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番外編 〜邪竜さんは、召使いを追い出したい49(勘違いの対処法)〜

〈ラディー視点〉


 とうとう、ブリスさん達が来てしまった。


 僕はブリスさん達に目的を問い質す。

 ブリスさん達は金の卵を諦めたと言った事に、ホッとしたのも束の間、二言目には金の卵を探そうとしだした。


 僕は祈る様な思いで信じていたささやかな可能性を捨て、モーニングスターのグリップを引いた。


 僕との相性が一番悪いのが、格闘家のフィフィーさん。

 仲間だった頃は、誰もが認めるその格闘センスと身体強化の最強魔法“神通力(龍脈術)”の使い手である事が、この上なく頼もしく感じていた。


 だけど敵となれば脅威以外の何物でもない。

 ローレンと対峙していたときも、一番苦しめられたのが肉弾戦だった。

 まだ何処かに鉄球が直撃して、鎖が弛むなら予測の範囲内だから問題にはならない。

 だけど掴み上げられて受け止められてしまった場合、そうは行かない。

 そのまま投げ捨てられるか、逆に引っ張られるか、相手の出方次第で全く読めないんだから。

 因みにローレンの場合は、僕の顔面に投げ返してきた。最悪だよね。

 ……『死んだ』と、僕が諦めて目を瞑った瞬間、鉄球は磁力魔法によって僕の鼻先数センチで動きを止めた。

 そしてローレンは少し不機嫌に言ったんだ。『死んでも目を瞑るな』と。……その時僕の目からは、ハラハラと涙が溢れて来た。

 以来僕は“鉄球を掴まれる事=(イコール)死んだ”と認識している。

 そして今目の前にいるメンバーで、素手でこの鉄球を掴んで来そうなのはただ一人。そう、フィフィーさんだ。


 ブリスさん達の答えに、僕はもう皆になんの説明をする事無く、モーニングスターの柄を引いた。

 ブリスさん達の背後に仕掛けておいた鉄球が、僕の方に引き戻される。……フィフィーさんの腕を掠めながら。


 鉄球はうまい具合にフィフィーさんの腕にぶつかって弾け、鎖に微妙な弛みが出来る。

 僕はその弛みを回収する為柄を回し、別の軌道を描いた。

 蹲るフィフィーさんへ、駆け寄る皆は隙だらけ。

 今なら容易く、もう一人潰せる。

 ……頭脳(ブレイン)のジークさんか、回復のミリアさんか……。


 僕は直ぐに決断した。後々を考えるならミリアさんだ。


「ーーー……っ、女を傷をつけるなんて、お前何を考えてるんだ!?」


 ……。そのブリスさんの主張に、思わず僕は目を据わらせてしまう。

 だって“女”ったって、その2人は普通に僕より強い“A級冒険者”だ。しかもミリアさんに至っては『ヤロー共、ミリアを女としてみたら絶対許さねーからな!』と、ブリスさん自身が口を酸っぱくして、いつも言っていたんだから。

 僕は肩をすくめた。


「ブリスさん、何を言ってるの?」


 それに、仮にそれらをかなぐり捨てそう言ったとしても、ブリスさん達がここに来るまで、必ずローレンと対峙してるはずだ。


「ローレンも、女の子だよ」

「あれは敵だ!」


 ……まぁ、そうだよね。そして貴方達は今、僕の敵。


 これ以上の説明は不要と、今度はジークさん狙いで僕はまたモーニングスターを振る。

 先手必勝。もう話し合いの余地はない。

 そもそもローレンに少し鍛えられたからと言って、僕がA級冒険者……しかも四人同時をまともに相手にして勝てるはずがない。

 その力量の差を例えるなら“狼の群れ”と“子供を庇いながらそれに立ち向かう兎”と言ったところだ。

 地の利や相手の内情を利用するのは当然だし、弱いふりをして騙したり、時には相手の情けすら利用して全力で当たらないと、間違いなく食らわれる。

 当然、このモーニングスターがやたら固いことや、僕が自在に空を飛べるようになった事なんかは、早々にバラす気はないし、ブリスさん達の勘違いを訂正する様な事も敢えてしない。


