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神の光は堕ち、夜は更け行く 〜黄昏の天界戦争14〜

 


 ーーーハッタリだ。



 レイスの言葉に、ゼロスはそう思った。

 レイスは戦い方は、多岐に渡りその実力を発揮した。

 その身に持つ力は元より、武器の扱いや体術の技術の高さ、加えて例える必要も無い神速のスピード、そして“心理戦”。

 常に平静と平穏を願ってきたゼロスの心を、裏切り、掻き乱し続ける。

 これまでだって、レイスはいつも通り無邪気に遊び回る様な体で、ゼロスの予想の遥か上を行く残虐な行動を安安と取った。


 今までのレイスは、ゼロスを尊重するが故、その我儘も主張も寛容に受け止めてきた。……だけど今は違う。


 ーーーゼロスをいかに怒らせるか。


 今のレイスにとって、それこそがこの遊戯を盛り上げる為の、最重要事項だった。

 それにもともとゼロスとレイスの感性は、相見えることが奇跡とも言えるほどに正反対である。

 レイスにとって、ゼロスを怒らせることなど、本来息をするより簡単なことであった。

 ……事実2柱には、敢えてしようと思わなければ、息をするなんて不要の行為であるわけなんだけど。



 ゼロスは目を細め、レイスを見つめた。

 ミラーボールに反射し続ける、数百球の神の光(グリント・オレオール)を躱しながら部屋から部屋へと跳び移るレイス。



 ーーー蜃気楼空間(ミラージュ・モンド)はレイスには壊せない。レイスの1番苦手な魔法式で組み上げた。



 ゼロスは七万年以上レイスと共に過ごし、その力の恐ろしさと、その弱点をしっかりと心得ていた。

 レイスはその力の大きさ故か、とにかく細かい作業が苦手だった。手先が不器用なのも、力加減が苦手な為だ。

 一方ゼロスのその真骨頂は、寸分の狂いない精密さ。それを存分に発揮できるフィールドがこの蜃気楼空間(ミラージュ・モンド)だった。

 自分だけがその構造を知る大迷宮(ミラージュ・モンド)の中で、神の光(グリント・オレオール)を縦横無尽に閃かせる。更に神滅の神の光(グリント・オレオール)を六万方位に変角させる反射鏡(ミロワール・リフレク)は、ゼロスの神眼を以って手動でレイスに狙いをつける。

 多分十億を超える部屋からなる迷路を把握しつつ、700発もの神の光(グリント・オレオール)を六万面の反射鏡(ミロワール・リフレク)で弾き操るその精密な作業は、この世界でゼロスにしか出来ないと俺は断言しよう。


 ゼロスは冷たい視線でレイスを刺しながら、静かな声で行った。


「レイスには、この迷路は壊せないよ。解除には精密な解析とマナの操作が必要だ。もし力任せに破ろうとしたら、……その消費で一気に僕が優勢になるだろうね」

「全壊させる気はない。……それよりレイスは言った。こんな狭い中で神の光(グリント・オレオール)を放てば自分の首を締めると」


 愉しそうにそう忠告するレイスに、ゼロスは鼻を鳴らした。


「ふん、僕に限って無いね。それより神の光(グリント・オレオール)はまだ増えるよ。そろそろ限界なんじゃない? 消えない内に終わらそうよっ!」


 ゼロスはそう言ってまた新たな神の光(グリント・オレオール)を迷宮に放った。


 ーーーだけど、レイスはその瞬間を狙っていた。

 ずっと、自分の身を削らせながら、準備していたんだ。


 ゼロスの放った神の光(グリント・オレオール)が、ゼロスのいる部屋のゲートを越えようとした時、レイスが叫んだ。


ゲート・オープンッ(開けっ)!!」



 ーーーードシュ……



 その瞬間、蜃気楼空間(ミラージュ・モンド)に立ち並んでいた、21体のゼロスの幻影が、神の光(グリント・オレオール)に貫かれ、目を見開いたまま全て散って消えた。

 残りの最後の一体、本物のゼロスだけが目を見開きながらも、神の光(グリント・オレオール)を紙一重で避けていた。


 ゼロスが突如起こった、ありえない事実に声を震わせた。


「ーーー……な、    に?」


 そんなゼロスにレイスが挑発するように、アロンダイトで神の光(グリント・オレオール)を団子さながら、突き刺しつつ言う。


「……確かにレイスに神の光(グリント・オレオール)の軌道は読めない。迷路を把握したとして、面倒だからレイスは読まない。蜃気楼空間(ミラージュ・モンド)反射鏡(ミロワール・リフレク)も壊せない。神の光(グリント・オレオール)を避けながらとか不毛な作業、無理。……その点、ゼロスは良い目の付け所だった」

