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神は神秘の鉱石を創り賜うた①

 

「アインス、ゼロス! レイス達は大変なものを忘れていた!」


 いつも無表情なレイスが、珍しく慌てふためいて飛んできた。

 レイスは確か、先程『ちょっと聖域を散歩がてら、聖獣ともふもふしてくる』と言って出かけて行っていた筈だ。

 ゼロスがのほほんと返事をして、聖女と精霊の話をしようとするがレイスはピシャリと言った。



「おかえりレイス。聖獣達元気だった? ねぇ、見てみて。レイスがいない間に【精霊】を創ったんだよ」

「それどころじゃない。聞いてゼロス。レイス達は“人にも劣る原始人”だった」


 ―――……うん?

 劣るとは思わないけど、人を創った張本人達なんだから“原始人”処でもないと思う。

 レイスが何が言いたいのかちょっと分からない。


 俺が首を……否、枝を傾げてる事等気にせず、レイスはゼロスに迫った。


「ゼロス! 本当に気付かない? こんな大切な事に」

「ちょっと待ってよ。一体何を忘れてるっていうの?」

「大切なもの!」

「だから何?」


 尚も首を傾げるゼロスに、レイスは苛立たしげに言った。



「―――レイス達、服着てない」



 あ。確かに。


 そしてその一言に、ゼロスの目がクワッと大きく開いた。


「なっ!?」


 まぁ、しょうがないと思うよ。何故ならゼロスとレイスは、耐熱耐寒は勿論、大地に生きる創造物達に必要な大気や水すら必要としないんだ。

 つまり、被服など不要。

 つまり、今の今も素っ裸です。


 そして俺は樹だし、全然気にしてなかった。


「ほ、本当だ!! 天使達やラムガル、それにゴブリン達ですら着てるのに!(ゴブリンは腰布) た、大変だ!」


 唖然とした顔で、ゼロスもわなわなと震えだした。


「そう! 大変なの!」

「創ろう! 服を」

「うん! カッコいいのがいい!」

「否、オシャンティなのがいいよ!」


 ごめんゼロス。俺の昔話が悪かったね。そこはオシャンティでは無く“お洒落”と言うんだ。



 ―――そうして、二柱の服創りが始まった。



「まずは素材だよね。何で創ろう?」

「レイス、人里に行って学んだ。服は布で作る。布は羊の毛や、蚕の蛹、麻の繊維なんかを編みあげて作る。それを糸で繋ぎ合わせていた」

「いや、ラムガルや天使達の服とかは創ったから布くらい知ってるよ。僕が聞いてるのは【レイスの魔法実験に耐えられる素材】の事だよ。動物の毛や草を素材になんて作ったら、夜の帳の外に行くだけで燃えてなくなるよ?」


 ゼロスの指摘でレイスの顔に気持ち影がさす。


「……ゼロスの言う通り。そんなもの創るだけ無駄。―――人間は、本当に無駄な事をする」


 今にも舌打ちをしそうなレイスに、慌ててゼロスは言い返した。


「ちょっとレイス、いきなり僕の【人間】をディスらないでよ。人間にはそんな物でも必要なんだ。と言うか、そのくらいの物しか加工出来無いんだけどね」

「うん。レイス達はもっと違う物も加工が出来る」

「そうだよ。だから何で創る?」


 レイスは『うーん』と俺の葉を見上げながら考える。

 そして、ポンと手を打ち声を上げた。


「コレとか良いと思う」


 そう言って取り出したのは、ひと抱え程の大きな赤い魔石【賢者の石】。

 それはかつて【マナ崩壊】の大爆発を起こさせ、勇者の魂が創られるキッカケとなった思い出深い一品だ。

 あの時は爪の先程の大きさだったけど……随分大きくなったね。創り溜めをしていたんだねレイス。


 だけどゼロスはレイスの提案に眉を寄せて言った。


「コレ? だけどこれマナ密度が高過ぎて、実験中や遊んでる最中にまたマナ崩壊起こす危険があるよ」

「確かに。じゃあ、これからマナを取り除いてみる」


 ……マナ結晶からマナを取り除いたら、何が残るんだろう?

 俺はふと疑問に思ったが、レイスは何やら上手にしたようで、間もなく賢者の石は三つの別々の石になった。

 それは元の大きさから半分くらいになった、ダークレッドの鉱石と、それと同じくらいの大きさをした半透明の白い鉱石。そして小指程の白金の鉱石だ。

 どれも美しいが、中でも一番小さな白金の鉱石はオーロラのような揺れ動く不思議な光を纏い、他の鉱石とは異彩を放っていた。


 ゼロスが出来た鉱石を、どれどれと覗き込む。


「うん、いいね。これなら使えそう。この紅いやつ綺麗な色だね」

「うん。賢者の石の残りカス、赤い部分を集めて固めた」


 ―――こうして【ヒヒイロカネ】が出来た。


「この白いのも、磨けばダイヤモンドみたいになりそう」

「うん。賢者の石の残りカス、透明な色なし部分を集めて固めた」


 ―――こうして【アダマンタイト】が出来た。


「この鉱石ってどう加工するのかな? 普通に加熱でいいの?」

「ん、やってみる。……あ。やり過ぎた」


 ―――こうして【暗黒物質(ダークマター)】が出来た。


「ところでさ、この小さいの……なんかヤバイんじゃない?」


 そう言ってふと顔を上げたゼロスに、レイスは深く頷いた。


「そう。レイスも創ってから思った。コレはヤバイ。このサイズでレイスの肉一万年分を凝縮したくらいのエネルギーを秘めてる。マナの総保有量は、核を除くこの世界と同じくらい」


 この世界の【核】とは始めにレイスが己の肉のみで創ってくれた大地を指す。

 今はその核の上を、これまで死んでいった者達の肉と、新たな創造物達の息吹が厚く覆っているのだ。


「これにレイス達が創った魔物や人間達が触ったら、体内のマナがびっくり爆発を起こして死ぬ。だけど死体に触れさせると、肉体どころか霧散した魂まで再生して蘇る」

「ヤバイね。ちょっと使い方は考えないと駄目だね」


 ―――こうしてヤバイ【聖石】が出来た。


 結局このヤバイ【聖石】は保管に困り、最終的に二柱から俺に預けられる事になる。

 レイスやゼロスが持っていると、何かの拍子にマナ破壊が起こらないとも限らないし、俺は命の水で育っていてマナに耐性がある為、他の生物のように“触れれば爆発する”なんて事は起らないと言う理由からだ。


 俺は後に、この【聖石】をミクロ単位に砕いた欠片を人の子に与える事になる。

 それは『愛する人を無くした』と嘆きながら、俺の下に遥々やって来きた少年だ。


 俺は少年を哀れに思い聖石の欠片を渡すのだが、当然生きている少年が直に触れれば、少年はたちどころに爆死してしまう事になる。

 だから俺は【俺の葉っぱ(世界樹の葉)】に乗せて、少年にミクロサイズの【聖石】を渡したんだ。


 それからと言うもの……なんか……『世界樹の葉は、死者を蘇らせる奇跡の葉っぱ』とか言う謎の噂が立ってしまったのだが、俺は断固としてそれを否定する。


『―――俺の葉に、そんな効果は無い!』と。





 ともあれ、こうしてヤバイものを含む色々な新素材は出来たのだが、神々はまだ素っ裸だった。


それでは、今度こそ、よいお年を!


ブクマ、評価、ありがとうございました!

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