番外編 〜邪竜さんは、召使いを追い出したい56(決着)〜
ローレンさん、出そうとしたらめちゃ長くなりました。(ㆁωㆁ*)
〈ラディー視点〉
僕は目の前で、大の字になって伸びるジークさんを一瞥した。
完全に意識は無い。一応胸は上下しているから生きているけど、白目を剝いて、口から小さく泡を吹いている。
何が起こったかと言えば……、まあ“自滅”だ。
正確には僕のちょっとした仕掛けに、罠解除担当のジークさんが気づかなかったんだ。
僕があちこちを破壊したのは、一箇所を除き全部カムフラージュだった。
結構あからさまに壊しまくっていたから、ジークさんは何かあると思われたに違いない。だけど読まれたって、別に構わなかった。
だって今さっき来たばかりのジークさんが、僕のフィールドの全容を把握してるはずないんだから。
このダンジョンは、“5分で戻の状態に修復される”というルールがある。
だけど地形の戻るべき場所に“生物”が居た場合はその限りではなく、地形に取り込まれるなんて言う事にはならない。だけど何も無ければ、キッカリ5分で何事も無かったように戻るんだ。
だから僕は、断崖の道上に低く垂れ下がる“鍾乳石”を粉々に砕いた。頭上スレスレに掛けられた鉄の階段も上部の止め金を破壊し落としておいた。
その他にも、トンネルや、鉄の架橋なんかも落とし、地形を変えておいた。
そしてソレを壊したタイミングから、カウントダウンを始めた。
このカウントダウンは、以前食事を運んでくれるローレンを、捕まえようとしていた頃からずっとやっているから、ズレることは無い。
そして今、僕は鉄の架橋があった場所にジークさんを誘い出し、僕の攻撃を跳んで避ける様に仕向けた。
―――……凄い音がしたなぁ……。
僕は脳天を凄い勢いでぶつけたジークさんが、まだ死んでいない事を確認し、また走り出した。
……まだ、ブリスさんが残ってる。
しかもジークさんと相対していた間に、ブリスさんは断崖の上へと走り抜けている。
止めなくちゃ。
羽は破れもう飛べない。
しかも羽にはワイヤー付きのナイフが絡み、動かす振動に合わせ、深く食い込み、薄く斬り裂かれ、痺れるような痛みが走る。
それでも、止めなくちゃ。
羽が痛むのも構わず、僕は追い風を起こした。
出来る限り翼を延ばし、その追い風を受ける。風舟みたいな感じだ。
……まだ間に合う。いや、間に合わせるんだ。
僕は1段上の断崖へと到達しているブリスさんを、懸命に追った。
〈ブリス視点〉
―――ッゴオォォオォォオォォォ――――――ンっ……。
この遺跡洞窟に響き渡る音に、俺は思わず足を止めた。
そして、振り向き崖の下を見下ろした時、俺は信じられないものを見た。
ジークとの攻防で片翼を破かれたラディーが、その凶悪な鉄球でジークを殴り上げていた。
先程の音は、そのジークが鉄橋に叩きつけられた音。
「っジーク!!」
俺は思わずその名を呼んだが、ジークはピクリとも動かない。そんなジークをラディーは一瞥だけし、俺を仕留めようとまた、こちらに向かって走り出して来る。
「……クソっ」
信じられなかった。……そのラディーの冷徹さが。
信じられなかった。……あのジークが、ラディーに正面から負けた事が。
信じたく無かった。……あの一撃での、ジークとの別れが……。
「っ馬鹿野郎……、フィフィーに何て言えば良いんだよ……馬鹿野郎!!」
俺は最早、返事をする事のない仲間へと、悔しさに紛れ叫び続けた。
「っ追いつきましたよ、ブリスさん。……貴方で終わりだ」
目に滲む涙もそのままに走り続けていると、直ぐ後ろからラディーの声がした。
信じられない思いで足を止め振り返れば、そこには羽を引きずるラディーが、鉄球を回しながら立っていた。
その姿に、鳥肌が立った。
……飛べるはずが無いのに、何故追いつけた……?
