表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
293/582

番外編 〜邪竜さんは、召使いを追い出したい29(蒼い空と共に)〜

……もう、邪竜シリーズ29話目ですね……。

いや、もういいんですけど、(……終わんないっ!)


 〈引き続きファーブニル視点〉



 オイラの放った爽やかな言葉に、ラディーは怒声にも似た声で答えた。


「っば……っ、何を言ってるんです!? ファーブニル様!」


 ……“ばっ”て、ちょっと今、この子“バカ”って言おうとした? 

 ホント最近の若い子は、ちょっと笑顔見せてやったらすぐ調子に乗る。

 オイラが口を尖らせていると、ローレンも戸惑いの声を上げた。


「そうです。リスクが高すぎます。アイルは“宝には興味がない”と言っていましたから、ファーブニル様は隠れておられれば良い。それに……」


 そこでローレンが、何故か不満げに口ごもった。


「……それに?」

「……それに、今迄のファーブニル様なら、卵の為ならラディーやポムは元より、私も簡単に切り捨てられました。過去の“幻魔の失態”以来、ファーブニル様はそう徹底なさっていたと、書にもあります。……それがなぜここに来て、私達に卵を預けようなどと?」


 ……うん。まあ、……邪竜ぶってた所もあるし、そんな過去もあったよ。……てか、いちいち日記に残すなよ、あいつ等め。


 オイラはかつて、一度たりとも手離したことのない卵を二人の前にコトンと置き、しどろもどろになりながら言った。


「ーーー……その幻魔が言ってたんだよ。“4000年後()のドワーフ達に、炎や遺産を渡す必要はないし、欲しがってもない”ってな。オイラの事情を知りながら、ラディーを取り返しに来たポムを見て思った。幻魔の言った通りかもしれないって。もう、卵も宝も、手放しても良いんじゃないかって。そっちの方が良いんじゃないかって。だけどさ……」


 オイラはふとラディーに向け、ふんと鼻を鳴らした。


「?」

「よく考えれば、そんなの誰の為とかなくて、オイラが守りたいから守んのさ。誰も覚えてなくたって、望んでなくたって、オイラがそうしたいからすんのさ」


 ーーーどこに居たって、どんな姿になったって、どれほど時が経ったって。自分の心を失わず、笑ってられるように。


「オイラがやるっつったらやるんだ。なんにも縛られない。誰の言う事も聞かない。誰の意思も関係ない。それが自由って事だからな」


 ローレンとラディーがこちらを無言で見上げてくる。


 ーーーあぁ、ホント暫く振りだな、こんな気分。

 そうだよ。ラディーが、思い出させてくれたんだ。


 まったくさぁ、こんな暗闇でもヘラヘラ楽しそうに笑いやがって。



 ローレンが尚も不安げにオイラに聞いてくる。


「し、しかし、私も今回過ちを犯しました。そんな私達に任せるなど……」

「いーんだよ。オイラが任せるって決めたんだ」


 信じるも自由。信じないも自由。

 オイラはこいつ等を信じることに決めた。

 ……まあ、あの幻魔の言う通りしたくなかったって理由も、無きにしもあらずだけどな? あいつが嫌い過ぎて、オイラ本気で強くなろうと思ったんだもん。意地でも守り切るために。そして、いつかあいつをボコって泣かすために。

