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神は、開戦を提案し賜うた 〜黄昏の天界戦争①〜

 

 ーーーあの時の約束は、きっと死ぬまで忘れない。



『ねえ、神様ってさ、死んじゃったらどうなるの?』

『神は死なぬ。八百万の神々(わし等)も、創世神様もな』

『でも、その中には創世神様からもらったマナがあるでしょ? それを使い尽くしたら、どうなるの?』

『はての。ゼロス様は“記憶が消える”と、言っておられたか』

『なんで?』

『わし等を形成し、留めておく為のマナを使い尽くせば、その身は砕け、再び原初の形へと再生される。魔王は魂に刻まれた記憶があるが、魂を持たぬわし等は、記憶……即ち、力を失うのじゃ』

『僕の事も……忘れちゃう?』

『心配するで無い。神にこめられたマナは、お前達から見れば無尽蔵にも等しい。使い切ろうとして出来るものでもないわ』

『ーーー……僕、キッドをもっと強くしてあげる。僕も強くなって、絶対キッドを守るよ! だから僕の事、忘れないで』

『うむ。もっと、強くなるがよい。さすれば、わしもお前を守ろうぞ。ーーー……後あまり難しいことを聞くな。ゼロス様に言われた内容だったから、覚えておったようなものの……。今後は鍛冶以外の質問は、受け付けんからな』



 ーーー守るよ。



 ◆



 レイスの放った黒いエネルギーの球は、銀色の稲妻を纏いながら大地に向かい落ちていった。



「ーーーグレイプニルの網(クリムゾン・ソーサー)!」



 皆がなす術なく、ただ唖然とそれを見上げる中、その最後尾に居た者が、強い意志の込もった声で叫んだ。

 途端に、黒い絶望の下に、まるでそれを受けとめようとするかのように、紅い鎖が現れた。

 1本……8本……50本……300本……1200本……。


 止まるところを知らず、鎖の数は増え続け、それは紅い網……いや、赤い籠を作り上げていく。


「キッド! 何やってる!? 駄目だ! 止めてっ……」


 凄まじい勢いでその身に秘めたマナを消費しつつ、グレイプニルを紡ぎ続けるキッドに、ガルダは悲鳴をあげた。

 だけどキッドは止めず、グレイプニルを更に紡ぎながら、ガルダに無邪気な笑顔で言った。


「約束したでしょ。“ボクが、ガルダを守る”って」

「っ違う! 僕が約束したんだ! 駄目だよっ! さっきのレッドクリフや、レールガンを作り出したせいで、キッドのマナは少なくなってた! それ以上したらっ……」


 ガルダは小さくて細い腕を掴み、必死で止めようとするが、キッドは動かない。

 ……力の差で言えば、人間が神に叶うはずはない。


 黒い球は、多少速度を緩めはしても、バキバキと紅い籠を、枯れ葉でも砕く様に壊しながら、大地に向かって突き進む。


「駄目だよっ……。嫌だよ……。忘れないでよっ! ずっと一緒にいたのにっ……コレからも……、今迄も!」


 世界の崩壊より、大切な者を失う恐怖に、ガルダは真っ青な顔で、キッドに縋り叫んだ。

 キッドはそんなガルダに、嬉しそうに笑ってみせた。


「でも約束だからね。ボクはね、ガルダが大好きなんだ。ガルダはボクを強くしてくれた。だからボクは、ガルダを守る」


 八百万の神々は、純粋だ。

 それ以外知らない。善も悪も興味はない。

 そして、目の前で泣く者の心にも、興味も共感も無い。


「あ。そうだ、ガルダ。じゃあ君もまた約束して。“ずっと鎚を握る”って。君は最高なんだもの。また、全部忘れたボクに力を与えて」


 ひび割れ、ボロボロと崩れ始めるキッドを、ガルダは抱きしめ、必死で頷く。


「約束する。離さないよっ! 死ぬ迄鎚を、握る! キッドの、為に……でも……嫌だ……嫌だよキッド……」



「ーーーよかった……」



 ガルダの願いは神には届かず、キッドは笑顔で頷くと、その身を砂に変えた。


 二人の約束は儚く、黒い球は呆気なく籠を壊していく。



「……キッド……キッドォーーーー!!」


 また、鎚を握り鍛冶をする。

 何気なく、当たり前の未来は、もはや来る兆しはない。




 ーーードンッ!!!




