表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/582

神は、沈黙し賜うた

 ゼロスがポツンと、俺の枝に足を伸ばして座っていた。

 幹に背を預け目を閉じるその姿はまるで、眠っているようだった。


 ーーーだけど俺は知っている。


 ゼロスは決して寝ていない。何故なら、神だから!

 ……まあ、誰でも分かりそうな説明は置いておいて、俺はゼロスに声を掛けた。


「……スクウィーズ、どうだった?」


「ーーー……僕的には、まぁまぁだった。だけど流行った理由は分かったよ。あれはクセになる」


 ゼロスは律儀に答えてくれた。

 俺は微笑むように葉を揺らし、話題を変える。


「ゼロス、“天岩戸(あまのいわど)”って知ってる?」


「知ってるよ。太陽の女神が、弟の暴力行為を悲しんで、岩戸の内に隠れたって話でしょ。何度も聞いたよ。それが何?」


「うん。ゼロスに似てるな、と思って」


 ゼロスがピクリと動き、薄っすらと目を開けた。


「似てないよ。女神と言うならレイスでしょ? 太陽を創ったのもレイスだし、そもそも僕は、何処にも隠れてない」


 至極真面目なゼロスに、俺は笑いながら言う。


「そんな物理的に捉えないで。イメージだよ。だって、ゼロスはこの世界を照らす、太陽そのものだったから。そして自分の分身()の行動に腹を立て、世界に闇を与えようとしてる」


「……僕は岩戸になんて入ってない」


「入ってるよ。固く、心を閉ざしてる」


「……。……じゃあ、これから始まる戦争が、僕の気を引く祭り囃子や踊りだとでも?」


 ゼロスは吐き捨てるようなその言葉に、俺はゆっくりと、大切な思い出を手繰り寄せながら答えた。


「俺はね、思うんだ。ゼロスは戦争が嫌いだから、それはいくら激しく瞬こうと、ゼロスは興味を示さない。伸芳の戦いだって、戦いそのものじゃなく、金虎の美しさに声援を送ってたんだもの」


 俺は、小さなゼロスが一生懸命応援している姿を思い浮かべ、クスリと笑った。

 ゼロスは口を尖らせたまま言う。


「ーーー……じゃあ、仮にそうだったとして、ラムガル達は無駄な事をしているって訳だ。そんなもので、僕の心は動かないんだから。彼らの負けだね」


 そう言って、少し悲しげで皮肉った様な笑みを口元に浮かべるゼロスに、俺は優しく葉を揺らした。


「そうかな? 勝ち負けで言うなら、ゼロスの負けだと俺は思う」


「僕の負け? なんで?」


「だってゼロス、スクウィーズが気になって見に行ったじゃない」


 ゼロスの体がピクリと、固まった。そして顔を上げ、ジトリと俺を睨む。


「……それとコレとは話は別でしょ」


 俺は枝を傾げなら言った。


「別かなあ? ねえ、ゼロス。俺はね、ずっと不思議に思っていたんだ、……マスターは、封印される刹那、何故他の姿じゃなく、あのポヨポヨマスターにしたのかなって」


「突然何? 時間が足りなかったんでしょ。急いで等身比率を間違えたとか?」


「その可能性もあるね。だけど、俺はこう考えてみたんだ。……多分、マスターは、封印される前に、パーシヴァルの正体に気付いて、ゼロスが悲しむかも知れない可能性にも気付いた。……マスターは、ゼロスとゼロスの創ったこの世界が大好きだから、ゼロスに悲しんでほしく無かった。壊して欲しくなかった。……笑って欲しかったんだよ」


 ゼロスは眉間にシワを寄せながら、溜息をついた。

 俺は続ける。


「もうね、マスターの捨て身の作戦で、岩戸の隙間は開かれてるんだよ。ラムガル達の戦いは、その岩戸を力ずくでこじ開け、ゼロスすら手の届かない所へ岩戸を投げ捨てるための戦いなんだ」


 ゼロスはじっと遥か森の向こうを見つめ、首を振った。


「前向きに美化しすぎだよ。アインスのそういう所は、良くないと思う。……それにマスターは、“()()は滅びたくない”と言ってたでしょ」


「そうだね。……そしてマスターの生き甲斐は、この世界を守ること。……まあ、実際は生きてるというわけでも無いけど。マスターはね、なかなか素直な言い方をしないんだよね」 


