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番外編 〜幸運のドラゴンさんは、負けられない(邪召しafter story①)〜

 時は少し遡る。

 それはまだ、オイラが3人に合流する前の事。



 〈勇者アイル視点〉


 邪竜を火口に叩き落とし、ふと下を見ればブリス達が列になって火山を下って行くのが見えた。

 ポムやその兄弟は見当たらないが、あのブリス達が、見捨てるはずは無い。

 何処かで無事なのだろう。

 俺も地上に降り立ち、ブリス達ではなく湖を目指した。


 ―――俺は勇者としての使命を果たした。もう、あいつ等に会うこともない。必要もない。

 俺はもう、帰ろう。


 ◆


 湖を越えて少し行けば、ドワーフのキャンプがある。

 そこにだけは、声を掛けていくことにした。


 俺がドワーフ達のキャンプに近づけば、俺の気配に気付いたのか、ガルーラが駆け付けてきた。

 そして開口一番にこう言った。


「ファーブニルは?」

「―――討伐した」


 俺が短く答えると、ガルーラは少し残念そうな表情をした。

 ……そう言えば、ドワーフ達は“約束の時”まで、山には手を出さないと言っていた。

 それを、俺が踏み込んで倒しちまったから、少し怒っているのかも知れない。


 俺は何だか悪い事をしたような、いたたまれない気持ちになり、そのまま逃げる様に踵を返した。

 そしてそのまま去ろうとすれば、ガルーラがまた声を掛けてくる。


「アイル」

「何だ?」

「……その、ライラの件だが……」

「?」


 そう口籠るガルーラに、俺は振り返り首を傾げた。


「生き物は死ぬ。強者も弱者も、そこにどれ程思いを込められたとしても、誰しもが分け隔てなく死ぬ。いいか? 誰しも、必ずだ」

「何が言いたい?」

「……その、……もう、……ライラに会えなかったとしても、己を見失うなよ」

「っ!?」


 俺を気遣うようにそういったガルーラの言葉に、俺は目を見開き走り出した。


 ……ガルーラは妙な事を知ってる。

 ……ガルーラは妙な事が出来る。

 ……ガルーラは……、妙な勘が働く。


 ―――『もう、間に合わない』って、言いたいのかよ?


 そんな筈ない。だって俺は勇者だ。

 船と馬を乗り継ぎ3ヶ月以上かかるこの道のりだって、本気を出せば15日で踏破できる。

 そんな筈ない。だって……。


 だって、やっと真っ直ぐ向き合えるって分かったのに……っ。



 その時、大きな地響きが山の方から上がり、連なる山脈が震え出した。

 その振動で、俺の足元の地面も大きく上下に揺れる。


「ちぃっ、走りにくいんだよっ!」


 俺は大地を強く蹴ると風の魔法を発動し、空に飛び上がった。

 ファーブニル戦でも重宝した空中戦用の機動方法だ。

 高く飛び上がった先で、また瞬歩を使い空を駆ける。

 大地が揺れてようが、空路は関係ない。

 だが、ほんの十分ほど進んだとき、俺はその足を止めた。


 ドォンと言う天を打つ轟音と共に、ディウェルボ火山の山頂の穴から黄金の光が立ち昇ったのだ。


「なっ……?」


 俺は唖然としながら、その光景を見つめた。

 光は黄金の柱となり、空を突き破る勢いで高くのびている。


「……っこれが、……ファーブニルの守っていた……宝?」


 ……だとすれば、なんと……荘厳で、美しいのだろう。


 しかし、俺は見惚れている場合ではない。行かないと。

 そう俺が踵を返そうとした時、ふと火山の方から、何かキラキラと輝く物が飛んできた。


「……?」


 それは手のひらサイズの蒼く、丸い宝石。

 先程の爆発で、火山から飛ばされて来たのか?

 俺は何気なく、目の前に飛んできたその宝石をキャッチした。

 それは不思議な石だった。

 青く美しいその石は、高純度の魔石の様であり、ダンジョンコアの様でもあった。

 そして、何かの植物の葉の様な模様が焼き付いていて、ふわりと花の香りが立ち昇って来る。


 ―――……トクン。


 手の中の石が一瞬、まるで生き物のように脈打った気がした。


「……」


 俺はそれを懐に仕舞い、また走り出そうとした。

 しかし、妙な事が起こった。


「……(っ、身体が、……動かない?)」


 早く行かなければと藻掻こうにも、俺の身体は震え、痺れたようにピクリとも動かない。

 全身の血が引き、なのに汗がダラダラと出てくる。


 っクソっ……!


