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番外編 〜邪竜さんは、召使いを追い出したい64(追い出したい①)〜

 《ラディー視点》


 到着したファーブニル様は、一言で言えば“凄惨”な姿だった。

 ローレンは、身体を引きずるファーブニル様に、手早く手当をし、エリクサーを呑ませる。

 ファーブニル様と一緒に戻って来たポムは、手当の間随分ファーブニル様を心配していて、ローレンの邪魔にならないように、飛んで体の血を拭っていた。

 僕はと言えば、翼が破れているせいでその手伝いが出来ず、邪魔にならないようにだけ、大人しくしていた。


 ―――最低でも飛べるくらいの機動力がないと、役に立たない。

 ここに来た頃、ローレンにそう言われた事が骨身に沁みた。



 それから、惜しげもなくエリクサーを使用した手当の甲斐もあり、ファーブニル様は小一時間ほどで、またしっかりと立てるくらいには回復した。

 とはいえ、斬り落とされた指や焼け落ちた目、それに失った翼が戻ることは無かった。


「ファーブニル様。手当が終わりました」


 ローレンがそう言うと、これまで眠るように大人しくしていたファーブニル様は、首をもたげ言った。


「よし。んじゃ、お前らは出ていけ」

「え?」

「な……?」

『は?』


 僕等は各々に驚愕の声を上げた。

 呆気にとられる中、最初に抗議の口を開いたのはポムだった。

 僕は言われるまでも無く、それを通訳する。


「待ってくださいすよ、旦那! ここまで来て“帰れ”って、オレ達にも見届けさせてくださいすよ!」

「駄目だね。後十分でオイラは卵を移動させにかかる。今は洞窟の上部に置いてるから、ここ迄余波は来てないが、アレを同じ目線に持ってくれば、ポムやラディーなんぞ、たちまち蒸発するぞ。見届ける前にな」

『……え……』


 ポムが顔を引き攣らせながら、後退った。

 ローレンは、ファーブニル様の言葉に頷いて言った。


「そう。黄金の炎とは6000度の炎。その熱波に至近距離で晒されれば、私とて命は無い」


 その言葉にポムは言い募る。


「でもさ、古のドワーフはそれで神鉱石を打ったんだろ? 何か方法がある筈だ」


 だけどローレンは首を横に振った。


「無理だ。かつてドワーフは女神ブリキッドの寵愛を得て、女神の持つ膨大なマナに護られながら炎の前に立ったのだ。しかもその女神でも、その炎の前には寵愛を与えた者一人を護るのが限界だったそうだ」


 その時、ファーブニル様がポソリ呟いた。


「……もう一人護れる力があれば、こんな事にはならなかったんだろうけどな」

「……ファーブニル様は、その女神様に会ったことがあるのですか?」


 僕がその呟きを拾い上げて尋ねると、ファーブニル様は鼻を鳴らしながら言った。


「あるわけ無いだろ。女神ブリキッドと言えば“鍛冶の女神”だ。鎚なんぞ握ったこともないオイラの前に姿を顕すはずがない。……まあ、そういう事だ。ほら後7分しかないぞ。さっさと出てけ」


 そう言って尻尾を振り、僕等を追い払う仕草をするファーブニル様。


「っ旦那! オレ、旦那の歌を歌いたいんだ! それにどうしてもこの物語の結末を見たいんだよ!」


 ポムの声を訳せば、ファーブニル様は低い唸り声を上げてポムを威嚇した。


「調子に乗んなよ? ポム。これはお伽話じゃねえ。“めでたしめでたし”で終われる様なもんじゃねえし、死人も当たり前に出る。“死んだモブ①”になりたくなきゃとっとと出てけ」

「……」


 夢見がちのポムに、ファーブニル様はリアルを突きつけ黙らせる。

 僕はローレンをチラリと見て言った。


「ローレンは?」

「出てくに決まってるだろ」

「出て行きませんよ。行くのは二人だけです」

「出て行けよ!? 召使いを名乗るなら、オイラの言うこと聞けよ!」


 慌てて言い募るファーブニル様を、ローレンはまっすぐ見据え言う。


「あの魔法の障壁を維持出来るのは私だけです。これから卵を運ぶにあたって、障壁の展開ポイントを確認しなければいけません。先程も申し上げました通り、もはや障壁がなければ、瞬時に里を溶かし壊す程のエネルギーが、止めどなく放出され続けているのです」

「……」


 それから少しファーブニル様は沈黙し、何かを思案していたけど、とうとう諦めたように肩を落とした。


「……わかったよ。……じゃ、大洞窟の扉の向こうまでだ。炎を断絶する“神印の扉”を越えるまでだからな」


 それにローレンが答えようとした時、ポムが声を上げた。


「そうだ! オレいい事考えた! オレとラディーは先に外で()()()()! だから後で、外でみんなで合流しよ! そんで、みんなで外を旅するんだ」


 僕はその言葉を、まくし立てるように翻訳した。

 ファーブニル様やローレンに、言葉を挟ませないように。


「ラディーとローレンは冒険者やってさ、オレは歌をうたって稼ぐんだ。何を稼ぐって? そりゃ勿論、旦那の飯代だよ。つまり旦那は寝て暮らせるすよ。どう……」

「バカ言え。誰がお前らなんかと一緒に行くか。オイラはこの役目が終わったら“自由”になるんだからな」

「っなら、気が向いたらでいいす! 話を聞かせて……この結末を、教えてくださいすよ! それくらいなら良いすよね? あとローレンは、オレ達と行く事に決定だかんな! レジェンドなオレの護衛は、ラディー一人じゃ頼りないからっ」


