閑話 〜あらすじbyレイス〜
長くなってきた5章をレイス目線で振り返ります。
※わかりやすく、神々は擬人化させてます。
ある日、私がお使いから家に帰ってくると、お兄ちゃんがあさり貝のパックを見ながら呟いた。
「……僕は、貝になりたい」
……この人は、何を言ってるんだろう?
私は思わず履いていたスリッパを拾いあげ、お兄ちゃんの頭に投げつけた。
◇
その日、私が家に帰ってくると、お兄ちゃんがダニか何かに咬まれたと言ってしょげていた。
そりゃ生きてれば、ダニにも咬まれる。そして1匹いれば、5000匹はいる。
私もちょくちょく咬まれる。すぐやっつけるけど。
私は取り敢えず、バル○ンを焚こうと提案したけど、お兄ちゃんは、まだ焚かないと言った。
さっさと焚けば、もう煩わされなくていいのに。
……まあ、別に好きにしたらいい。私には関係ない。こういった時のお兄ちゃんには、関わらないほうがいい。
ーーーそう。私のお兄ちゃんは、少し不思議な人なのだ。
私が庭でバスケの練習をしていると、庭の隅っこでダンゴムシを集めては、それを大事に飼おうとするような人なのだ。
まあ別にそれも良い。
人の趣味に、とやかく言うつもりは無い。
お兄ちゃんは、とにかく多趣味だ。動物と言わず、昆虫と言わず生き物の飼育に観察。それに絵画や楽曲、詩を書いたり、裁縫、料理、ガーデニング……。
ーー……ほら、さっきまで泣いてたと思ったら、今はもうせっせと編み物なんかしてる。……オトメンか!
いや、もう何も言うまい。無視だ無視。
◆
「出来た!」
私が手持ち無沙汰にバスケットボールを磨いていると、お兄ちゃんの嬉しそうな声が上がった。
どうやらさっき編んでた物が完成したみたい。
何だろう、あれは。レッグウォーマー? いや、腹巻きかな? いずれにしても、相変わらず上手だ。私にはあんな細かい模様は入れられない。と言うか、ポンポンしか作れない。
「これはねえ、ユウシャ(チワワ)のおしゃれ着だよ。ガルガル(パグ)とお出かけする用にね」
レイスのガルガルにまで……。本当にマメだ。
「そう。とっても上手だよ。ありがとう、お兄ちゃん。」
「じゃ、これ隠して来て」
「え? なんで? なんで私?」
「普段着じゃないもの。それに僕はまだやる事があるから」
「そう。じゃあ、防虫剤と一緒にジップロックに入れとくね」
「防虫繊維だから平気だよ!?」
……知らないよ。……どっちでもいいじゃん。
「じゃ、出しとく?」
……細かい。メンドイ。どうでもいい。
「いや、もういいよ。レイスに任せる」
やっぱりお兄ちゃんも、どうでもいいらしい。
「じゃ、適当にしまってくるね」
私がそう言うと、お兄ちゃんは冷蔵庫からアサリのパックを引っ張り出して、じっと見つめ始めた。
……相変わらず、不思議な人だ。
◇
「ただいまー」
「……」
私が帰ってくると、お兄ちゃんはまだ、あさりを見つめてた。
お兄ちゃんは忙しい(?)のか、返事はしてくれなかったけど、お父さんは答えてくれた。
「お帰り、レイス」
「お父さん! 私ね、今お兄ちゃんのおつかい行ってきたの」
「レイスは偉いね」
「えへへー」
私は特にすることも無く、バスケットボールを磨き始めた。
私はバスケットが好きだ。
腕前はまあまあかな。
たまたま公園でひとりで遊んでたら、NBAに勧誘された事がある。……というか、現在進行形でされているけど、人前でプレーするのは恥ずかしいから、断り続けている。
とはいえ、一人でやるのもつまらなくなることがあって、前にお兄ちゃんを誘ってみた。
『僕はあんまり勝負事は好きじゃないんだ。また、そのうち気が向いたらね』
私は当時ガッツポーズを決めて張り切ったものだ。……だけど最近気づいた。お兄ちゃんがその気になる事ってなくない? あれは多分、はぐらかされたんだ。……というか騙された!