「……」

「でも、()()()はレイスにも創れる」

「っ」


 レイスがニヤリと笑った。


「ーーー楽しかったね、“オリュンポス”創るの……」


 ゼロスの背に、悍気が走った。

 過去の楽しかったはずの記憶が、悪夢となって脳裏に蘇る。


 ーーーそれはゼロスが設計し、レイスが組み立てた数光年先の大地と世界を繋ぐ道。


 レイスがまた一つの神の光(グリント・オレオール)を弾き消して、ゼロスに言う。


「早く新しい神の光(グリント・オレオール)を投げないと、どんどん減って行くよ? ゼロス」

「ーーー…、っ」


 だけどゼロスは動かない。いや、動けない。

 レイスは嘲笑うように、ゼロスの懸念を言い当てた。


「まあ投げた瞬間だけまたレイスはゲートを開くけど。そして開いた一瞬、ゼロスも避けないといけない。ゼロスはレイスがこれまで何個のゲートを設置したかも、どこに設置したかも把握していないのだから。……レイスも把握してないけど!」

「ーーーっく!」


 流石レイス。

 創世神(ゼロス)相手にそんな大雑把な作戦を打ち出せるのは、この世界でレイスにしか出来ないと俺は断言しよう。


 ーーーこの迷宮が展開されてここ迄、レイスがゼロスに何か攻撃したわけではない。

 ゼロスのように神の肉を消し飛ばす程のエネルギーを放出してきたわけでもない。

 寧ろ逃げに徹してるレイスは、温存していたと言ってもいい。

 唯一レイスが施したのは不可視の転移陣(ゲート)。だが、それを発現させるタイミングを合わせるというだけで、ゼロスのこの壮大な仕掛けを完封したのだった。


「ゼロス。放たれたエネルギーはただのエネルギーでしかないのだ。そのただのエネルギーはレイスの肉を消し飛ばす様に、ゼロス自身の肉をも消し飛ばす。これは無情でも無慈悲でもない。ただ神の光(グリント・オレオール)に与えられし摂理にして真理だというだけ」


 既存の弾幕を弾き弱めながら、レイスはそう言い放ち駆け出す。

 喜々として。そして更なるゲートの種をばら撒きながら。


 ……うん。本当にとても楽しそうだ。


 ゼロスは新たな神の光(グリント・オレオール)を放つ事を諦め、悔しげに呻いた。


「くっそ……」


 ゼロスが新たに何かの魔法コードを描き始めるが、レイスは止まらない。そしてその目指す道にもう迷いは無い。


「レイスはこの迷路の全容なんか知らない。でも神の光(グリント・オレオール)の道筋を見て、ゼロスへの道だけは見つけた」

「っ、蜃気楼空間(ミラージュ・モンド)は壊せない……、たどり着けやしない! 最後のゲートはもう開けないから……」


 レイスの言葉を否定しようとするゼロス。

 だけどレイスはその言葉を摘み取った。


「1枚くらいなら、それこそ力技でこじ開ける。ーーーその為に、レイスは今まで力を温存してた!」

「さ、最悪だよっ!!」


 ゼロスが叫んだ瞬間、ゼロスから数百メートル離れた先で、レイスが見えない壁に体当りした。



 ーーーガンッ!!



 蜃気楼空間(ミラージュ・モンド)全体が揺れ、ビシリと嫌な軋み音を上げた。


「嘘だ……」


 ゼロスが慌てて、創りかけの魔法を打ち切り、部屋の強化にマナを注ぐ。


「っああぁぁぁあーーーーーーーっっ」

「ちょっと待っ……、やめ、レイスーーーーーーッッ!!!」



 ーーーバキンッッ!!!



 この状況でレイスが待つ筈も止まる筈もない。



「うぁ……っ」


 ゼロスが引き攣った悲鳴を上げる。

 その目の前の直ぐそこには振り上げられたレイスの掌があった。


「教えてあげる。ゼロスの敗因は神の光(グリント・オレオール)の被弾を恐れて逃げた事」


 ゼロスは自分の創り出した神の光(グリント・オレオール)の出力と破壊性の高さをよく理解していた。

 それはもう、きっとレイス以上に。


「恐怖は選択を見誤らせる。もしあの時、新たな神の光(グリント・オレオール)を投げ続けていれば、ゼロスにも勝機は三千億分の一くらいはあったかも知れないというのに」


 ーーー……レイス、それはもう“無い”で良いと思うよ。


「ゼロスはリスクを避けた。恐怖に負けたのだ。ーーー“勇者”を創った神が、笑わせる」



「っ」




 ーーードンッッ!!




 レイスは言いたい事だけ言うと、躊躇なく掌からゼロスに向け黒いエネルギー砲を放った。


「相手の1000手先を読み、裏を斯くなんて当たり前。ーーーシュミレーション不足だ、ゼロス」




 ーーー……バリン




 ゼロス()を失った大迷宮に、ヒビが入る。

 そしてヒビに、制御を失った神の光(グリント・オレオール)が撃ち込まれた。



 大迷宮(世界)ゼロス()と共に大地へと崩れ落ちて行く。



 レイスはその様子を嘲笑いながら、容赦なく更なる追撃を放った。 






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