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神は、老木を若返らせ賜うた

 いつも通りのいち連のやり取りが終わった頃、俺はゼロスに尋ねた。


「とても凄い魔法だね。だけどこれがどうして“遊びに行くための準備”なんだろう?」

「あ、うん。ほら、僕がレイスの放出弁の調整に掛かりきりになったら、外界に回す意識や力が希薄になるでしょ」

「へぇ、希薄になるんだ」

「うん。おそらくは、精霊王の更に分身の小さな精霊程度の力と思考回路くらいしか保たせられない」


 ―――……ゼロスの……妖精……だと? なにそれ、絶対にかわいい……!


「……どうしたの? アインス」

「何でも無いよ。続きをどうぞ」


 俺は直ぐ様妄想を振り払い、全力で何でもないふりをした。


「うん。だから、何かあったとき用の、これは保険なんだ」

「その物のデータを数値化する事が、何の保険になるんだろう?」


 枝を傾げる俺に、ゼロスはチッチっと指を振る。


「そもそもこれはね、かつて【神武(※1)】の設計を描いているときに、その構想を思いついていた物なんだ。このクロノスにも並ぶ演算能力を持つ魔法陣は、ただアウトプット……つまりただ【鑑定】する為の物ではない。この魔法の真骨頂はインプットさせる事にあるんだ。つまり、術者の持つ力を依り代に、その現状に於いての【最適解】を弾き出すこと」


 ……。

 得意気に語るゼロスに、俺は嫌な予感がした。

 そう。ゼロスは【神武装】を設計している時に思い付いたと言ってたんだ……。

 俺の中で、小さな警笛がppp……と鳴り始める。

 ……駄目だよゼロス、いくらなんでもそれは駄目だ……。


「演算は世界の理を全て予測し、この世界の生き物達では到底予測不可能な【未来予測】を弾き出す。そしてこの魔法陣(インターフェース)によって術者の脳に直接その予測をフィードバックさせ、状況によった最適解を術者に示すんだ」



 ppppppppppppppppppppppppppp……。



「しかもフィードバックと共に、術者のマナへと【共振】による干渉を行い、体内のマナや神経管理物質を調整し、その種族の限界を超えた力を与える事にも繋がる。ふふ、これを使いこなせる者が居れば、この世界の格付けが変わるぞ……」


 ……どこかのマッドサイエンティストの様に怪しげな笑いを浮かべ話すゼロスに、俺は不安に胸をドキドキさせながらじっと聞き耳を立てていた。


 ppppppppppppppppppppppppppppppppp……。



「ただ難点を言えば、それはあくまで魔法陣。そこに魂や識別の為の精神が無いから、非人道的な未来予測を術者に示すケースもある。これによって導き出される答えは、“最適解”であり“最善解”ではないという事……。これを使うには、人智を超えた演算の導き出した“最適解”を【拒否】出来る、並々ならぬ精神力が必要だろうね」


 ppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppppp……。



「僕はこの魔法に名前をつけたよ。その名も……【ゼロスシステム】!!」


 ……うん。そうくるよね。

 このくらいの男の子はね、みんなガン○ムが好きなんだよ。

 しかもあの雪の様な純白のWING()とか……きっとゼロスのツボすぎたんだ。

 しょうが無いよね……。


 俺とマスターが、どこか哀愁の混じる視線をゼロスに向けていると、突然空が裂け、レイスの声が響いた。




『―――……愚かなゼロスよ。お前は今、引き返せぬ過ちを犯そうとしている!!』




「!」

「!!?」

「お帰り、レイス。減量はどうかな? 上手く行ってる?」


 裂けた空からレイスは粛々と降りてきて、俺に言った。


「ただいま。当然順調。レイスは“出来る神”だから!」


 力強くそういったレイスに、俺は一瞬ハタと考え込み、すぐに頷いた。


「うん。そうだね。だけど、小石に張り合おうとしなくても、レイスはオンリーワンの素敵な女神様だよ」

「……ん」


 レイスは少し嬉しそうに頷くと、続いてゼロスに向き直って、気持ち神妙な顔つきで言った。


「ゼロス、その名前はいけない」


 そうだよね。だってほぼパクじゃないか。設定も名前も……。


「【ゼロスシステム】とか、レイスが必殺技に【麗澄龍泉拳(レイスりゅうせんけん)】とか名付けるに等しい。それを勇者とかが、真顔で大真面目に放った時の気まずさ……想像してみるがいい」


