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少し時間軸が戻ります。

 《ルシファー視点》


 数日前、オレの魔眼にレイス様から通達が入った。

 そして短い通信を切った直後に、近くに居たベルフェゴールが顔を上げて尋ねてくる。


『いかがされましたか? ルシファー様』

『ああ、レイス様から呼び出しだ。『聖域に来い』とだけ。何だろな?』

『レイス様は相変わらず無口なようで』


 ベルフェゴールは見た目の凶悪さからは想像も付かない物腰の柔らかさで、そう答えて笑った。

 オレは結構、隙あらばこのベルフェゴールを捕まえては絵画かや彫刻のモデルになってもらっている。

 言うまでもなくベルフェゴールの外見は、完璧な程にオレのツボだ。

 だがそれ以上に、この穏やかさが安心するんだよなぁ……。


 オレが和んでいると、ベルフェゴールはクククと凶悪な笑みを浮かべながら丁寧克つ穏やかな口調で言う。


『直ぐに発たれるのですか?』

『レイス様からの呼び出しだからな』

『……そうですか』

『どうかしたのか?』


 何処か物憂げなベルフェゴールに、オレは尋ねた。 

 するとベルフェゴールは小さな溜め息を漏らして苦笑する。


『身体をお大事になされよと思っただけです』

『ん? オレは元気だぞ?』


 俺は首を傾げるが、ベルフェゴールは頷かずじっと俺を見つめてきた。


『……先日、亡者共の不用意な発言で、またハデスが【死神化】したそうですね。今月に入ってもう五度目です』

『……一種の発作みたいなもんだからな。あ、もしオレが留守の間にあいつのモヒカンが解けたら、気にせずオレに連絡入れろよな』

『ルシファー様』

『……』


 話を流そうとしたら、ベルフェゴールは俺を睨んできた。


『状況を甘く見てはいけません。【生者】である貴方様が、ハデスの【死臭】にあれ程の至近距離で触れるのです。高位悪魔のサキュバス達ですら吐き気を催す【死臭】ですぞ』

『……触った後はちゃんと消毒して、回復薬を呑んでるよ。前も言ったろ? あんなんでも仲間だ。差別化はすんな』

『しておりませんよ。ルシファー様がそうおっしゃいましたから』

『……』


 ベルフェゴールは……いや、悪魔達は何故かオレの言ったことを良く聞いてくれる。

 助かる半面、時々何故か少し恐ろしくも感じる。


『私が案じているのはルシファー様のお身体、それだけですよ。ハデスの件だけではありません。【時間の貯蓄】を、最近なさっているのでしょう? 例の戦争より直ぐ、グリプスの最奥【時の迷宮】に挑まれ、第一面を攻略なされたと存じております』

『誰に聞いた?』

『ベリアルが、当時ルシファー様の後をつけていたそうで』

『……あんにゃろ』


 ……まさか見られてるとは思わなかった。

 なるべくコッソリ出かけたつもりだが、ベリアルとオレとじゃ、根本の出来が違う。正面からやっても、裏からやっても敵う相手じゃ無い。


『リリス達姉妹が噂しておりました。“ルシファー様は瞑想の最中、ダンジョンで手に入れた【時間延長】の魔法を使い、十分を一年に引き伸ばしている”と。そしてそれを、攻略報酬で【時の神】より授かった【時空】に、貯蓄されていらっしゃる』


 全部バレてた事に、オレは無言で口を尖らせた。

 照れ臭さと、少しの気まずさ。


『何れまた、我々を使う為の【対価】ですね?』


 隠しててもこうも筒抜けなら、頷くしかなかった。


『……この世には【禁忌】が存在する。何れ誰かが何とかしなきゃならんからな。だから()()()目標は二万年。【永遠】の存在すら消せる力が欲しいんだよ』

『なぜ貯蓄? 未来に託せば良いではないですか』


 ……悪魔達との契約は、代償と引き換えに無限の力を与えてくれる。

 とはいえ、それには様々な柵があった。

 例の戦争の一件以降に知ったことだが、“力の前借り”はコイツラに多大なリスクを背負わせる事になるんだ。

 本来C級程度でしかない悪魔達の肉体に、天使長とやり会える以上の力を発揮させるんだ。契約が成り立ってる間はいいが、故意にしろ事故にしろ、契約が途中で破棄された場合は、発揮されていた力は契約を結んでいた両者に跳ね返る。

 そりゃもう人間やC級の魔物なんか、ひとたまりもない程のエネルギーだ。

 それを二万年なんて約束してみろ。途中で俺になんかしらの事故が起きた場合、それが奴らの本来の身体に跳ね返る。

 下手すりゃその圧でマナが押し潰され、マナ破壊すら誘発する恐れある。


 出来る訳ねーだろ。

 だからオレは笑ってベルフェゴールに答えた。


『そこまで託す勇気はねぇなぁ。オレ、気は小さいんだ』

『存じ上げております。しかし今のままでは、その身体がもう保ちませんよ。精神ダメージに連動して肉体ダメージが入ってしまう程に、ルシファー様の魂は摩耗しております。人間の魂には負荷が大きすぎたのですよ。寿命が無いにしてもハデス()を側に置きながら言葉通り生き急ぐ等、生き物のすることではございませんよ』

