番外編 〜邪竜さんは、召使いを追い出したい18(ポムポム劇場の不協和音)〜
〈ラディー視点〉
「おはようございます! ファーブニル様」
「……」
僕はファーブニル様に挨拶をしたが、返事は無かった。……二日酔いってやつなのかな?
僕はローレンにも声を掛けた。
「おはよう、ローレン。ファーブニル様、何かあった?」
「いや、いつも通りだ。寧ろ、昨日が異様だった」
「そう。……そうだよね。確かに」
まあ、やんちゃで呑気で優しい邪竜とか……、異様以外の何者でもない。
「ふぁーあ、良く寝てたな、ラディー」
「おはようポム。今日は何時にもまして眠そうだね」
「お、おう……」
「しっかり寝ないと、傷の治りが遅くなる。ポム」
「ああ、でもオレ枕変わると寝れないんだよ……」
「……そんな繊細だっけ?」
「うるせぇな」
ポムはそう面倒臭そうに返事をした。
「じゃあ、顔を洗ったら朝食の準備だ。ラディー、また手伝ってくれるか? ポムはまたここで……そうだな。昨日の魔法の練習の続きをしておくと良い。昨日は遊んでしまってあまり出来なかったからな」
「おぉ、分かった」
僕は顔を洗い、ポムは僕の差し出した濡らした布で顔を拭く。
すると、ローレンが僕等になにか丸くて、コウモリの羽のようなものが生えた何かを2つ差し出してきた。
「? ……何それ?」
僕が尋ねると、それは突然羽ばたき、空中へと舞い上がった。
「ひぃ!?」
「何だこりゃ!?」
僕とポムは反射的に飛び退き、悲鳴を上げた。
「“イビルアイ”と言う魔物だ。知能は高くなく、気まぐれに分裂する。“親”に当たる者が、子の見た映像を共有して投影できる技能を持っている。ーーー……昨晩の内に、魔王様に送って頂いた」
っ宅配!?
……っじゃなくって魔王!!?
「これで仕事をしてる時も“目を離さない”でいられるからな」
「……へぇー」
「便利な魔物がいるんだね……」
僕等は色々なツッコミを飲み込み、ただ頷いた。
そしてローレンは優しげに付け加える。
「単独なら、弱い生き物を襲ったりするが、今は私の命令が効いているから、害を与えるような事はしない。安心すると良い」
ーーー……っ、弱い生き物って、きっと僕らのことだよね!?
「じゃあ行こうか、ラディー」
「う、うん」
ローレンがそう僕を促すと、僕は頷いて、また例の地下都市に向け歩き始めた。
その時、何故かポムは僕の背中を不安げに見つめていた。
◆
〈ファーブニル視点〉
「旦那。……ファーブニルの旦那!」
ローレンとラディーが去った後、ポムはまた性懲りも無くオイラに話しかけてきた。
ーーー……そうさ。ローレンの“友達”だから食い殺す事はしない。
だが、コイツは“オイラの友逹”じゃない。
オイラにゃ友達はいらないんだ。関わることはするものか。
「旦那っ!」
「……」
「また寝た振りすか?」
「……」
「折角小うるさい奴らが行ったってのに……。あ、オレにとっての小煩いってのは、ラディーの事すよ。ローレンはいい友達すから。ただファーブニルの旦那にとってのローレンって、小煩い召使いみたいなもんでしょ?」
「……」
オイラは顔を自分の腹に埋め、無言なんだが、ポムは一人で喋りだす。
……昨日もこのパターンだったんだよな。
「オレにとってラディーってホント小煩い。ずっと見張られてて息が詰まる。仲間には“良い子ちゃん”の付き合いで無難な対応が出来る癖に、オレに対してはまるで母ちゃん。年も離れてなんかないのに……」
……今日はラディーの愚痴か。まあ答える気はない。
「ブっさ……じゃ無くて、ブリスさん達のことだって大げさに言い過ぎなんすよ。ラディーはオレが絡むと、たまにおかしくなる」
そう言って、ポムは昨日ラディーが言っていた話の寸劇を勝手に披露した。
◆〜〜以下、ポムの寸劇。
