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番外編 〜人間達に不要と言われたオレ。暫くして戻ったら、勇者を遥かに凌ぐチートになってた件④〜

昨年のクリスマスにふと思いついたネタ話。

ガルシアの、思春期の出来事です。

 時は流れ、オレは間もなく15歳を迎えようとしていた。


 雪に沈んだ森の泉の畔で、オレは焚き火をして暖を取っていた。

 この聖域にも四季はあり、冬ともなれば辺り一面が銀世界へと変貌する。 


 オレは揺れる炎を見詰めながら、真っ白な溜息を吐いた。


 間もなく15歳を迎えるオレだがまだまだ未熟で、ハイエルフ達から学ぶことは幾らでもある。

 だけどある時を境に、ハイエルフ達はオレが望まない限り何かを教えようとはしなくなった。

 

 そしてつい先程の事。

 いつものように狩りから戻った俺に、ハイエルフがこう告げてきたのだ。


「―――人間は15歳で成人を迎えると聞きます。ガルシア、いえ。もうガルシア殿()と呼ぶべきですね」


 その改まった呼び方にオレは戸惑った。

 だがそんな戸惑いを読み取って尚、ハイエルフはまっすぐとオレを見据え話を続ける。


「ガルシア殿。貴殿と私達には“種の違い”という根本的な差異があります。それでも貴殿がハイエルフの里に留まると仰るのであれば、私達はそれを受け入れたいと思います。ですがこの先“人”として生きたいと望むのであれば、当然私達はそれを肯定します」

「え?」


それは突然示された選択。


「ガルシア殿。貴殿は森で生きるに十分の事を学ばれました。これからは己が道を自身で選択なされるがいいでしょう」


 ―――家族……と思ってたわけでは無い。そう、あくまでも先生だった。

 ならこれは認めてくれたという事だろ?

 喜ばしい事じゃないか。


 オレは自分にそう言い聞かせた。

 だけど同時に言いようの無い孤独と寂しさが押し寄せ、オレの腹の奥に重くのしかかる。


 オレは居たたまれなくなり、ハイエルフの里から逃げる様に雪に包まれたこの泉にやって来たのだった。



「よぉ。湿気た面してんな。何かあったのか?」


 ふとそんな声が聴こえ、黒麒のルドルフが空から駆け降りてきた。

 その喧嘩を売ってるとしか思えない挨拶をしてくるルドルフに、オレは短く返事を返す。


「よぅ、まぁな」

「あー! ったく、冬はたまんねーなオイ。空気が乾燥して毎日5回のトリートメントでも追いつかねえぜ」


 ルドルフは鬣の手入れに驚くほど気合を入れている。

 ま、レイス様のお気に入りだから当然か。


「5回はやりすぎじゃないか? 洗い傷みが出るぞ」

「オレの鬣がそんなヤワなわけねーだろ」


 乾燥に負けてるくせに……と、続けようと思ったがヤめた。

 そんな気分じゃなかった。


「またトリートメント剤作ろうか?」

「おお、頼む。後、ハード系のワックスもな」

「どこか行くのか?」

「タイマンだ」

「今度は誰と?」

「バハムートだ」


 バハムート。

 それは雷の化身・神獣サリヴァントールが住まう聖なる川の番魚と言われる、化け物みたいに大きな魚型の魔物だ。

 強さは最強クラスの聖獣より更に上である。


「勝てるわけ無いじゃん。アホなのか?」

「勝てるわけねえって決めつけんのがアホのする事だ。漢なら、負けるとわかってても挑むモンだぜ」


 いや、負けるとわかってるって今自分で言ったよな。やっぱりアホだこいつ。いや、馬鹿か。

 馬みたいな体型だし、鹿みたいな角生えてるもんな。


 オレはまた溜息を吐きながら言った。


「こないだもケルベロスさんとタイマンするとか言ってボロボロに負けてただろ。オレが回復魔法かけてやらなきゃ、どうなってたと思ってるんだ? ツッパるのもいい加減にしろよな。お前もそろそろもうちょっと身の丈にあった生き方ってものを‥」

「っうるせぇ!」


 オレの言葉を遮ってルドルフが吠えた。

 オレはルドルフと睨み合い、その間には険悪な空気が流れる。


「なぁオイ、テメェ。賢いふりしてんじゃねーぞ? ハイエルフの先生共に何を教わってるか知らねーがな、俺には俺のやり方生き方っつーのがあんだ。腐った面してるテメーにとやかく言われる筋合いはねぇ」 


