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番外編 〜人間達に不要と言われたオレ。暫くして戻ったら、勇者を遥かに凌ぐチートになってた件②〜





「ふーん、大変だったね。帰るところがないならここで暮らしたらいいよ」

「人間は本当に愚かだな」


 その後オブラートに包んだ世界樹アインス様の説明により、舞い降りた2柱の神々は僕がこの森に居ることを認めてくださった。

 この時僕は初めて知ったのだけど、ゼロス様には実は妹がいらっしゃったらしい。

 名前はレイス様。あのカッコいい剣を作ってたお姉さんだ。

 しかしこの神様達、実物を見ていると“想像していたより気さくな神様達だな”と思ってしまう。

 僕がここに居ることをあまりに簡単に認めてくださったこともあり、僕は現状が信じられずに神様達に聞き返した


「本当にいいんですか? 本当に僕なんかがこんな神聖なところに住まわせてもらっても」


 するとレイス様が面倒臭そうに顔を傾げ、木陰で水を飲んでいた鹿を顎で指した。


「アソコに1匹の鹿がいる。ガルシアはあの鹿に“ここから今すぐ出いけ。そして頑張って砂漠で生きろ”と言うか?」

「い、いいえ。言いません。好きな場所で好きに生きたらいいと思います」

「そういう事」

「……」


 僕はその言葉に目から鱗が落ちた思いがした。

 好きな場所で好きに生きろ。まさに僕の今一番欲しかった言葉だったから。

 僕はレイス様の事が更に大好きになった。

 口数が少なくて無表情だけど、とても優しい女神様。


「レイス達にとって聖域(ここ)は、アインスが居るという以外、別に特別な場所でも何でもない。全く以て他の地と同じだ。アインス(世界樹)を傷つけないなら好きにすればいい」


若干投げ遣りにそういったレイス様の跡を引き継ぐように、ゼロス様が嬉しい提案をしてくださった。


「だけど独りじゃ心細いだろう。森に慣れるまではハイエルフ達に色々教えてもらえばいいよ。彼らはマナの扱いに長けているけど、マナを使わない生き方もよく知っているとても慎ましい種族なんだ」


 こうして僕は、この日からハイエルフ達と共に暮らすことになったのである。



 ハイエルフ達はゼロス様が仰ったように、とても高潔な存在だった。


「ガルシア。身だしなみは常に整えておきなさい。神より与えられた肉体を磨くのは我々の当然の義務です。己の裁量や自堕落な不摂生で汚して良いものではありませんよ」

「はいっ!」


 まずは徹底的に磨かれた。勿論、僕にも自分の磨き方を叩き込まれた。

 湯を沸かし熱い布で顔を拭いたら、氷のように冷たい水で引き締める。

 湯浴みの後はハーティの葉から採れた精油を塗り、香を炊き込んだ清潔な服を身に着ける。

 服に皺を付けないよう、そして動いても汚さないよう、自分の動作と周りの様子にも常に気を配らされた。


「食べると言う行為は、最も尊ぶべき行為です。神の創られたものを己が糧とする為に頂くのですから。特にガルシアのような“人族”は肉をも食すのでしょう? 私達は植ハイエルフは木々の一葉、一粒の木の実と言ったふうに生き物の命まで奪う事はありませんが、あなた方は命をも頂くのですから尚の事、感謝を疎かにしてはいけません。又、食に喜びを見出すのも大切な事。調理に妥協はもっての他です」

「は、はいっ!」


 ハイエルフ達は僕が獣や魚を食べることを駄目だとは言わなかった。

 それが人なんだ、と言われた。


 それからハイエルフ達は火を使わない。

 だけど教えてもらった調理には火なんて必要なかった。

 水を粒子レベルでうまく動かせば流動摩擦で熱エネルギーが生まれ、水は熱湯になる。

 空気の摩擦で火を作れるそうだけど、神様との制約によりそれはしないのだそうだ。

 僕にはハイエルフ程のマナは無いけど、指導を受ける内に小さな鍋の煮沸位なら何とか出来るようになっていった。


「ガルシア。何かを作ると云う事は神の疑似行為です。決して驕らず、傲らず、一切の余念無く集中しなさい」

「はいっ!」


 銀の機織りで輝くように薄い布を織る時。土を捏ね器を作る時。そして木の枝を彫って食器を作る時。

その時僕は全ての事を忘れ、ただ只管に集中して作業に打ち込んだ。


「体力は最も基本となる己の力です。これが無ければ何かを守ることは愚か、己の身を立たせる事すらままならない。また、身体と精神は一心同体です。怠ることなく鍛えなさい」

「はいっ!」


 ハイエルフ達はマナの力で森の木々の枝の隙間を鳥よりも速く、飛ぶように駆け抜ける。

 だけどマナの力を借りなくても、飛ぶように駆け抜けていた。


 えぇ?


 と、初めはその動きに驚いて目を擦っていたけど、瞬歩と言う脚使いを極めれば僕にも出来ると言われ、僕は必死に練習した。


 それにハイエルフ達は、世界樹(アインス様)を守ると言う使命があるから、いざという時には戦わなくてはいけないそうだ。

 弓を使っているのはよく目にしたけど、その気になれば短剣からロングソード、アックスからモーニング・スターまで、ありとあらゆる武器を彼等は使った。

 寿命がべらぼうに長いから色んな武器を極めることが出来るんだそうだ。

 僕はといえば、とりあえず短剣あたりにすることにした。

 森の中での戦いを想定するんだったら、小回りが利く方がいいからね。


「いくら体を鍛えても不注意で傷つく事もあるでしょう。薬草の知識は覚えておきなさい。緊急の場合は、マナによる回復魔法も有効ですが、ガルシアはマナの基礎保有量が少ないので本当の緊急時だけにしたほうが賢明ですね」

「は、はいっ!」


それから俺はポーションから始まり、毒消しやしびれ回復薬、1歩間違えば猛毒ともなる薬の数々やハーティの葉からの精油抽出方なんかを覚えた。

因みに自分の作った薬の試薬は自己責任と言われた。

中には失敗作もある薬品を自分に試している内に、気付けば毒耐性が付いていたのは笑い話だね。


「ガルシア、何度言えば分かるのです! また、返しの持ち方が違う」


 ―――バシィィィーッン!!


 そして今日も高らかに、ハイエルフの、不器用すぎる僕を叩く音が聖域に響くのだった。


 だけど痛くはない。

 本当になんで痛くも痒くもないのに、そんなに音が出るの? と首を傾げたくなるほどの大音量だ。


「何かを学ぶにあたって折檻は紛れも無く有効な手段です。ですが何も痛みに訴えかける必要は無い。必要なタイミングに必要な衝撃を脳に与えればいいだけなのです。例えば“共振”と言う現象がありますね。微振動ですが、波長を合わせれば岩すら砕くことの出来る力を持ちます。それを調整し、皮膚と皮膚が触れ合う瞬間にタイミングを合わせる。そうすればこのように」


 ―――バシィーッッン!!


 痛くない。


「内部や表面に衝撃を与えることなく音だけを出す事ができるのです。……ですが気を付けてくださいね。さっきも言ったように、使い方次第でほ岩も砕ける衝撃だって与えられるんですから」


 背筋が寒くなった。




 そんな風に僕は様々な事をハイエルフ達から学びながら、あっという間に時は流れて行ったのだった。



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