっては複数同時に生み出しても構わない」
「イエス、マイロード。そのように手配させて頂きます」
ゼロス様はその答えに、微笑みを持って答えた。
オレには何をどうすればいいのかよく分からないが、クロノス様のことだから、きっとやってのけるのだろう。
そして次にレイス様が口を開く。
「クリス、お前にもやって貰いたい事がある」
「はいっ!」
「クリスにはレイスが器に入っている間、この【衣】の管理をしてもらいたい」
「はいっ、……衣……お召し物の事でしょうか?」
「そうだ。このスカートや毛皮、それにベルトや仮面なんかは【クリスマスシティー】に置いておけばいい。……何なら別にコスプレとかに使っても怒らない」
「……いえ!」
元気に拒否したクリスちゃんの反応に、レイス様は若干しょぼんとされている。
でもクリスちゃん、オレもそれが正解の答えだと思うよ。
それからレイス様はまた顔を上げると、気を取り直して話しの続きを始めた。
「……そして重要なのは、この【聖木の胸当て】だ」
【聖木の胸当て】……あれは、アインス様の枝で作られたと言う胸当てだ。
「これは生きている。かつてレイスがアインスから手折って以来、枯れないようにマナを注ぎ続けてきた。だからレイスの留守中にも、一日一回十分程度【命の水】で水揚げをしておいて欲しいのだ」
「水揚げですね。任せてください!」
「うん、じゃあ取り敢えずちょっと多めに五十年分程、後でクリスマスシティーに届けておく」
「はい、お手数をおかけいたします」
……。
ちょっとしたお使い、若しくは何処かの業者間でやり取りの様だけど、騙されてはいけない。
これはとんでも無く大変な使命だ。
そしてそのやり取りを見届けたゼロス様が、今度は魔王様達に声をかける。
「天使達にラムガル。そして勇者とルドルフと精霊王達は、クロノスの生み出した【転移者】の監視をしておいて欲しい。問題ないとは思うけど、僕はレイスのエネルギー弁の調整の為、介入出来ないだろうから」
声を掛けられた者達は、深く頷いた。
「あ、そうだ。神獣達も遊びに行っていいよ。今までよく務めてくれたからね。レイスの物ほど強力なものではないけど【卵殻】をあげる。小型化とその力を抑え込める効果がある」
ゼロス様はそう言って、神獣様達の前に七色の卵を置いた。
神獣様達は困惑した様に首を傾げる。
「し、しかし、世界樹様の護りは?」
「それなら、マスターに任せる」
「!?」
「!!」
「!!?」
一同の目が大きく開いた。
そして直後、ラムガル様が講義の声を上げる。
「し、しかし奴はっ!!」
だがゼロス様は、静かにそれを手で制した。
「ラムガルはマスターと仲が悪いからね。だけどマスターは、これまで一度も僕を裏切った事はない。任せるに値するよ。……それにね、アインスは頑丈だから、実は守りなんかなくても、この世界はアインスを傷付けられないと最近立証されたんだ。……ねえ、マスター?」
「はい。この世界に創造されし何者も、今のアインス様の驚異とはなりません。そしてこれは全て、アインス様がこれ程に成長されるまで神獣様方が守り続けて来られたおかげかと。また、神々留守中の大役を僕に任せて頂き、この上なき光栄でございます。この身に代えましてもその任、全うさせて頂きます」
ゼロス様はそう言って頭を下げるレイルに一度微笑みかけると、神獣様やラムガル様に言った。
「さて。見ての通りマスター本人はやる気満々だ。だけど神獣達。心配なら、別にここに残っても構わないよ? 僕はマスターを信じてるけどね」
「……」
「……」
神獣様達は暫く沈黙した後、各々に与えられた卵をその身に仕舞い、ラムガル様も怒りに震えつつも、それ以上何も言う事はしなかった。
その様子をしばらく眺めたゼロス様は、またレイルに声を掛ける。
「頼んだよ、マスター。そしてもし困った事があったなら、誰かに助けてもらえば良い。その為の【力】も渡したしね」
レイルは深々と頭を下げ、頷いた。
「はい。見誤り無く、使わせて頂きます」
「うん」
ゼロス様は微笑み、頷いた。
そして一同を見渡し、言葉を締めた。
「以上だ。皆、頼んだよ」
「「「「はっ!」」」」
「……」
……やはりオレには、なんの使命も無い。
まあ、この面子じゃ当たり前といえば当たり前だけどな。
あのレイルにしたって、ダンジョン内じゃラムガル様すら苛めぬける程の力を持っているんだ。
オレは、まぁ……、……うん。
オレがなんとも言いえぬ、乾いた孤独感を感じていたその時。辺りにアインス様の声が響いた。
『―――なる程。ゼロスとレイスが遅れてきたのは、その子を創っていたからなんだね』
ゼロス様とレイス様、そして一同が一斉にアインス様を見上げる。
その幾千兆に分かれた白い枝には、この3日の内で新芽が伸びていて、うっすらと緑の輝きが戻りつつあった。
アインス様はゼロス様の抱える赤ん坊に、愛しげに語りかける。
『とても可愛いね……そう、その子はゼロスとレイスが、初めて形を成した時の姿にそっくりだ。何も知らない、善も悪も、笑う事も泣く事も知らなかった、そんな頃の二柱にそっくりだよ』
ゼロス様が嬉しそうに頷き、まるで父親に自慢でもする様に得意気に話される。
「そうだよ。“赤ん坊”だからね。レイスがここに入る際、その記憶の全ても種の中に封印する。外側の肉は、ただの人間と何一つ変わらない作りにしておいたんだ」
……なんで人間なんだろ? もっと強いものは沢山あるのに。
「何かを食べなければ命を繋ぐ事が出来ないのに、何を食べればいいのかも分からない【最弱の存在】だ。でも【人間】って、そういう物でしょ?」
成長しきっても、大した力を持たない種族の赤ん坊。
『その通りだね。ゼロスが創ったのだから、違うはずが無い』
ゼロス様は困ったように、だけど愛しそうに微笑みながら、赤ん坊の頭を撫でている。
「この体に入ったレイスは、もうただの人の仔と変わらなくなるだろう。摂取も排泄も必要、なのに何一つ満足に出来ない幼子」
そしてそのゼロス様の言葉を、アインス様の優しい声が引き継ぐ。
『だけど、世界で一番愛される存在だ。弱くても、その与えられる愛だけを頼りに、懸命に生きようとする存在で、そしてやがて成長すると、神に勝るとも劣らない【無限の愛】を与える事のできる存在、だね』
「そう。それが僕が創った【人間】って言う物だよ」
ゼロス様は頷き、そしてふとオレを見た。
もう目を逸らそうとはせず、オレをその眼差しで真っ直ぐに射抜いてくる。
そして、仰ったんだ。
「そう。……だからこの子の面倒をね、君に見て欲しいんだ。ルシファー」
―――……。
……え?
これでルシファーのターンは終わりです。
次話から世界樹目線に戻ります。
※誤字報告神様降臨中。
本当に、ありがとうございます!!




