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神はまず、大地と水そして火を創り賜うた

 無表情な双子は、ゼロスとレイスという。

 俺が名付けた。


 ゼロスは漆黒の長い髪が美しい、七歳児位の人の子の姿をしている。

 レイスは真っ白い絹の様な長い髪をした、同じく七歳児位の人の子の姿をしている。


 二人は全く同じ顔だった。

 だけどそれはどんな世界の、どんな生物より美しいだろうと断言できる程の、完璧な容姿をしている。


 今俺が双子に話しているのは、今は昔の物語。

 もう何万回と繰り返し話してきた、この世界の創生の瞬間の話だ。

 あまりに繰り返しすぎて、1語1句間違うことなく話せるようになったその物語を、二人は飽きる事も無くただ俺をじっと見つめ、貪るように聞き続けている。……まあ、全くの無反応とも言えるけど。


 芽を閉じれば、今でも昨日の事のように思い出す。

 最も昨日、今日、明日と言う概念が出来たのは、つい最近の六百年程前の事だが。


 俺はあの忘れもしないニ万年前の運命の日の感動を、二人に伝えるべく再び話し始めた。


「俺は絶望したよ。虚無の中に出来た小さいけれど唯一無二の世界を、この手で壊してしまったと思ったのだから。今までどれ程望んでも、手に入れることの出来なかった希望の宝物を、まさか自分自身で壊してしまったんだ。それはもう自分を呪ったよ。だけど砕けて2つになった光の砂粒は、それでも虚無に飲まれること無く、光を失わなかったんだ」


