仔等は、“テイマー”の術を完成させた2 〜黄昏の天界戦争⑦〜
本日勢いで書き上げた2投目です。
ーーージュ……
ライラも、迷いなく残りの一つを握り込んだ。
そして兵士に向かって、困ったように笑いかけた。
「ーーー……なあ、ルース。アンタ、アタシのことちょっと可愛いとか思ってんの? 無いわ。ワリけど付き合わんで」
「なっ、いや今それ言うなよ! そんなデリカシーない奴は、こっちだって願い下げだよ!!」
「俺の娘に向かって貴様っ!!」
「オトンは関係無いやん! あっち行って!」
「ぬ……」
尚も魔族は言い募ろうとするが、そんな団欒を解き放たれた走る地竜は許すはずも無かった。
「ギャアァーーーーーーーーーーーオォンッ!!」
「来たで、ルース!」
「ライラ、お前……凄いな! 滅茶苦茶強いじゃないか!」
「当然だ! 実践以外の模擬戦では、常に最高成績を収めていた! 俺の娘は天才なんだ!」
親は大抵、我が子を天才と呼ぶ。
契約で共有出来るのは、意思疎通だけでは無い。契約者の記憶、強さや潜在能力すら覗き見ることが出来、その技の組合せによる新技の開発まで可能にした。
他者に己を開示し、身を任せる事。だけどそれは諸刃の剣。強い信頼、強い絆が無ければ、受け入れる事などできる筈がない。
それでもライラは笑って、それを受け入れた。
「今はそんな場合ちゃう! はよ指示だしな!」
「よし、跳べ! 全力で!」
ライラは小柄な身を軽やかに捻り、20メートル上空まで飛び上がる。
「重力加速! 双連斬!! 鱗を剥がせっ!!」
まるで伸びたゴムが戻るような加速で、ライラは走る地竜に向かって飛び込んでいく。
そして勢いはそのまま、ライラが斧を振ればそこは鱗剥がしを滑らせたように鱗が弾け飛んでいく。
ルースは手に浮かぶ紋に、自身本来のマナを送り込む。
「鱗を剥いでも走る地竜の肉は硬いぞ。隙間を狙え! 視覚シンクロ、ポイントstf22696!」
脇腹の鱗を剥がし終わったライラが、笑いながらルースに声を掛ける。
「あんまりシンクロさせ過ぎたら、脳味噌壊れてアホになるで」
「はっ、怖いこと言うなよ! 攻めるぞ! “突”!!」
ライラが一瞬助走のため大きく背後に飛び、着地と同時に、大地が抉れるほどの踏み込みで、鱗のない脇腹目指して飛び込んだ。
深く、胸の核を突き刺すこの攻撃に、走る地竜は悲鳴を上げた。
「グギャウッッ!!」
すかさず、ルースの声がかけられた、
「届いたか!?」
「うん、届いた! 爆ぜるで!」
「わかってる! “大地割り”だ!!」
「っルアアアアァァァァァァァーーーーーーー!!!!」
ライラは渾身の力とマナを込め、走る地竜の足元へと斧を叩き込んだ。
ーーーゴゴゴ……バキバキバキバキ……
斧を叩きつけられた大地は裂け、急所を突かれた走る地竜は成すすべなく裂け目に落ちていく。
「クオォーーー……ンン……」
「みんなっ、離れるんやっ!!」
ライラがそう言ってルースに向かい駆け出す。
次の瞬間、大地が揺れた。
ーーーー……ドォォンッッッ!!
そして裂け目から、幾十本もの黒い槍が空に向かって飛び出して行った。
魔族がその光景に目を見張り、呆然とライラとルースを見つめる。
「ーーー……そんな……走る地竜は、倒せる物なのか……? 不死身じゃ……」
ライラはハッキリと断言した。
「倒せる。お姉様が、アタシに教えてくれた」
「っ」
魔族は自分の肌が粟立つのを感じた。
ーーーあの、主張の欠片もなかったライラに、何が起こった?
