表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/582

神は、再び沈黙を守り賜うた 〜因縁の果てに②〜

 

「おーおー、やってるやってる」


 地上での乱戦の上空。

 上空での乱舞の遥か上空。


 そこから、下を見下ろす幾つかの影があった。

 その一人が、美しい金の髪を揺らし、嗤いながら隣の影に言う。


「しかし、お前達も思い切った事をしたな。()()、秘密だったんじゃ無いのか?」


「ーーー……いいんだよ。アレはもう、俺達の“王”だから」


 その答えに、そこにいた者達全員が嗤った。


「そうだな。じゃあ俺達も“因縁”って奴を、果たしに行くか」


 影が一斉に、大地へと降りていった。



 ◆◆



神雷(ライディン)!」


 アーサーの掛け声と共に、辺りに蒼白いスパークが迸った。

 ラムガルは正確にそれを避けるが、アーサーの狙いはそれを避けたことによって、あるポイントにラムガルを誘い込む事。必殺の一手を叩き込む為の、布陣だった。


「ハァっっ!!」


 狙いはラムガルの逆手の肘。魔法を使えぬラムガルの、剣の反応が1番遅れるポイントだった。

 狙い通りアーサーの剣は、ラムガルが防御に移るより早く、そのポイントを捉えたが、振り抜く直前にアーサーは素早くその身を引く。

 直後、アーサーの飛び込もうとした場所に、黒い獄炎の柱が上がった。


 剣を構えたまま距離をとったアーサーが、低い声でラムガルに言う。


「……人間相手に、“魔法”は使わないんじゃなかったのか?」


 ラムガルは深い息を吐きながら答えた。


「……人間相手には使わぬ。今のは()()()()()()()()放ったのでは無い」


「……屁理屈だね」


「なんとでも言え。余は人間相手に魔法は使わぬ。だが、お前と無関係に放った魔法に、お前が()()()突っ込んで来る所迄責任は取れん」


 ラムガルはアーサーの強さに……、いや、想像以上の強さに、余裕を失っていった。

 ーーー絶対に、負けるわけには行かない。ここを突破させるわけには行かない。

 そんななり振りを構わなくなったラムガルを見て、アーサーは笑った。


「ハハッ! いい傾向だよ。神に命じられたその隙を突いて、実質反故にする。そのくらい、頭を柔らかくしたほうがいいよ!」


「っ黙れ」



 ーーーゴオォォオォォォーーーッッ



 ラムガルが、最早開き直ったとしか言えない勢いで、12本の黒い獄炎の柱を出した。

 勿論、天井は突き破らないよう調整はされている。

 普通の人間であれば、近寄るだけで蒸発してしまう炎の只中で、ラムガルはアーサーを睨み、低い声で言った。


「その強さ、かつての無邪気さの中であれば手を叩いて褒めてやった所だが、今の愚かさの前では、嘆かわしさしか湧いてこぬ。……その程度で調子に乗るな!」


「……」


 ……わざとなのか、素なのか煽りまくるラムガルを、勇者は睨んだ。そして、手を前にかざし言った。


「ーーー輝け火の神(フレイヤ)。渦巻け炎、照らせ焔、その熱を負に寄せ、蒼き炎をもって凍てつかせよ! “冷炎”」


「っ!?」



 ーーーバシィーーーッッ!! ビキビキビキビキビキ……




 アーサーの詠唱の後、揺らいだ空気から蒼い炎が溢れ出し、その炎に触れたものすべてを凍てつかせた。

 ラムガルの出した、獄炎の柱さえも凍りつき、パシャパシャと崩れ落ちた。


 冷気の白煙の中、アーサーは静かに言った。


「ーーー氷さえ凍て砕く、冷熱の炎だ」


 砕け落ちた炎の柱を横目に、ラムガルの額に一粒の汗が浮かぶ。


「ーーー……それが、“神々の祝福”という物か」


「そう、祝福を受けたものは、自分のマナと等価交換でその力を自由に扱える。……中でも“愛された者”に至っては等価交換無しで、その力を授けられるようだけど」


「厄介な」


「そうだろうね。僕の中のマナを一気に解放しようとすれば、体が耐えきれず崩壊を始めるけど、“神”を媒介にした場合、負担なくその力を出せる。“勇者”にとってはこの上なく相性がいいんだ」


「……」


 アーサーが努力によって勝ち得た力だけでも、目を見張る物はあった。加えて神々の祝福により、魂に込められた力も難なく開放してくる。

 言葉を失うラムガルに、アーサーは剣を構えた。


「ーーー言ったはずだよ。ーーー僕は強くなった!!」


 踏み込んでくるアーサーに、ラムガルは再び黒炎の柱をうねらせ、迎え撃つ。


「ふん、どれほど強くなろうが、余は倒せぬ! 余は滅びぬ! そしてその様な大義なき強さ、余は永遠に認めぬ!!」


「いいや、認めさせるっ!」



 ◆◆



 地上から幾十本もの黒炎が上がり始めた頃、上空では赤竜と、錫杖の様な槍を構えたティーガテイが向き合っていた。 

 8枚の翼を大きく拡げながら、ティーガテイが赤龍に不敵に笑いかける。


「トカゲ風情が、羽をつけただけで王者気取り? 笑っちゃうわね」


「……フン、さえずるだけが取り柄の小鳥に、()があったとは驚きだ。鳥かごの中だけでさえずっていれば良かったものを」


 赤竜の言葉に、ティーガテイの顔が歪む。

 そして、大天使長の名に恥じぬ、威厳と畏怖のこもった低い声が響いた。


「ーーー……神に愛されし、始まりの天使を愚弄するのか。この愚かな若造が」


「っ!」


 ティーガテイの小さな体から放たれる怒気によって、赤竜の巨体が一瞬悍毛たつ。

 ティーガテイが静かに言った。


「お前如きには私達の偉大さも、尊さも分からないでしょうね。自己愛しか持たぬ、神に愛されたことのない“魔物”よ。……私達は古来より神の聖心に従う“聖”なる存在。神に愛され、その聖手で触れられ、育て上げられた“愛の化身”なのだ。それも魔王と共に創られ、力を等分する同格の存在。ーーー……ふふ、それに楯突こうなんて。赤竜、貴方、“誇り”と“奢り”を間違えていないかしら?」


