番外編 〜邪竜さんは、召使いを追い出したい②(退屈な召使い)〜
僕は大急ぎで馬車の荷台に荷物を放り込み、走った。
走り去る僕の背中を、ガリューさんが睨んでくる。……普段無口なガリューさんは何も言わないけど、だけどその目は「見張ってるからな」とでも言っているような気がした。
◆
「ーーーっポム!」
僕は、まだのそのそと片付けを続けていたポムに呼びかけた。
「ラディー? ……あっ、別にサボって無かったからね!? オレはちゃんと……っ」
……別に何も言ってないんだけど。
まあいい。僕は口を動かしながら、みんなには聴こえないよう|、ポムに話し掛けた。
「分かってる。早く済まそう『手を動かしながら聞いてくれ、ポム。そして高周波で話して欲しい』」
「……おぉ、じゃ、ラディーはそっちを片付けて『……なんかあったのか?』」
「分かった『……このままじゃ僕ら、殺される』」
「っ!?」
『っしーーーっっ!!』
目を見開き顔を上げたポムに、僕は俯いたまま、超音波の声で制した。
『で、でも、どう言うことだよ!? オレらがっ、なんで!?』
『こっち見るな。手を動かせ。……ブリスさんと、ミリアさんが話してたのを聴いたんだ。次の“暗闇のダンジョン”に僕らを連れて行くのは、囮のためだ。邪竜の餌だよ』
ふと、ポムの顔が白けた様な表情になった。
『……ブっさんと、ミー姉? あの無自覚にいちゃいちゃしてる二人なら、またいつもの妙なプレーかなんかじゃないの? 聞き間違いだろ』
『違う! 僕らのことをハッキリ言ってた! それに……ガリューさんだって、僕に逃げたらただじゃおかないって……』
『!? ガリューのおっさん、喋ったの!? ……前回から9日ぶりかぁ……』
『……驚くとこ、そこ!?』
僕がイライラしながら怒鳴ると、ポムは逃げるように立ち上がった。
そして荷物袋の紐を縛りながら言う。
「よっし、終わり!『……考え過ぎだよ』」
『!?』
『それに万が一そうだったとしても、逃げてどこ行くんだよ? こんな周りに街もなんにもないとこ。それにあの人達から逃げても、世間様から白い目で見られるってー』
『な、っでもっ!』
僕はポムを呼び止めようとしたが、ポムは僕を無視した。
「ジーク兄さぁーん! おわったよー」
「おー、ポム、終わったか! ほんじゃ行くか!」
「ちょ、待ってよポム!!」
「ラディー? どうかしたのかぁ?」
「……っ」
僕はジークさんはに目を向けられ、言葉を詰まらせた。
ジークさんは斥候兼、シーフ担当。……“シーフ”と言っても、本当に泥棒するわけじゃない。トラップの解除やマッピングなんかをする頭脳的雑用担当。とはいえ、ジークさんは戦闘面でもかなりの熟練者でもある。
もう一人の人間メンバーフィフィーさんの兄で、ちょっと軽い性格。何だかポムと気が合うみたいだ。
僕が無言でいると、ジークさんは首を傾げながら言う。
「……? おかしな奴だな。行くぞ」
「……」
付いていくしか無かった。
◆
そして間もなくメンバーは集められ、ブリスさんから号令がかかる。
「よし、みんな、これから魔の森を超え、ディウェルボ火山へと向かう。だがここから先は、黒狼王の巣だ。気を引き締めるように」
ブリスさんはいつも通りそう言った。
ブリスさんは、ミリアさんにデレデレする以外はいいリーダーだった。
強くて、仲間想いで……、それがまさか……。
僕が、周りに気付かれないようにブリスさんの様子を伺っていると、なんとポムが挙手した。
「はーい! ブっさん、質問!!」
!?