ライラは天高く斧を掲げ、雄叫びを上げた。
「みんなエエか!? まだ、世界は終わっとらん! 諦めんなっ! 生き足掻くんや! 何をしてでもっっ!」
外見は弱冠12歳程度の少女。
だけどそこから放たれる眩しいカリスマ性に、その場にいた者達は魔物と言わず人間と言わず、歓声を上げた。
ーーーかつて彼女の姉が見た、“暁の光”をそこに居た者達も幻視したのかもしれない。
ライラはその歓声を聞きながらポソリと小さく呟いた。
「お姉様……、やったで」
それは走る地竜を倒したことに対しての報告か、契約紋成功の報告だったのかは分からない。
ただライラはその時、姉の死から初めて一粒の涙を零したのだった。
歓声の鳴り止まぬその場で、ライラは直ぐ様涙を拭うと、またあの紋を幾つが手の中に作り出し空に投げた。
「魔物達! これは服従なんかや決してない! 手を取り合うための絆の紋や! 人間と戦いたい奴はコレを取るんや!」
「……っ」
一瞬、歓声はどよめきに変わる。
目の前の魔族は、ライラを睨んだまま応えない。
他の魔族達も……。
だけどその中で、一匹のひときわ大きなホーンウルフが飛び上がり、その紋を取った。
魔族が驚愕に叫び声を上げる。
「なっ!? 狼王とも呼ばれるお前がなぜ!?」
ホーンウルフはそんな魔族を、一瞥だけくれた。
「フン、貴様には生涯わからぬよ。ーーー人間共よ! 我の力を以てして、共に戦いたいと言う強者はおらぬか!?」
人間などひと飲みに出来てしまいそうな巨体のホーンウルフは、吠えるようにそう言って人間達の軍を睨んだ。
だがその迫力に皆が怖気づき、後ずさる。
「ーーー……チッ、」
ホーンウルフが舌打ちをしたその時、ふと甲冑を身に纏った老人が一人、進み出てきた。
「……わしじゃ」
「えっ、隊長!?」
近くにいた若い兵士が、驚愕に声を上げる。ホーンウルフは鼻にシワを寄せ、老人を睨んだ。
そして喉を震わせながら威嚇するように言う。
「ーーー……これはまた、随分な翁が名乗りあげたものよ」
だが老人は真っ直ぐとホーンウルフを見上げ、静かに言った。
「狼王よ。見くびらないで頂こう。確かにわしの肉は衰えつつある。だがな、その経験は他の小童共には負けはせんんよ。知らんか? “ヴァンパイアバスターのジョルド”とはこのわしの事よ」
「ーーー……聞いたことがある。“非情冷徹棍のジョルド”」
低くそう言ったホーンウルフに、ジョルドは人の良さそうな、好々爺の笑みを浮かべながら頷き言った。
「ともに戦ってはくれぬか? 実は先日、孫が産まれてな。あの子に未来を残してやりたいのだ」
「……奇遇だな。我も先日、曾曾孫が産まれた所だ」
それからジョルドとホーンウルフは、同時にニッと笑った。
ライラはその様子を笑いながら見ていた。
「老い先短い爺達は、孫に甘いからなあ」
「そんな言い方はするなよ、ライラ」
「冗談や。だってアタシ、お祖父ちゃん大好きやもん。オトンは嫌いやけど」
「っライラァーーーーッッ!」
それから、その紋を手に取る魔物達が続々と飛び上がり、勇士達はその想いを受け止めた。
手を差し伸べない者もいる。手を取らない者もいる。
だけど歩み寄ろうとする者達の数は、初代アーサーの時代より、圧倒的な数であったと言う。
◆
「ーーーほな、いくで」
ライラが迫りくる走る地竜の群れを睨み、2丁の斧を構えた。
大顎を開きながら迫ってくるその数は数千。残虐と狡猾、そして喰らい尽くす以外の理性を持たない狂気の波だった。
思わずルースが顔を引きつらせる。
「……コレを……止めるのか?」
しかし、すかさずライラに背中をバシンとどつかれる。
「イッテ!」
「しゃきっとしな! アタシの相棒やろ! 死んでも気張りやぁ!」
「ーーー……そうだな、行くぞっ!」
ライラとルースもまた、ひとつの波となり走り出した。
◆
ラムガルは、上空で今なお降り注ぐ余波を弾きながら、地上の様子を冷静に観察していた。
そして思う。
ーーー無理だな。
確かに、人と魔物が協力するなどと絵巻物の様な光景が、眼下で紡がれている。
だがいくら協力しようが、走る地竜の持つポテンシャルが高過ぎるのだ。神がロマンの限りを詰め込み、生み出した物。その他とは気合の入り度合いが違い過ぎた。
ーーーとはいえ、上手く行けば数個体は生き残れるかもしれん。
世界が壊されなければ、それらがまた世界を復興させる。営みが続く。
それは、ラムガルがずっと目の当たりにしてきた当たり前の歴史。
世界の均衡のため、魔物を死地に追いやって来た“魔王”の目線。
ラムガルは、ポツリと呟いた。
「ーーーこれでいい」
だけどその独り言に、答える者が居た。
「良くないよ。何を言ってるの?」
ラムガルが振り返る。
そこに居たのは、15歳くらいの青年。
金の瞳に、燃えるような赤い髪。
身体にはハーティーが刻まれた、ミスリルの洗練された鎧を纏い、肩には白く輝くフェニクスの飾り羽を織りあげたマントを巻いている。
それはあの時ゼロスに創り上げられた、“黄昏の勇者”だった。
勇者は大地に向けて手をかざし、力強く言い放った。
「この世界を守りたいと願う全ての者に力を! “スキル・リーダーシップ”発動!!」
行け、○チュウ! 十万ボルトォー!
「……今なんでそれを言うんや?」
すみません。
次話投稿、土曜日になります。




