表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
196/582

神は、再び沈黙を守り賜うた 〜神殺しの一族①〜

今回の話と次話は、少し敵陣の紹介話になります。

……人によっては、ムナクソを感じるかもしれません……(汗)

 

 《カーリー視点》


 私はシヴァお兄達と一緒に、王都から程近い森の中に構えたキャンプに来ていた。

 とは言え、シヴァお兄は王都の勇者のところに行ってて、ラクちゃんは「ちょっとお花摘みに……」とか言って出かけていった。……多分あれ、ルシファーを、潰しに行ったな。

 私も行きたかったけど、シヴァお兄は待ってるようにって言ってたから我慢した。

 ガルダおじさんは、やりかけの鍛冶の続きに戻って行って、他のみんなに関しては、何をしてるのか分からない。

 だけど別に、皆がどこで何をしていようと、どうだっていい。


 ーーー今はただ、なんだかイライラしていた。


 うまく行かない。

 せっかくルシファーを殺せるかと思ってワクワクしてたのに、ルシファーは来なかった。

 代わりに来たのが、クリシュナとか言う馬鹿強いエルフ。

 せっかく殺し(ヤッ)てもいいって、シヴァお兄に言ってもらったのに、殺せ(ヤれ)なかった。ーーー……イライラする。


 みんな誤解してるけど、私は別に強さをひけらかしたい訳じゃないし、戦いだってそんなに好きでもない。私の本心は何時だって、ただ()()()()だけ。

 だけど強い人を殺るためには、どうしても強さが必要だからしょうがないし、シヴァお兄の役に立てるからまあ鍛えはするんだけどね。


 ーーーああ、苛つく。



 ーーーヒュン……


 私が眉間にシワを寄せながら、一人でナイフの素振りをしていると、背後に気配を感じ、腕に鳥肌が浮いた。


「や! どうしたのっ!? 膨れっ面のカーリーちゃんもカワイイね……」



 ーーーガギンッ!!



 思わず勢いで振り向きざまにナイフを振ったら、そのナイフはあっさりとヘンタイの……じゃなくて、ガルダおじさんのハンマーに受け止められた。


「……っ振り向きざまに、身内を殺しにかかるとは……」


「……」


 頬を引き攣らせながらおじさんは大袈裟に言うけど、私はこれ迄におじさんに勝ったことがない。

 正面から行っても、隙を突いても駄目だった。そしてその都度捕まって頬ずりされたから、もう今は敢えて奇襲をかけることもしない。


 ……そしたら、こうしてガルダおじさんから近づいて来る様になってしまった。

 そんなおじさんを、ラクちゃん達は“ヘンタイ”と呼んでいる。

 ガルダおじさんは、私の溜息に気付かず、目をキラキラさせながら両腕を広げた。


「僕ってホントにカーリーちゃんに愛されてるなぁ! 抱っこさせてっ」


「って、なんでやねん」


「っがは!」


 私がうんざりと断りの言葉を言おうとしたら、背後から野太い声が上がり、同時にガルダおじさんが吹っ飛んで行った。

 私は振り向き、その人の名を呼んだ。


「ガネシャ兄? 来てたの?」


「あらーん、カーリーちゃん久しぶやん! あ、また髪がはねてるで? 女の子がそんなんやったらアカンやん、もう! ーーー……ほ・ん・で・な、“兄”や無くて、“姉”やから。間違えんといて、な?」


「う、うん。ゴメンナサイ」


 そこには独特の喋り方をするガネシャ姉が居た。ピンクの長いスカーフがトレードマークの、自称ポッチャリな私の従兄弟……じゃ無くて従姉妹だ。

 私の家族達は気配を読まさずに、突然現れるからビビる。

 そして私が詰め寄ってくるカネシャ姉の重厚感に気圧されてると、殴り飛ばされていたガルダおじさんが起きてきた。


「おい、デブ。何するんだよ」


「おん? デブ言うなや、ポッチャリや。全然違うからな? 変態が可愛いアタシのカーリーちゃんに危害加えようとしてたから、チョットいてこましただけやん。何怒ってんの?」


「はぁ? チョット? てゆーか、変態はお前だよね? じゃあ僕も ちょっとぶっ飛ばさせてもらおうかな」


「ええよ? 返り討ちにしたるわ。アタシのラブちゃんの餌食になりぃや」


 二人はそう言って、ガルダおじさんはミョルニルを、ガネシャ姉はラブリュスの斧を構えた。

 この二人はいつもこうだ。似たもの(ヘンタイ)同時反りが合うのか合わないのか、顔を合わすと殺し合い(喧嘩)を必ず始める。

 そしてそんな二人に、私もいつもため息を吐きながら言う。


「止めてよ、ガルダおじさん、ガネシャ姉! 二人を殺すのは私なんだからねっ!」


「「……」」


 二人が私を見る。そして、同時に弾けるように、私に飛びついてきた。

 ギュウギュウと抱きつかれ、宙ぶらりんになりながら、私はまたため息を吐いた。


「んもぅ!! ホンマにカーリーはカワエエなぁっ! カーリーにやったら、殺されても本望やでぇ!」


「僕ね、カーリーに殺される為、この先何があっても死なないからねっ! 僕を殺して良いのはカーリーだけだよっ! だから早く強くなって、僕を殺すんだよ! ……出きれば後一年以内に……」


