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番外編 〜邪竜さんは、召使いを追い出したい⑧(鱗磨きと現実逃避)〜

 〈ラディー視点〉


 ーーー……なんで、僕は何でこんなことをやってるんだろう。


 分からないよ。流されることなんて初めてだ。しかも、流れ着く先が、欠片も読めない。


 完全な闇の中で、僕は目の前の、凶悪な鱗を金属のブラシで磨き続けていた。

 音波を飛ばし、竜の鱗の状態を確認しつつ、手だけは動かしながら、あまりの非現実すぎる現状に、現実逃避を図っていた。


 ーーーなんでこんな事になったんだ……?


 僕は過去の回想にふけって、現実逃避をしていた。




 ◆




 湖の畔でローレンに告げられた言葉に、恐怖を感じつつも、僕等に逆らう事などできなかった。

 そして、言われるがままに、邪竜の巣へと向かったんだ。


 邪竜ファーブニルの巣へは、ディウェルボ火山の火口から少し下った所にある洞窟から入る。

 かつては火山の中腹に、(いにしえ)のドワーフ達が使っていた入り口があったそうだが、ファーブニルが火山に住み着くと同時に、そちらはファーブニルによって封印されたのだと言う。


 ポムは手当と湿布のおかげか、ずいぶんと痛みが和らいでいた事もあって、僕の肩に掴まりながら羽をバタつかせ、飛んで移動した。

 ……黒狼王(ホーンウルフ)には、もう二度と運ばれたくないからだそうだ。ま、当然だね。

 とは言え、本来僕等だけじゃ、大した距離は飛べない。羽を使ったジャンプの補助が良いところだ。

 だけどローレンが魔法で風の流れを作ってくれ、僕等はなんと、大空に舞い上がった。

 ーーー信じられない体験だった。……まさか、僕等が本当に大空まで飛べるなんて。

 だけどまたそれにより、僕等は不本意ながら抵抗する間もなく、あっという間にディウェルボ火山の火口の入り口に着いてしまったのだった。





 ディウェルボ火山は活火山だ。

 大爆発はしないものの、今も火口の底には赤いマグマがじわじわと揺らめき、煙を上げている。

 火口に掘り出された階段を降りる間も、僕は卵の腐ったような硫黄臭で、吐き気を覚えていた。

 だけど階段の下の洞窟に入った途端、突然今までとは違う甘ったるい香りが鼻を突く。

 僕はローレンに尋ねた。


「……な、なんの匂い?」

「ファーブニル様だ」

「……」


 僕はその寒気のするような、甘ったるい香りに目眩を覚えながら、ローレンについて歩みを進めた。



 ◆



 洞窟の中は光の無い真っ暗闇。洞窟に入った途端、僕等の目は使い物にならなくなり、音波を飛ばし、状況を探りながら進んだ。

 道は広く、大人が三人両手を広げて並んだって、まだ余裕がある。

 進んで行くうちに、いくつかの分岐はあったもののローレンは真ん中の、一番幅のある道を選んであるき続けた。


 ポムが不安げにあたりの様子を探りながら、ローレンに尋ねる。


「……ここ、迷路ってヤツなの?」

「いや、迷わす仕掛けなどはない」

「じゃあ、あの横道は何?」

「宝箱と回復の泉がある」

「ーーー……え?」


 ……何でそんなものがあるの?

 それが本当なら、なんて侵入者に優しいダンジョンだろう。……まあ、ラスボスは駄目なやつだけど。


 ポムも僕と同じように、内心でツッコんだんだろう。一瞬間をおいてから、またローレンに声を掛けた。


「……宝箱って、何が入ってるの?」

「“暗闇のゴーグル”というアイテムだ。このダンジョン内でのみ有効で、装着すれば闇の中でも、辺りの様子が鮮明に分かるようになる。宝箱を開ければ、そのパーティー(組織)の人数分の数が出現するようになってる。……ポム達も要るか?」

「ーーー……いや?」


 ……いや、まあ、ぶっちゃけ僕等にはそんなゴーグル無くったって問題ない。普通の生活程度の動きなら問題ないし、あった所で役に立たない。……なにしろ僕等は、戦闘要員ではなかったんだから。

 ……ていうか、なんでそんなファーブニル(ラスボス)の首を締めるような、ダンジョンの仕様になってるの? ……それすらも罠だということ?


 だけど後から、僕らはその選択に随分感謝することになった。




 ◆




『ーーー……なんだ、これ……』


 通路の最奥にある扉を、ローレンが音もなく押し開けたそこに、巨大な何かが居た。


 先程とは比べ物にならない程の、むせ返るような甘ったるい香り。

 そしてそこにいた物に、僕らが気配を探る為に音波を飛ばした時、その返ってきた感覚に悍け立った。


 悠に20メートルを超す山のような巨体。鋭く凶悪な鱗に覆われた身体の腹はぶくぶくと肉が付き垂れ下がっているのに、肩と腕は骨に張り付いた皮だけ。

 足が太く短いのに対し、手だけが異様に長い。

 背中に折り畳まれた皮膜の翼はいびつに歪み、何かベタベタとした粘液がその翼を……。


「ーーー……う"っ」


 その不気味な容姿に、僕はその全容を確認し切る前に吐づき、感覚をシャットダウンした。

 こんな気味の悪い生き物、細部までなんて見たくない。知りたく無い。

 

 



