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番外編 〜幸運のドラゴンさんは、負けられない(邪召しafter story⑤)〜

 《ローレン視点》


 ファーブニル様の気配がこの洞窟から完全に消え、同時にこの山のダンジョン化も解けた。

 神印の扉の向こうからは、今なお消えることなく放たれ続けるエネルギーを感じる。



 ―――炎は無事に灯されたのだ。



 そう理解した時、私は静かに黙祷をした。


 それから私は重い身体を引き摺るように、崖の上を目指し歩き始める。

 目指す場所は、焼け落ちた例の家屋ではなくその隣。かの方の御友人が眠る家だ。 


 随分時間を掛け辿り着いた荘厳な扉を開き、中を確認する。


 御友人は変わらずそこにいて、テーブルの上には、萎びたブドウが一房置かれてあった。


 私は何にも触れる事なく扉を閉めると、古都に灯された光を一度すべて落とした。

 そして闇の中で、五千年前にファーブニル様が岩を落とし閉ざしたと言う【出口】へと歩みながら、ポツポツとその道に小さな魔法の光を落として行った。


 ……御友人を迎えに来た者達が、迷わず辿り着けるように。きっとファーブニル様もそう願われるはずだ。


 私のマナは、回復するそばからそうして消費される。


 岩を退け、出口を抉じ開ける作業も、遅々として進まなかった。



 

 眩しい光が差し込み、穏やかな風に乗ってラベンダーの香りが運ばれて来る。


 私はゆっくりと、その香りを感じながら山を降った。


 二人はどこで待ってくれているのだろうか?

 マナの回復が追い付かない。

 かろうじて歩けはするが、今の私は索敵など到底出来なかった。

 それでも私はたった一つの思いを胸に、歩き続けた。




 ―――……早く、二人に会いたい。





 ◆




 森の中。木漏れ日の中を歩く。

 ホーンウルフ達を呼ぶ事はしない。奴らは今の弱りきっている私を見れば、間違いなく襲いかかってきて、無抵抗の私を噛み千切ってしまうだろう。

 そういう奴等だ。弱い者に下る事など、奴らはしない。

 今の私には、脅威で間違いは無かった。

 とは言え、ここに来るまでホーンウルフには出くわしていない。

 勇者やブリス達が山に来る前、森でホーンウルフを間引いていたせいかもしれない。

 私はその幸運に油断はせず、森を進んだ。


 そして私は茂みをかき分け、とうとう静かな湖畔に出た。


 ジーバルの茂みの花はとうに枯れ落ち、緑の葉だけが青々と茂っている。

 あの頃美しかった赤い花は、今はもう茂みの根本でクシャクシャの茶色い枯れ葉のようになってしまっていて、時の移ろいを感じさせた。


 茂みの隣には、木彫りの黒い丸テーブルと、同じく黒い椅子が三脚置かれている。


 テーブルと椅子には、落ちた木の枝や枯れ葉が積もっていた。

 ()()()()誰も訪れていないのだろう。


 私が肩を落とし、その場に座り込もうとしたその時だった。


「お疲れ様っ!!」

『おめでとさんっ!!』


 明るい声とともに、私の頭と肩に何かが被せられた。

 頭に手を触れ、自分の胸元を見れば、それはハーティーの花冠と花輪。



 目を見開き上を見上げれば、そこに二人が居た。




 ◆




 〈幸運の竜フィル視点〉


 オイラはフラフラと、湖の上を飛んでいた。

 行く宛があったわけじゃない。そもそも、()()()()が何処に行ったかも知らない。


 だけど、なんとなくチラリと辺りに目を向ければ、そこに目当ての三人が居た。

 ……まじで望みが何でも叶

 うな。ラッキーが過ぎるだろ。


 オイラは小さな溜息を洩らし、方向転換しそちらに向かう。

 あいつ等はオイラの気配になんか気づかず夢中で、それは楽しげに話をしていた。

 ローレンも頭と首に幸運の花輪をかけられ、少し照れたような表情を浮かべながら、楽しそうに笑っている。

 オイラはそんなローレンをじっと見つめ、内心で拳を固く握りしめながら叫んだ。


 ―――決してお前の想いや、あの魔法は無駄じゃなかったからな……オイラはちゃんと高評価してるからなっ!!


