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番外編 〜人間達に不要と言われたオレ。暫くして戻ったら、勇者を遥かに凌ぐチートになってた件①〜

少し時間が本編より巻き戻ります。


 ―――ねぇ? どうする?



 声が聞こえた。

 鈴の鳴るような囁き声。

 

 僕は走って、走って、泣きながら走って……そして森の中で倒れた。


 もう体が動かない。もう、動きたくない。

 ……きっとこのまま、僕もお父さんとお母さんのところに行くんだろう。

 そんなことを考えていた。


 だけど鈴の音の様な声は響き続ける。



 ―――このままだとゼロス様が悲しむよ。


 ―――このままだとレイス様が村を消すかもしれないね。


 ―――じゃあこうしたら?



 僕の意識はそこで途切れた。


 

 ◇◇◇



 ―――今から半年前の事。

 小さな村にある僕の住んでいた家が火事になり、父さんと母さんは僕を助けて焼け死んでしまった。


 村の人達が、身寄りのない僕を可哀想だなんて言ってたのは初めの一週間足らず。

 その後は、まるでゴミを漁る野良猫を見るような目で僕を見始めたんだ。

 親戚も頼る人もない僕は、生きるために働くしかなかった。

 だけど僕はまだ五歳。出来る事は本当に少なくて、必死に頑張ったけど誰も認めてはくれなかった。


 それでも僕は毎日いろんな家を転々として残飯(ごはん)を貰う為に働いた。何だって歯を食いしばってやった。

 そうやって生きてきた。


―――だけど昨日、酒場の裏で手に入れたばかりのカリカリになったパンを齧っていると、通りかかりの酔っ払ったおじさんに嗤いながらこう言われた。


「おめぇも一緒に死んじまえばよかったのによぉ」

「……っ」

 

 おじさんは酔っ払ってる。

 だけどそれがこの村に住む皆の本心なんだ。


 僕はもう村にいることは出来なかった。

 寒くて、悲しくて、お腹が空いてて、手足も痛くて、上手く息が出来ないほどに胸が苦しい。

 だけどそれ以上に憎しみが僕を走らせた。


 ―――どうして? どうして僕も連れて行ってくれなかったんだよお父さん、お母さん。




 ◆◆◆




 ―――誰かが歌を歌ってる。

 とってもきれいな声だ。なんの言葉なのかは聴き取れない。


 僕はまるでお父さんと、お母さんの居る家で眠っているかのような安心感に包まれて、甘えるように少し身じろぎをした。


「おや、起きたのかな?」


 途端、低く優しい声がした。

 だけどそれはお父さんの声では無い。


「っ!」


 それに気付いた瞬間、僕は慌てて飛び起きた。

 寝坊するといつもベルトのムチを食らうのだ。

 だけどどこかから響く声は、尚も優しげに僕に語りかけてきた。


「慌てないで。もう少し眠っていても良いんだよ。とてもとても辛い目にあったんだろう。可哀想に。ゆっくりと休むといいよ」


 お父さんとお母さんがいなくなって以来、初めて掛けられた慈愛に満ちた気遣いの言葉に僕は思わず泣きたくなった。

 そしてその声の主を探した。


「もう我慢しないで泣いてもいいんだよ。俺が誰だか気になるのかな? 俺は樹だよ。ただの樹だ。一応アインスと言う名前はあるけど……あぁでもここは森で樹はたくさんあるからどれが俺かは分かり辛いね。……うん。俺がどの樹かというと、今君が座っている根っこ。それが俺だよ」


