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番外編 〜邪竜さんは、召使いを追い出したい27(邪竜、兄弟、召使い、そして友としての選択)〜

 

 〈ファーブニル視点〉



 ローレンの報告があって翌日、ポムがこの洞窟にやってきた。

 呆れるほど無防備に、武器一つ持っていない。


「……ダンなっ、旦那!」


 オイラがガッチリと卵を抱え込んで目を閉じていると、ポムがオイラを呼ぶ。

 オイラは低く唸るように言った。


「何故戻ってきた?」

「オレ、旦那にどうしても謝りたかったんす。ローレンにも、……ラディーにも酷いことを言った。あの時オレ、どうかしてたんす。あんまりいろんなことが一度に起こって、オレ……」

「……」

「でも外に出て考えて、後悔した。初めはラディーを残して来たことだけを悔いてたけど、よく考えたらローレンも旦那も、オレ達に何もしてない。オレが勝手に怪我して、熱出して、それを看病してくれただけすもん。全部オレのせいなのに、ごめんなさいす!」


 ポムは、オイラにそう言って頭を大きく下げてきた。

 オイラは何も言わず、その様子に耳を澄ます。

 まあ、オイラがしゃべんなくてもコイツは一人で喋り続ける。そう言う奴なんだ。


「……ラディーは……きっと元気なんすよね? ローレンは? 二人にも謝りたい。お願いすよ旦那。二人に会わせてください。……あぁ、そうだ。旦那にお詫びの品もお持ちしたんす」


 ポムはそう言って、何かを取り出した。どうやらブドウのようだ。


「旦那、覚えてるすか? あの時旦那は酔ってましたけど、『生の酒の実を食べてみたい』って言ってたすよね。だからオレ、これを取ってきたんす。オレからしたらちょっと値の張るもんではあるすけど、どうしても旦那に……、ファーブニルの旦那に許して欲しかったんす」


 そう言って、ポムはブドウをオイラに突き出してきた。

 突き出されたブドウからは、甘く芳醇なアルコールの香りが漂って来る。

 オイラはその香りに、思わずツバを飲み込んだ。


「どうか受け取って下さい。旦那」


 弱々しく懇願してくるポムに、オイラは言った。


「……他に言うことはないのか?」

「……え? 他にって……?」


 ポムは、不思議そうに首を傾げた。

 オイラは長い片手を伸ばし、ポムの差し出していたブドウを掴み上げ言った。


「無いならいい。この酒の実は貰っとく。だがそれだけだ。お前をこの先に通すこともしないし、ラディーに会わせることもしない。そして……オイラがお前を許す事もしない」

「ーーー……え……」


 オイラは憎々しげに呟いた。


「……あーぁ、喋んなって言ったのによぉ」 


 オイラの呟きに、ポムの身体は固まった。

 オイラは卵と酒の実を抱え、ポムに背を向けた。そして恐怖に硬直するポムに言った。


「まあ、ローレンには会わしてやるよ。だけどそれは、お前の願いだからじゃない。ローレンとの約束だからだ」

「な、……っ何を……言って……」


 後ずさるポム。

 オイラはそんなポムにもう声は掛けない。代わりに、闇へと向かって声を掛ける。


「“ーーーお前のオトモダチが、オイラへ粗相をする事は無い。何故ならそんな事は起こり得ないよう、お前がフォローするから”……そうだろう? ローレン」


 すると闇から声が上がり、すっとローレンが進み出してきた。


「はい。その通りにございます。全ては私の責任。私が対処させて頂きます」

「当然だな。オイラはアイツのトコに行ってくる。その間に“それ”の連れてきた雑魚共も片付けとけ」

「なっ!?」


 オイラの指示に、ポムから悲鳴のような声が上がった。

 ローレンは静かに頷いた。


「はい。ごゆっくりお休みください。ファーブニル様」


 同時に、ポムが大声で叫んだ。



「っだめだっ! 失敗だっ! みんなっ、逃げて!!」



 ーーー見え見えなんだよ。お前の浅はかな演技なんかさ。


 オイラは振り返ることなく、その場をローレンに預け、ルボルグの所へ向かった。


 ポムがここに近づいてることは知ってた。

 ローレンの報告から真っ直ぐここに向かってたなら、もっと早くにここに着いてた筈だった。

 だけどここ迄遅くなったのは多分、“オイラが本当に眠くなる時”を見計らってたんだ。


 ポムは傷ついて運び込まれてから、ずっとこの洞窟の中の様子を探ってた。

 洞窟内の回復の魔法陣の効果の検証だってしに来たし、熱出して倒れた理由だって“睡眠不足”だった。

 ポムを良く知ってるラディーは、『枕が変わったくらいで寝れなくなるのは嘘』だと言っていたから、おそらく初めから弱点を探ってた。オイラの隙を狙ってたんだ。ーーーそして、オイラの“眠り”の秘密に気付いたんだ。


