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英雄達の茶会④ 〜その後の話〜 完結

 

 困惑するルシファーに、俺は笑いながら言った。


「己を磨き、“獣王”の心すらその手中に収めた“ビーストクイーン・ジュリ”だよ」

「……え? ジュリの奴が? でもアイツは……」

「そうだね。だけど彼女は魔物までは魅了できなかった。する気が無かったから。……それに彼女は、単なるピースのひとつでしかない。彼女一人では、条件にはなり得なかった」


 そう、過去のピースはバラバラのまま組まれる事はなく、その力を表す事はしなかった。


「それに、“ドラゴンライダーのウィル”。彼は相手の心を尊び、共に在ろうとした。ただそこに言葉は無かったし、ウィル自身が人間を憎み、己が人間で在る事をいつも否定していた。そういった意味では、ジュリのように、己を磨こうとはしなかった」

「……ドラゴンライダーのウィル……。オレが昔憧れた人物だ」

「ーーー……憧れてたの? クールガイの俺様的性格だったって話だけど、真逆じゃない」

「うるせぇ」


 俺はクスクスと笑いながら、最後の一人を言った。


「そして最後の一人は、ルーベンス」

「……? 誰だ?」

「“ジャック(名無しの男)”としてなら知ってるかな?」


 ピンときたように、すかさずマスターが答えた。


「“ジャック・グラウンド”ですか」

「そう。彼は本当に動物や、全ての者達の声を聞くことができた。……ルドルフも似た力を持っていたけど、彼は他を敵としか見てなかったからね」


 そこでふとルシファーの眉間にシワがより、何かを考えるように拳で口元を隠した。


「……ジャックは動物共の声を、本当に聞けた……? 確かその手記が、物好きの大富豪に……。……え? まさか……」

「? どうかしたの? ルシファー」


 首を傾げるマスター。しばらく無言でルシファーは考え、最後にポツリと言った。


「ーーー……何でもねぇ」


 ルシファーはきっと、偉大なジャックグラウンドの創始者の罪と闇に気付いたんだ。後を生きる者達によって、改変されてしまった真実の記憶に。


 ……だけど知った上で、沈黙することに決めたんだろう。

 彼の闇を暴かない様に、そしてそもそも暴いたところで、今更どうにもなりはしないのだから。


 因みに彼が遺した手記は、今尚アビスの戦火を逃れ、ひっそりと図書館の片隅に眠っている。

 かつての司書ノエルに、あの後目録の追加をすっかり忘れられ、今尚その存在を知られる事なく、ポツンと本棚の影にあるんだ。


 俺はルシファーの決断に、小さく祝福を贈り、話を続けた。


「奇しくも当時の彼等には繋がりがあった。だけど、彼等の道が交わることはなかった。アーサー王伝説のもととなった勇者にも、共存を願う心はあったが、使命がそれを邪魔した。魔物達は勇者と戦いたくて寧ろ待ち焦がれてる位なんだから、仲良くしようとか無理だよね」

「……その点、黄昏の勇者はうまかったですね。僕にダンジョン(コロッセオ)を建てさせて、来るもの拒まずで戦ってた。何気に歴代で、最高殲滅数を誇ってましたよ。あれを理想郷(アルカディア)とか言ってたんだから、もう狂気としか言いようが無い」

「うん、解釈は人それぞれだね」


 ……彼は、身内以外本当に容赦しなかったなあ……。

 ある時は周囲に砂糖を吐かせ続け、ある時は一閃の元にSS級の魔物を沈める。だがその魔物達と言えば、嬉々として勇者の相手(死地)へ赴いた。………歴代先最強の“覚醒せし者”と闘えるのだから、命など惜しくは無いと咲いながら。

 そうして、黄昏の勇者は何千万という魔物を屠りつつ、“和平”を高らかに説き語ったのだった。

 ……もう人間達は、良くも悪くも彼を測り知ることが出来ないと悟り、歴史に彼の人柄を遺す事を拒否した。

 

 おっと、思考が逸れた。

 俺はまた、話を戻し二人に話した。


「だからと言って、アーサーが無駄だったと言う事もない。彼の思いを引き継いだのが、ライラだった。アーサーの遺した絆の街(トゥーリノ)の歴史が無ければ、彼女の想いはこの世界に現れなかったのだからね」

「……」

「……」


 そう。上手く行くときも、行かないときも、“今”と言う結果に不要なものなど一つもない。何かを成す者も成さない者も、正しい者も卑怯な者も、英雄達も、……そして名も無い者達も。