 ーーー何だよ、これ……。




 ……こんな醜悪な生き物が、この世に存在してるなんて……っ。


 一刻も早く逃げ出したかった。逃げ出さないといけないと思った。


 だけど僕らの身体はあまりの恐怖に痺れて動かず、ローレンは淡々と邪竜ファーブニルに事のあらましを報告していく。


 そしてファーブニルは喉を唸らせながら、僕等に言った。



「ーーーお前等は、ローレンの“友達”なのか?」



 ……これ“NO”って答えたら、確実に死ぬ質問だ……。


 それを感じ取ったのはポムも同じだったようで、なんの裏合わせも無く、僕らの声は揃った。




「「友達です」」




 ◆



 〜〜回想終わり〜〜



 僕が13枚目の刺々しい鱗を磨いていると、すぐ側でローレンの声がした。


「初めてだからしょうがないが、もう少し手を速く動かす様に意識した方がいい」

「!?」


 僕が驚いて顔を上げると、直ぐそこに、天使の微笑みを浮かべるローレンが佇んでいた。


「手伝ってくれてありがとう、ラディー。お陰で3秒くらい早く終わらせる事が出来た」

「ーーー……どういたしまして、友達だし……ね?」


 ……3秒なんだ。……そうなんだ。

 まあこのチートスキルを持つローレン相手だ。今はそんな事で凹んでいるより、“友達ポジション”を死守しなければ、僕等はきっと瞬殺される。


「じゃあ次は、食事の準備をしてくる。ファーブニル様と少し待っていて欲しい」

「「「なっっ!!?」」」


 僕とポムは引き攣った声を上げた。……ファーブニルの声も被っていたようだけど、……多分それは気のせいだよね?


 僕は慌ててローレンに言った。


「そんなっ! 僕等も手伝うよっ!!」

「そうだぜ、ローレン! オレ達友達だろ!?」

「いやいやその前に、終わったのならとっとと返してこいっ!!」


 三者の叫びにローレンは一瞬目を見開き、首を振った。


「いいえ、ファーブニル様。彼等は私の友達です。しかも私の仕事を手伝ってくれた。日も暮れてきましたし、食事くらい振る舞わねば失礼というもの。私の最初で最後の我儘を、聞き届けては頂けないでしょうか」

「……っく……、」


 ファーブニルの悔しげな声が響いた。

 ーーー……いや、ローレン。僕等、ほんとにご飯とかもういいから……。


 だけど恐怖に震える僕らは、自分の意思をローレンに伝える事はできず、ファーブニルは嫌そうではあるものの、ローレンの願いを断らなかった。

 ローレンはファーブニルに一度頭を深く下げた。

 そして振り向き、僕とポムに言う。


「じゃあ、お言葉に甘えて、ラディーにも手伝ってもらおうか。だが怪我人のポムにまでは、流石に頼めない。ポムはその魔法陣の中で準備ができるまで、少し休んでおくといい。その気持ちだけ、ありがたくもらっておく」



 ーーー……え?



 僕等は思いもよらなかったその判断に、慌てて抗議の声を上げた。


「ちょっと待って、ローレン。ポムを邪……じゃなくて、ファーブニル……様と、二人きりにするって事?」

「そ……、そうだぜ。流石に食事ができる前に、オレが食事になっちゃう気が……」

「それなら心配ない。その魔法陣の中にいる限り、ファーブニル様がポムに危害を加える事はできない。肉体は勿論、ファーブニル様のマナが含まれる魔法やブレスも、その魔法陣は全て弾き、無効化する」


 ……何なのその侵入者に、優しい設定。

 宝箱の時も思ったけど、倒されたいんだろうか? ファーブニルは。


「貴様っ! ベラベラと喋るなっ!」

「すみません、友達を安心させる為です。他意はございません」

「それでも駄目だろう!?」

「友達に隠し事は不要です」

「いや、必要だろう。ちょっとくらいしろよ。お前はどちらの味方だ?」

「両方です。厳密に言えば、存在を比較する事はできませんが」


 ……ローレンの答えに、低く唸るファーブニル。

 どうやら、敢えて倒されたい訳でもない気がする。

 そして何だろう? ファーブニルの方が間違いなく恐ろしいのに、何故かローレンより共感出来る気がする……。


 ローレンは、真っ直ぐファーブニルに目を向け言った。


「他の者はどうであれ、私はそんな風に誠実に友と向き合いたいと考えております。不器用かと思われるかも知れませんが、それでもし弊害が出た場合、己の不手際ととして、責任を取る所存」


 ファーブニルは忌々しげに鼻を鳴らせる。


「ふん。友とは同じ目線で物事を見れればこそだ。その向き合い方は、そのちび共には重かろうよ。……お前はやはり、何も分かっていないな」


 そして巨大な影は、丸くなるように身体を揺らし、それっきり沈黙をした。

 ローレンは気にせず、僕を促すように声をかけてくる。


「こっちだ、ラディー。行こう」

「え、……あ」


 ポムからと高周波の声が飛んでくる。


『オレなら平気だ。ラディーもミスんねー様に気を付けろよ』

『……分かった、すぐ戻る』


 僕は相槌を返し、促されるままにローレンについて歩いた。

 今は言われるままに動くしかない。……そしてローレンの言葉を、信じるしかない。


 神話時代の化物達を前に、僕らにできる事など、何一つ無いのだから。




 ーーー……そしてふと思う。


 友達なんか居なさそうな、悍ましい姿のファーブニルが、何故ローレンに“友達”の在り方について、意見したんだろう? いや、意見する事が出来たのだろう、と。


 


時間軸がバラバラに飛びすぎたなと反省しています。


話の内容はそのまま、今後大幅投稿するかも知れません。

今後は同じ時間軸で流しますので!_(_^_)_

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― 新着の感想 ―
[一言] 大丈夫気にならない程度ぐらいしかずれてない
[一言] 元エルフの人 二人がもふもふと思うと可愛い マスターが置かせた回復アイテム わたしはマスター推しの人 わたしは甘いお菓子が好きです なんとも言えない幸福感
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