 ローレンの友達だから、多少目を瞑っておこうと思った。

 そしてあいつが泣きながら帰りたいって言った時、オイラは過去の自分の姿を重ねて、同情して逃してやった。



 ーーーだけどなぁ、ポム。オイラ気づいちまった。



 オイラに似てるなら、間違いなく罪を犯すんだよ。だって馬鹿なんだもん。


 お互いにさ、後悔するのが遅かったよな。

 しょうがないさ、馬鹿なんだし。



「っ旦那!! 待って!! ラディーを殺さないでっ、お願いだよっ!! ラディーを、……ラディーを返して!! 旦那あぁぁーーーーーっ!!」



 背後から聞こえるポムの悲鳴を、オイラは無視した。

 そして重くなる瞼をこらえながら、急かされるように、惹き寄せられるように、オイラは目的の場所へ向かう。




 ルボルグに、会いたかった。


 こんなオイラを裏切らない、親友に会いたかった。





 長い岩の回廊を抜け、広い空洞を飛び上がり、オイラはルボルグの家の前に降り立つ。


 扉を開き、腕を突っ込み、ルボルグの座るテーブルにブドウを置いた。

 そして扉の外から、オイラはルボルグに話し掛けた。



「それな、酒の実って言うんだってさ。酒で出来たブドウ。お前酒好きだろ?」



 当然返事はない。寧ろあったら怖い。

 それに()()()()は言っておられた。

 オイラやルボルグ程度じゃ、その魂をここに留める事は出来ないって。

 この骸はただの抜け殻。土塊と一緒。



 ーーー……でもオイラにゃもう、お前しか居ないんだよ。



「なあ、教えてくれよ、ルボルグ」



 もう、分かんないよ。



「ここまでして、守んなくちゃ駄目か?」



 あのクソ悪魔の言ったみたいに、ドワーフ達はもう炎なんて望んでないかもしれない。

 炎より、誇りより、命のほうが大事なんだろ? そりゃ大事だよ。そりゃそうだよ。


 だったらオイラはもう、邪竜以外の何者でもない。

 誰にも望まれて無い物の為に、色んな願いも、絆も、バラバラに引き裂いて。



「ーーーオイラ、もう疲れた……」




 眠い。


 もう全部忘れて、眠りたい。



 ーーーオイラはその場で、意識を闇に沈めた。




 ◆◆



 ふと、誰かがオイラを呼ぶ声が聞こえた。


 ーーー……ルボルグ?



「ファーブニル様!」



 ーーーなわけ無いよな。ラディーだった。


 オイラの意識は一気に覚醒し、同時にギョッと驚きに身を捩った。

 なんてったってオイラの卵が、ラディーの行動許可範囲に入り込んでいたんだから。

 っあっぶねー! 取られたら終わってるとこだった!


 オイラは卵を掻き抱きながら、ラディーに向かって牙を向いた。


「何だよ?」

「あ、良かった。気が付かれたんですね。何をしても起きないので焦りました」


 ラディーはしっかりとモーニングスターを握りしめ、オイラのすぐ隣に立っていた。


モーニングスター(それ)で、何をするつもりだった?」


 ーーーコイツも、やっぱり敵だ。生かしておくべきじゃなかった。


「あ、これですか? ファーブニル様が目覚めないし、ローレンも居ないし、いざって時は僕が守らなければと思って構えてました」


 ……ん?


「……守るって……、誰から? 何を?」

「え? 卵を強欲な冒険者達から守るんですよね?」

「……お前も、冒険者だろ?」

「そう……、いや? でもほら、卵はファーブニル様の宝物ですし」

「そのファーブニルは邪竜だぞ?」

「でもローレンにとって、ファーブニル様は大切な人だし。友達の大切な人から物を盗るって、人として駄目ですよね」


 ……いや……、駄目だけど……。


 ……ん?


「でも、正直怖かったです。ずっとこんな緊張の中、ここでファーブニル様は居たんですよね。本当に凄いです。僕なんかもう……敵も来てないっていうのに、たった十分で手が震えて……」



 ーーー……なんだかなぁ……。

 ローレンと言い、ラディーと言い、まともな事言ってる風を装って、なんか抜けてんだよな。根本の置き方が間違ってるというか……。


 それでも、心底ホッとしたように息を吐くラディーに、気づけばオイラは笑ってた。





 頭の片隅では、ナイトメアが警告を発している。


 ……だけどオイラは、それを無視した。





(孵化まで後14日)


メモ※今更ですが、この番外編は68話から84話にかけて書いた話のアフターストーリーです。


「ん?」となった方はそちらもどうぞ。\(^o^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] いいえ? わたし、ただ感想を残したいだけなので…
[一言] ラディー君は良い子… ポム君はアホ…邪竜になったことと一緒? ポム君…悪い子じゃないんだけどね? 理由なんてわからない だけどなにか大切なもの 大切な友達のためになにかしたのだろう
感想一覧
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