 だけどまぁ、まさか本気出したらダークエルフより強くなれたとは、予想外だったよな。


 オイラは二人に頭を低く下げ言った。


「……任されてくれるか?」


 二人は大きく頷き言ってくれた。


「命に代えても」

「絶対に守ります」

「は、気楽でいいって言ってるだろが」


 そしてオイラは笑いながら頷くと、卵をその場に残し、踵を返してあの洞窟へ向かった。

 あそこで迎え撃つには、魔法陣の仕掛けがあって厄介ではある。

 だけど、あそこ程頑丈な場所は他に無い。攻撃を受けた時、地面を踏み抜いたら、地下にはマグマが流れてる。ダンジョン化しても、活火山である事には変わりないんだ。

 まぁ、何より……五千年を過ごした、どこより慣れた場所でもあるんだ。


 オイラが歩み去るその後ろで、ローレンとラディーの話し声が聞こえた。


「……しかし、信じられない。ファーブニル様が……あの話の運びで笑った? ノリもギャグもなかったのに。……私が襲撃に出ている間に、何があったんだ?」

「え? 分からない。隣の家の前で物凄い爆睡をしてたんだ。だから僕は起こそうとしただけで……。あ、起きてから『僕も卵とか守る』って言ったかも」

「……そんな、私なんか……、400年も仕えてきたのに……っ。たったの1ヶ月であそこまで懐柔しただと? ……何と言う、っドラゴンキラーだっ……」

「あっ、泣かないで、ローレン。ローレンが真心込めて仕えてきたから、ファーブニル様も認めてくれたんでしょう?」 

「そうやって私迄懐柔する気か!? 何という誑し込みっ」


 ……最早どこから突っ込んで良いものか。

 取り敢えずローレン、妙な事でラディーを僻むな。オイラは決して、デレてはないから。

 後“ドラゴンキラー”の使い方、物凄い勢いで間違えてるぞ。

 そしてラディー、ちょっと確かに癒やされたけど……。


「調子に乗んなよ!」

「乗ってませんけど!?」


 オイラが振り返り怒鳴ると、ラディーは即答した。





 ◇





 〈ポム視点〉



 ーーー何が、起こったのか理解できなかった。

 目の前の光景が、全く現実味を持ってなかったんだ。

 オレは勇者アイルと、元の仲間達に担がれるように、洞窟を去り、山を降り、湖を渡った。


 ただ、ラディーを助けたい一心だった。

 一月前、ブっさんに合流して、みんなラディーを助ける為に力を貸してくれるって言ってくれた。

 オレは全部話した。

 湖を渡れる事、洞窟に続く階段の事、奥へと続く途中にあるアイテムと回復ポイントの事、ファーブニルが入れない魔法陣や、その奥にある古のドワーフの宝の遺跡や、ファーブニルの本当の“睡眠”について。


 それらの情報を元に、オレ達は計画を立てた。

 一度解散したふりをして、酒の実を手に入れて、上手く食べさせることが出来たら勝機が見える。だってファーブニルは、酒に弱いから。


 全部話したんだ。このダンジョンの秘密。ファーブニルの秘密。ローレンの監視方法も。


 ーーー……いや、違う。全部じゃない。“みんなで過ごしたあの時間の事以外は全部”だな。


 でもいくらあんなに戯れたって、……あんな別れ方してきたら全部台無しだろ?

 ……それにオレ自身が、忘れたかったんだ。

 だって……、ホントに楽しかった。でものけ者にされた。自分の無力さとか、不要さとか、そんなの全部突き付けられて、最終的に無様に泣き喚いた。


 だって、そんなのどうしろって言うんだよ……!?