 その時、低い声が背後から響いた。


「その核を返せ」

「!!?」


 その声に、全身が震えた。そして俺に何が起こってるのか、やっと理解したのだ。


 俺は恐れていた。

 俺の本能が、その絶対的な力を前に怯え、萎縮し、恐怖していたのだ。

 だがかつて戦った、絶対的強者“風神雷神”でも、これ程の恐れは感じなかった。……一体……。


 俺は息苦しい程のその重圧に抗い、懸命に首を動かし振り返った。

 だがそこで見たものに、俺は更に混乱した。


 ―――……少女? 何故、こんな所に?


 そこに居たのは、長い白髪と漆黒のスカートをたなびかせる、この世の者とは思えぬ程に美しい少女だった。


「なぜそれを持っていく? それはお前のものじゃない。そもそもお前は誰だ?」


 ……答えなければ、……消されるっ。


 俺は引き攣る喉から、懸命に声を絞り出した。


「おれ……はっ、勇者アイルっ。邪竜ファーブニルを討ち倒し、帰還の最中、……今これを拾った……」

「……ファーブニルを……打倒した?」


 一瞬、少女の眉間に、小さなシワが刻まれたような気がした。


「なるほど、お前は勇者か。そして……、よくもレイスの友達を虐めたな?」

「っっ!!?」


 凄まじい殺気が少女から溢れ出し、俺は死の幻視を見た。

 ……邪竜の……友達?


「あいつの勤務先に、定時の時報をセットしておいた。“帳の外”にいても聞こえるくらいの時報をな。そうでもしておかないと……うっかり忘れるからな!」

「っ」


 何を言っているのだ!? この少女は!


 俺が大きく目を見開いていると、少女は俺に向けて手を翳した。

 すると、懐にしまってきた宝石から、白い泡がボコリと溢れ出した。


「何?」


 俺が驚き、懐から宝石を取り出せば、どんどんあふれる泡に、宝石は包まれていた。

 その泡はシュワシュワと音を立てながら、何か形を作っていき、俺の手の中で一匹の白いドラゴンとなった。

 両手で包み込める程の、小さな小さな子竜。

 薄桃色に輝く螺鈿細工のような鱗に身を包み、純白の羽毛のような毛の鬣が、頭から尾にかけて生えている。背には実体の無い光で出来た、極彩色に輝く蝶のような翼が延び、風にそよそよと揺れている。そして頬はぷくぷくと膨らんでいて、すやすやと無防備に眠るその目には、鬣よりさらに柔らかそうなまつ毛が、長く伸びていた。

 そのドラゴンを、一言で表現するなら……。……そう。“可愛い”だ。


 俺がそのあまりの可愛らしさに、無意識にその鬣をふわふわと撫でていると、ドラゴンは短くて頼りなげな細い足をピクピク震わせながら空を掻く。

 そして小さなクシャミをすると、何事も無かったかのようにまた、気持ち良さげに寝始めた。


 ―――……かわ……。


「可愛いだろう?」


 俺の思考を読み取ったかの様に、少女がにやりと嗤いながら俺に言った。


「それは幸運のドラゴンだ。そいつに触れた者は全て、世の理すら変えるラッキーに見舞われる。だから……」


 ……だから?


「殴らせろ。レイスの友達をいじめた奴には、レイスが本気のグーパンをお見舞いしてやる」

「!!??」


 そういった少女は、気持ち嬉しそうに拳を構えた。

 同時に、俺の手の中から眠る子竜が少女に引き寄せられる様に浮かび上がった。


「まっ、待て! 何なんだっ、お前は!!?

「……レイスは名乗る程のものではない」


 レイスと言うのか! 覚えたぞ!


「そ、その子竜をどうする気だ!!?」

「遊ぶに決まってる(友達だもの)」


 も、弄ぶだと!? あんな可愛いミニ竜を!?

 俺は聖刀を抜き、少女を一刀両断するつもりで振り抜いた。


 ……この少女。邪悪にして危険すぎる!


 だが振り抜いた先にその姿は無く、俺の後ろから声がした。


「ヴェルダンディーを変形させたか。今代の勇者はなかなか筋が良い」

「っ!?」


 俺は慌てて振り向く。

 ……馬鹿な……全く、その動きが見えなかった。


「とは言え、グーパンの刑は免れ無いから」

「っ」


 少女の拳から、禍々しいオーラが溢れ出す。


 何だこれは。……何なんだこれは。俺はまだっ……。




「天誅」





 その一言と共に、俺の意識は途切れた。





前話迄のシリアス回は、正直書くのが辛かったです……。(´;ω;`)

今話からは、ほのぼので流れていきますので気楽に読んでください!


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