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神は、友を祝福し賜うた

 ライラの髪と同じ、紫紺に染まる空をルースは見上げていた。

 胡座を組みながらドカリと地面に座り込み、それはウンザリした不貞腐れ顔だ。


 そして誰にとも無く、少し鼻を啜りながら呟く。


「……もうさ、勇者と契約紋交わしちまえばいいじゃんよ。何なの? 俺、何なのかな? 戦いも終われば、ひたすらに辛いんだけど、この契約紋」


 戦闘能力に長けた魔族の耳はとても良い。

 ライラは耳聡くルースの独り言を聞いて、赤面した。


「そ、そんな……勇者に心の全部見せるとか……恥ずかしすぎて無理やぁ……。アカン……考えただけでも、死んでまいそうっ」


 ルースは砂糖を吐き、勇者は俯くライラをキュっと抱き締めた。


「いいんだよ。僕も君のこと、少しずつ理解したい。教えてくれる?」

「う、うん。……ゴメンな? でもホンマ、好きすぎて無理なんよ……」

「……くっ、お義父さん、本当にこの子を産んでくださってありがとうございます! 僕、永遠にお義父さんを尊敬します!」


 魔族の娘は勇者を悶え苦しませ、その隙に魔族の長は憎き勇者の首を刈ろうと、爪を掲げた。


「おのれ勇者メェっっ!! 絶対、絶対にっ、許さんからなァァァァッッ!! 魔王様が認めようと、俺は認めんからなぁぁーーー!!」

「よっしゃ。オトン勘当や」


 ライラは実は、バッサリ系女子だ。(対象外∶勇者)

 父親すらバッサリ斬り捨てる。


「な、ライラ!? 馬鹿な事を……」


 困惑する父。

 威厳を守ろうとする勇者。


「そうだよライラ。僕はお義父さんにもキチンと認めて欲しいんだ。分かってもらえるまで頑張ろう。一緒に」

「……勇者が……そう言うなら、アタシも一緒に頑張る!」

「うがぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっっっ!!!」


 頬を染めながら目を輝かせるライラに、魔族は絶叫した。


 勇者達が楽しげに戯れる、そんな平和な暁の空の下、突然ルシファーの声が上から響いた。


「ラムガル様!! こちらに居られましたか! ……げ、勇者サマも居るのかよ……」


 ラムガルは、空からこちらに向かって降りてくるルシファーを見留め、声を掛けた。


「ルシファーか。その翼はどうした? ……いや、あの混乱であった。貴様の事だ、翼を犠牲にしてでも“守るべきもの”を死守したという事だろう」

「え? ……いや、えっと……」


 ルシファーの顔が引きつる。

 しかしラムガルは、穏やかな微笑みを浮かべながら、そんなルシファーを褒め称えた。


「貴様の先の功績は聞いているぞ。亡者共や悪魔共を良く纏め上げた。更にはあの“悪の権化”を、良く使役したと言うこともな」

「はは、は……ありがとうございます」


 ルシファーは魔王からの賛辞に、欠片も奢る事なく、寧ろ若干目を逸らし気味に頷いた。


 その時、ルシファーの背後から、ふてぶてしい声が上がった。


「ーーー……悪の権化って、もしかして僕の事?」

「っき、貴様!!」


 そう。マスターの登場に、その場にいたルシファー以外、全ての者が身構えた。……と言うか何故、マスターを知らない筈のルースまで身構えているんだろう? 本能だろうか? であれば、それはもう百戦錬磨の獣並みの勘の良さだ。

 皆は反射的に身構えたけど、当のマスターはもう何のヤル気も無いようで、溜息のように鼻を鳴らしただけだった。

 そんなマスターを、ルシファーは呆れ顔で見やりながら、ラムガルに言った。


「ラムガル様、お伺いしたいことが御座いまして。……今回での戦死者の魂、どう致しましょうか?」

「どうするも、死は覆らぬ。輝きに足りぬ魂など、散って終わりだろう」


 そう淡白に言い切ったラムガルに、ルシファーは困ったような顔で言った。


「……それが、……この戦場に駆り出されていた者達は、魂の輝きが足りているのです。そして、息を潜めていた者達の死因は主に“神々の攻防に巻き込まれた”事。その本来あり得ない衝撃により付いた“魂の傷”により、復元が可能なのです」