翼は大きく破れ、泥と汗にまみれ、満身創痍なのに苦しげな顔で俺を睨んでくる。
「ブリスさん……。お願いです。お願いですからどうかもう、……やめて……」
荒い息を吐きながら、苦しげにそう懇願してくるラディー。その時ふと、さっきのラディーの涙が脳裏をよぎった。
そして思う。
……なんて酷い。
卵は、ラディーにその心を残させたまま操っているのだ。
あの優しいラディーに仲間へ武器を向けさせ、ラディー本人の肉体をも限界を超えさせている。
ラディーは苦しくても止まることもできず、仲間を傷つけることにその心が引き裂かれて涙しても、抗えない。
俺は剣を、握りしめた。
本当に……何でこんな事になっちまったんだ……。
「分かった。……分かったよ、ラディー。俺が、……お前を解放してやる……。救ってやる。……この手で」
「僕に救いは必要ありません。僕は何一つ変わってない。今の僕が、本当の僕の姿です」
青ざめ、震えながらそう言うラディー。
俺はラディーに微笑みかけた。目頭が熱くなるのを必死で堪えながら。
「もう、良いんだよ。……もういいんだ。……辛かったなぁ」
「……卵を諦めてくれるんですか?」
そう言うラディーの目が、一瞬穏やかになった気がした。
……やっぱり、卵のせいでラディーは操られている。俺はかぶりを振り、ラディーに言った。
「いや、これ以上犠牲者を出さない為にも、卵はここで必ず俺が奪い壊す。……安心しろラディー。俺がその魂を解放してやる」
「何を言ってるんですか!? 僕の話を聞いてください!」
「ああ、聞こえているぞ。……お前のその心の叫びが」
「っ何が聞こえてるんですか!!?」
俺の言葉に、操られたラディーは暗い顔で舌打ちをした。
「チッ……、やはり言葉では最早伝わらないっ!」
ああ、そうだ。操られてるお前の言葉に、俺はもう惑わされることは無い。
俺は瞬きをして目頭の熱を散らすと、ラディーに向け剣先を突き出した。
「行くぞ、ラディー!」
◆
〈ラディー視点〉
……和解はもう望めない。僕はそう悟った。
ならブリスさんも沈めるしかない。
だけど……、どうやって?
「行くぞ、ラディー!」
「くっ」
駆け込んでくるブリスさんに、僕は鉄球を投げつけた。だけどブリスさんは、それらを全部躱してくる。
僕の手元を見て、鉄球や鎖の軌道をほぼ完全に読んで来る。
しかも、全てを読んでいるという奢りが無いから、予想外の起動すら安定して弾き返してくる。
盾で逸らし、剣で弾き、まるで隙が無い。
ブリスさんは、伊達にA級冒険者でリーダーをやっていた訳じゃない。
そもそもA級とは、並大抵でなれるものではない。その力、人格、性格や精神力、全てを兼ね揃えたB級クラスの人達が、確かな実績を積んで初めて到達できるクラスなんだ。
しかもブリスさんは、そんな人達をまとめ上げるリーダー。
僕なんかが、適う筈が無い……。
「よくもミリアを……、よくもフィフィーをっ……、よくもガリューを、ジークをっ! そして……ラディーをっっ!!」
……僕!? 何で僕まで含まれてるの!!?
色々ツッコミたい所はあるけど、ブリスさんの放つ圧に、僕は堪らず吹き飛ばされた。
「ク……うぁっ……」
「逃がすか!」
僕の敵を取りたがっているような事を言いつつ、僕にとどめを刺そうとしてくるブリスさん。
もう、……訳が分からない!