ブリス『ーーー……何って、何のことだよ?(今日も可愛いな、コノヤロウ)』
ミリア『(バッ、バカっ! 何言ってるの!? それより)あの子達よ! なんであんな戦闘能力皆無な子達を仲間に加えたの!? いえ、加えるだけならまだ良い! 今回の暗闇の洞窟に同行させるってどう言うことよ!? これから行く所は邪竜の洞窟! グリプスみたいにレベリングしてあげられるような生易しい場所じゃないの! 今回集めたメンバーだって、森のエルフに認められた、A級以上の冒険者達ばかりなのに。これじゃまるで……』
ブリス『“囮みたい”ってか? ……アイツらは、冒険者を名乗ってる(男なら、そのくらいやれってんだよ)』
ミリア『……本気で言ってる?(マジで馬鹿なの? 脳天気すぎるわよ?)』
ブリス『(ムッ、)それにあいつ等は蝙蝠の血を汲むアニマロイドだ。暗闇の洞窟の中では、ガリューよりも索敵に長けてる』
ミリア『素のレベルが低すぎる! 敵を発見すると同時に殺されるわよっ!(良く考えなさい)』
ブリス『逃げ切れる可能性だってあるさ(ヘーキヘーキ)』
ミリア『(この馬鹿っ!)無い! 絶対に無理よ!!』
ブリス『そんなの、俺達だって同じだっ! このミッションは、邪竜の持つ“黄金の卵”を手に入れること! あの邪竜相手に、オレたちが立ち向かうには、そうするしか無い!! 俺はなぁっ!!』
ミリア『っ(なっ、殴る気!?)』
ブリス『(肩をギュ)……っ俺は、……お前に死んでほしくなかったんだよ……(その事しか……考えて無かった)』
ミリア『(……え……“ドキン” そんな、……)……最低よ。……このダンジョンを生きて攻略できたら、私このパーティー抜ける(勿論、あんたと一緒にね。あんたみたいなバカ、……私しか相手出来無いでしょ?)』
ブリス『ーーーっ、……あーそーかよっ! クソっ!!(っまさかのこんなとこでプロポーズしちまったよ!? 何やってんだ、俺は!! あーそーだよっ! 俺にはもう、お前だけだよっ)』
ラディー『……っ(愕然)』
ガリュー『待てよ、……あの色ボケの言ったことは忘れろ(子供にはまだ早い)』
◆終わり◆
ーーー……ふうん、一聞するとただの色ボケな奴等だな。お前等の“仲間”って奴は。ていうか最後のオッサンの意見、的確すぎるだろ、……と言う感想をオイラは飲み込んだ。
……にしても、ポムの奴ウメェなあ。語り部だけじゃなく、演劇にも向いてるぞ?
内心で様々な感想を述べつつも無言のオイラに、ポムは一人で話を続ける。
「って、ラディーの前で言った所で、あいつは絶対オレなんかの話聞かないすけどね。オレを頭ごなしに否定して、バカだって言ってくる……。もう、話すんのも面倒なんす……」
……。
コイツの気持ちは分からんでもない。……でもな。
「オイラはお前らの仲間の痴話模様なんか知らん」
「あ、やっぱり旦那起きてたんすね!」
我が意を得たりとでも言わんばかりに、顔を輝かせるポムに、オイラは唸るように言った。
「……ラディーはお前を心配してる。お前はそんなラディーを無視して逃げてる。……オイラはお前が、一番嫌なやつだと思うぞ」
「っ!? でもっ……」
「オイラはお前の話になんか興味無い。馴れ馴れしく話しかけるな。酒も要らん。黙ってろ」
「……っ」
ポムは目を見開き抗議の声を上げようとしたが、結局押し黙り、昨日やっていたマナの扱いの練習を一人始めた。
ーーーこれで良い。オイラにゃ関係ない。
◇
それから3日後、ポムは高熱を出した。
疲れと緊張、それから睡眠不足からの熱とローレンは言ったが、4日にも渡り意識を失う程の酷いものだった。
ポム……貧弱? いいえ。周りがおかしいだけです。
そして、周りも決してチートではないと言う、驚愕の事実!?
この世界、……ホントにチートがいないなぁ。神々が絶対すぎるのでしょうか? でもまあ“神”だし……。