 腐った面……確かにそうかもしれない。

 オレはルドルフから視線を逸し、また俯く。


「……そのハイエルフの先生方から卒業を言い渡されたんだ。好きに生きろ、だってさ。―――何だろうな。レイス様に昔、好きに生きろって言って貰った時はあんなに嬉しかったのに、今は何だか……まるで見捨てられたみたいな気持ちなんだ」


そうだ。寂しいんだ。そしてこれは、オレの単なる八つ当たり。―――……ダセェ。


「ごめんルドルフ。ルドルフはアホなんかじゃない。やりたいことを貫いてる、お前は立派だよ」

「……」

「オレ、何がしたいんだろうな……ホントさ」


 最早まともにルドルフの顔が見れず、俺は膝に顔を埋めた。

 少しの沈黙の後、呆れたようにルドルフが息を吐く音が聞こえた。


「んな事他人に聞くんじゃねーよ。オメーが何をしたいのかはオメーが見つけなきゃなんねえ。じゃねーと、お前の一生がお前のモンじゃなくなっちまうからな」

「ルドルフは見つけたっていうのか?」

「まあな。つっても、独りで見つけたわけじゃねーから偉そうな事は言えねーけどよ」


 そう言ってルドルフはポツポツと話してくれた。

 まるで大切な宝物を仕舞い込んでいた箱から取り出すように。




 ―――世に生まれ落ちて以来。俺はただ体が黒いと言う理由で、誰からも愛されることがなかった。



 麒麟……いや、聖獣と呼ばれる生き物は何でも食う。

 草や木、虫や獣、それに空気や岩や炎すらもな。

 俺達はそのものを食うんじゃなくて、それらに含まれるマナを食らうんだ。


 そのせいもあって、育児放棄された俺は幸か不幸か野垂れ死にはしなかった。

 だけどそりゃあ、荒んだぜ?

 体が黒いのなんて俺のせいでも何でもねーのによ。


 だがこの世の全てを怨もうとしてた俺の前に、レイス様が降り立った。

 そん時の言葉は、今でも一語一句間違い無く思い出せる……。


「お前、麒麟だろう。なぜ黒い?」

「分からない。生まれた時からこうだった。そのせいで皆からは嫌われ、捨てられた。あなたは神様なんでしょう!? なんで俺をこんなにした!? 俺だってみんなと同じが良かったのに!」


命知らずもいいとこに喚き散らす俺に、レイス様は一切の表情を変えられることなく仰った。


「そうか? レイスはそっちの方がいいと思う。おまえ名はなんという?」


 俺がいい?

 それは初めて聞いた俺の存在を肯定する言葉だった。

 だが荒みきってた俺は、それくらいじゃ心を開く事はできなかった。


「……名前なんて無いよ。そんなもの」

「ならお前の名はルドルフだ。そっくりだからな」

「るど‥る? 誰?」

「そうだ。“Rudolph the red nosed reindeer”という話を知っているか?」

「い、いや……」


 まるで話しに付いていけてない俺を気にも止めず、レイス様は話し続ける。


「そうか。だが似ている。お前は実に!」

「そ、そうですか……」

「実はレイスは、常々サンタになってみたいと思っていた。いや、サタンだったか?」

「は? さたん?」


また謎の単語が出たが当然の如く説明はない。


「住む群れもなく独りだと言うなら丁度いい。ルドルフ、お前に使命を与えよう。暗いこの道をお前が照らし出せ。その輝くアカハナ‥いや、黒銀の体でな。お前は闇の中の灯火だ!」


 何を言っているのかわからない。だけど、この俺が灯火? 闇を切り裂く光とでも言うのか?


 その時の俺にとって、レイス様こそが眩しい光そのものに見えた。


()()()()()か。だけど、まぁ、構わないな。お前はこの世界の空を何処までも駆けるだけでいい。どんなに多くのプレゼント(重荷)があろうと、その全てをレイスが落とさないように支えてやる」


 ()()()()()()()()()()()、だと? この世界と?


