神は聖剣と魔剣を創り賜うた
「さて。ある程度丈夫な素材は創れたけど、これで服って作れるのかな?」
ゼロスが創った鉱石を前に、腕を組んだ。
うん。だって……石だもんね。石で服? うーん。
ゼロスとレイスが無言でチラリとハイエルフを見る。
創造神のニ柱から視線を一身に受け、ハイエルフはビクリと身を震わせ固まった。
暫しの無言の時間が続き、何だかハイエルフが物凄く気まずそうにして可哀想だったので、俺は口を出してみる事にした。
「ゼロスとレイスは【衣服】を創ろうと考えているんだ。だけど、中々二人の日々の生活に耐えられる素材がなくて、新しい素材を開発していた所でね。ハイエルフ達はこういう鉱石を加工して衣服を作ることはあるかな?」
ハイエルフは『ああなる程』と、少しホッとした表情を見せた。
いくら一を聞いて十が理解出来る仔達でも、流石に情報無しじゃちょっとキツイよね。
「私共は鉱石で衣服を作ることは御座いません。飾り用、もしくは防御力を高めたい部位に添える程度で御座います。理由としては“伸縮性の悪さ”と“重さ”でございます」
ハイエルフの意見にレイスは深く頷いた。
「重さは問題ない。寧ろ創造物が飛んでいかないように、レイスが敢えて重力を発生させてるくらい。だけど金属は硬い。細く繊維に加工したら、伸縮性がないから折れる。割れる。壊れる。それは大問題」
「確かにね。やっぱり鉱石は服創りには向かないか。ハイエルフ達は石素材で一番多く何を作るの?」
「矢じりや短剣が多いです」
ハイエルフの答えにゼロスが首を傾げた。
「魔法で事足りるのに、何故わざわざそんなものを作るの?」
「はい。全てを神に与えられた物に縋る事は、個としての生を捨てるという事にございます。必要な時、必要な分だけ神に与えられし能力を使い、必要ない時は自身の力のみに慎ましく生きる。それが私共の種の美徳と考えております」
ハイエルフは真面目だ。
「なるほどね。その慎ましく生きてる時に使う為という訳か。なんか僕も慎ましく、剣とか創ってみたくなっちゃった」
いや。剣を創るのは良いんだけど、剣を創ることが慎ましいと言う事ではないよゼロス。
「今、服を作ってる最中」
少しムッとしながらレイスが言う。
ゼロスは楽しげに笑いながら言った。
「せっかく鉱石があるんだしちょっとだけ! どうせこの鉱石で服は創らないんでしょう?」
「……。しょうがない、だけどレイスも創る」
―――この二柱は本当に可愛い。
お互いが大切で、大好きで、頼まれた方が必ず負ける。
それから二柱はいそいそと、仲良く鉱石を使って剣を創り始めた。
「ヒヒイロカネは、1億2千万度で融解する。3千まで行くと焦げる。気をつけて」
「OK。アダマンタイトは融解せずに炭化するね。削り出し加工だけしか出来ない。んー硬い。レイス、ちょっと削るもの何かない?」
「ん。レイスの爪で良ければ」
「あ、イイね。カンナみたいに、なめらかに削れるよ」
二柱は楽しそうにワイワイと仲良く創っている。
様子を見守るハイエルフは若干引きながら“炎とは、なんと恐ろしい……神が我らに使う事を禁じられたのも頷ける”などとボヤいていた。
そうだね、二柱共。1億2千万度って言うと、核融合の着火点辺りだから気をつけてね。
―――こうして二本の剣ができた。
ゼロスが創ったのは、芯に少しの聖石を使ったアダマンタイトの洋剣。
スラリとバランスの良い刀身はクリスタルのように透き通り、芯に使った聖石から漏れる光の揺らめきが刀身内を反射して、剣全体が白を基調とした虹色の光で包まれていた。
柄は白金のミスリルで、シャープなラインの天使の翼が刻み込まれている。
全体を白で纏められたそれは、実にゼロスの好みそうなデザインだ。
一方でレイスの創った剣は、……剣?
