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聖夜の奇跡③ 〜黄昏の天界戦争17

 ゼロスが叫ぶ。


「レイスッ、いい加減にしろっっ!!」


 だけどそれは、轟音に掻き消され届かない。

 たとえ届いたとしても、レイスが聞き入れるはずなど無いんだけど。

 レイスは攻撃の手を一瞬止め、冷酷な視線で見下しながら、空中に佇むゼロスに怒鳴った。


「立て。そんな事で、全国に通じるとでも思っているのか? っ甘い!! 嫌ならヤメテしまえぇっっ!!」

「ナニを言ってるんだ!? 始めっから嫌なんだよ!! ホントに早くヤメさせてよっ!!」


ゼロスの反論に、レイスの眉がピクリと動く。


「……そっちこそ何を言ってる? ゼロスの方から戦いたいと言ったのに」

「察してよ!?」

「察した上で、受けたに決まってる! 逃がしはしないぞ、ゼロス!!」

「あぁぁぁーーーっ、もうっ!!」


 ……ズレ始めれば、この二柱はとことん噛み合わない。

 お互いがお互いを理解した上で、反発し合い、そして掠りもしないのだから。水と油でも、まだ接触面があるだけ可愛く思えるね。


 ーーーそして俺はふと思う。レイスの目指す目標……、意外と低かったな、と。

 全国なのか……。この二柱なら、きっと全宇宙も目じゃないはず……いや、もう何も言うまい。


 レイスはまた、オラオラオラオラと怒声を上げながら破壊砲を投げ始めた。




 ◆




 神々の攻防の中を、儚げに、だけど懸命に昇っていく光があった。

 遠くから見れば、それは“始まりの砂”にも似た輝きを放っている。


 ーーー明滅する、光。

 それはそれは美しい光。まるで八芒星(ベツレヘムの星)だ。



 そしてその正体は、クリスのオーラが眩しい光となり輝き、寄り添う男の出す闇が、その光すら呑み込みこむ姿。

 その闇に光が隠れる瞬間が、瞬きとして見えるのだった。


 遠目には美しくとも、近くで見ればそれは、修羅場と呼ぶにも生易しい激戦区。


 光と闇のを放つエルフ達の間に、言葉はない。

 喉を震わせるその振動の間に、戦況が大きく変わってしまうのだから。

 体の構造の、もっと深い意識の底で互いに干渉仕合い、繋がり、言葉を交わす。

 それはクリスが今しがた、新たに作り出した“テレパシー”にも似た魔法だった。

 とはいえ、何故かクリスは“パパが作った魔法”と言い張っている。何処にも居ないエルフが、そんな魔法を編み出せる訳はないので、何故クリスがそんな事を言いだしたのかは謎である。


『パパッ、闇は上っ!! 横に振れないで』

『だ、だけどっ、横からも迫ってきてるんだけどぉ!!?』

『大丈夫、横のは光速降下で避けられるからっ』

『……っく(のぎゃあぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁーーーーーーーーわーーーーーーーーーっっっ!!)』

『この動きに合わせられるなんて、流石パパ!! マー君なんて霊体の癖に気絶しちゃったんだよ? ……えへへ、私達って良いコンビだね! パパ!』

『ふ、……父ちゃんだからな(死ぬっ死ぬっ!!降ろしてえぇぇえぇぇぇぇーーーーー!!!! だけど年イチだし、今くらいカッコいいトコ見せとかないとっっ……てか、マー君って誰ぇぇぇーーーーっ!?)』

『はっ!? パパ、今度はエネルギーが渦巻いてる! 合わせて回転するからね!』

『ヒッ』

『え?』

『何でもないよ。行け!(ひいぃええぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ、ギャァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーー、彼氏なら、紹介しろよぉぉぉぉぉーーーーーー……)』