 私は間近にあるおじさんの顔を、極力避けながら念を押した。


「頑張るけど、おじさんをヤるのはキモくて早く消えて欲しいからだからね!」


「いいっ! いいよぉ! もっと罵って!」


「「……」」


 ハァハァと更に息を荒げてくるおじさんを、私は無視する事にした。

 私はみんな、みんな殺す。

 嫌いな奴は殺す。苦手な奴も殺す。友達も、大好きな人も殺す。

 殺すことが、私の拒絶表現。そして、愛情表現なんだ。



 ーーー殺しなさい、カーリー。



 私が初めて殺したのは、飼っていたホーンラビットの幼体だった。


『お母さん、どうして? ご飯にしちゃうの?』


『違うわ。あなたが強くなる為よ』


『私は別に強くなりたくないよ』


 私がそう言うと、お母さんの笑顔が消えた。


『いいえ、強くならなくては駄目よ。シヴァ様は今、力を必要とされているの』


『……チビが可哀想だよ』


『まあ! 可哀想と思ってあげられるのね。なんて優しい子なのかしら。ホーンラビットを飼わせて正解だったわ。……でも大丈夫よ。あなたが強くなる為にその命を奪われるのなら、その子にもちゃんと価値があったと言う事だもの。何かの為になる事が、それぞれの生きた証となるのよ』


 ……価値があれば、その死は尊い物になるのか。



『分かった』



 ーーー私はそれから、強くなる為に殺し続けた。



『皆、ありがとう』


 ーーーザシュ……



 ※



『……余計な事はしなくていいんだよ。シヴァ様の為に、ただ強くなりなさい、カーリー』


『はい』


『シヴァ様は我等の神なんだ。神の為に、全てを捧げようとするのは人として、当然の事なんだ』


 ……全ては神のために?

 神とかよく分からない。だけど、シヴァお兄は大好きだ。

 私もシヴァお兄の為だったら、なんだってするよ。


『はい、お父さんお母さん』



 ※



『カーリー! ただいま! ナイフの練習は捗っているかな?』


 お母さんとお父さんは、最近よく出かける。ダンジョンって所に行ってるらしい。

 ダンジョンで手に入れた道具を使いこなせるようになったら、“シヴァの一族”に加えてもらえるらしくて、お父さんとお母さんは頑張っているそうだ。

 私はその間、一人でナイフを振るって、手当たり次第に魔物や動物を殺し続けた。

 一人ポッチは寂しいけど、その分帰ってきた時にいっぱい褒めてもらって、ギュってしてもらうんだ。


 私はお父さんとお母さんに駆け寄って、跳びついた。


『お父さんっ、お母さん! おかえりなさいっ、私ね、ロックベアを一撃で仕留められるようになったよっ!』


『その年で、もうロックベアを……、お前は天才だなっ! そんなお前に、素敵なプレゼントだ』


『わーい! なーに?』 


『お父さんとお母さんが、今回ダンジョンで手に入れた“アゾットの短剣”と言うナイフだ』


 そう、お父さんが自慢げに差し出してくれたのは、なんの変哲も無い鈍色のナイフ。

 切れ味はまあ良いけど、うまく研げは他のナイフだって、この位にはなる。

 私は困惑しながらお父さんに聞いた。


『……。……ありがとう。だけど別に普通のナイフだよ?』


『今のままじゃあそうだな。……なあカーリー。カーリーの一番大好きな人は誰だ?』


『? んーーー……。シヴァお兄も好きだけど、一番はお父さんとお母さん!』


 私がそう言うと、お父さんとお母さんは嬉しそうに笑って、わたしをギュっと抱きしめてくれた。


『『ーーー……ありがとう、カーリー。私達も大好きだよ』』


 ーーー大好き。



 ※



 私は、赤い血の海に立っていた。そして、私の前にはお父さんとお母さんが倒れている。


 ーーーお父さん、お母さん。ありがとう。


 その時、後ろから久しぶりに聞く、シヴァお兄の声がした。


『ーーー……これは、カーリーがやったのか?』


『あ、シヴァお兄、久しぶり! そうだよ。私が殺したの。お父さんとお母さんがね、私を強くするために殺しなさいって言ったんだ。それがお父さんとお母さんからの“アイ”なんだって』


『……ドゥルガ達がそんな事を? ……カーリーはそれで良かったのか? ……悲しく無いのか?』



『悲しい? 何で? もう会えないのは寂しいけど、コレが“アイ”なんでしょ? 私はお父さん達の事が大好きだった。それに父さん達は、私の為に身を捧げてくれたんだよ。それを悲しいなんて思ったら、お父さん達に悪いでしょ?』


 私がそう言うと、何故かシヴァお兄が眉を寄せながら、ギュっとしてくれた。


『ーーー……すまない、カーリー。お前は愛する者の死に、涙一つこぼせないのか。……お前を一族に迎え入れよう。一緒においで、カーリー。皆一緒だから、寂しくはないだろう』



 ※



 私はシヴァお兄と一緒に旅をして、みんなの所に行った。

 初めて見た皆の前で、私は恥ずかしくてシヴァお兄の後ろに隠れていた。


『皆、紹介する。新たな“神具”を持つ一族“カーリー”だ。ーーー……この子は“殺す事”を、“愛”と同義に捉えている』


 シヴァお兄が私を皆に紹介してくれると、タプタプしたお肉のオジサン(?)が、私を見ながら呟く。


『……そらまたなんちゅうか、エライぶっ飛んでるやん……』


『だがお前達も知っている通り、俺はこの子の感性も個性も、全てありのままを認める。お前達もこの子と仲良くする程に、この子からその命を狙われる事になると認識をしておけ』


 シヴァお兄の言葉に、皆んなは頷いた。そして、ひとりの男の人が進み出てきて私に言った。


『カーリーちゃん、僕はガルダだよ。よろしくね。これからは“ガルダお兄ちゃん”と呼んでくれ。ちょっと抱っこしていい?』


 ……どう見てもおじさんだ。


 私は一歩下がりながら、首を横に振った。本能で、この人には近づいてはいけないと悟った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