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神は、待機させ賜うた①

 神々の招集に応じ、まずフリーだった勇者の魂と精霊王がここを訪れた。

 だけど俺を見た途端、勇者の魂はビクリと動きを止め、小さな少年の姿をした精霊王は、飛び上がって叫んだ。


「この度は……って、アインス様っその葉っぱどうしたのですかぁ!?」

「あぁ、ちょっと落葉(らくよう)しただけだよ。気にしないで」


 続いて獣王ルドルフと、ハイエルフに付き添われた神獣達が姿を表した。


「クエエェェエェ!!?」

「ア、アインス様!? どうなさったんすか!? 頭丸めるとか、なんのケジメすか!?」

「いやいや、頭丸めるとかじゃないよ。そもそも頭なんか無いしね。ただの落葉だよ。ほら、もう新芽も芽吹いて来てるでしょう?」


 空を狂ったように乱舞するフェニクスや、興奮気味に大地を踏み鳴らし、地震を起こしているガルドルドを、俺は宥めるように優しく言った。


 だけどその後も、来る仔皆が俺を見ては驚愕に叫び、この世の終わりだとでも言う様な顔をしていた。


 ……いや、みんな落ち着いて。広葉樹の落葉なんて、さほど珍しくも無いよ?

 まぁ、今回俺にとっては初めての落葉ではあったけど、皆は少し大袈裟過ぎるよ。

 俺はそんな事を考えつつ、賑やかになってきた聖域を見下ろしていた。


 だけど皆が集まっても、ゼロスとレイスはまだ来ない。

 皆は何処か不安げに、ざわめき始める。


 ―――……俺はふと気になって、みんなに声を掛けた。


「あ、今回の呼び出しについて、俺の落葉は一切関係無いからね」

「「「「「!!?」」」」」


 何か俺をチラチラ見ていたから、安心していいよと伝えたい一心だった。

 だけど、何故かみんなは目を剥き俺を見つめた。

 やがて沈黙するその場を代表し、ラムガルが進み出てくる。


「―――……今件、アインス様のその御姿より凄惨な事態と言う事でございますか。なるほど、この面子が集められた訳を理解いたしました。心して、相対させて頂きます故」


 ……。


「……俺、凄惨?」

「いえっ! そのような事は決して!!」


 ……。

 ……そのラムガルの鬼気迫る形相を見て、俺は意図した事が伝わらなかったことを悟る。

 そして俺は、心の中で固く誓った。



 ―――……早く(葉っぱを)生やそう……。




 ◆◆




 ―――そして一日が経った。


 呼び出しておいて、未だ皆の前に姿を現さないゼロスとレイス。

 皆の緊張は、最高潮に高まっていた。

 俺もハラハラして二柱の居る【帳の外】に意識を向ける。



 ―――……うん。楽しそうに何かを創作してる。まだ二〜三日は来ないね。


 俺は少し伸び始めた新芽がついた“野球少年”の様な枝を揺らし、皆に言った。


「ゼロスとレイスは、まだ二〜三日は来ないと思う。どうかみんな、楽にしておいてね」




 “―――……無理っ!”




 ふと俺を見詰めるみんなの方から、そんな声が幾つも聞こえた気がした。

 だけどみんなの口は動いていない。きっと樹のせいだね。


 辺りが沈黙する中、ずっと皆の後方に控えていたマスターが声を上げた。


「二〜三日とは皆様にとって、瞬きの間かも知れません。しかし、瞬きの間にも出来る事はいくつかあります。この僕が及ばずながら前座を務めさせていただきましょう」


 だが途端に、その場はブーイングの嵐に包まれる。


「貴様の話を聴くなど、緊張の糸が擦り切れ発狂する方がマシだ!」

「そうよ! 貴方のティーガテイへの仕打ち、私達は忘れていないんだからね! ほんと弄ぶだけ弄んで、酷い男っ!」

「そうだそうだ、酷いイジワル男!! そんな事言ってまた勇者をいじめる気だろう!? させないっ、精霊達よ! 勇者を守るんだっ!」

「おう、ルシファーの知り合いだからっておりゃ容赦しねーぞ、コラ」

「マナ、眠い……」

「ええ。あんな小賢しいだけの無能者の話など、一言たりとも聞かなくてよろしいでしょう。ごゆっくりお休みください、レディー」

「……まーくん、頑張って! 私、聞いてるよ!」

「グルルル……ッ」

「シャ――――ッ!!」

「お、おい……無理するなよっ。この面子じゃ流石にオレも庇えきれる自信がねえ……。とりあえず土下座の準備だけしとくな?」

「っうるさいよ。そのフォロー的なのが一番腹立つんだよっ!!」


 額に青筋を立てながら、何故かフォローしようとしたクリスとルシファーに食ってかかるマスター。

 それからふっと肩を竦めると、溜め息混じりに言った。


「ゼロス様がアンタ達のために、究極の魔法を創作して下さったんだよ。それの説明をしとこうと思っただけだ。二神による今回の招集目的については、僕から話すことはしない。だけどそれに大きく関わってくる魔法ではあるからね」