……ゼロスと同じく芯は聖石で創っている。
ヒヒイロカネとダークマターで成型されたそれは、ヒヒイロカネ越しに聖石の光が漏れ出し、赤黒い光がゆらゆらと立ち昇っている。本当はヒヒイロカネだけで創りたかったんだろうが、失敗して焦がしたダークマターがあちこちにシミのように浮き上がっているのが見て取れた。
造型は仁王像の髪の毛みたいに湾曲のあるトゲトゲで、平たい刀身自体には、大小様々な穴がそこかしこに空いている。
柄は無く、マグマが自然に冷え固まったようなボコボコとした長いグリップが刀身から剥き出しに生えていた。
……なんと表現すればいいのか。そうだ。あれだ。
―――斬新な“フライ返し”。
「レイスのこれは、アインスの形をモチーフにした」
あ。俺だったのか。
「うん。とっても上手だね。ありがとうレイス」
俺は嬉しくなってレイスにお礼を言った。
「全然似てないし、色も変だよ」
と、ゼロス。
するとレイスはキョロキョロとあたりを見回し言った。
「……。ハイエルフは、どこに行った?」
「あぁ、ハイエルフなら火が怖かったみたいで帰ったよ。俺が“もう帰っていいよ”と言ってしまったんだ」
「そう」
俺の言葉にちょっとがっかりするレイス。
多分ゼロスに叩かれたから、ハイエルフにまた褒めて欲しかったんだろう。
大丈夫。レイスらしくてとっても上手だよ。
それからレイスはじっと自身の創った剣を見つめた後、ポツリと言った。
「剣創ったけど、やっぱりレイスいらない。ラムガルにあげようかな」
「え、そうなの? じゃあ僕も勇者にあげようかな」
あれゼロス。慎ましさはどこに行ったのかな?
俺はくすくすと笑いながら二柱の会話を聞いていた。
ゼロスが言う。
「最近さ、レイスとラムガルで結構色々な魔物を創ってるでしょ。勇者ならきっとこれうまく使ってくれると思うんだよね」
「だけど勇者いない時に他の人間が触ったら、余計な揉め事起きる」
「あ、あり得るかも」
レイスの懸念にゼロスも同意する。
「剣の番人も創らないと駄目」
「剣が自分で身を守れればいいのにね」
ゼロスがそう言った時、ふとレイスが思い付いたように提案した。
「勇者みたいな魂とメモリー、剣に入れる?」
「え? でも死の制約は?」
「剣に自我があれば自分で身を守れる。種を残せるものでもないから良いと思う」
レイスの言葉にゼロスの顔が輝いた。
「レイスがいいならそれが良い!」
「わかった。ちょっと待って」
レイスが新たな魂を創る間、ゼロスはずっとウキウキと鼻歌交じりに待っていた。
「ねぇ、レイス。魂入れるならさ、名前つけようよ! 勇者みたいに代替わりしないし、付けていいよね」
「いい。レイスはもう決めた。ツヴァイ。アインス(1)そっくりだからツヴァイ(2)」
「だから似てないってば。うーん……“ヴ”って発音かっこいいね。ヴ、ヴ……ヴェルダンディーとか?」
「いいと思う」
魂を入れられた剣は自我を持ち、マナを操って声を作り意思を伝える事が出来る様になった。
そして自身の過去の使い手達の記憶を、自身の中に記録する事も出来るそうだ。そう。例えば必殺技の再現とか。……とはいえ、新たな使い手の肉体レベルが、それを使うに値するレベルに鍛え上げられるまでは使えないらしいけどね。
魂を込められたツヴァイが喋った。
「強くなりたいか? ならば我を手に取れ!」
レイスの創造物だから自分が大好きで、自分の力を早く試したいんだろう。
次にヴェルダンディーも喋った。
「―――汝の力を、我に示せ」
“あなたの力はどのくらいですか? それに応じて私の使い方をお教えします”とでも言いたいんだろう。
ゼロスの創造物らしく気遣いが出来て、とても優しい。
だけどラムガル並みか、それ以上の口下手臭がして俺はちょっと心配になる。
―――こうして聖剣ヴェルダンディーと、魔剣ツヴァイが出来た。
と、その時俺は1つの疑問を抱き、二柱に尋ねてみた。
「ヴェルダンディーと、ツヴァイはどうやって身を守るんだろう? 剣だから動けないよね?」
マナ保有量ではレイス、ゼロスに次ぐ俺が、かつてゴブリンに樹液を吸われ、何も出来ず立ち枯れそうになった経験があったからだ。
俺の質問に、先ずゼロスが答えてくれた。
「ヴェルダンディーは【重力魔法】が得意なようにしたんだよ。使い手を勇者に限定したから、勇者以外が使おうとすれば超重量になるよ。誰も使えないからイタズラも出来ないんだ」
「へぇ」
なる程。ありがちだね。
次にレイスも答えてくれた。
「ツヴァイは何でも出来る。自分でマナをそこそこ操って動けるし、もし“自分に相応しくない”と思う奴に使われた時は、使い手を殺せるくらいの力は持ってる」
なる程。ありがちだね。
俺は頷いた。
「そうなんだ。凄い剣達だね。今度俺も二柱にマナ操作とかをを学ぶべきかな?」
俺が二柱に感心ついでにそう尋ねてみれば、二柱は一度キョトンとした顔でお互いの顔を見合わせ、それから同時に言った。
「「アインスは僕達/レイス達が守る。だからアインスはそのままでいい」」
俺は一瞬驚いて、それから二柱を抱きしめたくなった。
―――そうだね。俺は何もしない。ただ、ここに在るだけの存在。
満足だよ。
俺は十分幸せだ。
ところで、神々はまだ真っ裸。
まだまだ素っ裸回が続きます。




