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神は、沈黙を守り賜うた 〜ファーストインパクト③〜 

 ガルダの振り降ろした鎚が、空気との摩擦で紅く燃え上がる。

 そして紅く燃え上がる鎚に、ガルダは呼び掛けた。


「キッド! 出番だ!」


『オーケー、ガルダっ! いっくよぉーー!! グレイプニルの檻(クリムゾン・ゲージ)!!』



 ーーージャララララララ



「!!?」


 ガルダに応えるよう現れたブリキッドが、鎚を媒体に自身の記憶を叩き上げる。

 鎚は一層に紅く輝き、鎚底から無数の紅の鎖が溢れ出した。それらはまるで蛇のようにうねり、クリスに襲いかかる。

 クリスは次々と伸びてくる紅い鎖を避け、払う為にそれに触れた。


「……ッアッツ!」


 クリスの鎖に触れた手の甲が、うっすらと赤くなっていた。

 鎖をまだまだ吐き出し続けるガルダの目が据わった。

 ガルダは三白眼で、感情の籠らない声でボソリボソリとクリスに言う。


「ーーー……マジですか? その鎖フレイヤに熱込めさせてるんだけど……」


「っ熱かったですよっ! ええ! 火傷跡になったらどうしてくれるんですか!?」


「……いやね? グレイプニルだから普通に保ってるけど、その鎖の表面温度6300度ある訳なんですよ。普通の生き物だったら、焼ききれて肉に穴空いてるはずなんですけど……、火傷跡が残るか残らないか程度って……」


「……」


「化物ですか?」


「……」


 とても丁寧なガルダの質問に、クリスはちょっと傷付き、目に涙を浮かべた。

 そして少しの静寂の後、クリスは涙を拭いガルダを睨み上げる。


「私は、……ただの女の子ですよっ! だってパパが私に“ただの女の子だよ”って、そう言ってくれましたから!」


「それは社交辞令だね。若しくは、盲目的な親馬鹿? 僕からしたら、涸れたババアも良い所だよね」


「……?」


 見た目は12歳の、中身は3350歳の少女は、初めて受けた“ババア”と言う評価に、首を傾げた。

 しかし、その理由に気づかぬまま、クリスはガルダの声で現実に引き戻された。


「よーっし、ゲージ完成!」


「え? ……ああ!!」


 見れば、巨大なグレイプニルで編まれた“鳥かご”が出来あがっていた。

 それもクリスは当然、ガルダや、カーリー、ラクシュミをも含む、全員を取り囲むほどに巨大なゲージ。

 ブリキッドが自慢げに言う。


『ふふん。流石の君でも、この籠からはそう簡単に出られないんじゃない?』


 嬉しそうに無邪気に笑うブリキッドに、クリスは唖然としながら叫んだ。


「ブ……、ブリキッド様……。一体何故そこ迄……、ゼロス様に敵対する人間に、そこ迄するのですか!? そんな事をすれば、いくら神様でも、身の内のマナを使い果たし、死んでしまいますよ!」


 ブリキッドは一瞬キョトンと、目を丸めた後、鼻でそれを笑い飛ばした。


「あっは! 君は何もわかってないね。不死のものがその身に望むのは何だと思う? 不死のものは死を恐れない。ただその在り方を求めるだけだ。ガルダは、ボクを最高に高めてくれる。その見返りは何だってするよ」


「……しちゃだめでしょう! 死んじゃいますよ! ブリキッド様だけじゃ無く、他の皆も全部! 駄目ですよ!」


「……なんで? ボクはこの世界で“鍛冶”以外に興味がないし、よく分からない。そして鍛冶技術に於いて、ガルダは最高なんだ。この世界が滅びるにしろ生き残るにしろ、そんな事どうだって良い。ねえ、そんな事より、ガルダより腕の良い職人なんて、居る? ガルダ程ボクに身を捧げてくれる信者が居るの?」


「……っ」


 クリスは言葉をつまらせる。ガルダは目を見開きながらブリキッドを見つめていた。


「……ボクは断言する。そんな者、過去も現在も、この先の未来にさえ現れないってね。ーーーガルダは最高なんだ。ボクはガルダが望む限り、この身が滅びるまで力を与え続けるよ」