『……』


 ……ほんと【デーモン】って奴は、出来た種族だと思う。

 オレはベルフェゴールの肩を、感謝の念を込めて叩いた。


『ありがとな、ベル。一個いい事を教えてやるよ』

『?』

『“精神()”って奴はな、折れても砕けても、“諦め”さえしなきゃ、何度だって復活するんだ。……オレな、弱いけど“諦め”だけは悪いんだよ』

『……』

『だからオレは平気さ。心配してくれてサンキューな』


 オレは片目を瞑ってそう言えば、ベルフェゴールは笑ってくれた。

 オレはその凶悪な笑顔に相槌を返す。


『じゃ、行ってくる』

『お気を付けて』


 そして若干後ろめたい思いを残しつつ、オレは今まで居た部屋を後にしたんだ。


 オレが歩きだして間もなく、閉めた扉の向こうからベルフェゴールの声が聴こえてきた。


『―――……マリアンヌ嬢、ルシファー様の容態は?』

『今のところ問題ないわ。多少ダメージが入っても、魔物並みの体力と回復力があるからね。……だけど【瞑想】は、一日一時間半を守らせて。じゃないと衰えによる消耗が、回復を上回るわ。これ以上精神を摩耗させれば、取り返しが付かなくなる』

『分かった、肝に銘じよう。……今後も頼む、マリアンヌ嬢』


 ―――……しょうがねえな。みんなにバレてやがるのか。

 ほんとさぁ、有能すぎるんだよ。俺の周りに集まってくる奴等は。


 まぁ、迷惑かけてる事は分かってる。

 でも弱いオレに出来る事なんて、たかが知れてるんだ。

 その中で、出来る事をオレはやるしか無い。


 リーナ(あいつ)と約束したからな。




 ◆◆◆




 オレが聖域に到着した時、他に集まっていた面々に、思わず震えた。

 神獣様に魔王様、天使長様に勇者サマ、精霊王様にルドルフ、クリスちゃん、それにクロノス様とマナ・カイロス様までダンジョンから出て来ている。



 ……何だ……このメンツは……。



 ―――オレの場違い感、ハンパねぇ!!



 オレはドキドキしながら必死に平静を装う。

 いや、この面々とはいえ、個々には一緒に飯食ったり程度の繋がりはある。だがそれはあくまで“個人的”な繋がりだ。

 役職的な物で見たら、俺なんて下っ端もイイトコロなんですけどっっ!!?


『やあ、いらっしゃいルシファー。久しぶり……では無いけどね』


 ふとアインス様の声が脳裏に響き、オレはホッとしてその聖幹を見上げた。

 だがその瞬間、俺の身体は痺れたように動かなくなった。


「……っ」


 アインス様の枝という枝から、聖葉が一枚もなくなっていたんだ。


『……あ、これ? イメチェンしてみたんだ。似合うかな?』

『……っ』


 ……落ち着け。

 落ち着けオレ。どう答える? 

 このメンツの前で、声を荒げる事は出来ない。


 落ち着け……、ッオレ!!


「……え、……ええ。ははは、流石アインス様。どんな御姿でもお似合いですね」

『ありがとう。そう言ってくれたのはルシファーだけだよ。みんなは驚愕して、口を開けば叫びだして大変だったんだ』

「……へぇ」


 ……って、叫んで良かったのかよ!? 動揺のあまり見誤った!!


 それからオレは動揺を隠しつつ、ここに集った荘厳たる面々に挨拶をして回った。

 とは言っても、みんなアインス様の姿に動揺しているらしく、業務的な乾いた挨拶を交わしただけだった。

 そして、この世界の頂点と言っても過言ではないこの面子から少し離れた後方に、オレはポツンと佇むレイルを見つけたのだ。  

 レイルは出世頭とはいえ、生前のガキの頃から知ってる奴だ。

 内心では少しホッとしつつ、オレはそちらに歩み寄り声をかけた。


「よう、一ヶ月ぶり。元気だったか?」

「はっ、聖者(死人)にかける挨拶じゃないね」


 相変わらず、間髪入れず憎まれ口を叩いて睨んでくるコイツだが、今の動揺しきったオレにとっては“癒やし”以外の何物でもなかった。


「……何ニヤニヤしてるの? 気持ち悪い」

「いやー、お前は変わらねえなぁ」


 そう言って、オレよか頭一つ分小さなこいつの頭をポンポン押さえれば、コイツはまたいつも通り額に青筋を浮かべながらオレの手をはたき落としてくる。


 人はあり得ない現実に直面すれば、常時を懐かしむんだ。


「だから笑うなって! 何なんだよアンタは!!? 気味が悪いからあっちに行ってくれないかなぁ!?」


 そしてオレは、オレの気が済むまでレイルの小言や嫌味を聞いていた。


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