神は神秘の鉱石を創り賜うた②
「あ! ゼロス様だ!」
ゼロスとレイスが新素材の鉱石を検分していると、丁度そこに精霊王とハイエルフが通り掛かり声を掛けてきた。
「誰?」
レイスはこちらに駆けてくる少年を見て言う。……少年というか、正確には精霊王の作り出した幻影なのだが。
ゼロスは精霊王を目に留めレイスに紹介をした。
「あぁ、さっき勇者の魂の欠片から創ったんだよ。精霊っていうんだ」
「……道理で勇者と気配が似てると思った。勇者Jr.……Jr.……。うん、これからお前の事は『坊や』と呼ぶ」
レイスが突然精霊王の愛称を決めた。
「了解しました! レイス様」
精霊王もノリノリだ。流石は勇者の分身。
一方ハイエルフの方は控えめだった。
畏れ多いとばかりに神々の輪には入って来ず、一線引いた所から、静かにこちらを眺めている。
―――気にせずこっちに来れば良いのに……。
ゼロスもそれを察したようで、ハイエルフに声を掛けた。
本当に気が利く子になったなぁ……。
呼ばれたハイエルフは、おずおずとこちらにやって来て二柱と俺に挨拶をしてくれる。
ゼロスはそんなハイエルフに、笑顔で目の前の石を見るように促した。
「ほら見て、とてもキレイでしょう。レイスが創ったんだよ。レイスはね、成型こそ苦手だけど僕にも創れないキレイなものを沢山創るんだよ」
そう話すゼロスはとても自慢げだ。
ハイエルフはその鉱石の輝きに目を細めながら、ゼロスの言葉に頷いた。
「誠に素晴らしく例えようのない美しさでございす。これ程美しい鉱石は見た事がございません」
「あ、だけど気を付けて。その小さい鉱石に触ると、たとえ君でも死んでしまうから」
ゼロスが石に見惚れるハイエルフに注意をすれば、ハイエルフは神妙な面持ちで頷く。
「はい。凄まじいマナが凝縮されているのを感じます。あまりの濃度に周りの空気が耐えきれず、空間が歪んでおりますね。石の周りのこの光は、それによって起こる乱反射現象でしょうか……」
「そう。だから下手に動かせないんだ。どうしようかなコレ」
流石ハイエルフは理解が早い。それに精霊と違い真面目だ。
あ。当然精霊の奔放さも俺は大好きだよ。
それからハイエルフはゼロスの呟きに答えることなく、何かを考える様に黙り込んでしまった。
その様子に、俺はハイエルフを促すように尋ねてみる。
「何か思う処があるのかな? いいアイデアがあるのならぜひ聞かせて欲しいな」
するとハイエルフはビクリと肩をはねさせて、慌てふためきながら答えてくれた。
「あ……いえ、私の考えなどアイデアと呼べるものではありませんが。―――もしこれを少量だけ他の金属に混ぜれば、特殊効果を付与出来るのではと思ったのでございます。それに火を使わないハイエルフの金属加工の幅が広がるのではと……。と言いますのも、現在の私共の技法は削り出し加工のみ。それでも不自由は無いのですが、マナを含む金属が有れば、我々にも容易に細やかな加工が出来るようになるのでは無いかと考えた次第に御座います」
ゼロスが目を輝かせて頷いた。
「なるほど! いい考えだと思うよ。ちょっとやってみようか。まずは銀だ」
―――こうして【ミスリル】が出来た。
「いい感じだね。まぁまぁ硬いし。次は銅だ」
―――こうして【オリハルコン】が出来た。
「次は鉄だ」
―――こうして【玉鋼】が出来た。
新素材の完成に皆が喜ぶ中、突然レイスが立ち上がった。
そしてたった今出来上がった美しい白金の輝きを放つミスリルを無造作に掴み上げ、それをハイエルフに突き出しながらレイスは言った。
「このミスリル、ハイエルフにあげる」
「え?」
「いいアイデアくれたお礼。それからレイス、レイスが創ったもの褒めてくれて嬉しかった。だからレイスはこれ、ハイエルフにあげる」
過剰な報奨になんと答えて良いものか戸惑うハイエルフ。
その時、その様子を見ていた精霊王がにししと笑いながら言った。
「貰っときなよ。きっと皆も喜ぶから。レイス様からのプレゼントなんて本当にレアなんだぞ。かく言う僕も、かつてはレイス様のプレゼントだったんだけどね。ゼロス様へのさ」
「は、はい。では有り難く……賜わります」
ハイエルフは汗をかきながら、レイスの差し出すミスリルを受け取った。
レイスは鼻を鳴らしながら腕を組んで言う。
「ハイエルフの里の近くに【ミスリル鉱】を創ってあげる。レイス、ミスリルを創ったらそこに置いておくから、これから好きな時に取りに来ればいい」
「はっ、あ、ありがとうございます」
ははは、出血大サービスだねレイス。
いつもはゼロスに散々叩かれてるから、褒めてもらったのがよっぽど嬉しかったんだろう。
俺はその様子をニコニコと見守った。
―――やがてレイスの言った通り、ハイエルフの里の近くに【ミスリル鉱】は創られた。
ハイエルフ達はそこを神聖な場所と定め、ハイエルフ達の中でも選ばれた“聖なる鉱夫”しか入れぬ特別な場所として、大切に扱ったのだった。
以来、ハイエルフ達は自分達の身の内にある膨大なマナで、ミスリルを自在に加工した。
そしてハイエルフ達の作ったミスリルの防具や武器、雑貨などに関してだけど、ミスリルの希少さに加えて、ずば抜けた芸術性の高さ、そして他の種族には加工不可という条件が合わさり、これを巡って世界中で奪い合いが発生したりするのだが……まぁ、それはまだまだ先の話。
―――そして、神々はまだ素っ裸。




