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神は創造物からの捧げ物を受け取り賜うた

 素材が揃った2柱の服創りは、聖域に住む皆にも手伝って貰い極めて順調だった。


 精霊達はフェニクスの飾り羽と黒麒の鬣から、白と黒の糸を紡ぎ上げた。

 糸となったそれを今度はハイエルフ達が銀の機織りで一反の布に織り上げていく。

 ただ出来上がった布はハイエルフ達の持つ刃物での裁断はできなかった為、ゼロスが研ぎ上げたレイスの爪を使ってシャッシャッと小気味よい音を立てながら型を取って行った。

 型抜きされたそれらの布は今度は縫い合わされていくのだが、どうにも裁縫の苦手なレイスの為に魔物達の見廻りを終えたラムガルが諸手を挙げて名乗りでる。

 そうして背中を小さく丸めてせっせと縫い物をする魔王。

 もし布が余ったら、ぜひ割烹着を作ってあげたい。


 と、レイスが器用に縫い合わされていく漆黒の美しい布を見て「ちょっとレイスもやりたい……」と小さく呟いた。

 だが耳の良いラムガルは、聴こえないふりを決め込む。

 皆が最後の大詰めとばかりに忙しく動く中、レイスは手持ち無沙汰となり、ミスリルやら賢者の石などを独りでこそこそと創りはじめたのであった。


 ……ちょっとくらい触らせてあげてもいいのに……、なんていうことを思っていたその時、いじけ気味だったレイスが俺に声を掛けてきた。


「ねぇ、アインス」

「なんだい? レイス」

「レイスにアインスの枝を一枝頂戴」

「構わないよ。どうするんだい?」

「レイス、もふもふが好き。レイス、アインスが好き。レイス、大好きな物で服を創ると決めてたからアインスの枝が欲しい」


 ……もし俺が樹じゃなかったら、きっと爆発していたであろう凄まじい可愛さである。

 俺はそよそよと枝を揺すりながら答えた。


「勿論だよ。好きな枝を好きなだけ持っていくといい」

「ありがとう」


 いつも無表情のレイスがニコリと微笑んだ。


 ―――っ、ぐ……ふっ。

 俺の胸、いや、幹に突き刺さった可憐な笑顔は、間違いなくマナ破壊よりもやばい破壊力だったと思う。


「アインスの枝、マナで満たされているから手折っても枯れないみたい。レイスと共鳴させれば好きなようにも動かせる」


 レイスはそう言って俺から手折った一枝を蛇の様にとぐろを巻かせてみたり、マジックハンドの様に枝をワキワキさせたりして暫し動作試験をしていた。

 俺自身ですらあんなに器用に動かせないのに、凄いな。流石レイスだ。



 ―――そして、とうとう二柱の歓声が響いた。


「「出来た!!」」

「おめでとう。ゼロス。レイス」


 俺は微笑みながら二柱の衣服の完成を祝った。


 と、その直後。ハイエルフ達が306名全員が整列し、二柱の前に進み出て来た。


「ゼロス様、レイス様、どうか私共から、献上の品をお受け取り下さい」

「ん?」


 二柱が首を傾げる中、美しい男のハイエルフが更に一歩進み出て言った。


「この度は私共にミスリルと言う至宝を与えて下さり心より感謝申し上げます。かの宝を持ち帰りし者よりゼロス様とレイス様がお召し物をお創りになられていると聞きまして、私共はその助力をさせて頂くと同時に、ハイエルフ種の技術の粋を集め、この十年の歳月をかけてこちらの品を作り上げました。どうか、僭越ながらお受け取りくださいませ」


 男の後ろには、以前精霊と共に出会ったあのハイエルフが控えている。

 ……そうか。あれから十年が経ってたのか。夢中で気付かなかった。


 ハイエルフ達は2つの品を持って恭しく二柱の前に跪くと、絹のクッションにかけられた布を取り払った。


 ゼロスに差し出されたのはミスリルの肩当てとミスリルの冠だった。

 肩当ては鏡のように磨き上げられた白銀で、天使の片翼を象っている。そしてその内側には、実に繊細かつ精密にハーティの葉と花の彫刻が施されていた。

 また細くしなやかな蔓を絡みつかせたような冠は、どうやって色合いを出したのか太陽と同じ黄金色をしていて、どちらも息を呑む美しさだった。


 そしてレイスに差し出されたものはというと、同じくミスリルの髪飾りとミスリルの仮面(マスカレード)だった。


 髪飾りは一見してみれば“角”だった。

 水牛のような美しいカーブを描く巨大な角の表面には、ゼロスに贈られた肩当ての裏側と同じくハーティの彫刻が薄っすらと彫り込まれている。そして根本には剣先のような鋭さを持つクリスタルの結晶と、氷の結晶を象った装飾が敢えて無雑作に見えるよう散りばめられていた。その繊細で鋭利な装飾が、レイスにピッタリの残酷な迄に刹那的な美しさを醸し出している。

 それからもう一つの品である仮面(マスカレード)は目と鼻だけを隠すタイプの物で、優美な曲線とシャープさを持ち、洗練された造形となっていた。

 そして裏側のハーティの彫刻を除けば仮面(マスカレード)に装飾は無く、黒麒の毛と同じ漆黒に染め上げられていて出来上がったドレスによく合いそうだ。


 これらの贈り物を見た時、俺はとにかく驚愕した。 

 二柱の好みのツボを突きすぎている、と。


 二柱は各々無言で差し出された品を手にとって、表に裏に返しながら、暫らくじっくりと吟味していた。


 ハイエルフ達は無言でそれを眺める神々の様子にハラハラと気が気では無い様子だ。

 だけど俺には二柱の心の声が、まざまざと聴こえた。



 ―――これ、メチャクチャカッコイイッ!!!!!!



 良かったね。二柱とも。





 ―――こうして神々の服が出来た。


 だけどまだ神々は素っ裸。

 そろそろ着ようか。







ブクマ、ありがとう御座いました。 


前話が、ゼロス不評を予測していて、ブクマ、評価は無いだろうと思っていたので、かなり嬉しかったです。

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