 目からウロコが落ちた思いだった。

 レイス様は俺を孤独では無く、孤高に駆けろと仰ったんだ。

 世界から背を向けられてもどこまでも高く。そしてそこで背負うであろう罪や枷(重荷)を共に支えようと仰ってくださった。


 その時に俺は決めたんだ。


 俺は絶対に頂上(てっぺん)を取るってな。

 どんな奴にも負けはしねえ。

 世界中と反りが合わなくったって気にしねぇ。

 俺は俺を何処までも駆けてやる、ってな。




 ◆




 そしてルドルフは、ちょっと照れたように話しを終えた。


「……だからタイマンなのか」

「ああ。俺は頂上(てっぺん)まで上り詰める」

「所でサンタ……サタン? どっちかわからないけど誰なんだろ?」

「俺も気になって世界樹(アインス様)に聞きに行った事がある。そん時世界樹(アインス様)はこう仰ったよ。“その者とは世界中の全ての仔等に、幸せを贈る者である”と」

「それ、まさにレイス様だろ」

「そうさ。レイス様はサタン様だ」


 ルドルフは誇らしげに鼻を鳴らして言った。

 ―――サタン、か。


「じゃあもう俺は行くぜ。くだらねー話で時間食っちまったからトリートメントは次回だ。バハムートに一発キメてきてやんよ」

「そっか。幸運を」

「幸運の化身・麒麟にそれを言うなよ」


 そうだったなとオレは笑い、それから天に駆け上がっていくマブダチの後ろ姿を見送った。



 ◆◆◆




「お前が、ガルシアという人の子か?」


 ルドルフを見送って14日後。俺の前に山のような怪魚が現れた。


「そうだけど貴方は?」


 聖域に暮らす者にとって、このクラスの魔物に出会う事は珍しいとはいえ、あり得ない事ではない。

 俺は慌てることなく尋ね返した。


「我はバハムート。聖域の本流の番魚なり」


 あぁ、バハムートさんか。

 それでオレは大体の予想がついた。


「あいつ、死んだんですか?」

「察しが良いな。一応生きている」


 そう言ってバハムートさんは口からゴポッと黒い物体を吐き出した。


「まったく、小さいのに見上げた根性よ。良いかガルシア。そやつを死なすな。必ず生かすのだ」


 ハイハイ。


 何故かこのルドルフとタイマン張って勝った奴は楽しそうにこう言う。

 そして負けた奴は“チームルドルフ(※ルドルフ非公認)”の傘下に入っていくんだ。

 

 オレが肩を竦めながら胃液にまみれたグチョグチョの黒い物体を覗き込むと、それがピクピクと痙攣するように震えだした。


「……畜、生、オリャまだ……まけ……て、ねぇ……」


 馬鹿がうわ言を言ってる。

 まったく……。アホは撤回したけど馬鹿は撤回しないからな。

 バハムートさんも未だ挑発を続ける馬鹿を覗き込み、おかしそうに笑っている。


「虫の息で、意識も無いというのに、これか。やれやれだな。ガルシア、すまぬがコヤツには、こう伝えてくれ。“宣言通り、わしに傷をつけられた事に免じて命は助けてやる。好敵手(ライバル)として、再戦を楽しみにしている”とな」

「わかりました。川の見廻りもあるだろうにわざわざ届けてもらってスミマセン。この馬鹿には必ず伝えておきますので」

「頼んだ。そうだ、ついでにもう一つ」


 バハムートさんはそう言うと、黒くツヤツヤに磨かれた一枚の巨大な鱗をオレの前に置いた。


好敵手(ライバル)と認めた証だ。ルドルフに渡しておいてくれ」


「はぁ、……」


 オレはまた肩をすくめた。

 だってルドルフに渡しても、いっつもいらないって怒ってオレに渡すんだから。

 オレの持ち物袋には既にユニコーンさんの尻尾の毛や、ケルベロスさんの牙、エキドナさんのウロコ、果てはフェンリル様の針毛や、フェニクス様の尾羽まである。

 どうすんだよ、コレ?


 バハムートさんはオレに再三ルドルフを死なさないようにと釘を刺し、上機嫌に尻尾を振りながら帰っていった。


 オレは傷だらけの死にかけルドルフの治療を始める。


「……オラ……かかってこいっ……!」

「ばーか」


 ホントにお前は凄い大物だよ。凄い大馬鹿物って事だけどな。






 それから数日後。オレ達はレイス様とゼロス様のお召し物のお披露目会に呼ばれた。


 2柱のお召し物は素晴らしく、特にレイス様は超絶にカッコよかった。

 そしてオレとルドルフ、そしてルドルフの好敵手(ライバル)やチームルドルフ(※ルドルフ非公認)の皆は、魂を込めた“レイス様コール”を叫び盛り上がったのだった。



 ―――やりたい事は見つからない。


 だけど、ま、それでも良いだろ? 今はさ。




長くなってしまったのに、読んでくださって有難うございます。


28話の“神は、アルカディア〜”の話で、喜びあう聖域に住む創造物に“人”がいた事はお気づきでしょうか?

そう、この子でした。

そして、もちろん、魔王のハンディカムにも記録れてます。


次回、ガルシア大人になります。

あと四話位続きそうです。


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