聖夜の奇跡④ 〜戦争の結末〜
ーーーレイスの言う通り、僕は甘かった。
ゼロスは唇を噛み締めた。
ゼロスは気付いた。自分の“甘さ”の正体に。
世界と妹を天秤にかけろと言われて、優しいゼロスは両方を取った。
両方を同時に守れる力など、持ってなかったのに。
だってどちらも大切にしたかった。
でもレイスはそれを許さなかった。
レイスはゼロスに、世界を滅ぼして神でいろと言ったのだ。
ゼロスはレイスがこの世界を、滅ぼしたがっている事はずっと知っていた。
だからそれを止めるために、ゼロスはずっと神であり続けた。
この世界を守るため、そしてレイスに足りない部分を補う為に、神で在り続けたのだ。
そもそもゼロス自身の身体も含め、この世界はレイスの肉で成っている。
……そう、賢いゼロスはずっとずっと昔から、自分が“余りの神”という自覚を持っていた。
神としても半端な存在。だからといって当然、創造物でも無い。それがゼロスだ。
……そしてゼロスは、かつてレイスが楽園の大地を創り上げた時悟った。
“ーーーこれ程美しいものをレイスに創れるなら、僕はもう必要ない”
だけどゼロスはレイスが好きだった。
孤独にさせたくないし、自分も孤独になりたくはない。
だからあの時は、言葉を飲み込んだ。
だけど今なら、はっきりと言える。
“ーーー神は、2柱も要らない”
ゼロスはレイスの投げた破壊法を捌き切り、手に集めた力を指先に集約した。
そしてまるで指鉄砲でも構えるように、指先をレイスに向け言う。
「ねぇレイス。本当は、別れ際は笑顔で見送りたかったんだ」
「? ……ゼロスの気配が変わった。覚悟を決めたか?」
「決めたさ。僕はね、この世界を守る。僕はこの世界の神だから。そしてもし守り切れなかったら、僕はこの世界と共に消えよう」
レイスは首を傾げながら笑った。
「ーーーそこまでしなくても良いと思うけど。だけど、いい覚悟」
「そこまでするさ。……だってレイスはもう、一人で平気だから」
ゼロスの全力でレイスを消し飛ばしたとしても、何万年か先、レイスはきっと復活する。そしてまたきっと、ひとりで世界を創り始めるだろう。
ゼロスはまあ、レイスが居ないと復活どころか、力の補填もできないわけなんだけど。
それでもいいと、ゼロスは思った。
だって世界はもう、“神”を必要としていないと知ったから。
レイスは自分の背後に、10本の黒い大剣アロンダイトを創り出すと、無言でそれをゼロスに投げつけた。
ゼロスはそれを避けず、狙いをつける。
そしてまっすぐレイスに指を突きつけたまま、静かに言った。
「神の光」
ーーードドドドドドドドドドドッ……
ゼロスの指先から、一筋の揺らめき立つオーラを纏う閃光が放たれたと同時に、10本のアロンダイトが、ゼロスの身体を貫いた。
「ーーーっ」
さっきの神の光に渾身の力を込めたゼロスは、その勢いに抗う事ができず、とうとう大地へと落ちて行く。
だけどその刹那、ゼロスはハッキリと見た。
自分の放った神の光が、レイスの胸にぶつかる所を。
それから、ゼロスの身体は凄まじい轟音と共に大地を抉り、辺り一帯をクレーターへと変えながら、地に沈んだ。
アロンダイトでその身体を刺し貫かれ、大地に縫い止めながら、ゼロスは空を仰いだ。
巻き起こした土埃で視界は見えない。
世界の音を聴いて様子を探るのも億劫なほど、ゼロスは力を使い果たしていた。
ーーーごめんね。レイス。
ゼロスが心の中で、小さくそう呟いた時だった。
風が渦巻き、厚い砂埃の壁が晴れる。
「ーーーっ、そんな……」
そこには、何事もなかったように佇む、レイスがいた。
ーーー……なんで?
その言葉が口を突く前に、ゼロスはその理由を理解した。
レイスの背後にひかりかがやく光球が浮いていた。
「さっき砕けた反射鏡の破片をいくつか拾って置いた。そこにある物を武器とするのは、暗殺者にとっての基本戦法。……神の光を何百個も同時に操るのは面倒で嫌だけど、一球くらいならレイスにも出来る」
地に縫い留められ、もはや反撃のできないゼロスの瞳が、絶望に染まる。
ーーーやられた……。
「……所詮、神の光なんてただのエネルギーの塊。理に従い動くだけ。だから、こんな簡単に、レイスにも奪える。ーーー……何してる? ゼロス。なぜ立ち上がらない?」
レイスは不思議そうにゼロスを見つめ、それからつまらなそうに目を細めた。
「……もしかして、終わり?」
ーーー終わった……。
声にもならなかった。
ゼロスはレイスをよく知っている。だから、この後レイスが何をするか、瞬時に理解した。
「ーーーそう。なら、自分の放った力で、終わらせてあげる」
レイスが反射鏡を僅かに動かした。
そしてポツリと、優しげな口調で言う。
「ーーー大丈夫。ゼロスにはまた、肉をあげるから」
ーーーヤメテクレ……。
ゼロスは、シヴァの心を知った。
逃れられない牢獄。
与えられない尊厳。
そして無情に、光は世界に向け、放たれた。
◇
その一瞬は、ずいぶん長く感じられた。
ゼロスが訪れ無い崩壊を不思議に思い目を開けると、二人のエルフの背中が見えた。
ゼロスとレイスの戦い方や、会話、ツッコミを入れたいのですが、場面が場面なので控えます。
皆様でツッコんでやって下さい!(´;ω;`)