だけど混乱している暇はない。
僕は風で体勢を整え、跳ね上がった。
自在に飛ぶ事はできないけど、まだ風を受ければ少し舞い上がる事くらいは出来る。
……まあ、風を受ける事、破れた翼が更に引き伸ばされ、形容し難い激痛があるんだけど。
それでも、距離を詰められたら終わりだ。
ブリスさんは前衛型の剣士。そして僕は中距離型。
体力でも技術でも負けてる僕が、ブリスさんの間合いに入ったら、息をつく間もなく斬って捨てられる。
そんな僕が勝機を掴むには、たとえ翼がもげてもこの距離を保た無いといけない。
そして、ブリスさんが最終奥義を放つその瞬間を狙うんだ。
ブリスさん達に言っていない最後の“秘密”であるこの“切れない鎖”で、ブリスさんの武器を奪いとり、勝機を掴むんだ。
〈ブリス視点〉
破れ、ワイヤーに絡め取られた翼で風を受け、ラディーは器用に垂直の壁を走る。
俺は尚も縦横無尽に襲い来る鎖と鉄球を避けながら、ふとポムの言葉を思い出した。
『コウモリの翼は繊細なんだ! 気をつけてくれよ!』
『そうなのか?』
『被膜の部分には神経が集中してるんだ! 触られるだけで“ひぇ!?”てなるし、ぶつけようもんなら、足の小指の比じゃないんだぞ!』
『そ、そうなのか。すまん』
『……まぁいいけど、……俺達の翼は本来、風の流れを精密に感じ取る為に、こんなに敏感なんだとか俺の爺さんは言ってた。……でもまぁ実際は大して飛べもしないのに、ただ厄介なもんだよ』
……血に目覚めたコウモリ族の機動力が、ここまで厄介とは思わなかった。
そしてポムの言う通りなら、ラディーは今激痛に苛まれている筈だ。
俺は剣先にマナを込め、魔法を発動させる。
「―――ラディー。これ以上、お前を苦しませはしないからな」
……ラディーにここ迄、高い攻撃性を可能にさせているのは、あの蒼いモーニングスターの存在だ。
あれを“武器破壊”してしまえば、ラディーは無力になる。
―――ヴヴヴヴヴゥゥゥゥヴヴンッ……。
俺の剣から、唸るような凄まじい音が鳴り始めた。
それは俺の極めた最終奥義【絶斬り】だ。
俺のロングソードは特別仕様だ。剣の芯にミスリルを使い【震】を付与している。両刃は細やかな鋸刃になっていて、それに【震】を与えると、どんな鋼鉄だって一撃で断絶させる事が出来る。
―――本当は、……この技で邪竜の鱗を砕くはずだった……。
俺は、薙ぎ払うように飛んできた唸る鎖に、その一撃を叩き込んだ。
……だが、断ち切れるはずの鎖は断ち切れず、それどころかそのまま俺の剣に巻き付いてきた。
まるで、俺の技では断ち切れないと、分かっていたように……。
「な!?」
「ウアァアァァァーーーーッッ!!?」
驚く俺だが、直後にラディーの悲鳴が上がった。
巻き付いた剣の振動を、鎖を伝ってラディーに直接ダメージが入っていたのだ。
モーニングスターを握る手の皮が破れているのに、ラディーはそれを離さない。……いや、振動が強すぎて離せないんだ。
俺は慌てて、自分が持つ剣を放した。
途端ラディーは体を痙攣させながら崖の下に落ちていき、5メートル下の岩の出っ張りに引っかかった。
俺の剣も、カツンと崖の下に落ちて行く。
剣が遥か下まで落ちた時、すぐ崖の下に倒れるラディーが呻き声をあげた。
「うぅ……、ブリ……ス……さん、……駄目だ。 ……おねが……卵はっ……」
……あの衝撃を受けて、まだ意識を保ったのか。
血にまみれた手。破れた翼。全身が痺れ、痙攣する身体。それでも尚、卵を守ろうとするのか。
俺はそんなラディーから目をそらし、背を向けると上を目指した。
許さねえ。……絶対に許さねえ!
俺が……全部、終わらせてやる!!
◆
どうやって、そこまで歩いたのか良く覚えていない。
悲しくて、悔しくて、憎くて……。そして、とうとう赤い布の付いたナイフの刺さった扉の前に辿り着いたのだ。
―――……これで、やっと。
扉のドアノブに手を掛けようとしたその瞬間、俺は凄まじい覇気を受け、その動きを止めた。
「……っ」
気付けば、俺の喉にレイピアが突きつけられていた。額にはきつく引かれた弓矢が向けられ、そしてドアノブへと伸ばした手には、今にそれを切り落とそうとするかの様に、鋭い剣が押し当てられていた。
「……な……に……?」
何が起こった……?
「やめておけ。死ぬぞ」
低く唸るような、少女の声が響いた。
……それはあの時、ティミシア達に任せたはずのローレンの声。
待て。なら、ティミシア達はどうなった?
不安に駆られ視線を動かした時、俺は更に信じがたい物を見た。
俺の額に弓矢を構える者。
「……シャルル?」
俺の手首に剣を押し当てる者。
「……ボルスター?」
そして、俺の首にレイピアを突きつける者。
「……ティミシア? ……なん ……で……」
俺がそう呟いたその時、俺の中の何かが折れ、俺は膝から崩れ落ちた。
……もう、……訳わかんねぇよ。
(孵化迄、後42時間)
ブリス目線。
邪竜討伐!→仲間が攫われた!→ポム発見!→山に行ったら邪竜強すぎ、でも死ぬ気で強くなってラディー助ける!→ラディーにより仲間全滅→心を鬼にしてラディー討伐→森のエルフの裏切り(←今ココ)
踏んだり蹴ったりデス(ヽ´ω`)ブッサァン……




