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番外編 〜人間達に不要と言われたオレ。暫くして戻ったら、勇者を遥かに凌ぐチートになってた件③〜

 

 それから3年の月日が流れ僕は8歳になっていた。


 その日、僕は岩塩を取りに来たついでに泉で魚を釣っていた。

 ハイエルフ達は僕に肉を食べる事を駄目とは言わないが、当然捕獲に付き合ってくれる事もない。

 肉を食べる為には捕獲から調理まで僕一人でやらなければならなかった。


 ハイエルフ達から多くの事を学ばなければいけない僕にとって、狩りや釣りの時間は唯一ひとりになる時間だった。

 僕は泉の端に腰を掛けて、凛とした空気の中で目を閉じ耳だけを澄ませる。


「?」


 突然キーンと耳鳴りがした。

 続いてキュルっと空気が切り裂かれるような音ごして、僕は不思議に思い目を開ける。


「!」


 するとそこにレイス様がいた。


 白銀の柔らかな毛皮で身を包み、純白の髪をなびかせて、静かな泉の水面の上に一重の波紋だけを波立たせ立っていらっしゃる。


 僕が声を出せずに驚いていると、対岸の岩陰から1匹の黒い獣が姿を現した。


 大きな馬の様な体躯だけど馬ではない。

 体は毛ではなく黒銀の鱗で覆われていて、蹄は目もくらむような銀色の輝きを放っている。頭に生える雄鹿の様な角は黄金で、滾るマグマの様に内側からジュクジュクと不思議な光を放っていた。

 なんと言っても目を引くのは、獅子のような見事な鬣。まるで黒炎の様に漆黒が揺らめいている。

 俺がその美しい獣に見惚れていると、レイス様が口を開いた。


「ルドルフ、お前の鬣の毛が欲しい」

「ま、まさかレイス様……噂には聞いてましたが」

「あぁ、そのまさかだ。構わないか?」

「当然です! それどころかこのルドルフ、感激の極みです!」


 なんの話をしているのかは分からないけど、このチャンスを逃せば、もう二度とレイス様の目に僕が触れることはないと思う。

 神様はきっと何でもお見通しだろうが、出来るならば僕の口から直接御伝えしてておきたい事が一つあったのだ。


「レイス様!」


 僕は無礼を承知で叫んだ。


「……お前はガルシアだったか。何の用だ?」


 ぼ、僕の事を覚えてくださっていた!


 僕は感激に打ち震えながら、それでも神様の時間を取らせるのは申し訳なくて速攻で叫び続けた。


「あ、あのっ、レイス様の創った剣、滅茶苦茶カッコよかったです! 僕、レイス様の創造の大ファンです! 本当に神がかってると心から思います! それをお伝えしたくてっっ!!」

「……」


 流れる沈黙。

 こんな気不味さは未だかつて体験したことがない。


 やがて長い沈黙の後、レイス様はどこか困惑気味に短くこう仰られた。


「……まぁ。レイスは神だけど」


 しまったー!!

 神がかってるとか神様相手に何を言ってるんだ?! 焦りと緊張の余り訳の分からない事を言ってしまってた!


 僕が泣きそうになって地に崩れ落ちていると、レイス様がそっと声を掛けてくださった。


「だけど言いたい事は分かった。人間は賢くないのは知ってるから気にしなくていい。そんな遠くに居ず、もっとこっちに来い」


 畏れ多いと思いつつ、僕は僕の中のリアルアイドル・レイス様のお言葉を受け馳せ参らせて頂いた。


 まだハイエルフの様に瞬歩は出来ないけど、水の上を歩くくらいなら今の僕でも出来る。

 参上させて頂いた水面の上で、僕は水のマナを操り薄い水膜を作って跪いた。

 するとレイス様が僕に声を掛けてくださる。


「顔を上げろ。ガルシアは珍しい奴だ。人間のくせにレイスの創ったものを良いと言う。レイスだってゼロスの方が上手だし良いと思うのに」

「はい! ゼロス様の創造された者は確かに素晴らしいです。ハイエルフや天使達、聖剣なんか、まさに人智を超えた究極の美と言っても過言ではありません」

「そうだ」

「ですが僕は、レイス様の創造物にとにかく惹かれるんです。魔剣の絶妙な色使い、立ち昇るオーラとの調和。あのフォルムだって、敢えて鞘を創らなかったんでしょう? 精霊達はレイス様が不器用だから創れなかったと囁いておりましたが、実はそうじゃなく、無い方がカッコいいから創られなかったんだと僕は感じたんです」


 矢継ぎ早にそう言い切ると、レイス様はふと森の方に視線を送り、ポツリ呟かれた。


「―――あのクソ坊やがそう言っていたのか。……後で締める」


 あ……精霊王様ごめんなさい。


「……にしてもガルシア。お前なかなか見込みがあるな。レイスのこだわりをよく分かっている」

「はっ! 魔物達にしてもレイス様が創られたと聞いて“ヤッパリ!!”って思いました! とにかく色や形が斬新通り越して神がかってるって。やっぱり基本は黒ですよね!」


 僕は拳を握りしめ、思いの程を熱く語り上げた。


「……(なでなで)」


 とその時、突然レイス様が俺の頭に触れられた。

 不意に頭を撫でられた僕は、驚きのあまり水面の調整を解除してしまう。。


「!?? っがぼぉ!!」


 何が起こった!? いや、頭を撫でられたんだけど!