 そう言って、ローレンに指を突きつけるポム。

 ローレンは困ったように、何か言おうと口を開こうとしたけど、それに被せて僕が言葉を放った。


「そ……」

「待ってるよ、ローレン」


 ローレンが驚いた様に、僕を見る。僕は一度だけローレンに笑いかけて踵を返した。


「ホント、いい考えだねポム」


 ローレンが何を言いたいのか、僕等は察していた。

 だからこそ、それを聞きたくなかった。“別れ”を済ませたくなかった。


「僕等、()()()()だと思うんだよ。だから、きっと楽しいよ。……外で待ってるね」


 ポムが渋い顔で、僕を見てくる。


『―――ラディー……。いや、いい。行こうぜ。旦那の足をこれ以上止められないからな』

「そうだね。行こう」


 そして僕とポムは振り向く事なく、示し合わせた様に翼を広げた。

 翼が破れ浮力を稼げない僕は、ポムに捕まって推力を産む。



「『また後で』」



 声を揃え僕らはそう言うと、ファーブニル様とローレンの返事を聞かず、坑道へと飛び込み滑空した。




 ◆




 暗い洞窟を飛び抜け、耳元で轟々と風がなる中、ポムの声が聞こえてきた。


『良かったのか?』

「何が?」

『いや、ラディーは“死んでもここに残る”とか言い出すかと思ってたから……』

「何でだよ。あの二人は凄く強い。物理的にも、精神的にも、僕等なんかより遥かにね。だからきっと成し遂げるよ。そして、きっとあんな一方的な約束を守る為に来てくれるよ。真面目だもん」

『えー? 旦那はオレとおんなじ位適当だぞ?』

「あはは、かもね。でもさ、ファーブニル様は気まぐれだよ。きっと気が向いて来てくれる。だから信じよう、二人をさ」

「……」


 僕がそう言って笑うと、ポムは少しの間沈黙し、溜息を吐いた。


「何?」


 僕が不審に思い、尋ねれば、ポムはニヤリと笑った。


『へっ、振られたのか。まあ、そういうこともあるさ! 元気出せよ、兄弟』


 ……は?


「っちょ、今の話の流れで、何でそんな事になるの!?」

『え? 告ったんだろ? オッケーもらえたの?』

「駄目だったけど……」

『ホラァ! ホラなぁー!!? ま、相手があれじゃラディーにゃ無理って思ってたし!』


 それは楽しげにニヤニヤ笑うポムを僕は殴ってやりたくなったが、今殴れば僕も諸共に墜落してしまうので我慢した。


『へ、歌い人の感性をなめんなよ? そのくらい察せないで、他人の人生語れるかよ』

「はいはい、凄いですねぇー」

『なんだよその言い方! 腹立つなぁー』

「そんなのお互い様だろ!」


 僕等はそんな風に悲観も無く、いつも通りの話をしていた。


 だってさ。本当に、信じてるんだ。

 二人には、またきっと会えるって。


 だけどその時、僕はふと眉を寄せ声を上げた。


「……あ、しまった。ねえポム、外での待ち合わせ場所決めないで来ちゃった。……どうしよう? 一回戻る?」

『バッ……、お前それマジで言ってんの!? 戻れるわけ無いじゃん』

「いやだって……」




 ◆




 《邪竜ファーブニル視点》



 ポムとラディーが勝手な事をほざきながら去って、ものの五分で、二人の気配は洞窟から消え去った。


 ―――……奴らも随分飛ぶのが上手くなったもんだ。


 オイラはつい数ヶ月前のビビリ震える二人の姿を思い出し、小さく笑った。

 そしてローレンに言う。


「……いい友達見つけて来たじゃねえか」

「はい。幸運でした」


 ローレンは謙遜もせず、そう言って自慢げに笑った。

 オイラはそんなローレンに、からかう様な口調で言ってやる。


「アイツら、待ってるってよ。そしてお前は『行けない』と言えなかった。……死ねなくなったな」

「もとより死ぬつもりなどありません。……使命はある。“使命の為なら、親子兄弟も殺し尽くせ”というのも、致し方ない教訓だとは思います。……しかしいつだって、私も祖先も“全てを守りつつ使命を果たす道”を、常に模索して参りましたから」


 オイラは頷いた。

 無慈悲に使命を全うする気概を持ちながら、ローレンやリリー、シェリフェディーダ様やダッフエンズラム様達みんな、いつだってその心を無くさず、歩み続けていた。

 正しすぎて目を逸らしたくなるほどに、その歩みはブレなかった。


「最善を尽くします。そして、私は私の使命を果たし、そして彼らに会いに行きます」

「アレもこれも願って、強欲な奴だな」


 オイラがそう言うと、ローレンは珍しく、少しいたずら気な口調で返してきた。


強欲の邪竜(貴方様)に仕える者ですので」

「はっ、言うじゃねえかよ」


 そうだよな。

 それが一番、オイラ達らしい答えだ。


 オイラは頷き、上を見上げた。



「さて、じゃ行くか。オイラは強欲の邪竜。何をしてでも、宝を守り切ってやる」



 そしてオイラは足を踏み出し、里の上を目指し歩き始めた。







(孵化まで後25時間)

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