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神々の暴投 〜黄昏の天界戦争③〜

あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします(о´∀`о)

 天使達が魔法で空と大地の間に境界を張った。


 空ではゼロスとレイスが激しいぶつかり合いを繰り広げ、そこから発生した余波が境界を越えた瞬間、捨て身でそれを受け止める。

 天使達は一体あたりのマナ保有量がラムガルより少ないので、一体の消滅から再生までは、約0.3秒程で完全復活を遂げる。


 ……だけど、それでも間に合わない。


 天界から降り注ぐ圧は凄まじく、一体復活しては、一体が消える。

 その時、みんなの耳に、またゼロスの声が響いた。


『っしまった、皆避けて!!』



 ーーーーパーーーン…………ドゴォォォォォォォォ……。



 直後、レイスの放った魔法が聖域付近に着弾した。

 ポヨポヨマスターが描き上げた、聖域を取り囲む結界は、シャボン玉の如く消え去り、それに巻き込まれた天使達も消滅する。

 その直後復活したシェルが目を見開く。


 誰も居ない只中で、即死クラスの余波が7弾。


「ダメ……」


 シェルは飛び出す。

 余波を更に散らしても、大地を砕く程度の衝撃は大地に降り注いでる。

 それなのに、直撃なんて食らったら……



 ーーーカッ……



 手を広げ飛び込んだ光の中で、シェルの脳裏に、敬愛する神の声がよぎった。


 “ーーー……守るんだよ”


 自分の持てるマナを全てぶつけ、受け止めながらシェルは呟いた。


「……主よ。申し訳ございません……」


 このまま自分が消えて、再び目を開いたとき、そこにはもう、この世界は無いのだろう。

 己の身と引き換えに、この1つを防いでも、後6つの余波があるのだ。



 ……だけどシェルも世界も、いつまで経っても消えなかった。


 そして、ふとその理由に気づく。自分の背を支え、共に受け止めてくれる存在に。

 シェルは大きく目を見開き、背後からシェルを押し支える者達の名を呼んだ。


「サキュバス達に……、インキュバス達……?」


 他の余波の弾道に目を向ければ、それらも他のデーモン長達(クリフォト)が抑え散らしていた。


 シェルは機械的に体を動かすが、頭はついていかない。

 何が起こったのかは分からない。なぜ彼らが?

 だけど、……助かった。


「……ありが……」

「おっと!」


 シェルがほっとしたように、感謝を述べようとするとベリアルの手がその口を塞いだ。


「もご?」

「それは言うな。むしろ憎め」

「?」

デーモン長達(クリフォト)の力の源は“天使達を抑える”事だ。お前達が俺達に悪意を示さなくなれば、あいつ等はC級の弱者に成り下がるぞ」


 シェルは瞬時にその意を理解し、復活を果たした他の天使長達に指示を飛ばす。


「神は仰った! “協力して、守るように”と! デーモン達()()()()魔法で打ち破れ!! 我等の敵意がデーモン長達(クリフォト)へ力を与えるのだ!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」


 そして、デーモンは天使を巻き込もうと、天使はデーモンを滅ぼすつもりで魔法を放ち始めた。



 シェルがふと、契約に縛られないインキュバス(ベリアル)に尋ねる。


「……しかし理解出来ない。自身を至高と考えるお前達が、……何故、世界を守ろうとする? 正義の欠片もないくせに!」

「はっ! 確かに正義なんか反吐が出る。俺等は、自分の為にしか動かない」

「なら何故?」

「楽しみにしてたことがあるからさ。それを叶えるために、あいつ等も必死になってんだよ」

「……楽しみ?」

「ああ、ベルゼブブの奴は80年……70万時間のフットサルチームへの所属を約束してたっけ」

「は? フットサル……て、あの球技の?」


 シェルの目が点になる。

 ベリアルは可笑しそうに笑いながら、続けた。


「ルキフグスはメタバンのチーム組むって張り切ってたし、アスタロトは映画鑑賞会、バールはトーン貼りを依頼して、ナヘマーは一緒に土地を転がす約束を……」


 シェルは眉間を押さえながら、ベリアルを制した。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! それってもしかして……」

「ルシファー様との契約内容だ」


 ーーーッドォーーーンッッ!!!


 シェルは最大出力の魔法を放った。

 ……決して苛立ち紛れに放った魔法では無い……、と思うよ。


「ーーー……っ、私達、そんな約束に苦戦させられてたの!?」


 シェルの叫びに、ベリアルはあっけらかんと笑って言う。


「大事な約束だ。“世界の運命を、ひっくり返すくらい”のな」


 最早溜め息を吐くしかなかった。


「ーーー……はぁ……。ええ、そうね。果たしなさい。必ず!!」

「あーあ、インキュバス達(俺等)はその点、あんま得な事ってないんだよなー。後で肩揉みでもして貰うか」


 ……デーモンという種族は、やはり王を顎で使う者達のようだった。




 ◆




 聖域を少し外れた森の中、ガネシャはお腹の肉をたぷんたぷんと揺らしながら走っていた。

 かなり速い。彼……いや彼女(?)は、動けるぽっちゃりなのだ。


「ほっ、ほっ、はっ、はっ、なななななな、なんやねんあれはぁ!!」


 叫びながら必死で走るガネシャ。

 ハイエルフ達は、レイスの怒りを感じ取った瞬間、まっ先に捕虜を開放した。


『ーーー……お逃げなさいっ!』


 だけど何処へ?