「よし着いた。ここまで来れば安全だ」



 ふと勇者アイルの声で、オレは現実に引き戻された。


「……ここは?」


 オレが尋ねると、ミー姉が俺の頭を撫で、笑いながら言った。


「ここは勇者様の知人のドワーフ達のキャンプでしょ。もう大丈夫だから、しっかりしなさいね?」

「ぅ、うん」


 オレがミー姉の手から逃げながら頷くと、今度はブっさんに背中を軽く叩かれた。


「ま、そう言ってやるな。ポムは今回は勇敢だった。邪竜への交渉を買って出たんだからな。ラディーの為とはいえ、誰にでも出来る事じゃない」

「そうね、ブリス。武器も持たず、本当によくあの悍ましい邪竜ファーブニルの前に立てたものよね。結果は失敗に終わったけど、私ポムを見直したわ」

「……っ」


 吐き気がする程、胃が締め付けられた。


 ーーーそんなんじゃない。オレは自分勝手のせいで、……両方を裏切ってるんだから……。


 その時、ハスキーで優しげな、若い男の声がした。


「戻ったか、アイル。それで、全員助け出せたのか?」


 オレは声につられ顔を上げ、そしてギョッと目を見開いた。

 声の主は、ドワーフ族の青年ガルーラだ。

 勇者アイルの“親友”らしい。

 ドワーフ族にしては、随分背の高いドワーフの男だった。

 毛皮で出来たベストやゴツゴツしたベルトを装着したその姿はドワーフ族らしいと言っていい。服の間からちらりと見える胸筋や二の腕は逞しく、うちのリーダー、ブっさんより見事だ。

 ただそのガルーラの顔から、ドワーフ族にとってトレードマークとも言える“髭”が、何故かきれいに剃り落とされていた。

 まあ、髭剃ってても普通に男前なんだけどさ。


 勇者アイルも、オレと同じことを思ったらしく、ため息を吐きながらガルーラに言った。


「例の子供は先送りになったが、ディウェルボ火山に向かった者達は、この通り無事帰還した。ってか、なんでそんなさっぱり髭剃っちまってんだ? ドワーフの誇りはどこいったよ?」

「いや? 別に邪魔だったから。髭なんか伸ばしてたら、鉄を打つとき髭が焦げるのだ」


 ……なる程。じゃねーよ。


「それにしたってなあ……。まあいい。それより変わった事は無いか?」


 勇者アイルがガシガシと頭を掻きながら話題を変えると、ガルーラは余裕の笑みを浮かべながら言った。


「何も無い。長閑なもんさ。言っただろう? 邪竜ファーブニルの住処へは、踏み込みさえしなければ奴ら手は出してこないと。まあ、踏み入った者は尽く喰われるが……」


 その時、小さな子供の声が上がった。


「何にもなくないよ! 兄者が俺の絵本破いたの! サンタさんにもらった、大事な本だったのに!!」

「なんだよ、グクスが貸さないから、ちょっと引っ張っただけだっ!」

「だって俺のだもん! このおーぼー兄者! それに……あの本を読めるようになる為に、字だって一生懸命勉強してたのに……っ、まだ全部読んでなかったのにぃぃ!」


 そう言って喧嘩を始めたのは、七歳の兄ギルディボと、六歳の弟グクスだった。

 ……そっか、大事な絵本が破かれたのか。

 そりゃ災難だったな。……そして、なんて長閑なんだ。


「おいお前ら、いつまでも喧嘩してんじゃねえぞ。とっとと薪でも拾って来い!」

「ギャー母者だっ! 逃げろー!」

「わぁー邪竜より怖い母者だぁー!!」

「るセぇ」 


 そう言って普通に子供達の尻を蹴飛ばしたのは、二人の母ディグマさん。


「おう、ガルーラ、ガキ共が邪魔したな。客人用に湯を沸かしたから、適当なトコで使って貰えよ」

「ああ、ありがとう。ディグマ」


 ……ディグマさん、良い人なんだけどメッチャ豪快なんだよなぁ。


 ガルーラは去って行くディグマさんに手を振ったあと、勇者アイルに笑いかけて言った。


「ま、こんな感じだ。ともかく無事で良かった。おかえり、アイル」



 ーーーおかえり。





 さっきの激闘が嘘のようなこの長閑さが、





 オレにとっては、心底辛かった。


 

(孵化まで後14日)



はい、色々やらかしてるポムですが、まだまだやらかします(*´ω`*) 

頑張れポム! 負けるなポム! どんなにズンドコに落とされても、必ず光明はあるからね!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 詩に見える何か
[一言] 裏切り者のポム君は なんでまた 後悔してるの? あなたがやった結果でしょ? だから何もしないでって… でもわたしの声は届かない だってわたしは 見てるだけ だけどわたしは 祈るだけ 意味の…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