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番外編 〜邪竜さんは、召使いを追い出したい24(で、デレたの?)〜

 

 〈ラディー視点〉


 ーーー……空? 何を言ってるんだろうこの人は。


 僕は首を傾げる。

 するとファーブニル様は、突然慌てふためき始めた。


「っこんな状況になっても、ヘラヘラ笑ってるからだ!」

「え……」


 何が? どういう事?


「そうやってヘラヘラ笑いながらポムを解き放って、ローレンを抱え込んだからっていい気になるなよ!? そうだよ。お前なんか見てるだけで、晴れやかな気分になるんだからな!?」


 ……ん? もしかして褒められてるの? それにしても意味がわからない。


「だが勘違いするなよ。オイラは(なび)かないからな!! 絶対に!」

「あの……? すみません。言われてる意味がよく分かりません」


 僕は正直に言うと、ファーブニル様は物凄く不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「ふん! 馬鹿めが! そんな物、お前にくれてやるということだ!」


 ……何がどうなったら、そういう解釈に繋がるんだろう? 

 僕はあまりに突飛な結論に、思わず確認を取る。


「くれてやるって……、このモーニングスターの事ですか?」

「当たり前だ! 他に何がある!?」

「……あ、……ありがとうございます……? ……え?」


 ……え? デレた? デレたの? 何が起きたの?

 ってか、このモーニングスター(レジェンド級の宝)をくれるって?


 僕が信じられないで尚も目を(しばた)かせていると、何かの言い訳でもするように、ボソリボソリとファーブニル様が言った。


「……ローレンにはミスリルのレイピアがあるし、オイラにゃそれは握れない。……そのモーニングスターはずっと床下で眠らせておくには、惜しい物だからな」

「え……、……でも本当に……」

「っただし、他の家の宝には触るなよ!!」

「は、はいっ!!」


 僕はファーブニル様の怒鳴り声に、負けないくらいの大きな声で頷いた。

 そしてふと、腹の底から堪えられない笑いが湧き上がってきた。


 ーーー……やばい、笑っちゃう。……我慢できない。


「……なんだ?」


 僕は必死で歯を噛み締め笑いを堪えたが、肩が震えていたのがファーブニル様にばれてしまった。

 僕は観念して、笑いながらファーブニル様に理由を告げる。


「いえ、やっぱり僕、ファーブニル様が邪竜なんて信じられないなと。強欲などころか凄く太っ腹ですし、本当に優しいですよね」

「……っ!?」

「? どうかしましたか?」


 僕の言葉に突然ファーブニル様が、凍りついたように固まった。

 あ、……まずい。笑っちゃったし、やっぱり余計な事だったよね。


 僕はハラハラしながら、今度は肝の冷える思いでファーブニル様を見上げた。

 次の瞬間、ファーブニル様はツバを飛ばしながら、堰を切ったように怒鳴りだした。


「ーーー……っだからっっ! そんなふうに言ったって、オイラは靡かないんだからな!! もういい! お前は黙ってモーニングスター(それ)でも振ってろ!」

「え、……は、はい」


 靡くって何?

 僕は内心疑問を感じつつも、言われるがままモーニングスターの鎖を掴み、それを回す。


 ーーーと、またファーブニル様が固まった。


「……何だそりゃ?」

「え?」


 ファーブニル様は目を開けてないはずなのに、僕の動きを的確に突いてくる。


「鎖の唸り音が汚い。何だそりゃ」


 ……ここに来て、ファーブニル様が嘗てない苛立ちを僕に放ってきた。。

 ファーブニル様は、まるで耳障りな引っかき音でも聞いたかのように気持ち悪そうに僕に言う。


「……モーニングスターったらアレだよ、凧揚げと一緒だよ。鎖を弛ますな。出来ないならグリップに鎖を巻き付けて、まずは短く持て」

「は、はい!」


 僕は慌ててファーブニル様に言われた通り、モーニングスターのグリップに鎖を巻き、持ち替えた。


「鎖は曲がる。だが弛ませなければ“剣”と同じだ。その直線が“軸”。軸は常に意識しろ。そんでグリップを操れ」


 ーーー剣と同じ……。

 グリップから先の鎖と鉄球は真っ直ぐな剣。

 僕はそう思いながら、モーニングスターを振り抜いた。


 ーーーーーフォン……。


 今までと違う音が響いた。


「それだよ」

「これですか」




 ……て言うか……、これ。





 ーーー……っ気持ちいい!