 レイス様に!? なんで?? 意味がわからない!!


「がほっ! がボボ、ッブヘッ」


 ハイエルフ達と暮らすようになって溺れたことなどなかった僕だが、この時は肺にたっぷり水を吸い込んで一瞬お花畑が見えた気がした。


「……大丈夫?」


 レイス様が無表情に聞いてくる。

 僕は必死で体制を立て直し、立ち泳ぎで体を安定させると水中でコクコクと頷いた。


「マナ切れか。人の保有マナは本当に少ないな」


 呆れた様にレイス様に言われて初めて気付く。

 確かに僕の中のマナが空になっていた。

 レイス様にお会い出来て舞い上がり過ぎてたようだ。

 僕が自分の状態を確認している間、レイス様はぶつぶつと呟きながら何やら険しい顔で考え込んでおられた


「……だけどガルシアは人間。ゼロスの創造物だ。レイスが勝手にカスタマイズするとゼロスの機嫌が悪くなる。既にこのルドルフに少し特殊なマナをあげた所だから。……亜種とは言え、ゼロスが怒らないかレイスは既にハラハラしている」


 ルドルフとは多分レイス様の隣にいる聖獣の事だ。

 確か麒麟と言ったか。だけどハイエルフ達から聴いた話だと、麒麟とは純白の鱗に金の鬣だった筈。


「ルドルフはゼロスの作り出す究極のもふもふと、レイスの大好きな黒を兼ね備えたアルティメットな存在。だけど亜種と言う事で親に捨てられた。……そう言えばガルシアも集落から除け者にされたと言っていたな。お前もルドルフに改名してやろうか?」


 なんで除け者はルドルフに改名するんだろう……? そんなことを真剣に考え込んでいると、ふと黒麒麟が蹄を叩いて首を振った。


「レイス様、その話はやめてください」


 そして不満げに僕の方をキッと睨んでくる。


「俺はもう親とかはどうでもいいんです。……おい、ガルシアとか言ったか? お涙頂戴は反吐が出るんだよ。もしそんな目で俺を“仲間”とか抜かしやがったら、後ろ足で帳の外まで蹴飛ばしてやるからな」


 ……。レイス様には従順だけど、どうやら中々この黒麒は口が悪いようだ。

 僕はムッとして言い返した。


「僕だって今はハイエルフ達と暮らしてる。親や人里が恋しいなんて事は無いよ!」


「“僕”だと? ほー、まだ“僕ちゃん”でちゅか? ハイエルフパパとハイエルフママが見つかって良かったでちゅね〜。ハッ、漢なら周りの奴といえば敵だけで十分なんだよっ」


 なんだ? こいつ、ムカつくぞ。


「なんだよっ! ハイエルフ達はパパとママじゃない! お前だって敵だけじゃないだろ!? さっきまでしおらしく尻尾振ってたレイス様は、一体なんだって言うんだよ!」

「神だ!」

「そうだけど違うね! レイス様は神を超えた神だ!」

「……分かってんじゃねーかよ」

「お前もな」


 意気投合した。


「フ。どうやらルドルフに特殊能力(他種族との会話スキル)を与えて正解だったようだ」


 そう言ったレイス様が、一瞬微笑んだように見えた。


「いかがされましたか?」

「何でもない。仲が良いのは良い事だ。そうだルドルフ。ついでにガルシアにマナの使い方を教えてあげるといい」

「俺が人間にですか? 人間は保有マナが少な過ぎます」

「問題ない。これをあげる」


 ぼ……じゃなくて()()の立ち入る隙もなく話が進み、レイス様が俺に小さな赤い小石を突き付けてこられた。


「コレは“賢者の石”と名付けられたマナ結晶。魔物や聖獣達の魔核と同じ様なものだ」

「マカク……ですか?」

「ああ、ガルシアは知らないか。ある程度のマナを保有出来る創造物には、この魔核と呼ばれる器官がある。そこに蓄えられてるマナはその魔物の設定特性に合わせ、魔法として手足の様に使えるようになっている。麒麟の場合は軽やかに天を駆け、炎の如く発熱し、そして幸運を呼び込むといったところだ」

「え、ルドルフは親に捨てられたのに幸運なのですか?」

「ばっか! 話の腰をおるんじゃねーよ。代わりにレイス様に拾われたんだ。これ以上の幸運があるかよっ」


 確かに。


「魔核の無いガルシアには理解しづらいかもしれないが、要は“内蔵”か“外付け”かの違いと言うこと」


 なんとなく分かったような……?


「あっ、有難うございます」


 オレはそれがとんでもない物だと云う事も知らずに受け取った。


「ったく、ショーがねーな。レイス様の頼みだから断れなくて教えてやるんだからな? 勘違いするなよ?」

「勘違い? 例えばどんな勘違い? 具体的に言ってみろよ」

「なっ、ばっ、馬鹿野郎! なんでもねえよ! 蹴飛ばすぞ!」

「まさか親切心から教えてくれるとかいう勘違いってこと? それこそ勘違いだね」

「いいから黙ってろ!」

「レイスは忙しいからもう行く。じゃ」

「「はい! お疲れ様でした!!」」

「「……ハモんなよ」」


 こうしてオレに、ハイエルフ(先生)とはまた違う黒麒麟(友達)という存在が出来たのだった。



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