 例えこの世界の反対側に逃げたとしても、神々の戦いの余波は、煮崩れるまで茹でた芋を突き刺す竹串のように、アッサリと大地を突き破って追いかけてくる。

 もう、生き残るか生き残らないか、それはその者達の持つただ“運”次第だった。


 だけどガネシャは、どちらかと言えば強運の持ち主であった。

 生まれてこの方、最悪の出で立ちから、ここまでのし上がってこられたのは、実力もさながら多大な幸運に見舞われたおかげでもあった。

 そんなガネシャの予感は、もはや百発百中の予知にも強い鋭さを放っていた。


 さっきの結界を吹き飛ばす程どの凄まじい爆発の際だって、着弾点からたまたま俺と、ちょうど真逆の位置。且つ、穴に落ちて伏せていた。そんな奇跡的なタイミングにより、ほぼ無傷でやり過ごしていた。


「もぉーっ、他の奴等ともはぐれてもた。……まあ、今はどっちにしろ構ってる場合ちゃう! ……?」


 ふと、ガネシャの足が止まった。


「……このまま真っ直ぐは、何か嫌な感じやね……。右? 左? 戻る……?」


 一瞬悩んだあと、ガネシャは右に進むことに決めた。

 しかし、左手に慌てて逃げる小さな影が見えた。


「……なんや? なんでこんなトコに子供が?」


 頭まですっぽりと、焦げ茶色のマントのフードを被った小さな影は、ガネシャが嫌がった方向へと駆けていく。

 ガネシャは叫びながら飛び出した。


「あーっ、もう! そっちはアカン! アンタ止まりぃ!!」

「!?」


 小さな影はビクリと身体を震わせ立ち止まった。

 直後、ガネシャは小さな影のマントを引っ掴み、左手に投げ飛ばす。


 小さな影は、7メートルほど舞い飛び茂みに落ちた。マントの中から現れたのは、上半身には玉鋼の胸当てだけを着け、黒い短パンを履いた十二才ほどの少女。

 腕も足も細く華奢な上、前髪が長いせいで、気弱さも伺えた。


 ガネシャは急いでその茂みに駆け寄り、少女を助け起こす。



「ごめんやでぇ、急に放り投げて。でもあそこはなんや、ヤバイ感じがしてん。ちゅーか、何でこんなとこに子供がおんねん……」


 ガネシャが引っ張り起こすと同時に、少女のマントのフードが取れた。

 そしてガネシャは、その頭に生える、羊の様に捻れた二本の角を見た。

 一瞬の沈黙の後、ガネシャは少女に怒鳴った。


「ーーー……っ、おまん(お前)、魔族やったんかぁ!!」

「っヒィ……」


 その剣幕に、少女はただ怯え後ずさった。

 そのあまりに無害そうな様相に、ガネシャは馬鹿らしくなって、肩を落としながらため息をついた。


「……はぁ、なんやねん。魔族はこんな子供まで戦に駆り出すんかい。どうしょうもないやっちゃな……」


 ガネシャがそういった時、先程まで二人の居たすぐ近くに向かって、折れた黒い剣先が落ちて来くる。

 ただ落ちてくるとは言えどその威力は凄まじく、さながらレーザー砲だ。


 剣先はまだ遥か上空だったが、ガネシャは悪寒を感じ、少女を抱え上げ駆け出した。

 茂みに引っかかったマントは脱げ、少女の紫紺の長い髪が、フードからするりと抜け出す。胸当てと短パン姿の少女をガネシャは小脇に抱え、森を走り抜けた。



 ーーーッドォォ……




 直後、大地深くに突き刺さった剣先は、大地を深く突き進み始める。その衝撃で地面はひび割れ、波紋の様に高く大地を盛り上げ、波打たせ始める。


「ヤバヤバヤバヤバヤバヤバヤバッッーーーーー!!!」

「ひやぁぁぁぁぁぁぁうぅーーーーーーーーーー!!!」


 二人は絶叫しながら、迫りくる波から逃げる逃げる。

 しかしとうとう追いつかれ、2キロ先で二人は、足場の地面と共に天高く弾き上げられた。


「うぴゃぁぁあぁぁーーーーーっっ!」

「いやぁァァーーーーーーーーんっ!」


 ……因みに後者の叫びはガネシャのものだ。

 やがて上空300メートルを超えた辺りで、二人は再び落下を始める。


「いゃぁぁあぁぁーーーーーーーーっっ!!!!」

「ぬうぅぅぅーーーーーーーーっっんっっ!!!」


 ……因みに後者の気合はガネシャのものだ。


 ガネシャは吸い寄せられるように落ちる大地に向かって、斧を振った。そしてそこから発生した風圧で、自分達の落下速度を弛める。



 ーーー……ッダン!!!



 二人は、まさかの無傷で着地をした。


「……ふぃー、……危なかったなあ。死ぬかと思ったわ」

「ーーー……っ」


 そう言って額の汗を拭うガネシャを、少女は唖然と見上げていた。





 


天使たちは呑気に話してますが、コンマ秒以下の速さで頑張っている設定です。

神様、ちょっと手加減してあげて!(泣)


次話、動けるぽっちゃりが、引き続きすこぶる動く予定です。

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