 ローレンは言ってた。



 ーーー相手の目的がハッキリしている以上、必ず踏まなければいけない道がある。……焦る必要はない。



 何れにせよ、ブリスさん達はやはり卵を狙ってきたんだ。

 森のエルフ達の為だろうが、よく分かんない呪いを解くためだろうが、理由なんて関係ない。


 僕はもう、何としてでも卵を守るだけなんだから。




 ◆



 ブリスさん達の目的がハッキリと金の卵に定まった所で、僕は次の狙いをガリューさんに定めた。

 金の卵はこの縦に伸びる大都市の高い位置にある。

 其処にたどり着く為には、僕のように翼で飛ぶ事ができなければ、登るしかない。その登るスピードが中でも早いのが、白虎のアニマロイド、ガリューさんなんだ。……まあ、速いって言っても、()()()速いって言うだけだけど。

 ローレン程洗練された風魔法や、“シュンポ”とか言うとにかく凄い走り方を使われたら、例え飛べても止めるのは困難だけど、あの人達の実力は良く知ってる。

 勇者に鍛えられてるとポムからは聞いてるけど、十日やそこらでマナ総量が爆発的に上がったり、“シュンポ”を極められるはずが無い。

 出来て忍耐強さや、踏み込みのタイミングとかを上げる、小技の付け焼き刃程度だとローレンも言っていた。

 そして、本当に申し訳ないけど、“僕を殺すつもり”が無いなら、そんなものなんの訳にも立たないんだ。


 ブリスさん達は本当にいい人で、卵を守りきる為とは言え、そんな良心に付け込む事に心が痛んだ。

 だけど僕はモーニングスターの鎖を回しながら、ローレンの言葉をもう一度頭に刻み込む。


『ブリス達への攻撃は、全て“致命的位置(急所)を狙え』

『ーーー……いや、流石にそれは……。だって、鉄球だよ? 本当に死んじゃうよ』

『いや、ラディーの仲間達はラディーに比べると強い。戦力差で言うと“狼の群れ”と“孤独な小うさぎ”位の差があるんだ』

『……絶望的だね』


 ローレンは誠実で、良くも悪くも歯に衣を着せない。


『小うさぎが狼の急所に“クリティカルヒットの蹴り”を叩き込んだとして、狼は死ぬか?』

『……死なない、……と思う』

『正解だ。そして、そういう事だ』



 ……物凄く分かりやすい解説だった。


 僕は三人が動くのを見て、ガリューさんの頭を叩き割るつもりで、鉄球を投げつけた。



 ーーーあの人達は強い。僕じゃ絶対倒せない。


 だから翻弄し、その心を折って、そして諦めさせる。




 それが、弱い草食小動物()の戦い方なんだ。




 ◆



 〈ポム視点〉


 オレは闇のシールドの裏で身を縮めながら、鼓膜がイカレそうになりつつも、耳をピンと立て辺りの音を拾っていた。


「くっ……」

「ギャコアァァァーーーーーーーー!!!」

「っ、この、はあぁあぁぁーーーーっっ……ガバッ……!!」


 轟音のせいで、何かどうなってるかはよく分かんないけど、旦那と勇者の声を拾い上げれば、どうやら一方的に勇者がやられてる様だ。


 もうなんか、予想してた以上に旦那が強くて、邪竜邪竜してて、こう思うんだ。

 ーーー……オレ、要らなくね?