「だから、また奇跡は起こるよ。間違い無くね」

「……」

「……」



 例え、どんなに低い可能性だったとしても、未来が続く限り、きっとね。

 だから別に、“今”を悲観する必要なんて無いんだ。


「ーーー……それにね、俺は今の人間達の考えも、良く分かるんだ。彼等だって悪気があっての事じゃない」


 俺の言葉に、二人は不満げに顔を上げる。

 まあ俺みたいに見てただけじゃなく、実際に成した当事者達だからね。


「アインス様はいつだってそうですよね。少し位呆れてみられては?」

「……そう、流石にあれは酷すぎます。庇う余地は無いでしょう」


 ……二人は口を尖らせながらそう言ったが、実際それは俺の本心で、決して庇っているわけではない。

 俺は二人に、遠い昔の物語を思い出しながら言った。


「ーーー……いいや、分かるとも。500年と言えば大体、織田信長の時代だね。100年も無い寿命で、そんな昔の事を熱く語られたって、その500年後を生きる者たちにとっては“ふーん”としか言いようが無いもの」

「の、信長? 昔聞いた物語の武将の……?」


 俺の話に、二人の顔に困惑が浮かんだ。

 だけどこの二人にはかつて“尾張の大うつけ者”の話はした事があったから、俺は気にせず話を続けた。


「普通の者ならどれ程熱く語られたって、試験前に徹夜で覚える以外、大河ドラマでその偉業に思いを馳せる程度しか出来ない。一部のマニアを除いてはだけど」

「て、……徹夜で試験勉強?」


 おっと。真面目な彼らには“一夜漬け”の概念が無いようだ。

 ならばこれはどうだろう?


「500年も経てば、かつての英雄達なんて、女体化された戦国武将ゲームの、ツンデレ巨乳になる運命なんだよ」

「……っ!?」

「……女体化? ……巨乳?」


 ……あれ? おかしい。乗ってこない。

 かつて彼らは「ヤローと美女が居たらどちらに声をかける?」「美女に決まってるだろう!」なんてやり取りをしていたから、てっきり理解をしてもらえるだろうと思ったわけなんだけど。


 ーーー……なんと言うことだ。ドン引きされた。


 ルシファーなんて、顔を赤くしながら絶句している。

 つい先程、ルシファーに“余計な事は言わないほうがいい”なんて思ってしまったが、どうやらそれは俺の方だった。……樹が喋ること自体、きっと余計な事なんだと、俺は思い知った。


 そして唖然としながらも、ルシファーより早く我を取り戻したマスターが、眉間に深く皺を刻みながら言う。


「酷いですね。……いや、酷いなんてものじゃない。一体何がそうさせたんでしょう?」


 ……一体何がそうさせたか? 俺にもよくわからない。

 ただもし、その想いを表現するとしたら、おそらくこれだろう。



「……きっと、“ロマン”じゃないかな?」

「……」

「……」



 深い沈黙に包まれた。




 ーーー……そう言えば……。 




 俺は長い沈黙の中、ふと思った。

 そう言えば、“聖杯戦争”は、ゼロスのロマンによって、開幕されたんだった。

 そして、レイスのロマンによって、戦いは熾烈を極め、静寂の中に終わったのだった。



 マスターがポツリと呟いた。


「……ロマンとか、……ホントふざけんなって感じですね」


 マスターはどちらかと言えば、リアリストだからね。

 それを合図に、ルシファーが無言で席を立ち、扉に向かう。


「ルシファー?」

「帰る」

「……そう。いいけど、珍しいね。こんなに早く帰るなんて」


 マスターの言葉に、ルシファーは唇を噛み締め、声を絞り出すように言った。


「……神々の聖心に、……付いていけない」


 マスターはルシファーの無礼を責めることなく頷き、湯呑を片付けた。


「……そうだね。いつだって神々は、予想の遥か斜め上を行く。理解なんて、出来る筈ない」

「その通りだ」



 ーーーパタン。





 そうして、ルシファーは魔窟へと帰っていった。


 俺はふと、彼の後ろ姿を見ながら呟く。




「ーーー……君はもう、神の領域に踏み込んでるんだけどね……」





 だって彼の言葉は、レイスの言葉に、とてもそっくりだった。




 “ーーー人間共、賢くなさ過ぎるだろ”




 そんなに深く考えなくても、この世界は回っていくんだよ。


茶会と5章は完結です。

次話から新章に入ります。




おまけです。


ーーー戦いの後の小話


ガネシャの舎弟A「その斧、あのマフラー、その喋り方……。ライラ姐さん、……ライラ姐さんの姐さんってもしかして……」(ガネシャの舎弟)

ライラさん   「ん? お姉様を知っとんのか!?」

ガネシャの舎弟A「いえ、確証は無くて。どんな方でした?」

ライラさん   「メチャクチャ強かった。賢こて、優しい人やった」

ガネシャの舎弟A「……。(確かにガネシャさんは強かった。商売もうまくて賢かったし、奴隷を助ける事もしてた……。やっぱりライラ姐さんの姐さんってっ……)」

ライラさん   「ホンで、何より誰よりも“美しい人”やった」

ガネシャの舎弟B「……(違う)」

ガネシャの舎弟C「……(違うな)」

ガネシャの舎弟D「……(ないない)」

ガネシャの舎弟A「……人違いでした。(あの人はごついオカマだったもの)」

ライラさん   「ほーか、またなんか分かったら教えてな」


……そして彼女(?)の名は、やはり世に残りませんでした。


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