番外編 〜邪竜さんは、召使いを追い出したい④(奇天烈な出逢い)〜
灰色の肌の美しい少女。
年は人間で言うと14歳くらいだろうか。僕よりも少し歳上な容姿だった。
僕が呆気にとられ、その少女に見惚れていると、ティミシアさんの悲鳴にも似た叫びが聞こえた。
「……っ呪われし、ダークエルフのローレン!? 何故こんなところに!?」
……ダークエルフ、聞いたことがある。SSクラスの魔物で、その知能の高さから、並み居る魔物を押しのけ、魔王の最高幹部の一席についているという化物。
……この女の子が!?
ローレンは、ティミシアさんさんを一瞥すると、空中でひらりと宙返りをし、まるで羽根でも生えているかのように高く舞い上がると、一本の巨木の枝に立った。
ハッと我に返ったブリスさんが、声を上げた。
「っち! 予定変更! 一時退却だっ! あんな見目をしているが黒狼王よりも化物だぞっ! 引けっ!」
その声に、皆も正気に戻っていく。立ち上がり、武器を構え、走り出す。
僕も慌てて穴を飛び出し、逃げた。
だけど背後から、その様子を見下ろすローレンの、美しくも背筋の凍る呟き声が聞こえた。
「まさかさっきので隠れていたつもりか? 信じられんな。追え、黒狼王よ。奴らを逃がすな」
ーーーーウオオォオォォォォーーーーーーーーーーーーンッ……
途端、側にいた黒狼王が耳をつんざく様な、尾を引く遠吠えをした。
パーティーのメンバー達の顔に焦りが浮かぶ。
「やべぇ! 仲間を呼ばれた! とにかく逃げろっっ!!」
みんなが蜘蛛の子を散らしたように走り出す中、僕はふと、ポムがいないことに気付いた。
「ッポム!?」
振り返り、穴の中にその姿を探す。
「ラディー!!」
穴の中には、黒狼王の遠吠えで恐慌状態に陥ったのか、泡を吹いて倒れる馬が居た。
そしてその馬と穴の壁際に挟まれるようにして、ポムが悲鳴を上げていた。
何にも考えてなかった。
ーーー……ただ、助けなくちゃと思った……。
「っラディー、脚がっ、……脚が挟まってっ!!」
「今助ける!」
僕は穴に飛び込み、力任せに馬を押した。
「イッテェ……」
「頑張れっ、大丈夫だからなっ……よし、抜けた!」
ポムの苦痛の呻きが聞こえたけど、構ってやる余裕はなかった。
僕は馬の下からポムの足を引き抜くと、翼を拡げ、ポムに呼び掛けた。
「飛べるか!? ポム!」
「っ、……ムリ……」
僕は一生懸命ポムの腕を引いたけど、その身体は馬に挟まれていた時よりも重くなっていた。
よく見れば、ポムは僕の更に後ろに目をやり、震えている。
「?」
ーーーーッグルルルルル……。
振り向けば、穴の縁、すぐそこに、体長5メートルは越える黒狼王が牙を向き唸っていた。
そしてその隣に、凛と立つのは、黒狼王より強いと言われるダークエルフの女の子……。
僕の頭が真っ白になる。
「ポ、……ポム、逃げっ……逃げ……」
歯と歯がガチガチと震え、うまく喋れない。そしてそれはポムも同じだった。
ーーーーー死んだ。
僕はそう悟り、目を閉じた。
そして、僕の耳に、最後の死の宣告が響いた。
「私と友達になれ」
ーーー……ん?
思ってたのと違う……。……いや、聞き間違いかな?
僕はちらりと目を開け、ローレンとポムを見た。
ローレンは相変わらず凛とした佇まいで、こちらを見下ろしてた。
そしてポムは、僕と同じように、目を見開きながら僕を見つめていた。
ローレンは、淡々と僕達に告げた。
「聞こえなかったか? 友達になれ。ならないならば、ここで死ね」
デッドオアフレンズ!?