……はぁ。
私が無心でボールを磨いていると、ポツリとお兄ちゃんが呟いた。
「……僕は、貝になりたい」
……この人は、何を言ってるんだろう?
私は思わず履いていたスリッパを拾いあげ、お兄ちゃんの頭に投げつけた。
最近、お兄ちゃんの様子がどんどん変になっていく。思春期? 新手の厨二病? ほっといて大丈夫……じゃ無いよね。
「……何を言ってるの? 流石にお兄ちゃん、おかしいよ。お兄ちゃんは優しい。色々育てるの好きなのも知ってる。飼いたいって言うならまだ分かる。……でも、なんでそうなるの!? もういい。ちょっと予定と違うけど、もうそれ夜ご飯にする」
私は溜息を付きながら、あさりのパックを取り上げようとしたら、……なんかハエトリグモが糸をビヨーンとさせながら落ちてきた。 そしてそのまま、糸の吐き過ぎなのか、動かなくなった。……何だったんだろう? まあ良いや。
そのままあさりを回収しようとしたら、我に返ったお兄ちゃんに、あさりを奪われた。
「レイス! 急に何するの!?」
いや、思わず……。
「ーーー……よく、頑張ったね。アダンソン」
……え? その蜘蛛の名前……?
それからお兄ちゃんは、本気で私を睨んできた。
いつもなら引き下がるけど、ちょっとこれは重症過ぎる気がする。
「何するも、あさりの砂抜きをする。兄ちゃんのために」
「何を言ってるの!? そのあさりは、今一生懸命潮を吹いてるんだよ! もう僕達が勝手に茹でたりしてはいけない!」
なんでやねん。
「あさりは父さんを傷付けようとはしていない」
無理でしょうね。
「僕はあさりを食べないと、約束をしたんだ!!」
あさりと?
「……てゆーか、なんで“貝になりたい”に繋がるの? お兄ちゃんはおかしくなってる。そしておかしくさせたのは、多分ペットを増やしすぎたせい」
「僕はおかしくなんかなってない! 貝はすごいと何故わからない? ほら!!」
「興味ないし! 貝になりたいとか、ホント冗談は休み休みにして?」
私のツッコミにお兄ちゃんは、神妙な面持ちで答えた。
「ーーー僕は本気だ」
「なお悪いよっ」
私はそう怒鳴りながらクッションを投げたけど防がれた。
お兄ちゃんはアサリのパックを背にかばいながら、必死の形相でなんか言ってくる。
「じっと見ていて、改めて気付かされた。甲殻類は尊く、こんなにも美しいんだと! この潮の吹き方を見て。ホタテ貝にもなると、本気を出せば泳ぐ事だって出来るんだ! 凄いでしょう!」
そう言ってお兄ちゃんは、スマホを掲げYouTubeの動画再生しながら、その画面を見せつけてきた。
私は若干引き気味に答える。
「……いや、本当にそんな事どうでもいいし……。お兄ちゃんよく考えて。今なら聞かなかったことにしてあげるから」
私が白目になりそうになるのを堪えながら提案すると、お兄ちゃんは身を乗り出して熱弁してくる。
「レイスだって、カクレクマノミが好きだっていってただろ!? 一緒に泳いでみたいって言ってたじゃないか!」
「それとコレとは話が違う」
夏休みのスキューバーダイビング体験と一緒にしないで!