 そう。小さな小さな2つの光。

 俺は愛しくて、触れる事を恐れながらも、闇に飲みこまれ無いようにそっと包みこんだ。


 俺に手はないから多分あれは、俺の根っこの部分だったんだろう。

 端から見たら、光る砂に寄生したように見えたかもしれない。

 誰もいなくて良かった。


 それから俺は二粒の光がバラバラにならないように、大切に包み込んだまま闇の中を漂った。


 幸せだった。

 大切な光を抱きしめながら、ただ漂うだけで幸せだった。


 何もない虚無の世界が終わり、流れ始めた“時のある世界”。

 この二粒の宝物が、俺に世界を与えてくれたのだ。

 虚無の世界から抜け出した俺は、ただ幸せに満たされていた。


 漂いながら俺は自然と、2つの砂粒にかつて聞いた事のある子守唄を歌った。

 そして必死で思い出しながら、俺の知ってる世界の事を話した。

 だけどかつての俺の思い出せる時間など、どれ程詳細に話したところで直ぐに終わってしまう。

 何千、何万回も繰り返し話したが、やはりすぐ終わってしまう。

 だから俺は考えた。

 空想科学や、幻想の物語を考えた。

 俺の知識での常識では不可能なことも、どうすれば可能にできるか? と空想した。

 そして砂粒に、それを話して聞かせた。


 気付けば一万と九千年程経っていたよ。

 あっという間の時間だった。

 楽しい時程、直ぐに過ぎてしまうと言うしね。



 そして今から千年前、それは突然起こった。

 “樹”の俺が言うのもおかしいが“まるで長い眠りについていた種が芽を出した”と言う表現が一番近いかも知れない。


 片方の光の砂粒に“意思”が宿ったんだ。

 喋らないし動かないから、それ迄と見た目は変わらなかったけど、俺には分かった。

 だって一万と九千年の間、ずっと瞬きすらせず見守り続けていたんだから。

 まあ、目も無いって言うのもあるんだけど。


 それからと言うもの、目まぐるしくいろんな事が起こり始めた。いや、目はないけどね。


 二百年程で、もう片方の砂粒にも意思が宿った。

 俺は二粒に、かつて俺の知る世界の事をまた繰り返し話して聞かせた。


 俺はかつて“人”と呼ばれる動物であったと。

 更に何千回か昔話を繰り返した頃、後に意志の宿った砂粒が姿を変え始めた。


 大きく膨らみ、やがて成したその形を見た時、俺は感動した。

 その形は俺の知る世界の動物達の種、つまり“胎児”の姿だったのだ。


 胎児は成長を続け、三才くらいの幼児の姿になった。

 俺は感動のあまり涙したかったが、芽しかないので諦めた。


 幼児は自分の右腕の肉を粘土の如く千切り取ると、もう一つの砂粒に与えた。

 小さな肉片をまとった砂粒はたちまち成長し、もう一粒と同じ姿になった。

 全く同じ姿だが、俺には当然のごとく見分けはつく。

 だが二粒に、自分と他人の違いを理解してもらうために、名前をつけることにした。


 肉をもらった方の粒をゼロス・ネヴァ


 肉を与えた方の粒をレイス・ネヴァ


 そう、数字の0だ。そして、0が二つで∞〈never〉となる。まぁ正確には∞〈INFINITE〉だが、語呂が良いからこっちにしておこう。


 俺は二人を兄妹とした。

 生殖器など無いのだから、男や女の違いがある訳ではない。

 だけど二人に“個”を理解してもらう為に、敢えて反対の認識を持たせる事にしたんだ。

 ゼロスを兄、レイスを妹とね。



 レイスは凄かった。

 己の肉をゼロスに与え、彼を成型したように己の肉を千切り、なんと世界を創り始めたんだ。


 まずレイスは小さな大地を作った。

 テニスボ―ル位の大きさだ。

 とは言え、当時の俺は根だけをひょろりと伸ばすだけのモヤシにすら及ばない存在だったから、その小さな大地は俺から見れば十分に立派すぎる大きさだった。


 そして次にレイスは、サッカ―ボ―ル程の大きさの、光る玉を作った。

 俺の話した“太陽”を真似たんだろう。

 そこで一旦手を止めたレイスは、何故かゼロスの影に隠れた。


 ―――何かあったのかな? 


 俺が不安に駆られ、闇の中をふわふわと漂い、ゼロスの後に居るレイスを覗き込もうとした時だった。

 俺は突然、ゼロスの手に捕らえられた。


 再度言うが俺はモヤシ以下で、ゼロスとレイスは人間の三才児程だ。

 当然ながら二人の方がデカイ。

 あの砂粒がこんなに大きくなったのだと感慨深い思いに浸りながら、この手に少しでも力が込められたら、俺は圧死するだろうと確信したのだった。


 まあ、目に……いや芽に入れても痛くない二人になら、例え殺されても俺はきっと恨みはしないだろうけどね。


 そんな失礼なことを考えながら、俺は非力でか細い我が身をゼロスの手に委ねる事にした。

 ゼロスはとても丁寧な手つきで、そっとレイスの作った大地に俺を置き、柔らかい土を少し掛けてくれた。

 俺はキョトンとしながらゼロスを見ると、なんとゼロスの顔の筋肉がピクピクと動いているではないか。


 俺は心配になり、ゼロスに手を……否、根を伸ばした。

 根は微妙な感じに、少しだけニョロリと動いた。

 

 俺のそんな微妙な行動にゼロスは反応を見せず、不自然に頬を歪ませながらも、一生懸命開けた小さな口から高く澄んだ声を発した。


「れ、レイ……す、土と水と太陽つくった」


 正直、一瞬何が起きたのか、俺は理解が出来なかったよ。


 あの砂粒だったゼロスが、一万九千四百年の時を経て、意思を持ち、肉を持ち、内臓器官を創り、気道に空気を送り、声帯を震わせ、舌と唇を使い、声を! 声を!!

 奇跡か!? 天才か!? 

 なんと言うことだ。喜びのあまり声が出ない! そもそも俺には声帯なんて無いけども!!


 俺は感動にうち震え、ゼロスの発した言葉の意味を理解しようとすらしないまま、ただ歓喜した。

 浮かれていた。そう、完全に油断していた。

 だから俺は次のゼロスの言葉に、打ちのめされ。


「レイすとゼロスは、育てたい。おおきくナアレ、おとうさん」



 オ・ト・ウ・サ・ン?



 オトウサン?




 おとうさん!!? 




 俺は埋没した。


 否、もとから少し埋まってたか。

 花すら咲かせられていない俺だが、今なら盛大に鼻血を咲かせられる気がする。いや、やっぱ無理だ。鼻が無いから。


 ともかく俺は、萌え尽きた。





 そうして双子の神々は、始めに大地と水、そして太陽()を創ったのだった。


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