 あまりの恐怖とやることの無さに、思考を持て余していると、足元が揺れた。


「!?」


 続いて起こる土煙と、新たな轟音。

 どうやら、旦那に思いクソ叩かれた勇者が、オレの足下の壁に激突したようだ。

 めっちゃ揺れたよ? 震度7だよ。何であれで、普通に生きてんだ、勇者って奴は。もしオレだったら……。



 ーーー……オレはフッと笑い、首を横に振ってそれ以上考えるのを止めた。

 その時、オレのすぐ近くでオレを呼ぶ怒鳴り声が聞こえた。


「っ来い、ポム!! 飛べ!!」

『ふぇ?』


 崖の下、すぐそこで勇者が、オレを抱きとめようとでもしてるかのように、刀を外手に持ち腕を広げていた。


『は……えぇ?』


 え? 何? “俺の胸に飛び込んでこい”って事? それって、間違ってても合ってても嫌なんだけど。


 オレが意味が分からず、固まったまま動けずにいると、勇者がめちゃくちゃ嫌そうな顔で舌打ちした。


「ちっ、羽根をたため! 舌噛むんじゃねえぞ!!」

『え? うあぁっっ!』


 そう言うやいなや、勇者はオレの腕を引っ掴み、闇のシールドの裏から俺を引っ張り出すと、垂直落下がスローモーションに思える程の速さで跳躍した。


『イタイイタイ! 掴まれてる腕痛いっ!! あと速すぎて羽もげるぅーー!』


 オレが声にならない悲鳴を上げ藻掻いていると、直後、さっき迄オレ達の居たところに、燃え盛る業火の球が飛んできた。

 それは肌を焼くほどの熱を放ちながら、盛大に弾けた。


『ーーー……っ』

「ほう? あの攻撃を間近に見て、暴れもしなければ悲鳴もあげないのか。弱い癖に中々肝が据わってるな。流石こんな所まで、一人で来る馬鹿と言ったところか」


 ……いや?

 声が出ないのと、暴れても勇者様の力が強すぎて、無意味になってるだけですが? すいませんね。アンタらに比べたら、そりゃあ非力ですモン、オレ。

 てか、無自覚にディスんなや。コノヤロウ。

 一つ言わせてもらえば、オレが普通なんだよっ! バケモノ共が!


 オレがただ金の竪琴だけは離すまいと、歯を食いしばっていると、タシンッと小気味よい音と共に、オレの移動は止まった。


「ーーー……?」


 恐る恐る目を開けてみれば、そこは魔法陣の中。

 そして目の前には勇者が居て、勇者は物凄いオレを睨んでいる。

 まあ、旦那はオレが居ると“勇者の牽制になる”って言ってたから、理由は言わずもがな。……邪魔で苛ついてるんだろう。


「怪我はないか?」

『……え?』


 てっきり怒鳴られるモンだと思ってたオレは、その予想外に優しい言葉に目をパチくりさせた。


「色々言いたいことはあるが、無事でよかった。こんな所まで、一人でラディーを探しに来たのか?」


 違うけど。


「兄弟思いなのも程々にしろ。お前がこんなところで死んだら、折角ラディーを助け出しても会えんだろ」


 ……何、……この、……優しい勇者!


「俺は勇者だ。邪竜などに負けない」


 さ、さっき……旦那に押されてたのに……。いや待って。もしかしなくても、押されてたの、オレのせい? オレの為?


「お前の兄弟は俺と、そしてお前の仲間達が必ず助け出す。信じろ!」

『ーーー……(コクリ)』

「よし、この魔法陣の中には邪竜の攻撃は届かない。お前はそこで待っていろ」


 そして勇者は一言もオレを責めることなく、振り返ると、また魔法陣の外へと飛び出して行った。

 ……って! オレ、(コクリ)じゃねーだろ!? 何普通に頷いてんだよ!

 オレはローレンの友達で、金の卵を守ろうとしてて、旦那に手を貸してやってる謂わば“裏切者”的な……。


 でも、だけどっ、何あのかっこいいオーラ! 勇者様って皆が“様”付けするのを理解した! 女じゃなくてもあのカリスマ性の前には、トキメキが止まらないんですけど!?


 オレは思わず、その勇者の背中に声援を送った。



『勇者様! 頑張って!!』



 ……いや、だって! 分かってるけど、醜い邪竜とカッコいい勇者だもの! そりゃあ、ストーリー的には普通、勇者がヒーローでしょうよ。


 オレはこの時、絶対この勇者の物語をの歌を作ろうと、心に決めたのだった。

(孵化まで後52時間)



何気にポム、4度目の裏切り(心変わり)です。

全く、コレだから蝙蝠って奴は……。

ラディーは一度の寝返りですネ(´・ω・`)

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