「何が違うだよ!? ーーー……ガルガル(パグ)とだって仲良く遊んでただろ!?」
「お兄ちゃんを正気に戻すためなら私は我慢する。ペットは全部里親に! あさりはお味噌汁にっ!」
私は興奮のあまり、手近にあった炊飯器を掲げた。
「レイスっ、待っ……」
「待たないっっ! っお父さあぁぁあん!! お兄ちゃんが狂ったぁぁ! もう駄目っ、早く……早くっ、アサリ貝をお味噌汁にっ、ううん、ボンゴレでもいい! 早く砂抜きをして……」
「なっ、待って……、レイスいい加減にっ」
「お前がいい加減にしろっ!! 文系のお兄ちゃんには私は止められないよっ、塩水準備!!」
お兄ちゃんの脇を抜き、アサリのパックを奪い取るとキッチンに駆け込んだ。
そんな私に、お兄ちゃんは血の涙を流しながら叫ぶ。
「っヤメロォォォォォォォォーーーーーーッッ!!」
ヤバイ。お兄ちゃんがヤバイ! ヤメル訳ない。お兄ちゃんにちゃんと現実を見せてあげなきゃ!
「っこんな物があるから駄目なのよぉぉぉぉぉ!!!」
その時、ふとお兄ちゃんの言った言葉に、パックを開けようとしていた私の手が止まった。
「ーーーそ、そそ、そうだ! バスケをしようよ! 今! 今すぐっ!」
え? 1on1てこと!?
「そう! 僕だって通信教育で学んで、多少強くなったんだ。約束してたしっ!」
……通信教育って強くなるの? 因みに私はNBAに勧誘された事がある……というか、現在進行形でされている。
コレは私の気を逸らせるための罠……。だけど、あのお兄ちゃんが、今を逃してこんなこと言うってある? いや、無い!
こんなチャンス、下手すれば二度と巡ってこないかもしれない!
ーーー……私はアサリ貝を、そっと冷蔵庫にしまった。
「いいよ。ハンデはどうする?」
「両足の使用禁止。後、両手も」
「……ふざけてる?」
「……チッ。じゃあ利き腕禁止」
まあ、妥当か。
「わかったお兄ちゃん。庭に出て」
「って、庭!? 庭には僕が種から大切に育てた、ガーデニングショーに出展できるレベルの、パンジーの花壇があるんだけどもっ!」
お兄ちゃんはガーデニングにも凝ってる。フラワーアレンジメントや、生花、ドライフラワーにプリザーブドフラワー……、その内完璧な“乙メン”になってしまいそう……。いや、そうなったら、尚更構ってくれなくなるに決まってる!
……いっそ、これを期に潰すか。
「庭でオナシャス!」
「うわぁァァァ! もうそれ、邪神の如き所業だよっ! こうなったら、ユウシャ(チワワ)! ガルガル(パグ)! ジュウシマツ達(7羽)!!」
「キャウン!」
「アウン!!」
「ピピ」
「お前達、僕はコレからレイスとバスケの試合をする。花壇にボールが入らないよう、花壇を守るんだ!」
「キャウン!」
「アウン!!」
「……」
……いや、「守るんだ」って、バスケボール600グラムあるよ? 本気?
「……お兄ちゃん。小型犬には受け止められないでしょ。寧ろその命令、動物虐待じゃない? 可哀相だよ」
「里親にとか言ってたくせに、メチャクチャだよ!?」
「いや、お兄ちゃんのほうがメチャクチャだよ。意味わかんない」
可愛がってるかと思えば、虐待しようとしてるし。
「ユウシャ(チワワ)! この前僕の靴をかじったこと、許してあげるから!」
……まあいいか。
「じゃあ、いっくよーーーっ!!」
「来いっ!!」
「キャンッキャンッキャンッ!」
「アンアンアンアンアウンッ」
「ユウシャ(チワワ)! ガルガル(パグ)! うるさい、伏せっ!」
「……」
「……」
「伏せしちゃ駄目! ボールを追いかけてぇ!」
「キャン!」
「アウンアウン!」
「うわーーっ、大暴投っっ!!」
◆◆
その日、メチャクチャバスケした。
ーーー楽しかった。
大体、こんな話。この兄妹が創世神だったら!?みたいな……(;・∀・)
もう年末ですね。良いお年をお過ごし下さい!