 その輝きは儚く、今にも消えてしまいそうだと言うのに、小さな光は世界の至る所の者達に目撃されていた。


 鈍い灰色の輝きを放つ一人の亡者が、ルシファーに尋ねる。


「アレ、誰っスか?」

「ーーー……知らん。ずいぶんクリス様と仲良さそうに見えるが……。賢者様なら知ってるんじゃねーのか?」

「……いや、知らない。この世界の過去に記された歴史には、存在しない。なんだ? あの黒い力は……」


 顔をしかめながら光を睨むマスターに、ルシファーはやれやれと肩をすくめた。


「賢者の癖に知らねえのかよ。役に立たねえな」

「アンタに言われたくないよっ! アンタがこの戦いで何をした? 何を成した!?」

「う"……」


 ルシファーは言葉を詰まらせるとその光景から目を逸らし、再び目の前の敵に集中を始めた。



 上空では、再び強くなった余波を捌くため、魔王と勇者が背を預け合いながら構えていた。

 勇者が目を凝らしながら、ラムガルに尋ねる。


「あれは何? 兄サン?」

「知らん……。あの玉を操っているのはクリスだろうか……、中のエルフは何だ? 何をやっている?」

「ーーークリスちゃん……。強い強いとは思ってたけど、動きが更に進化してる。……キレッキレだね、神がかってる」


 ラムガルは押し黙った。

 おそらくあの中に自分が飛び込んだ所で、数分と持たず消し飛ぶであろう事を、ラムガルは良く理解していた。

 そして仮に神に届いた所で、自分が神を相手に何を言える? ……言えるはずが無い。


 勇者は二人のエルフに、笑顔でエールを送りながら言う。


「この世界には、強い女の子が本当に多いな。嬉しくなっちゃう。今度、手取り足取り教授して貰わなくちゃ」

「チャラい発言は控えよ」

「ッチャラ!?」



 地上でも、魔物達と彼らと視覚共有をした人間達が、その光景を見上げる。


「なんやあれ?」

「ーーー……エルフ? なんでエルフがあんなに強いんだ?」

「あれは特別なエルフや。でも……、もう一人はなんや? ありえへん……」

「はは、なんかもう、あり得ないことが多すぎるな。ーーーもうアレも、“当たり前”でいいんじゃないか?」

「……ふ、そうやな。行くでぇ、ルース!!」



 平原でも、群れを率いる獣王が光を見上げニヤリと笑う。


「ハ、アレが“最強”の実力ってか。やるじゃねぇか。いつか……追いついてやるからな!」

「ルドルフ、それより一緒にいるあのエルフは何だ?」

「知らね」



 聖域の片隅で、小さな闇のエルフが目を見開いた。


「ーーー……!」

「ジュガ? どうかしたの?」

「! 見て、ムーリア! あそこに……クリス様がいる!」

「ホントだ……、だけど一緒に居るあのエルフは誰? ハイエルフ様達はご存知ですか?」

「いいえ、エルフの系譜の中には、あの様な者はおりません」

「ハイエルフ様のご存知無いエルフ? ーーー……ジュガ、どうしたの?」


ジュガがわなわなと震えながら、光を見つめ言った。


「ーーー……あれは、“真の闇魔法”……! まさかそんな……、闇に捕らえられし、我等の父が復活なされた……だと?」

「え!? あれが真の闇の力!?」

「ジュガの中にもあの力が眠っていると言うの!?」


驚く可愛いエルフの少女達を横目に、ハイエルフは武器を構え直した。


「……。(……いつもの病気ですね……) さあ、皆の者! 生き残るのです!!」



 そして、深い森の奥で小さな妖精が父に尋ねた。


「精霊王様……、あれ……もしかして……」


 少年の精霊王は目を閉じ、静かに首を降った。

 

「ーーー……語ってはいけない。そう、神が定めたのだから」

「……はい。仰せのままに」

「さあ、行くんだ。きっと、戦いは終わる。それまで皆を守って……」



 みんなが噂するエルフは、実はとても小さな者。

 愚かで脆弱、そして心の弱い犯罪者。

 それが今、“全”の願いを無自覚に携え、空へ昇る。

 ……否、“孤独()”の彼が、思いがけず“全”へと還ってきたのかもしれない。



 忘れ去られた記憶。


 語られない歴史。


 消え去った存在。



 ーーーだけど、その想いは消えず、時に歴史に大きく干渉する事もある。






 ◆





 上空でゼロスは、懸命にレイスのエネルギーを弾き受け流すが、その身体は徐々に後退をしていた。

 だけど避ける事は出来無い。その後ろに、守りたい物があるから。

 ゼロスは唇を噛む。

 さっきの蜃気楼空間(ミラージュ・モンド)で消費した力が痛かった。

 レイスはきっと今この時、……そして更に先まで見越して、あの迷宮内で大人しくしていたんだ。

 派手な攻撃が好きなレイスが、ただ逃げまわっていた。その歪さに気づかなかった失態の重大さを、ゼロスはこの後に引けぬ状態に追い込まれて、漸く痛感したのだった。



 ーーーレイスは僕を“甘い”と言った。

 だけど守りたい物がある。それの何処がいけない?




 ゼロスは破壊砲を受ける手に、渾身のマナを集める。

 それは一か八かの賭けだった。




 ーーー僕は間違っていない。今度は、間違ってないはずだ。




 ゼロスの中にある全ての力を、ゼロスはその手に集約を始めた。








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