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神は、悪魔の王を抑え賜うた

 だが次の瞬間、そんなハデスはルシファーの重力魔法で潰され、呻きを上げた。


『ッパッキャマラッド!!?』


 ……成程、こう云う“パッキャマラド案件”だったか。想定外だった。


『お目汚し、失礼致しました』

『あはは、ハデスは相変わらずだね』


 ゼロスは“お目汚し”を否定せず、困ったように微笑んだ。

 そういった所は、ゼロスは【堕ちた魂】には厳しいとも言える。


 そしてふと微笑みを止め、地に這いつくばるハデスにスッと手を差し伸べ、厳かな声で言った。


『―――ハデスよ。その程度の重力で立ち上がる事すら出来ない、愚かで脆弱なる魂よ』

『?』


 ハデスは首を傾げ、ルシファーもまた魔法を解除し、ゼロスを見る。


 地を這うハデスに、ゼロスは囁きかける。


『力が欲しくばくれてやろう。ただし、闇の中で孤独に耐える覚悟があるのなら』

『―――……?』


 首を傾げる冥王。

 ……何処かで聞いたことのある台詞だ。もっともそれは、多分悪役的な者が言うセリフなんだけど。

 ……。……俺はそこでふと思い出し、ニコリと笑った。


 ―――創造主と創造物(親子)だなぁ……。よく似ている。


 ハデスは首を傾げつつも、大きな力(?)を前に、思わず……いや、何となく手を伸ばす。

 だがその手がゼロスの掌に触れる前に、ルシファーが叫んだ。


『ハデス!!』

『??』

『チッ』

『チッ……』


 ハデスは掴もうとした手を止め、首を傾げながらルシファーを見た。同時に二柱から舌打ちがあがる。


『なんすか? ルシファー様』


 不思議そうにルシファーを見るハデスだが、ルシファーは厳しい視線をハデスに向け、鋭い口調で言った。


『お前に問う。お前はなんの為に力を求める? 金か? 名声か? はたまた愛の為か?』

『え? いや、別に……』


 ――――――パアァァァ―――ンッッ!!