「なんだ? ポム」
「なんでミー姐機嫌悪いの? 喧嘩した?」
な!? バッ、……馬鹿っ……。
「……。……大人の都合だ」
一瞬押し黙ったブリスさんは、低い声でそう答え、ミリアさんはそんなブリスさんから目を逸らすように、そっぽを向いた。
そんな様子に、ジークさんの妹で格闘家のフィフィーさんが、ポンポンとポムの頭を叩きながら笑った。
「そうそう! ポムちんにはまだ早いかもねー! ねぇお兄?」
「ソーダナー……」
目を泳がせながらそう言ったジークさんに、口を尖らせるポム。
ガリューさんや、森のエルフの三人は、完全に“我関せ
ず”の姿勢で無視をしていた。
……そしてその様子に、僕は確信した。
やっぱり、あの人達は、僕らを後で裏切るつもりなんだと。
そしてブリスさんは、話は終わりとばかりに地図を広げた。
「経路の確認だ。これから俺達はこのカロメノス湖を迂回し、ディウェルボ火口へ向かう。火口を降った先に“闇の洞窟”があるからだ」
メンバー達は何度も聞いたその内容に、しっかりと頷く。
「森は黒狼王達の巣だ。一体程度なら何とか相手をできるだろうが、群れともなればお手上げだ。匂いを消して、森を抜ける。その点は頼むぞ、ティミシア」
「任せろ。だが音までは防げない。余計な音は立てないことだ」
ティミシアさんの忠告に、ブリスさんは頷いた。
ティミシアさんは森のエルフのリーダーだ。
普段は“入らずの森”に居るんだけど、こうしてファーブニルを倒す冒険者にだけは、力を貸してくれる。
風と土の魔法が上手い彼らがいなければ、黒狼王の森は越えられない。
だから、冒険者達はファーブニルに挑む時、入らずの森へ行き森のエルフの試練を受ける。
僕とポムはその試練に参加しなかったけど、ブリスさん達は見事その試練にクリアして、三人の力を借りれる事になったんだ。
ーーーふと、蝙蝠だけに聴こえる音で、ポムが話し掛けてきた。
『ーーー……オレは着いてくよ。逃げたきゃ一人で逃げりゃいい』
◇
〈ファーブニル視点〉
闇の中で、澄んだ美しい声が響いた。
「ファーブニル様、お時間でございます」
若いダークエルフの女、ローレンだった。
まあ、若いと言っても、今年で400歳を超えている。
オイラはいつも通り、唸りながら答えた。
「……ふん、今日は止めだ。面倒クサイ」
「そうは行きません。私は祖母の代より貴方様の世話を言いつかっております」
「……誰からだよ?」
「“シェリフェディーダ・ローレン・リリサレーナ”私の祖母です」
オイラは舌打ちした。
「チッ、余計な事を。そんな物無視して、とっととお前もどこかに行け。目障りだ」
「役目が済めば何処へなりとも消えましょう」
……相変わらず取り付く島もない。
オイラは溜息を付きながら、のっそりと起き上がった。
そんなオイラに、ローレンは淡々と報告をしてくる。
「それともう一つご報告です。先の一団が、森に入ったようです」
オイラは隠すことなく、喉を鳴らしいやらしい笑い声を上げた。
「……くく、そうか。わざわざ危険な森を通ってくるとは、愚かな奴らだ」
「“湖は毒の呪いがある”と、貴方様が噂を流したからでしょう?」
そう、この山へ到達するための唯一安全な道は、湖を渡る水路だ。
だけどオイラは冒険者なんかと戦いたくはない。
だからオイラを殺る気まんまんでくる冒険者達を間引くため、“危険な道”を選択する様に仕向けた。
そこで諦めて帰るもよし、黒狼王の餌になるも良しって訳だ。
まあ、稀に抜けてくるやつは居ない事もないけど、それはこのオイラの“ドラゴンの力”で以てやっつけてしまえば良い。
オイラは目をとじたまま笑いながら言った。
「信じるほうが馬鹿なのだ。……なにせ、奴のせいで、大勢をこの洞窟で迎え撃つのは不利だからな」
オイラはふと以前ここを訪ねてきた“謎の男”を思い出し、本気で唸り声を上げた。
「……全く、何者だったのでしょうね?」
「知らん。知る気もない。二度と関わりたくないだけだ」
オイラがそう言って首を振ると、ローレンは頷き、スラリとミスリルのサーベルを鞘から抜いた。
「ーーー……そうですね」
そしてそのままローレンは、オイラの首を切り落とそうと飛びかかってきた。
メモ
ブリス(27) リーダー 剣士
ミリア(22) ブリスの恋人 回復
ジーク(25) フィフィーの兄 シーフ
フィフィー(17) ジークの妹 格闘家
ティミシア(132) 風 森のエルフ
ボルスター(160) 土 森のエルフ
シャルル(87) 風 森のエルフ
ガリュー(19) 白虎 ※人間で言うと35歳くらい?
ラディー(11) 蝙蝠
ポム (11) 蝙蝠