 あぁ、そう言う事。

 俺の思惑との相違に気づき、俺はレイスに言われたように想像してみた。


 ……。

 ―――……うわぁ、気不味い。


 そして、俺の想像に似たものを想像しただろうゼロスが、目を逸らせ顔を引き攣らせながら頷いた。


「……うん。名前は……そうだね。【鑑定】と【裏鑑定】とかで……普通に良いね」


 話が落ち着き俺がホッとしていると、レイスがふわりと俺の枝に降り立った。

 そしてそのまま腕を組み、微動だにしないレイス。

 俺はふと気になって、何気なく尋ねる。


「どうしたの、レイス。何か忘れ物かい?」


 するとレイスはふるふると首を横に振った。


「レイスはかつてなく、今頑張って減量している」

「うん。休憩かい?」


 俺が頷くと、レイスはその場にストンと座り込み、膝を抱えた。


「?」

「忘れ物はないし、レイスは疲れないから休憩など不要」

「そう」


 なら何をしに来たのだろう? まぁ、レイスの顔を見れるなら、何だっていいんだけどね。


「レイスに疲れは無い。けど、ちょっと力が無くなると寂しくなった。だからアインス成分の補給に来た」


 レイスはそう言って、膝を抱えたまま背中を丸めた。




 ―――……ハラリ……




 俺の葉がひらりと舞い落ちた。


 ―――……ハラリ ハラリハラリ ハラリ ハラリハラリ……


 どんどん、舞い落ちた。


 そして俺がレイスの今言ったその言葉を、ハッキリと理解した瞬間、全ての葉が落ちた。



 ―――バサリッ!! ドドドドドドドドドドドド……



「っうわあぁぁあぁぁ!!」

「なっ、葉っぱが!!」

「アインス!?」


 俺の葉はまるで雪崩の如き勢いを以て、二柱とマスターを飲み込んだ。


 だって、堪らなくキュンと来てしまったんだ!!

 俺成分って何!? でもあるなら、いくらでも搾り取って!! 搾り尽くしていいよおぉっ!


 俺が葉のなくなった枝をわっさわっさ振って身悶えていると、数十メートルは降り積もった落ち葉の中から、ゼロスとマスターが這い出してきた。

 レイスは俺の枝に座り込んだまま、気持ち目を丸くしている。


「レイス!? 今度は一体何したんだよ!!?」

「れ、レイスは別に……」


 葉っぱに体を半分埋めたままゼロスがレイスに叫ぶ。

 だけどゼロス、レイスは本当に何もしていない。

 俺はだらしなく枝をクネクネと振りながら、驚く二柱と一人に声を掛けた。


「嬉しすぎて落葉してしまっただけだよ。ビックリさせてしまってごめんね」


 ゼロスが不安げな顔で俺を見る。


「落葉? 今は夏だし、これまで一度もこんな事はなかったっていうのに。本当に何かの病気じゃない?」

「病気じゃないよ。多分、樹としての、ただの生理現象さ。ほらだって、なんだか若返ったようなツヤツヤした気分なんだだよ」


 俺がものすごく健やかな気分でそう言うと、レイスがポツリと言った。


「あ、新芽」

「え? ……ホントだ。じゃあ本当に、ただの生理現象?」

「うん。俺は樹だもの」


 俺は新芽のキラキラと輝く丸坊主の枝を揺らし、そう頷いた。

 ゼロスはそれにやっとホッと息を吐き、笑った。


「ま、元気ならいいんだけどさ!」


 俺も笑って頷こうとしたとき、俺の根元からげんなりとした声が上がった。


「それは良うございました。……して、世界樹の葉(コチラ)は如何致しますか?」


 葉っぱに身体を半分埋めたままのマスターだった。

 俺は物凄く健やかな声で答えた。


「マスターにあげるよっ」

「いりません」

「そう言わず」

「いりません」

「じゃあ捨てる?」

「分かって仰ってますね? 残念ですがもうその手には乗りませんよっ!」


 マスターは最近、俺に対する警戒心が半端ない。


「じゃあいつも通り、マスターが作った【俺の㊙展示部屋】に仕舞って貰えないかな?」

「そんな名前は付けていませんか、……畏まりました」……マジで燃やしてやりたい。


 ……今、マスター『畏まりました』の後に、なにか言ったかな? ……いや、樹のせいかな。


 俺は上機嫌のまま言った。


「うん。いつも片付けをありがとう、マスター。落ち葉はマスターの采配で、必要な人にあげてくれればいいから。まぁ、ただの樹の落ち葉なんかを欲しがる物好きな人なんて、居るかどうかは謎だけどね」

「―――……そうですね」


 マスターは冷めた声でそう一言だけ頷くと、落ち葉の片付けに取り掛かってくれた。


 そして一時間もすれば、その落ち葉はキレイに取り去られ、更に一時間もすれば押し倒された草花が、再び自力で首をもたげ始めて、漸く元の風景に戻ったのだった。

 ……少しだけイメチェンした俺を除いてはだけどね。


振り返りサブタイトル↓


※1 神は、神武装を創り賜うた


ゼロスはガン○ムが好きです。

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