 俺が愛しさ全開でマスターの話をすると、ゼロスに睨まれた。


「ーーー……そういう所は、気付いてあげないほうがいいと思うよ?」


 俺は慌てて言い訳する。


「そ、そうだね。マスターのデレには、気付かないふりをしてあげるべきだった。ゼロスは本当に優しいね。マスターのことをよく分かってる」   


 ゼロスは大きなため息をついて、低く唸るような声で言った。


「……だけど僕は、言ったことはちゃんとやるよ。滅っす()る時は、ちゃんと滅っす()るからね」


 その言葉に、俺は嬉しくなって枝を大きく揺すった。


「……ねえ、言った事をちゃんと守るゼロスは、どっちを応援するの?」


「……。……どっちも」


 ……。


 ーーー……どっちもするんだ!?

 ゼロスはここに来ても、愛に溢れているらしい。


「どっちも()()()って意味だからね!?」


 ……。


 ……まるで読心術でも使ったかの様に俺に注釈を入れると、ゼロスは溜息を吐き、再び目を閉じた。




 ◆




「ふぇっくしょっ!!」


 俺の根元で、小さなクシャミが放たれ、ルシファーが目を丸くしながら声を掛けた。


「大丈夫か? って言うか、人形のくせに随分バラエティー豊かなんだな……」


 呆れたように見るルシファーに、マスターは鼻をすすりながら暗い面持ちで答えた。


「いや、こんな反応は込めてない。……多分、この世界に異変が起こり始めてるんだ」


 ……違うと思う。

 ーーー……賢者も稀に、間違う事はあるようだ。


 ルシファーから事情を聞いたガラフが、目を見開きながら呆然と呟いた。


「パーシーが……? 嘘だろ」


「はあ……、嘘だったらどんなにいい事か……」


 大きなため息をついたルシファーに、ジャンヌが身を乗り出して言う。


「パーシーヴァル殿は、優しき方でした! 私が話します! もしそれが本当だとしても、必ず思い留まる筈です!!」


 ルシファーが頷いた。


「始めっからそのつもりだ。思い留まってもらわなきゃ困る。ーーーだが奴等は強力で、いち聖者程度しか力の無いお前らじゃ、下手すりゃ、パーシヴァルに届く前に消されるだろうな」


「……そんな……」


 言葉をつまらせるジャンヌに、ルシファーがニッと笑った。


「ーーー大丈夫だ。オレが、死んでもお前らを守ってやる。オレも同行させてもらうぜ!」


「……ルシファー殿……」


「はぁーーーー……。ーーー……あのさ、ルシファー。ふざけてんの?」


 ホッとするジャンヌと微笑むルシファーに、ものすごく嫌そうな深い溜息が放たれた。当然の如く、ポヨポヨマスターからだ。

 ルシファーが眉をしかめながら、その小さな姿を見る。


「ん?」


「……これ迄にゼロス様とジャンヌでひと悶着した。そしてジャンヌとパーシヴァルでひと悶着して、更にジャンヌとルシファーでひと悶着起こさせる気? 最悪の3角関係が完成するよ!? 見境なく落とそうとするのはやめてくれる? あー、もうっ! ホントにアンタって人はさぁ!!」


「って、してねえよ!? 何言ってんだお前は!!」


 青筋を立てながら本気でブチ切れてるポヨポヨマスターに、ワタワタと全力で否定しながら、言い訳をしようとするルシファー。もうグダグダだ。

 その時ひとりのハイエルフが、凛とした声でそれにストップをかけた。


「ーーー……痴話喧嘩は後になさってください。今はそれどころではありません!」


「「っ痴話じゃねえ((ない))し!!」」


 二人の男の声が、それはそれはとてもキレイにハモった。


 ……。

 ーーー……ハイエルフも稀に、冗談を言う事はあるようだ。



 彼らは事態を重く捉えつつも、意外と沈みはしなさそうだ。

 俺は愛しい彼らに、そっと祝福の言葉を送った。



「ーーー皆、頑張ってね。幸運を」




今後暫く、下々の者共の話になるかと思います。

(´・ω・`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