 ……八百万の神々は極端だ。まあ、ゼロスにそう創られたのだから、仕方が無いんだけどね。


 ブリキッドの言葉に、突然ガルダが吼えながら踊り出した。



「うおぉぉおーーーーーっ!!! ブリたん最高!!! L・O・V・E・ラブリー★ラブリー★ブリブリっ、ブリたんっ!!」



「「……」」


「はぁ……」


 静寂に包まれた後、ラクシュミの溜め息だけが響いた。

 続いて、クリスがドン引きしながら言った。



「ーーー……崇拝って、そう言う……? ーーー……変態……」



「何言ってんだ、このババアがっ!!」



 そう、ガルダは幼女好きだった。

 クリスが鬼気迫る勢いで、ブリキッドに叫ぶ。



「逃げてっ、ブリキッド様っ! 変なオジサンに駄目なイタズラされてしまいます!」


「え? どういう事? ボク、何もされた事はないけど……」


 チラリとブリキッドがガルダを見れば、ガルダは全てを悟りきった表情で、髪を風にたなびかせながら答えた。


「……するわけ無いよね。だってブリたんは僕の女神だもの。ブリたんに僕の全てを捧げはしても、ブリたんから奪うなんて事はありえない。ブリたんにお願いされたら、僕は腕が千切れようと、鎚を振り続けるんだからね」


 ブリキッドは嬉しそうに頷く。


「うん! ボクもガルダの為なら、いくらでも協力するよ!」


「っっくあぁァァァァァーーーーーーっ!!! しかも、僕の為だと!? もう、……もう……尊すぎて……、幸せすぎて死んでしまう……。……うう……ボクっ子、万歳っ!」


 天に鎚を掲げながら、身を仰け反らせながら涙するガルダに、ブリキッドはとどめを刺しにかかる。


「だ、大丈夫? ……死んじゃイヤだよ、ガルダ。だってボク、ガルダが居てくれたから、ここまで来れたんだ。これからも、一緒に居てよね?」


「ーーーっっブルァァジョぉあぁぁーーー!!!!」



 ガルダは悶絶した後、ゆらりと姿勢をただすとクリスに鎚を向け構えた。


「ーーー……そういう事なんだよ、ババア。僕は神のためにこの命と人生を捧げるんだ」


 ガルダが真っ直ぐとクリスを見据え、己の信じる神を語る。


「“神”とは絶対的な存在。“神”とは絶対に穢してはいけない存在。“神”とは絶対に、……絶対に触れてはいけない存在なのだ」


「っていうか、何でそこまで分かってて、ゼロス様に楯突くんですかぁぁ!!?」


「誰が成人したヤローなんぞに身を捧げるかァァァァァーーーー!!!」



 ーーー……カッッ!!!!



 紅の鳥籠の中で、赤と緑の光がぶつかり弾けた。

 その衝撃で、グレイプニルの鎖にヒビが入る。


「ガルダおじさんっ! 避けてぇえぇぇーーーーー!! いでよっ! 大地の巨人“ティターン”!!」


「……え……」


 カーリーの掛け声で、空に穴が開く。続いて、空気を震わせる咆哮が響いた。


「ちょ……、カーリーちゃん!? 待って待ってっ待ってぇーーーーっっ!! 避けっ……避けられないから、待ってぇーー!!」


「えー、無理ぃー。もう召喚しちゃったからっ!」


「こ、この悪戯っ子ちゃんめっ! 来年以降、こんなコトしたら絶対お仕置きだからねええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!」


 ……ガルダの崇拝対象は、七歳以下の女の子だけだった。

 6歳のカーリーがボソリと“キモっ。一緒に潰れちゃえ”と呟いた時、穴から赤城山の様な巨人が現れた。


 ーーー……めちゃくちゃデカイ。

 掌だけで、東京ドーム、手首から肘までの長さでスカイツリーを超すその巨大さ。勿論、その一般的な七等身サイズでそれだ。

 レイスがティターンを創ってると聞いていたけど、正直予想を遥かに越えたサイズだった。……確かにこれは、サイズ調整用のキノコがいるかもしれない。



「ルオオオオオオォオォォォォォオォォォォォオォォォォォオォォォォォオォォォォォオォォォォっっ!!」



 尾を引く恐ろしい咆哮を上げながら、ティターンは大地に拳を振り降ろした。


「っだっ……駄目えぇぇぇーーーーーーっっっっ!!!!」


 大地を……否、大陸すらをも砕くその一撃を、クリスは避ける事なく素手で受け止めた。

 大地に足をつければ、その圧で大地は沈み込むだろう。だからクリスは、自分の力だけで、何にも縋らずその一撃を受け止めた。


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