「な……」


 ラムガルの目が見開く。

 ーーーつまり、この戦争で散っていった想いを、拾い上げる事ができる。

 だが、ラムガルは首を縦に振らなかった。


「この戦で散った者共、数百万では済むまい。流石のお前にも、全てを見ることは出来ん。だからといって、選別することも出来ぬ。……何故ならそれ等の想いに、大も小も無いのだから」

「……」


 ルシファーは俯き、黙り込んだ。

 出来る事なら、全てを拾い上げたい。……だけど、明らかに彼一人で賄える範疇を超えていた。

 沈黙する彼等に、突然第三者の声が掛けられた。


『……どうか、拾ってやってくれないか』

「!!?」


 そこには、銀色の輝きがポツンと浮かんでいた。

 銀色に輝く魂。……そう、シヴァだった。


 ルシファーが飛び退き、ナイフを構えながら叫ぶ。


「テメェッ、何しに来やがった!!?」 


 浴びせられる罵声に、銀の光はボンヤリと男の姿を映し出した。

 シヴァは深々と頭を下げた。


『すまなかった。俺の望みの為とはいえ、ここ迄事を大きくしてしまった事。この身一つでは償いきれない事、重々承知している』


 ルシファーはシヴァの謝罪を受け入れる気などサラサラなく、なおも睨みながら、挑発するように言う。


「そーだよな。こんな事になったのはオメェのせいだ。オメェの提案なんざ、受け入れるわけねぇだろ」

『……頼む。罪を償いたいなどと言うつもりもない。ただ、散って行った想いにどうか機会を与えてやってくれ。人間達と聖獣達の魂は、俺が責任を持って見る。俺は彼等をよく知っているから、俺なら出来る』

