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番外編 〜邪竜さんは、召使い達を追い出したい①(邪竜と小さな冒険者)〜

始まりました!

邪竜編です! ほのぼのにはならないかも知れない……。

 西の果てに“ディウェルボ山脈”と呼ばれる、高い山々が連なる死の山脈がある。


 山頂は万年雪に閉ざされ、麓に広がる森は最古の魔物“黒狼王”の巣だった。

 黒狼王とは、成獣ともなれば全長8メートルを超し、額に大きな一角をはやした黒狼だ。知能と誇りは高く、固有魔法は使えない代わりに、その脚力と顎の力は恐ろしい程強い。

 しかも体を覆う筋肉の鎧の頑強さには、勇者ですら苦戦を強いられる程の魔物。

 言ってしまえば、神話時代の化物だ。



 ーーーそして、神話時代の化物と言えば、もう一匹……。



 それは、山脈の中心に、一層高くそびえ立つ“ディウェルボ火山”の主にして、最凶の化物。



 “強欲の邪竜ファーブニル”



 かつて、醜い邪竜ファーブニルは欲に目が眩み、あろう事か神の宝を盗もうとした。

 しかし盗みはすぐにばれ、罰としてその身に呪いを受ける事となる。

 それは光の下で、盲目となる呪い。

 以来ファーブニルは、光を恐れ、穴蔵に逃げ込んだ。

 だがその穴蔵というのが、ドワーフ達の故郷ディウェルボ火山だったのだ。

 ファーブニルは火山の穴蔵に逃げ込むと、ドワーフ達をその強大な力で追い出し、ドワーフ達の大切にしていた【黄金の宝】を奪った。

 ドワーフ達は必死で抵抗し、何とか邪竜を追い出そうとした。

 しかしファーブニルは、ドワーフ達の溜め込んでいた黄金が気に入ったのか、一時たりともその穴蔵を離れようとはしなかった。


 それから様々な冒険者が邪竜に挑んだが、その力は強大で、性格は残忍、姑息に頭が回る上、眠ることがない。

 ファーブニルは己の手に入れた宝を奪われないように、眠らずその黄金を守っているのだと言う。まさに、強欲の化身。


 それにより、邪竜ファーブニルに故郷を奪われたドワーフ達は、憐れにも散り散りになり、世界中を流浪する羽目になり、その技術は徐々に廃れつつあった。

 なにせ神話時代のドワーフは、ミスリルやヒヒイロカネすら鍛える事ができ、かの大戦で活躍した“緋色の鎖(グレイプニル)”はドワーフ族が鍛え、生み出したという伝説があるのだ。


 今もドワーフたちはその雪辱を忘れはせず、いつか故郷に還り着くことを悲願としている。




 ーーーパタン……。


 オイラは本を綴じて、ブツブツと呟く。


「ーーー……邪神様も酷いとは思ったけど、邪竜も似たりよったりだな。……黄昏の天界戦争の伝説もそうたったけどさ、全然違うくせに、微妙な具合に事実と掠ってんのが、なんか腹立つんだよなぁ……」


 その時、左奥の穴から声が上がった。


「ファーブニル様、又もや冒険者共がこちらを目指して来ております。エルフ3名、人間4名、アニマロイド3名の一団。そしてそれを追うように、別動でドワーフばかり5名の一団です。山の洞窟への到着は明日以降かと」


 オイラはそっちには目を向けず、ヤレヤレと首を振り答えた。


「そうか。報告御苦労であった、ダークエルフよ。……ふん、また性懲りも無く()()()の宝を奪いに来たのか。ゴミ虫共め、少しでも近づいてみろ。全て叩き潰してくれるわ。……黒狼王(ワンコ)共に伝えておけ。「餌がやって来る」とな」

「はっ。では後ほどまたお伺い致します」

「ふん、別にこなくてもいいぞ?」

「いえ、使命ですので」

「……」


 そのまま寝たふりをしていると、ダークエルフの去っていく気配がした。


 オイラは本当に目を閉じ、呟いた。


「……()()()()、ね。今の内に、寝溜めでもしとくか」




 ◇◇◇◇◇◇



 ここは標高6000メートルをこえる、ディウェルボ火山の麓にある、カロメノス湖の縁。

 ここの湖にはかつて、巨大な水上都市が築かれていたという伝説が残っているけど、今やもうその跡形は、どこにもない。

 

「ラディー! ポム! とっとと荷物の片付けしろよ!」

「ハイッ」

「え? あっ、ハイ!」

「……ったく、ぼっとしてんじゃねえぞ、ポム」

「え、えへへ……」


 僕はラディー。そしてポムは僕の双子の弟だ。

 僕達は蝙蝠の流れを汲むアニマロイドだ。

 つい昨年10歳を迎えた僕達は、親元を離れこの冒険者パーティーに加わった。

 ……年齢的に早過ぎないかって? 問題ない。だってアニマロイドとは、人間と動物の混合種だ。

 人間程も寿命は長くない……けどその割に、何故か子供の時期が長い。それもあって、完全な成人になるまで待ってるわけにも行かないから、僕たちはこうやって、ある程度体力が付けば独り立ちをする。

 だけどそれも問題無い。だってアニマロイドは、体力や感覚器官が、よっぽど人間より優れているからね。

 魔法なんかをじっくり学んでる時間はなくても、体力勝負で何とかするのが、アニマロイドの基本的な生き方だ。 


 蝙蝠の流れを汲む僕たちは、兎に角耳が良い。音を頼りに目を瞑って歩けるほどだ。

 そして、背中に生える被膜のついた羽で、少しなら飛ぶ事もできる。

 動物の蝙蝠は、前脚の指の間が被膜になってるわけなんだけど、僕達は何故か両腕以外、背中にもう一対生えてる。……便利で良いんだけど僕らの種族にまつわる、謎の一つだった。