 ふふふと笑うティーガテイに、赤竜はその巨体からは考えられないスピードでティーガテイに首を伸ばし、強靭な顎を突き出した。


「耄碌により、(まこと)の神も分からなくなった、憐れな化石め! くたばれぇ!!」


「ーーーーあ」



 ーーーグシャアァッッ



 ……あっけなく、それはもうあっけなく、ティーガテイが赤竜の顎に挟まれ、噛み砕かれ、潰れた。



 ーーーゴリ、ゴリ、ゴリ、ゴリ、プチュ……



 口の端から血を滴らせながら、赤竜は満足げに笑う。


「ふ、魔王様に匹敵するとはいえ、たかが一匹では他愛もない」


「ーーー七匹ではどうかな?」


「!?」


 振り向けば、そこには髪型と、手荷物武器だけが違う6体の天使が並んでいた。


 髪を1本に長く編み込んだイノンセラが、呆れたように、赤竜の血の付いた口元を見ながら肩をすくめた。


「全く、ティーガテイは遊びが過ぎる」


 真ん中にいた、レイピアを持つシェルが頷いた。


「ローザン、クリプト羽を撃ち抜いて」



 ーーードンッ バシュッ



 シェルの言葉と同時に、ローザンが矢をクリプトが2丁の銃を撃ちはなった。


「なぁっ!?」


 突然の激痛に、赤竜は顔を歪ませる。

 一瞬のうちに、穴だらけとなった翼で、激痛に耐えながら必死でバランスを取ろうと力を込めると、突然腹の方から、耐えられない痛みが湧き上がった。そして次の瞬間。赤龍の腹から喉にかけて、内側から破れ、血が吹き出した。


「……ガッ……」


 そこから現れたのは、白い髪を赤い血で染め上げながら微笑むティーガテイ。


「あ、みんなー! 来てたの?」


「何を喰われてるんだ、お前は」


「ごめんごめん。赤竜がムカつくから言い返してたら、話の途中で来られてさ。マナー違反だよね。これだから魔物は」


「ーーー……ッガフッ……フーッ、フーッ、フーッ……」


 腹を内から切り裂かれて、尚必死で空中に留まる竜王。

 ティーガテイが嗤う。


「あ、マスターの小瓶が汚れてる。やめてよね、ホントにもぅ! ーーー“浄化”!」


 ティーガテイが、声を上げた途端、白い光がその身から溢れ出し、赤竜の血を舐め取り消えた。

 ティーガテイが小さな小瓶に話しかける。


「ごめんね、マスター。終わったら出してあげるから、ちょっと待っててね」


 ティーガテイは小瓶を懐にしまうと、振り返り、ノーモーションで赤竜の胸を槍で貫いた。


「……っぐふ!?」


「魔王は死なない。私達も死なない。我らは不滅なる存在。神がそう定めたのよ。ーーー……滅び堕ちなさい。刹那を生きる者よ」



 ーーージャシュ……



 ティーガテイが無慈悲に槍を引き抜いた時、動きの止まった赤竜は支えを失い、大地に向かって落下を始めた。

 ……刹那とティーガテイは言ったが、補足しておくと、赤竜は今年で1276歳を迎える。意外と若いと思うかも知れないが、彼らは誇り高く、300年毎の勇者との決戦にこぞって参加する為、案外短命な種族なのだった。


 落ちていく赤竜に、ティーガテイが天使の微笑みを浮かべ、手を振る。


「ーーー……私達は、常に見送る側なの。さようなら、赤竜」


「ーーー……っ」


 堕ちる赤竜。

 必死で体勢を立て直そうとするものの、破れた羽では風を掴めず、もがく毎に、開いた腹から内蔵が押し出される。

 ティーガテイは、落ちる赤竜を見届けることなく、他の天使達に向き直って微笑んだ。



「じゃあみんな揃ったみたいだし、この結界、サクッと壊しちゃおっか!」






 ーーーッドンッッ



「?」


 墜ちていた赤竜が、突然空中で停止した。

 皆、目を丸くして赤竜を見る。

 中でも一番驚いたのが、赤竜本人だった。



「久しぶりだな、赤竜の坊主」



「ーーー……ベリアル……様?」



 赤竜の真下。そこに金髪の美男子ベリアルが、片手で赤竜を支えながら浮かんでいた。

 ベリアルは、いつもの様に軽薄な嗤いを口元に浮かべ、赤竜に言う。



「馬鹿だなあ、こんな派手にやられて。天使達相手に油断してるんじゃないぞ」



 ベリアルの声は明るく、いつもの様に余裕を感じさせる軽快な声。

 この決戦の場において、ベリアルは不気味な程にいつも通りだった。



 ……ただ、ベリアルのその金の瞳だけは、一分の油断もなくまっすぐと白髪の美しい天使達を睨んでいた。




今エピソードの戦争について、初めてプロットを作りました!(ΦωΦ)人が多くて、もうね、渋柿もキャパオーバー気味です。


「……っていうか、今まで作ってなかったの? そんなんで、世界創造出来ると思ってるの? 竜王に名前の1つもないとか、なんなのこの話。端折り過ぎじゃない?」


……申し訳ございません!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