 僕はその感触に、感動を覚えた。

 調子に乗った僕は、そのままふた振り三振りと立て続けにモーニングスターを振るう。

 そんな僕に、ファーブニル様は呆れたようなため息を吐きながらボソリと言った。


「鎖を長くすれば軸は伸び、しなり始める。軸のしなりが回収される前に、別のグリップ操作を加えれば、軸のしなりは不規則にも見える“道”を作る。相手に読ませない、お前だけが知る“剣筋()”だ」


 ……これ、もしかしなくても、モーニングスターの使い方の助言だよね?


「攻めで使うときは軸を意識し、守る時は鎖を緩める。衝撃を吸収させるんだ。それから相手やその武器を絡める時も、同じような応用でいける。引いて軸をもたせれば締め付け、緩めれば離す。ーーー……まあ、せいぜい練習するといい」

「は、……はい!」


 僕は返事をしながらも、ふと頭の片隅で別の事を考える。



 ーーー……これはきっと、昔“ファーブニル様”が実際使った事のあるものなんだ。

 だけど、あの姿(ドラゴンの手)じゃモーニングスターなんて使えない。……じゃあ、つまりは……。



 そこで僕は、考えることをやめた。

 ローレンの言葉を思い出したからだ。



 “ーーー私達如きが、触れて良い物である筈が無い”



 ローレンで駄目なら、きっと僕なんか絶対駄目だ。


 僕はまた、いつもの洞窟に向かって歩き出したファーブニル様の背中に声を掛けた。


「ありがとうございました」

「ふん」

「ファーブニル様、ローレンに会ったら、……よろしくお伝えください」


 僕はローレンから避けられている。

 ご飯の準備なんかはしてくれているけど、その姿は僕には見せてくれない。

 待ち伏せをしてたって無駄だった。ほんの一瞬、瞬きをする間に、ローレンは部屋に入り、テーブルに食事を置き、出て行ってしまうのだから。

 瞬きを我慢してもみたけど、3分も保たせる事はできなかった。


 僕の言葉に、ファーブニル様が苛立たしげに喉を鳴らす。


「友達じゃないんだろう? 生き残るための嘘」

「友達です。嘘じゃなく、僕はローレンの友達です。そしてポムも、まだローレンの友達だ」

「……あいつは違うと言ってたが?」

「一度の“喧嘩”くらいで友情は消えません。あの時ポムは少し疲れて辛かっただけ。“友達”だったからこそ甘えて、あんなことを言ったんだ。どうでもいい奴に、ポムはあんな酷いこと言わない。だからちゃんと話せば、また仲直りできます」


 これは僕の本心だ。僕はポムの事をよく知ってる。あの時、しりとりや隠れんぼをしてた時、本当に、本当に楽しそうにポムは笑ってた。振りなんかじゃ無かった。


 だけどファーブニル様は首を横に振って、歩き始めた。


「……。……いや、もういい。これ以上ローレンの心を壊すな」

「じゃぁせめて! 僕からよろしくと!!」


 その背中に僕は叫んたけど、ファーブニル様はもう、答えてはくれなかった。




 ◇




 〈ファーブニル視点〉


 オイラはさっきテンパって、妙な事を口走ってしまった事を無かったことにするように、クールにラディーの前から立ち去って来た。

 ラディーには、きっと“なんて冷徹な邪竜なんだろう”と思わせる事に成功している筈だ。


 まあ、何れにしろオイラはラディーのメッセージをローレンに伝える気は無い。

 何故なら……。


「ふふ……」


 いつもの洞窟に戻った途端、ローレンの忍び笑いが聴こえた。

 オイラは溜息を吐きながらローレンに声を掛ける。


「おい、ストーカー」

「ストーカーではありません。人質を監視していただけです」

「……」


 キリリとそう答えたローレン。


 ……そうなんだよ。

 オイラが言うまでもなく、こいつ“イビルアイ”越しに、目を離さずラディーを見つめ続けてるんだよ。

 何なの? これが噂に聞く“ヤンデレ”ってやつなのか? 怖いんだけど。ホント最近、ローレンさんが壊れてきてるんだけど。


 オイラがドン引きしていると言うのに、ローレンは平然と、いつも通り淡々と今日の報告を始めた。




(孵化まで後51日)

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― 新着の感想 ―
[一言] ファーブニル様…それは完璧にツンデレにしかみえませんよ…
[一言] ローレンさん、監視してるだけだよね?ね? 違うよね?ヤンデレとかじゃないよね?ね? 違いますよね?
[一言] ローレンさんェ…
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