 僕がせっせとキャンプを畳む為の片付けをしていると、ピンと張り詰めたような高い声がした。


「手伝おう」


 風のエルフ、ティミシアさんだった。

 僕はその気持ちを有り難く感じつつも、やんわりと断る。

 だってティミシアさん達は“戦闘要員”、僕達は“雑用係”なんだもん。仕事を取られては、僕たちの居場所が無くなる。


「有難う御座います。ですがティミシアさん達は戦いがある。休んでおいて下さい」

「ーーー……なら、ハッキリ言おう。お前達が鈍くさいせいで出発に遅れが出かねん。私達は一刻も早く邪竜を討ち、早急に森に帰りたいのだ。お前達の様に暇ではない」

「……」


 ……なら勝手にどうぞ。


 僕は無言で手を動かした。

 ポムはと言えば、ティミシアさんの嫌味なんか気にしないで、あくびを噛み殺しながら、マイペースに片付けをしている。

 ……ホント、興味ないことには呆れるほどマイペースなんだよなぁ、コイツ。


 僕が溜息を付きながらポムを横目で見ていると、ふとポムと目が合った。

 僕が“早くしろ”と、顎で合図を出したけど、ポムはニシシと笑っただけだった。




 ◆




 僕が資材を馬車小屋に運び込んでいると、ふと向こうの岩陰から、ヒソヒソと話す声が聞こえた。


 アニマロイド(僕達)は耳が良い。

 少し注意を向けるだけで、1キロ先の人間達のひそひそ話だって、問題なく拾える。


 だから僕は荷物を運びながら、何気なく、……本当に何気なく耳を傾けていただけだったんだ。


『ねぇ、ブリス! 何考えてるの?』


 ブリスさんとは、人間の剣士だ。そして、このパーティーのリーダーでもある。

 そして話をしてるのはミリアさん。回復担当の僧侶兼、薬師だな。


『何って何のことだよ?』

『あの子達よ! なんであんな戦闘能力皆無な子達を仲間に加えたの!? いえ、加えるだけならまだ良い! 今回の暗闇の洞窟に同行させるってどう言うことよ!?』


 僕達はこの先のダンジョン攻略にあたり、“荷物持ち”として同行する予定になってる。

 それの何が問題なんだろう?


『これから行く所は邪竜の洞窟! グリプスみたいにレベリングしてあげられるような生易しい場所じゃないの! 今回集めたメンバーだって、森のエルフに認められた、A級以上の冒険者達ばかりなのに。これじゃまるで……』


 ……。


『“囮みたい”ってか?』


 ……いや、みたいじゃなくて、……もはや餌?

 そりゃ僕はまだ、貴方達と比べたら子供かも知れない。

 だけど……何を言ってるかくらい分かるよ。……え? ホントに、……そういう事なの? 

 去年、仲間に入れてもらって、……僕達結構仲良かったし、……頑張ってたでしょ?

 


 僕は息を潜めながら次の言葉を待ったけど、二人は暫く沈黙を続けた。


 そして先にその沈黙を破ったのは、ブリスさんだった。


『……アイツらは、冒険者を名乗ってる』

『……本気で言ってる?』

『それにあいつ等は蝙蝠の血を汲むアニマロイドだ。暗闇の洞窟の中では、ガリューよりも索敵に長けてる』

『素のレベルが低すぎる! 敵を発見すると同時に殺されるわよっ!』

『逃げ切れる可能性だってあるさ』

『無い! 絶対に無理よ!!』


 ……。


 もう、なんの言葉も思いつかなかった。

 リーダーは、……僕達を殺すために、仲間に誘ってくれたの? 今迄……この一年……なんだったの……? 


 僕が唖然としていると、ブリスさんは怒鳴るようにミリアさんに言った。


『そんなの、俺達だって同じだっ!? このミッションは、邪竜の持つ“黄金の卵”を手に入れること! あの邪竜相手に、オレたちが立ち向かうには、そうするしか無い!! 俺はなぁっ!!』

『っ』

『……っ俺は、……お前に死んでほしくなかったんだよ……』


 ……いや、僕達は死んでいいと?

 冒険者に危険が付きものなのは知ってる。……でも、だからって……、


『最低よ。……このダンジョンを生きて攻略できたら、私このパーティー抜けるわ』

『ーーーっ、……あーそーかよっ! クソっ!!』


 ……ホントに、最低だよ。……仲間を餌になんて……。



 僕は荷物を持ったまま、一歩後ずさった。







 ーーー……逃げなきゃ。







「待てよ」

「!!?」


 突然、背後から声をかけられた。

 振り向けばそこには、白虎のアニマロイドのガリューさんだった。


「……が、……ガリューさん、あの、……コレは、その……」


 僕が震えながら何か言い訳を探していると、ガリューさんは鼻筋にシワを寄せ牙を向くと、唸るように言った。



「……あの色ボケの言ったことは忘れろ」



 ……に、逃げられない……。



「ち、あの馬鹿共が。コイツ等の耳がいいこと忘れやがって……」



 ……パーティー内で知らなかったの……、もしかして僕達だけ?





 僕は逃げられないこの状況の中、たったひとつの想いを、震えながら強く胸に刻み込んだ。





 ーーー……“ポム()を、守らなくちゃ”




「……ねえレイス、どうしてアニマロイドは子供の期間が長いの?」

「もふもふは子供の方がより可愛いから」

「ーーーなる程。真理だね。そして彼等もまた、ひとつのロマンに於ける、犠牲者でもあるわけだ」

「もふもふよ、栄光あれ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 可哀想なもふもふ達よ… レイス様の好みによって子供の期間を長くされるとは…
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