「……」


 黙り込むルシファー。出来る事なら拾い上げたい、……が、シヴァの手を借りることには抵抗があった。

 その場を包む静寂の中、ここまで事を大きくした、本当の原因達の声が上がった。


「ああ、その件なら今回は特例を出す。僕達の力で散った者達は、僕達で元に戻そう」


 彼らの上には、創世神達が神々しく浮かんでいた。

 レイスはまた、いつもの黒い仮面に付け替えている。夜は終わったからだろう。

 そして2柱の姿に、ルシファーは思わず声を上げた。


「げ……、ゼロス様にレイス様!!」

「……今、“げ”って言った?」


 ゼロスはジトリとルシファーを睨む。

 神の視線から逃れるようにルシファーは跪き、震えながら深々と頭を下げ、白を切る。


「いえまさか。この度はご機嫌麗しく」

「……まったく。まあ、そういう事だから。それでいいんだよね? レイス」

「うん。構わない。良い事があった時は、近所にお裾分けするといいと、以前アインスが言っていた」

「……(アインス様、また余計な事を……)」


 再びルシファーは沈黙したあと、恭しくその提案を断った。


「ありがとうございます。しかし、その件につきましては、

 このシヴァと話を着けたところ。神々の手を煩わせる必要はございません」


 シヴァが驚き、声を上げた。


「……良いのか?」


 ルシファーがシヴァを睨む。


「お前は黙ってろ。ここでまた神々に頼んでみろ。第二のお前が数百万単位で産まれるぞ。……勘弁してくれ」

「……」

「……」

「……」


 シヴァは無言で頷いた。

 そしてそのひそひそ話は、ゼロスとレイスにも聞こえてたわけなんだけど、2柱は聴こえなかったふりをして沈黙した。


 そこで勇者が声を上げた。


「なら、魂達の滞在期間は20年にしたら?」

「? 20年? なんで……」

「いや、僕がこの身体で、世界に滞在出来るのが“20年”なんだ。その間なら、何か問題が起こりそうになっても、僕が手伝える」

「いいんですか? 勇者サマ」


 ルシファーが訪ねると、勇者はそれは美しい笑顔をその顔に浮かべながら頷いた。


「この世界にはもう、倒すべき魔物も魔王もいないからね。その位のことはやるさ」


 その全ての者を惹きつけるカリスマ力を放つ勇者に、ルシファーは思わず見惚れた。


「ーーー……勇者サマ……、なんか、勇者っぽいですね」

「っ勇者だよ! コノヤロー」


 またもや贈り物を断られてしまったゼロスは、困った様に笑いながら、シヴァに声を掛ける。


「やあ、願いが叶った気分はどう?」

「……悪くない。だが、夜のお前達の戦いを見て、まだ震えが止まらん」

「そういえば聖杯戦争の時の決戦、君は見てなかったんだったね。今回はちゃんと見てたんだ。何してたの? 手伝って欲しかったのに」

「ふざけろ! 下で走る地竜(ジャイアントランナー)を捌くだけで必死だった! と言うかあんな人外決戦に、手出し出来る分けないだろう!?」


 シヴァは様々な問題を起こしたが、概ね正論しか言わない。

 ……ゼロスはその敬語でない物言いに、笑み浮かべながら言う。


「ねえ、立場は違うけど、僕は今でも君達を“友”と思ってるよ。かつての心は無くしても、記憶はちゃんと僕の中にある」

「あれだけの事をされておいて……。相変わらず真似のできないお人好し振りだな。……だが、あの頃は楽しかったと、俺も思う」


 それからゼロスとシヴァは、握手を交わした。



「その聖なる魂に祝福を」

「“友”からの祝福なら受け取っておく。……あぁそうだ。世界樹様(アインス様)にも随分迷惑をかけた。俺は罪人。聖域にはもう近付かない。だからすまなかったと、伝えておいてくれないか」

「ああ、アインスなら聞いてると思うよ」


 ……あ、俺? うん、聞いてるよ。

 別に迷惑なんて、何一つかけられた記憶はないんだけど、……返事をしないと失礼だよね?

 俺は少し考え、当たり障りのない返事をしておく事にした。


『謝る必要なんてないよ、シヴァ。君は君の想いのままに生き抜いただけ。とても美しい、“銀色の輝き”だった。誇ればいいんだよ』


 俺の言葉に、皆は驚いて顔を上げ、遠くに(そび)える俺を見上げた。

 あれ? 言ってなかったっけ。

 俺はこの世界の裏側にだって、声を掛けられるよ。かつて泣いているキッドを呼んだ時みたいにね。

 みんなに注目され、少し照れてしまった俺は、はぐらかす様にあるある無駄知識を無意味に披露した。


『……そう言えば、ゼロスの心は綺麗な金色だった。知ってる? 金色に何を混ぜても、銀色にはならないんだよ』

「……」


 ……。


 一瞬その場が沈黙した。

 あれ? 俺なにかまずいこと言った?


 しばしの沈黙の後、何故かシヴァが涙を浮かべながら、嬉しそうに笑って言った。




「……貴方が、この世界の父と呼ばれる理由が分かった」




 ……なんの事だろう? 

 たまに言われてる事もあるけど、未だにその理由は未解明だ。


 ポツリとゼロスが、レイスに言った。


「帰ろっか。アインスの所に」


 レイスは頷いた。




 ーーーそれからシヴァは、楽園(エデン)に昇り、マリアと共に20年間ずっと、聖者達を率い楽園(エデン)の立て直しに従事した。

 その後、彼の魂は流れに戻ったが、稀に“ゼロス(創世神)の祝福”を、生まれながらにその身に宿した者が、産まれるようになったそうだ。




 俺は二柱の帰還に、誘う様に枝を揺らし迎えた。


 そして俺はいつも通り、2柱に言うんだ。






 おかえり。ゼロス、レイス。

 









ーーーそして神々は、色々やらかしてし過ぎて立つ瀬無く、居たたまれなくなり、逃げるように家に帰っていきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] アインス様はいろんな場所へ声をかけられるんですね。 すごいです。 世界の父? わたしも分かりません。 理由なんですか? いつでも見守っているからですか?
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