 微妙に長々としたその解説を最後まで聞いた瞬間、僕は思わず跳び上がり……―――そして落ちた。

 声は自分は根っこと言ったけど、大地を掴むその根は巨大で、僕が座っていた根っこは、土のある地面から軽く2メートルは浮き上がっていた。


「おやおや大丈夫かい? 君の名前はガルシアと言ったね」

「は、はい大丈夫です。柔らかい草が生えてたしちっとも痛くありません。それよりどうして僕の名前を?」

「知ってるとも。俺はこの世界が大好きだからね、すべて見逃すまいと全てを見てるんだよ」

「全てを……? どうやって?」

「例えばガルシアはマナを知ってるかい? この世界の力の源のひとつなんだけどね、それは世界中に散らばっているようで、実は1つのものなんだ。そのマナを感じれば、俺はここに居ながら世界中で起こっている全ての事を知ることができる。そして俺はその出来事を1つたりとも忘れたりしない。全部が大好きだからね」


 ……まな?

 説明をしてくれたその内容の半分は解らなかったけど“僕の事を全部知ってる”という部分は分かった。

 つまりそれは僕が村でいじめられた事も、家畜達と同じ物を食べてたことも、1ヶ月以上同じ服を着てることも全部知ってるという事。

 僕は今度は恥ずかしさのあまり泣きたくなった。

 だけど樹の……、ううん。アインス様は僕の考えを見透かすように、大丈夫だと言い聞かせて枝を揺らしてくださった。


「大丈夫。何も恥ずかしくなんか無いよ。小さいのに本当によく頑張ったね。精霊達がね、ガルシアのことをとても心配してたんだ。“ゼロスの愛する人の子が悲しい目に合ってる”と。そして“こんな事をゼロスが見ればきっと悲しんで、レイスが見れば怒るだろう”って」


 ゼロス……って、神様のゼロス様のこと?

 それに精霊達が僕を心配?


 僕はそこでハッと自分がなぜここに居るのかを思い出す。

 ―――そうだ僕は確か村から逃げて、精霊達の住む聖域(入らずの森)の方に走ったんだ。

 そこに行けば、森に住む怖いおばけが僕を食べてくれると思ったから。


 僕には生きる意味なんかない。誰からも邪魔者扱いをされ、これから先はもう誰にも愛される事はないと思っていた。

 だけど……ゼロス様はちゃんと僕を見てくださってたんだ。


 僕は何だかホッと満ち足りたような気分になって、そのまま柔らかい草の上にずるずると崩れ落ちた。

 そしてアインス様の大きな根にもたれ掛かって、目を綴ると安堵感に包まれながらまた少しまどろみ始めたんだ。

 と、その時だった。


「出来たよー!!」

「レイスも出来た」


 なんだか元気な声によって眠りの中に落ちようとしていた僕の意識は引き戻された。

 アインス様が元気な声の主を優しく褒める。


「わぁゼロスにレイス、頑張ったね。俺にも見せてくれないか」

「勿論だよ! 見てみて!」


 え?

 え、えぇ?? 


 ちょっと待って。“ゼロスにレイス”って?


 僕がぽかんと口を開けて空を見てると、何も服を着ていない黒髪のお兄さんと白髪のお姉さんが空から降りてきた。


 そしてアインス様の幹の中腹辺りの空中でお兄さんとお姉さんは停まって、それぞれが手に持った品をアインス様に差し出した。


 お兄さんはピカピカ光るとっても綺麗な宝物みたいな剣。


 お姉さんのは……


「レイスのこれはアインスの形をモチーフにした」

「うん。とっても上手だね。ありがとうレイス」


 全く似てない。

 だけど滅茶苦茶カッコイイ!!


 僕はお姉さんが持つ剣に見惚れた。

 赤黒く揺らめき立つオーラを放つ地獄鳥の尾羽の様なソレ。

 どうやったらあんなデザインを思い付くんだろうか!


 その滅茶苦茶カッコイイ“剣”を目にした瞬間から、僕はゼロス様の隣に並ぶお姉さんをゼロス様と同格か、それ以上に崇めるようになったのだった。



レイスのセンスの理解者が現れました。

ラムガルは崇拝からのレイス推しですが、今回は、全推しキッズです。




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