 ハデスの答えに、突然ルシファーはハデスの頬を強く引っ叩いた。

 ハデスは大きく目を見開く。


『!?』

『っ愚か者がっ!! 何の覚悟もなしに、強大な力を手にすれば、必ず身を滅ぼすだろう!』


 怒鳴り散らすルシファーに、ゼロスが手を上げて宥めるように言う。


『そんな大袈裟な……』

『いいえ、特殊な核っておっしゃいましたよね!? “特殊な核”で“力が欲しいか?”とかもう、破滅への誘い以外に何があるのでしょうか!? 神よ!!』

『う……』


 ルシファーは、レイスが何気なく与えた力による【獣王の苦悩】をよく知っていた。

 だからもう懸命に、涙目で神へと祈る。

 神はその祈りにたじろぎ、後ずさった。

 そしてもう一柱の神は、わけも分からず頬を押さえて目を開くハデスと、震えながら祈るルシファーを一瞥すると、ゼロスの肩を叩いた。


『行こう。ルシファーがこんな狭量な奴だとは思わなかった』

『……っ』


 自分達のゴリ押しを棚に上げ、そう言い放つレイスに、ルシファーの目から光が消えた。


 だがその時、そんなルシファーに、優しく声をかける者がいた。


『いいすよ、俺行くスよ』


 ハデスだった。

 ルシファーは光の消えた瞳をハデスに向け、声を震わせその決意を止めた。


『ハ……デス? 馬鹿な……やめろ……、自分が何言ってるのか分かっているのか!?』

『いや、良くはわかんねスけどね。でも二神様が困ってて、亡者(俺ら)に力を貸して欲しいって言って来てんすよね? 俺、別に普通に行ってくるすよ。力云々関係なしに』

『っ……駄目だっ!!』


 ハデスの言葉に、ルシファーの瞳に光が戻る。

 そして楽しげに笑うハデスに、ルシファーは腕を伸ばし、強い意志を以て止めようとする。

 しかしハデスは、ルシファーの腕を振り払うと胸を張って言った。


『俺らなら大丈夫すよ。ルシファー様いつも言ってたじゃないスか。“お隣さんとは仲良くしろ”って』


 その言葉に、ルシファーの目が絶望に染まる。同時に、ゼロスとレイスの瞳には歓喜の色が宿った。

 ハデスは自信に満ち溢れた眼差しで、ルシファーに力強く頷いた。


『何千年、ルシファー様にどつかれて来たと思ってんすか。あの大戦だって乗り越えた。神様の下でだって、二〜三百年位余裕で耐えられるッスよ!!』

『ッこの、馬鹿っっ』

『モゴぉ!?』


 爽やかにそう言い切ったハデスの口を、ルシファーが青ざめた顔で慌てて塞いだ。

 そして、その口を力尽くで塞ぎながら、恐る恐る背後を振り返った。


 ―――……ルシファー曰く、そこには二柱の邪神が微笑んでいたと言う。


『じゃあ3()0()0()()、よろしくね?』

『ちょ……まっ、さっき一年って……』


 ハデスの口を押さえ付けながら懸命に抗議するルシファーを、レイスは鼻で笑い飛ばした。


『ふん、本人の意思は尊重すべき。……余裕なのだろう? ハデス』

『っ』

『―――っひぃ……』


 この時流石のハデスも、この二柱を前に『スゲエチョーシノッてました! スンマセン!!』と撤回することも出来ず、ただ引き攣った悲鳴を上げたのだった。



 ―――かくして、ゴリ押しで言質をとった二柱はハデスの魂を連れ、帳の外へと去って行った……。 



 そして暗い森の中で呆然と立ち尽くしていたルシファーは、とうとう膝を折り、空を仰ぎながら手を胸の前で組む。



『―――……おぉ、神よ。どうか……どうか、その哀れな魂に……一滴(ひとしずく)の慈悲を与え給え……』



 ポツリと呟かれたルシファーの祈りは、誰に届く事もなく、高い空へと吸い込まれ消えて行った。




 ◆◆




 帳の向こうでは、ゼロスとレイスは早速ハデスを種に移した。

 ゼロスがハデスに問う。


『どう? ハデス。新しい【核】は』

『ええ、なんか妙な感じスネ。【魔石】じゃないすから、魔法は使えねすね。実体は出せないす』

『そうだろうね』

『ゼロス神様、この【核】は何なんすか? なんか種みたいに見えましたけど?』


 ゼロスは嬉しそうに微笑んだ。


『そうだよ。そして“発芽”だってするんだ』

『―――……? 発芽?』

『そう、君にはこの種を、その強い意志で“発芽”させてみて欲しいんだ。条件は僕達で揃えるから』

『は、ハイっす。でもどうやったら発芽するんすか? 待ってるだけでいいんすか?』

『いや、発芽には“強い想い”が必要だ。その磨き上げられた魂を震わせ、君の想いで殻を突き破って欲しい。その時、僕達はまた来よう』

『来よう……って、え? どこに行かれるんすか? え? 神様……神……っ』



 ―――そうして種となったハデスは、ゼロス達に管理された【虚無の世界】へと放たれたのだった。

 とは言え“実験”である訳だから、マジックミラーの様に外側から覗くことの出来る、擬似的な虚無空間だ。


 ゼロスがその出入り口を閉じ、ワクワクと目を輝かせながら言った。


『これで良し! 後はハデスが種を発芽させるだけだ』

『うん。アレは一応、一万年程その魂を磨き続けた古参だから。きっと上手く行く』


 レイスも確信に近い希望観測を持って、ゼロスに頷いた。



 ◆




 ―――……十分後。



 孤独なハデスが、闇の中でぶつぶつと呟く。


『……そこは暖かくも寒くもない世界。そこは真っ暗な闇。そこに俺は居た』


 ……。




 ◆



 ―――……十二分後。



『“ここは何処だ?” かつてそう思ったこともあったが、何時の頃か、考える事をやめた。“―――俺は何故こんな事になったのか?” もう思い出せない……』




 ◆



 ―――……十五分後。



『“今日”という概念は、もう俺の中で消えつつある。かつての記憶にある、時間と言うもの……確か“1秒”とか言ったか? 虚無の中では“1秒”も“1億年”も変わらない。過去や未来という時の流れがなく、あるのは現在だけ……』


『……ね、ねえ、レイス。ちょっと不味くない?』

『条件は同じ。もう少し様子を見る』


 ……神々は残酷だ。




 ◆



 ―――……十七分後。



『―――何もない。……何もナい。なにもナイ、ナニモ……。―――俺ハ誰? 俺はなニ? タスケテ……。ここはドこだ、何故コこにいる、誰がこんナことをした、ここハぢごくか、あいつらはどこにいッた、アイツラってダレだっけ? おれもおわらせて、おわらせておわりたいおわらせておわらせてタスケテオワリタイオワリオワリオワ……』



 ◆



 ―――……半年後。



『―――――……。 ……―――。   ―――――――――――――……』


 とうとう、ゼロスが額に大粒の汗を浮かべながら叫んだ。


『っじ、実験終了――――――っっ!! 種をっ、緊急回収!!』

『え、でもまだ……』

『まだじゃないっ! 緊急回収だよ!! 早くっ、急いで!!』

『でも』

『でもじゃない! っハデス、実験は終わりだ! 良く頑張ったね!! ハデスッッ!! ッハデス!!?』




 ―――……そうして、神々によって再び掬い上げられたその魂だったが、その呼びかけに答える事は、二度と無かったそうだ……。



※……今回の話、カット&ペーストで楽した訳ではありません。決して!!(;´∀`)!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙です! 邪竜編も面白かったけど、やっぱり神様サイドもいいですね~ [気になる点] この物語の展開が全く予測できません… 続きが楽しみです! [一言] ハデスがアインス様の境地に…!?…
[一言] そっか…そうだよね! 死人に口なしって言うし…死んでるから死んでないよ! たぶん…きっと…神様兄妹は無実なんだ!
[一言] うぅ… ハデス…尊い犠牲だった…
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