 オイラはふわふわと進み、とうとうあいつ等の声もハッキリ聞き取れるようになってきた。

 まぁ、相変わらずポムの声は聴こえないが……。



「―――ポム、さっきから首をさすってるけど、どうかしたの?」

『あ、いや。ブっさんやミー姉を空中キャッチした時にやっちまったみたいでさ。多分ムチ打ち? その後ラディーを抱えてとどめをさされたって感じだ』

「え、ごめん。大丈夫?」

『翼破れてる奴に心配されたく無い……』

「それもそうだな。ラディーは自分を労るべきだ。ポム、大丈夫か?」

『マナ切れ起こしてる奴にも、心配されたくないっての!』


 何故か無傷のポムを、労り始める重症人二人。情況が全く読めない。

 だけどオイラはなんだか、そのふざけてる様なやり取りが懐かしくなって、その輪に突撃してやった。

 正確には、一番無傷なポムの頭にアタックした。


「ブベ!? 何しやがるこのトカゲ!」


 不意を突いたアタックに、ポムが首を振りながら怒声を上げた。

 オイラはポムの頭に取り憑いたまま、ニヤリと笑い言う

 。


「よぅポム。早速声が出るようになったじゃねぇでしゅか」

「でしゅ?」


 オイラの声に、ラディーが首を傾げた。


 ……ちっ、さっきの衝撃的な体験のショックで、言葉に妙な癖がついちまったな。

 まあ、未だに震えが止まらないし、心の傷が癒えるまではしょうが無いのかも知れない。


 オイラがそんな事を考えていると、フォンと気持ちの良い音と共にオイラの鼻先めがけ、レイピアの切っ先が飛んできた。

 オイラはそれをするりと避けると、3人の頭上に舞い上がった。

 ローレンがレイピアを構えたまま、オイラに厳しい視線を投げ掛けてくる。


「お前、神気をまとっているな。私の知る限り、お前のような者は知らない。何者だ? そして、私の友達に何の用だ?」


 ……フッ、流石はローレンだ。よく分かってるじゃないか。

 オイラが【神気】と言う物を放っていると、よく気付いたじゃないか。

 オイラも全然気づいて無かったってのに。……へぇ、そうなんだ。ふーん……。

 オイラが内心ドキドキしながらポーカーフェイスを決めている間も、ローレンは一分の隙も無く、こちらを警戒している。

 オイラはそんな対応すら嬉しくなり、ふふんと胸を張って自己紹介をした。


「オイラは幸運のドラゴン・フィルしゃまでしゅ! オイラに触れた者は漏れなくラッキーに見舞われるのでしゅ」

「幸運? 何を言っている?」


 眉間にシワを寄せるローレンに、鼻を鳴らし説明した。


「あれ程治療しても出なかったポムの“声”だって、オイラにかかればいっぱちゅでしゅ。」

「声……? あ。 ほ、ホントだ! しかもなんかさっきの突撃、当たりどころが良かったみたいで、首のムチ打ちも治ってる!」

「!」

「え!?」


 ポムの言葉に、ローレンとラディーが同時に振り返る。

 ポムは大きく目を見開きながら、オイラを見上げてくる。

 そして今しがた戻った声を震わせながら、恐る恐るオイラに尋ねてきた。



「“幸運のドラゴン”……って、―――……旦那!!?」


 例の物語の結末を知っているポムは、直ぐにオイラだと気付いたようだ。

 続いてローレンとラディーが、ワタワタとテンパりだす。


「な、ファーブニル様? この……ドラゴンが? ……そんな筈がない。なぜなら、これはあまりにも可愛すぎる! あの方が、こんな……っ」

「そ、そうだよポム、何を言ってるの!? ファーブニル様がこんな可愛いはずが無い。見てよ、潤んだ瞳でチワワの様に震えてる。それに語尾が“でしゅ”だよ?」

「……それもそうか。すみません、ドラゴン違いでした」

「って、おいぃ!!?」


 丁寧に頭を下げてくるポムの頭を、オイラは再びどついた。

 すると突然三人が一斉に、歓声のような笑い声を上げる。

 オイラが三人を見回すと、目に浮かぶ涙を拭きながら、ラディーが言った。


「あっはっはっ、嘘ですよ! だって、ポムがファーブニル様を見間違える筈がない。ポムはね、ここに来るまでも、来てからも、ファーブニル様の事ばかり話していたんです」

「なっ、そう言うラディーは、ローレンの事ばっかだったじゃねえかよ! でもっ、ほんと良かったすよー! 旦那っ!」

「本当に、お疲れ様でした」


 そう言って、オイラがまだ生きてた事を喜んでくれる三人に、オイラは照れ隠しの為、少し口を尖らせながら言った。


「……オイラはもう“強欲の邪竜ファーブニル”じゃなくて、“幸運のドラゴンフィル”でしゅ。間違えんなでしゅ」

「はい、失礼致しました。……しかし口を尖らせても、可愛いですね。フィル様」

「ふぇ!?」


 目尻をかつてないほど下ろしながら、笑顔でそう言ってきたローレンに、オイラは驚愕した。

 だってあの、出来るクールな召使いキャラが崩れてる。……“可愛い”の破壊力、やべぇ。


 オイラが思案していると、ポムがまた嬉しそうな声を上げる。


「しかし旦那、そのサイズ丁度いいすね! 旦那も一緒にオレ達と旅に出ましょうよ! グリプスや、勇者様の出身の島国、それに賢者の浮かべた浮島の崑崙。あ、他にもテイマー資格を取って魔境てのもいいですね! 勿論、酒の実の果樹園もいくすよ!」