聞き間違いじゃなかった!!
ってか、この人多分“友達”の意味わかってなくない!?
誰だよ、ダークエルフは知能が高くて賢いとか言ったやつ!!
僕の頭は、きっとその時混乱していたんだと思う。
「返事は?」
だから答えたんだ。正気ではない答えを出したんだ。
「YES」
◇
〈ファーブニル視点〉
オイラは閉じた目の裏で白目を剥いていた。
そして唖然としながら、目の前で膝をつくローレンに尋ねる。
だけどそれは答えを聞きたいからでは無い。
ただ、“嘘”だと言って欲しかったからだ。
「ロ、ローレンよ。……何だ? コイツ等は……」
「はっ、私の“友達”にございます!」
「っ!!」
……そうだよね。ローレンは真面目なんだ。嘘なんてつくはずないよね。
でもね、今回ばかりは、嘘つきであって欲しかった!!
ーーーオイラは目を開ける事はしないけど、オイラのねぐらであるこの大空間内程度の事は、もう何が起こってるかくらい肌で感じる。
今オイラの前にはローレン以外に、二人の対して強くもない少年ズが、蹲るように跪いてる。
オイラは涙が零れそうになるのを必死で堪えながら、頑張って言い募る。
「だがお前、出て行って2時間しか経ってないぞ?」
そう、見つけるのが早すぎる。
「はっ、“私の友達にならないか”と、この山に向かってくる者達に尋ねた所、快諾された次第です」
……それ多分、脅しじゃないかな!?
ほら、少年二人もオイラの前に引き立てられて、メッチャクチャ困った顔してるし!!
「……っ、と、友と言うならば、お前はそいつ等の何を知っている?」
「はっ、兄のラディーに関して言えば、生年月日は8月2日、4人兄弟の長男。10歳より共にいるポムと共に冒険者として独り立ちし、現在暗闇の洞窟を攻略する為進行中で……」
……事前調査完璧じゃんよ。そしてふと、オイラのラベンダーの香りに混じって、フワリとハーティーの花の香りがした。
オイラが鼻をクンクンと動かすと、ローレンは答えた。
「ああ、失礼いたしました。本日8月3日でして、昨日がラディーの誕生日だった為、1日遅れての誕生日プレゼント“ハーティーの花冠”を贈ったのです。ハーティーの花冠は幸運の象徴と呼ばれております」
……。
……知ってるよ? どっか昔の勇者と聖女のお伽噺で、有名になったんだよね? シェリフェディーダ様に聞いたもん。
「……お前が編んだのか?」
「はい。私が編みました」
……何なのこの乙女。友達に恋させたいの?
「この者たちは蝙蝠のアニマロイドですので、この暗闇の洞窟でも不自由なく過ごせます。足を怪我していることもあり、ここに招待し、治療を受けて貰おうと思った次第にございます」
「……怪我? お前が傷つけたのか?」
「いいえ、所謂事故でございます」
「……」
「ただ、私の出現に驚かれたという原因も1つにありますので、私が傷の手当をするのが適切かと思いました」
ーーー……ツッコミどころが満載なのに、ツッコミどころのない模範解答……、だと!?
オイラは呆れ返りながら、最後の祈りを込めて、少年達に尋ねた。
「ーーーお前等は、ローレンの“友達”なのか?」
二人の子供たちは、オイラを恐る恐る見上げながらもしっかりと頷いた。
「「友達です」」
ーーー最悪だった。
何が最悪って、……金の卵を狙ってる冒険者達を、オイラのとこに今連れてくんなよ!!?
オイラは叫んだ。
「っっ出てゆけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「何故!?」
ローレンはタジタジと顔を上げ、オイラに尋ねる。
当たり前だろ!
“過程”は大事かもしれない。 でもな、“結果”はもっと大事なんだよぉぉぉーーーーー!!!
やっとタイトルに追いつきました!
ポムとラディーはフルーツコウモリ種の、草食男子達です。※ポム=リンゴ ラディー=カブ




