神は、バグった裏ステージを創り賜うた
世界の各地にクリスマスの悪魔が出現し出し、悪魔祓い達が世に普及しだした頃。
世界はあの戦いをお伽噺とし、邪神の完全復活が事実として語り始めた。
ーーーそんなある日の事だった。
「ただいま」
レイスが帰ってきた。
「おかえり、レイス」
「おかえり」
俺とゼロスの歓待を受け、レイスはふわりとゼロスの隣に降り立つ。
そして、嬉しそうに言った。
「出来た。あれでもうクリスマスシティーは問題ない。社員以外は侵入不可能。そして逃亡も出来ない、雪に閉ざされし絶対要塞。その中で1つの完璧なサイクルを、完成させた」
ーーー……サンタさんの森の中と言えば、雪の中にポツンと建つ可愛らしいログハウス。
庭にはトナカイがスタンバイして、ログハウスの中では、暖炉に焚き火を焚きながら、森の仲間がせっせとサンタさんのお手伝いをしています。
(トガリ)ネズミさんはトンカチとんとん。ウサギさんはペンキをペタペタ。エルフは手紙の仕分けをし、サンタさん達もリストを確認しながら、出来上がったおもちゃを箱に詰めてゆきます……。
ーーーだけど実際の現場とは、魔王クラスの強さをもつリスさんが看守を務める、悪魔に見初められし罪人達の絶対監獄。
それでいて、話通りの機能を果たしているんだから、……読み聞かせ用の物語と現実のギャップに、もう目を見張るばかりだ。
ゼロスが首をかしげながら、レイスに尋ねる。
「レイスはもう、サンタをしなくて良いの?」
「レイスはいつだってサンタ。所謂“真のボス”という存在」
フフンと、胸を張るレイス。
なる程。所謂“ラスボス”と言うやつなんだね。
「普段は邪神として過ごしているレイスだけど、一皮むけばなんと、真のボスとしてクリスマスシティーに降り立ち、子供達にプレゼントを配る、優しい人になる」
俺は一つの事実を飲み込み、得意気に腕を組むレイスに、ただ頷いた。
「そうだね。だけどレイスは俺にいつだって優しいし、決して邪神なんかじゃないよ」
ーーー……だって、きっとレイスは気付いていない。
魔王クラスのリスがそのゲートを守る、“悪い子共達”つまり罪人達の監獄。
初代サンタ代理は、この世界のあらゆる業を背負った大罪人。そしてその組織の真のボスは、……“邪神”。
獣王やハイエルフ、最強の魔改造エルフを従えるその組織は、もはやバグった裏ステージに他ならない。
俺は、間違っても勇者がその裏ステージに気付いてしまわない様に、心の底から祈った。
そして、そんな俺の心境など露知らず、ゼロスはレイスに声を掛ける。
「じゃあさ、クリスマスシティーはもう行かなくていいんだよね。ちょっと手伝ってよ!」
ーーー……あ、まずい。
「ーーー……ゼロスが、レイスに手伝えだと?」
レイスの目が輝き、ゼロスに詰め寄った。
「何!? 何!!? ゼロスの頼みは、レイスにお任せっ!!」
うん、デジャヴだ。
俺は懐かしいその憧憬に和みつつも、内心ハラハラとしていた。
だって、その頼みの内容というのが……。
「アインスの事を聞き出したいんだ。レイスからも言ってよ」
「アインスのこと? そんなの、聞くまでもなく知ってる。アインスは樹。それ以外何者でもない」
「その通りだよ、レイス。良く分かっているね」
「アインスは黙ってて」
……俺がレイスを褒めると、ゼロスは俺にピシャリと言った。
最近のゼロスは、おっかないと思う。
「良く考えてみてよ、レイス。普通“樹”は喋らない」
今更ツッコまれた……。
「……でもアインスだし。別に変じゃない」
だよね。
「そこが落とし穴なんだよ! 当たり前すぎて僕も見落としてた! アインスの話にだって、喋る樹なんてあった? 水も空気も無い虚無空間で、生き続ける樹なんてあるの!?」
「……空想神話の話にはあった」
「空想でしょ?」
「……」
「……」
無言で顔を見合わせる2柱。
ーーー……まずい。
あれだけ、俺の知ってる世界の話を、得意気に話してしまったのだ。
確かに一時はあまりの孤独に狂乱し、俺は全てを忘れていた。
だけど2柱の為に、頑張って様々な事を思い出したんだ。
その結果、巨乳武将まで思い出していて、俺自身の事だけ綺麗に忘れたままなんて、流石に無理があり過ぎる。
ゼロスに問い詰められているその内容とは、俺がかつてどんな人間だったか、そして何を経て“樹”に至ったのか。
「……」
俺はチラリと2柱に芽を向けると、じっと俺を見つめる2柱がいた。
「アインス、話してよ。アインスは何? なんで樹なの? って言うか、本当に樹なの?」
「人間は、樹にはなれない。樹は人間からは生まれない。アインスは何?」
ーーー……う。
い、……いいじゃないか。俺の過去は、この世界に全く以て関係ない。
ここは、ゼロスとレイスの世界なんだよ。
そしてこの世界に於いて、俺はただの樹なんだ。
「……」
「……」
……う……、俺をジトリと見つめる、2対のつぶらな美しい瞳。
……でも……、だけど……っ。
「俺は樹だよ? なんの変哲も無い、ただの樹だ。何なら身体検査でもしてみるかい? いや、俺の場合は樹体検査かな?」
シラを切り通す事にした。
「いいの!? やるやる!」
「任せて! 葉緑体一粒逃さず調べ上げる! 覚悟しておくといい!」
ーーー……ワオ。
めちゃくちゃやる気がノリノリだ。
……ま、いいさ。だって誰がなんと言おうと、俺はこの世界では、ただの樹なんだから。
ーーーこうして、俺の樹体検査が施される事となったのだった。