 そう声を弾ませるポムを見て、オイラはふと思う。


 ―――……行ってみたい。


 だけどオイラは慌てて首を振った。


「いいや、行かないでしゅっ」

「なんで? 自由になったんすよね?」

「お、オイラは3年後、今回の件を遥かに凌ぐ、けっしぇんが待ち受けてるのでしゅ」


 オイラがそういうと、ラディーとローレンは目を見開き、口々に言う。


「今回の件より……?」

「今度は一体何をなされたのですか!?」


 オイラは胸を張って答える。

 ……もう迷いはなかった。


「神との一騎打ちでしゅ。この世界をちゅくり、かの戦争を機にこの世界から去った神。しょの勝負に、オイラは何とかして勝利しないといけない……」


 オイラが事情を話そうとすると、珍しくローレンが話の途中で声を上げる。


「まさか、かの大戦でこの世界を去ったとされている、太古の創世神!?」

「え……そんな神様、実在するの? 神話でしょ?」

「……旦那ぁ……、今度は何をやらかしたんだよ……」

「何もしてねえでしゅけど、何故か気に入られて、そうなったんでしゅよ……」


 オイラは溜息を吐いた。


 ―――……ホントに、何を間違えてこんな事になったんだ?

 ……いやでも、あの時も今回も、世界の存亡を賭けた“デッドオアアライブ”だった。間違っては無い筈。

 てか、なんでオイラばっかりこんな選択を迫られるんだ!?

 教えて、神様! ……いや、嘘です。やっぱもう何も言わないで。



 それからオイラは、ぽかんと口を開ける三人を見下ろす。

 そして目にも止まらぬ速さで身を翻すと、3人の頭に尻尾での一撃をかまして回った。


「っ!」

「なっ!」

「っいで! なにするんすか!? 旦那!」


 三人は、驚いたようにオイラを見上げてくる。

 オイラはニシシと笑って、言ってやった。


「3年後、もしオイラが神に勝てたら、しょの時はオイラもお前等と一緒に旅してやるよ。今のはそれ迄の餞別だ」


 ……そうなんだよな。

 正直さっき迄、諦めていた。“勝てるはずが無い”って。

 だけど何かコイツラを見てたら、負けたくなくなったんだよ。

 勝ってこいつ等と、下らない話しながら、酒でも飲みたいなんて思ったんだよ。

 レイス様は仰っていた。オイラが勝ったら、またオイラの好きにして良いって。

 レイス様はダークエルフやもふもふが好きだから、多分コイツラの事も気にいるんじゃないかな?

 ローレンと格差の壁を超えて友達になった二人なら、もしかしたら、レイス様とだって友達になれるかもしれな……―――いや、やっぱ無理かな。

 オイラは3年後、慌てふためくローレンや撫で回される二人を想像して吹き出した。


 その時、頭を押さえていたローレンが、突然驚愕の声を上げ、すぐ側の樹の根元にしゃがみ込んだ。


「っこれは! エリクサーの材料となるハンニチ茸! 希少な上、発生から半日で腐り落ちてしまう幻のキノコ……」


 ローレンは慌てて木の根元に駆け寄り、椎茸に似たそのきのこを回収した。

 そしてホッとしたように笑い、ラディーに言った。


「……こんな所にこれが生えてくるとは、何という幸運か。これで、ラディーの怪我を完治させられる」


 ローレンの笑顔を受けて、ラディーが驚きながらオイラを見る。


「え……、フィル様……今のが餞別って、まさか……」


 オイラは笑って頷き、言ってやった。



「オイラは幸運のドラゴンフィル。お前等なんか、幸せになっちまえでしゅ!」



 オイラはクールにそう言うと、高く、高く空に舞い上がった。



 ―――……筈だったが……。



「っかせないすよっ、旦那ぁ!」

「ふえぇ!?」


 オイラがクールに立ち去ろうとしたその時、ムチ打ちの治ったポムが翼を勢いよく拡げ、鬼の形相でオイラに迫ってきた。



次話で、この番外編(?)もとうとう完結です!


また、次章に行く前に、マスターの普段の活動の小話を、数話予定します。(^^)

……何故かマスターに関しての感想をよく頂きます。良くも悪くも、その名が上がる回数は神々すら上回ってますた。(;・∀・)ドキドキ。

本当に、ありがとうございます!!

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