「!?」


 一同の目が見開く。

 マスターはにやりと笑い、面々を見下すような視線を向けながら言った。


「はっ、馬鹿共め。僕があんた等の為に芸や知識の披露をすると思った? あり得ないね。僕が敬い従うのは神々だけだ」


 勝ち誇ったようにそう言い放ったマスター。

 だが流石にゼロスの魔法の解説というからには、皆言い返せないで押し黙る。


 俺はその沈黙の中、俺はドキドキしながら呟いた。


「……俺は神ではない……。つまり俺も馬鹿共に含まれるのか……。新鮮だ……とても良いね!」

「……」

「……」

「……」

「……おいレイル、訂正しとけ。アインス様が変な性癖に目覚める前に」

「―――……っく、訂正する!」


 マスターは悔しげにそう唸り、俺を睨んできた。

 その目は、ありありと『樹は黙っとけ』と語っていた。……うん。その通りだね、黙っておこう。


 そしてマスターはこちらへの苛立ちを紛らわすように、淡々と【鑑定】と【ウィンドウ・オープン】について説明を始めた。

 他の者達も今度は大人しく……いや、何処か哀れみをその視線に滲ませながら、マスターの話に聞き入った。



 ◆



「……とまぁ、こんな感じだ。【鑑定】は一般的に【魂】の宿らない物質や植物に有効だ。例外としては【正教会】で修行を積んだもの達に限り、【魂】を持つ者にも【鑑定】をする事が出来る」


 皆は絶句し、マスターの上に浮かぶ文字盤に見入っていた。

 マスターは気にせず話を続ける。


「【ウィンドウ・オープン】は自身の状態を知るのに役立つ。基本は同波長の本人にしか見えない画面だけど、こうして本人の開示の意思を持って【共有】を唱えれば、文字盤に他者にもみられる様に文字盤に【色】が付く」


 とうとうルシファーがくちを開いた。


「……お前、……イケメンなのに【魅力】ねぇなぁ……」

「話を聞け」


 そう。マスターはデモ用にと、自身の情報の開示をしていたのだった。

 神獣達に付いて控えていたハイエルフの一人が、あらゆる箇所を無視して、ポツリと呟く。


「……賢者の石、……その力はやはり計り知れませんね」


 ルシファーも頷いた。


「【賢者の石】ってソルトス爺さんが持ってたやつだろ? よくあの爺さんが渡したな」

「まぁ、生前からの約束だったからね。ま、そんなのは()()の為の一つのパーツでしかない。そっちだって、何か準備してるんでしょ?」

「……まぁな」


 顔に影を落としながら、ルシファーはそう頷いた。


 少しの沈黙が続いた後、マスターは話題を変えるように明るい口調でまた声を上げた。


「じゃ、次はルシファーに開示してもらおうかなっ!」

「え?」

「「「っ!?」」」


 ルシファーは首を傾げ、マスターを見た。


「だって僕の説明の立証には、まだサンプルが必要だ。そう思わない?」

「え? いや、まあ……でも」


 困った様に一歩下がるルシファーに、マスターは弱々しく首を傾げた。


「まさか僕にだけ開示させて、自分は恥ずかしいから嫌だとか、そんな事言うの? ……いやまぁ、そりゃ僕だって恥ずかしかったんだし、気持ちはわかるよ……。無理にとは言わない」


 肩をすくめながらそう言ったマスター。

 気の良いルシファーなら、そう言えば間違いなく開示すると踏んでの最後の気遣いの言葉だろう。


 そして、ルシファーのスキルが何気にもの凄く気になる面々は、そのやり取りに誰一人として口を挟もうとはしなかった。

 ……後の己の首を締めるとも知らずに。


 ルシファーは肩を竦めると、マスターに言った。


「……分かったよ。別に減るもんでもないしな。【ウィンド・オープン】【共有】」



 途端、ルシファーの前方頭上に、青白く光る文字盤が現れた。




「……」

「……」

「……」



 晒された個人情報。

 一同は閉口し、長い沈黙の後ルシファーが、文字盤を見詰めながらポツリと呟いた。





「―――思ってたのと、違う……」





「オレ弱いしな。ま、オレのステータスなんて誰も興味ないだろ……」

「……(一同ガン見)」


次話、この世界の頂上達の個人情報が明かされます。(/ω・\)

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