 その時、真っ暗い穴から白い光の柱が立ち昇った。


 白い光は黒い球を貫き、まるで風船が割れるようにそのエネルギーを散らした。

 レイスは舌打ちをしながら、穴から飛び出してきた、煤まみれのゼロスを睨む。


「ーーー……ゼロス」

「レイス! 急に何するの!? 一瞬意識が飛んじゃったよ!!」


 そしてふと、大地に散らばる大量のグレイプニルの破片に目をやり、そっと目を閉じた。


「よく、頑張ったね。ブリキッド」


 そして再びキッとレイスを睨む。

 レイスは淡々と、だけど呆れてでもいるように、ゼロスに告げた。


「何するも、この世界を壊す。これはゼロスのため」

「何を言ってるの!? 彼等にはそれぞれの想いがある! もう僕達が勝手に壊しちゃいけないんだよ! 彼らはアインスを傷付けようとはしていない。人々は剣を置き、シヴァは鎮まった。滅ぼさない約束だ!」


 ゼロスがレイスをそう叱咤するが、レイスはただ冷ややかな視線を返した。


「……ならそれが、なんで“人間になりたい”に繋がる? ゼロスはおかしくなってる。そしておかしくさせたのは、この世界」

「僕はおかしくなんかなってない! 何故わからない? 皆は願い、想いを宿し、愛の為に強くなる。僕には持ち得ない愛すらその身に宿してるんだ!」


 神は寵愛を与えてはいけない。

 ジャンヌの時はその立場ゆえ、その想いを封印し、切り棄てた。

 だけど憧れだけは、その胸に何時までも残る。


「僕だって心のままに、誰かを好きになりたい。なのに、……なんで駄目なの? なんで壊そうとするの!? そんなの僕の為なんかじゃない! 僕も……誰かを好きになる権利が欲しいだけだ!!」


 誰かを好きになる事。心の自由は誰しもが持つ権利。奴隷だって、その心は縛られない。


 それは当然の権利。誰にも侵す事の出来ない……いや、侵されてはいけない権利。“尊厳”だ。


 だけどレイスは興味なさそうに鼻を鳴らした。


「フン、そんな事どうでも良い。ゼロスは賢い。そこは認める。頑張ったら本当に人間になりかねない。だから、そうなる前に壊す。絶対にっ!」


 そして、再び先程よりも大きな黒い球を創り出す。

 その弾けるエネルギーに、ゼロスも流石にたじろいだ。


「……ちょ、ちょっと待ってよレイス。レ、レイスだって、獣達をモフモフするの好きだったじゃない? “卵になって、シマエナガの羽毛に包まれ温められたい”って言ってたじゃない!」

「それとこれとは話が違う。全然違う!」

「何が違うの!? じゃあ、あれは!? ラムガルやフェンリル達と仲良く遊んでたでしょ!? この世界を壊したら……」

「ゼロスの為。レイスも少しくらい我慢する」

「っ我慢しなくていいよぉぉぉぉーーーーーーっっ」


 ゼロスの叫びも虚しく、巨大な球は再び大地に向かって投げつけられた。



 ーーーーッッッカッ!!!



 ゼロスがそれを素手で受け止めると、白い光が弾けた。

 そのぶつかり合いで発生した圧で、神獣の毛から織り上げられた白衣が、無残に切り裂かれる。

 それでもなんとか耐えきったゼロスは、目の前の光景に思わず息を飲んだ。

 レイスが、さらに大きな球を既に創り上げ、大地を見下ろしている。



「ーーーっ」



 もうレイスは止まらない。

 何が何でも、この世界を壊すつもりなんだ。


 ゼロスは拳を固く握りしめ、歯を食いしばりながら、球を掲げるレイスに言った。



「ねえレイス。ーーー……僕と“戦おう”」



「ーーー……え?」


 ふとレイスが動きを止め、顔を上げるとゼロスを見た。


「僕と戦いたいって言ってたでしょ? 今やろう。約束通り“ハンデ”は貰うけどね?」

「……」


 それはゼロスの捨て身の作戦。

 注意を自分に向けている間に、レイスの心を鎮めようと言うもの。

 力の差は絶望的。その心は冷徹。

 不死のレイスを相手に、どれほど戦っていなければいけないのか、同じく不死のゼロスには、出口の無い恐怖。



 ーーーでも、この世界を壊させない。その一心だった。



「……」


 レイスはじっとゼロスを見つめると、まるで何事も無かったかのように巨大な黒い球を消した。


「わかったゼロス。戦おう。()()()

「え……、ここで!? 帷の外じゃなくて!?」

「そうここ。これは譲れない」

「っく」


 レイスは口元を吊り上げ、慣れない歪な笑みを口元に浮かべながら言った。


「ーーーゼロスは弱い。ハンデはちゃんとあげる。どんなのが良い?」

「……じゃあ魔法は使わないで。後、世界に傷つけないようにするんだ」


 レイスの笑みが消え、苛立たしそうにゼロスを睨む。


「そんなのはハンデじゃない。そんなことしたら面白くない。ふざけてる?」

「……クッ、ならレイスの力の総量を“僕と同じ”にしてよ。それでどう?」

「……それなら、まあいい」


 レイスは頷き、自分の肉を千切ると、空高く投げ上げた。


 ーーーこうして、この世界に二つ目の“月”が出来た。



 ゼロスがレイスから目を離さず、地面に落ちた“エクスカリバー”を拾う。


 それを見たレイスも、目を輝かせながら“アロンダイト”をその手に出現させた。


「力は同じになった。だけど戦いの嫌いなゼロスは、戦闘センスがない。絶望的なのは同じだから」

「それはどうかな? あれから僕だって、色々勉強したんだ」

「戦いの……勉強? ……せいぜい頑張るといい」



 こうして、その提案は受け入れられ、この世界の頂上決戦が、開幕される事となった。



 

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