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神は、触れ賜うた

 

 ハイエルフ達がラムガルに言った。


「ラムガル様、私共は森から出ることはできません。ですので、アインス様に近づく者を排除致します。何人たりとも、その刃をアインス様に向けさせぬよう」


「うむ。余は魔物共を集め、勇者や天使達、そして人間共を抑えよう。聖域内外の連絡はどうする? 精霊共は奴らの手に落ちた。人間共と共に居た、エルフやドワーフ、アニマロイド共も駄目であろうな」


「……そうですね。聖域内に居る森のエルフは、外のことをあまり存じ上げません。連絡役を務められるほどに知能の高い魔物は、戦力としてかかせませんでしょうし」


 ラムガル達が思案していると、ポヨポヨマスターが声を上げた。


「“闇のエルフ”ならば如何でしょう。力はありませんが、隠遁に優れた者達です。若干性格に難はあるものの、ダークエルフ様のお力を借り纏め上げれば、きっと役に立つ筈」


 そう言ったポヨポヨマスターを、ラムガルが睨む。

 ラムガルとマスターは、2500年の時を経てなお、犬猿の仲であった。


「……相変わらず、小賢しきやつだ。……そういえばお前は先程、ダンジョンの制御の設定が出来ぬ等と申していたな」


「……っ!?」


 ポヨポヨマスターの身体が震えた。

 ダンジョンに干渉できない。つまりポヨポヨマスターは今、ダンジョンを作り出せず、ラムガルから逃げる術も、立ち向かう力も無いのだった。

 マスターに積年の怨みを持つラムガルは、その不意の一言を聞き漏らしてはいなかった。

 小さな体がジリ……と、後ずさる。


「……い、今の僕は、ただの傀儡だ。しかもどんな衝撃をも受け流せる身体だ。そ、それに、何をしようが本体に影響はないし、無意味だよ。……そんな事より、今は協力すべき時だろう!?」


「……」


 ーーービシィーー!!!


「あうっ」


 ラムガルが無言で、ポヨポヨマスターの額にデコピンをかました。

 ダンジョンを操れないポヨポヨマスターは、なすすべなく弾き飛ばされ、10メートル程先の木にぶつかると、ポヨンと跳ね返り、ベショリとその根本に落ちた。


「な、何をする!? 魔王めっ」


「ふ……ふははははははは!! コレは良い余興だ! かつて賢者として名を馳せた貴様が、このザマとは!!」


 ラムガルは、物凄く嬉しそうに、高らかな笑い声を上げた。

 かつて賢者と謳われた男が、魔王をにらみながら、悔しげに言い放つ。


「くっ、愚かな魔王よっ! こんなことをして、ただで済むと思っているのか!?」


 魔王はそんな賢者を鼻で笑った。


「ふん、ただで済まないのは、もはや互いに同じであろう? ならばこのひと時を楽しもうではないか。ふはははははははは!!己の無力を嘆くがよいわぁーーーーー!!!」



 ーーーぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……。



「や、やめろおぉーーーーーーーーーー!!!」


 ーーーぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに……。


「ふははははははは!! なんと無様な! まるで“すくうぃーず”だなっ!!」


 滅っっ茶苦茶、嬉しそうなラムガル。

 ポヨポヨマスターは、苦悶と屈辱とその指圧に、その低反発仕様の弾力ある顔を、リアルに歪ませた。

 そして今、魔王ラムガルはかつてない程に、その悪事を心から楽しんでいた。



 ーーーその時、ふわりとレイスが降り立った。



「あ、……レイス様、これは決して……」


 慌ててマスターから手を放すラムガル。

 次にレイスの放った一言に、ポヨポヨマスターの目が見開かれた。


「……今流行(はやり)の、スクウィーズがあると聞いて」


 因みにこの世界で、スクウィーズが流行った歴史は存在しない。

 マスターから驚愕の小さな悲鳴が漏れた。


「っま……まさかっ」


 ーーーぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに。


「……」


「ふ、他愛もない……。さらばだ」


 レイスはそう言うと、満足げに去っていった。

 ラムガルとポヨポヨマスターは、無言でそれを見送る。


「……」


「……」


 ーーーぷにぷにぷにぷに。


 突然マスターが何者かに、再び背後から突つかれた。


「!?」


 振り返った先に見たのは、物凄い真顔のゼロスだった。



「……一ヶ月だ……。それ以上の延長はないからね」



 そう言うと、ゼロスも静かに去っていった。


「「「「……」」」」


 暫しの沈黙のあと、ルシファーがポツリと言う。


「時間もないし、始めませんか?」


「……うむ。奴は気に食わんが悪くない案だ。連絡役には闇のエルフ共を使おう」


 そして、面々は円陣を組み、再び話し始めた。



 ◆



 ラムガルがハイエルフ達と、攻防の配置について話を詰めている時、ふとルシファーがポヨポヨマスターに尋ねた。


「さっきの“音声”何だったんだ?」


「ゼロス様の怒りに触れて、なにか言える者なんて居ないよ。……僕だって、僕の行動パターンに従って動いてるだけだ。怒りを前にすれば固まってしまうからね。最悪の時用に、陳情音声を組み込んでおいた」


「……ポヨポヨの癖に、よく出来てるな」


 ーーーぷにぷにぷにぷに。


「ちょ、っ触らないでくれる!?」 


 ぴょこんと跳ねるポヨポヨマスターに、ルシファーが、にっと笑った。


「はは、ま、何だ。よくやった!」


 ポヨポヨマスターはぷいっと顔を背けると押し黙り、地面を睨んだ。


「……これからだよ。まだ、何1つやり遂げて無いんだから」


「ーーー……そうだな」


 ルシファーが笑みを消し、深く頷いたちょうどその時、ラムガルが、ルシファーに声を掛けた。


「雑魚共は我らが抑える。ルシファーはシヴァへの交渉を試みるが良い」


「はっ。尽力致します!」


 ルシファーがそう答えたとき、ポヨポヨマスターが首を振った。


「ルシファーには、その役目は務まりません」



「? じゃあお前が行くってのか?」


 思わず目を見張るルシファーに、ポヨポヨマスターは、言い放つ。


「違うよ。僕の本体を閉じ込めるような奴だ。僕の声が届くわけ無い。シヴァに声が届くのは、アレの身内だけ。なんの為にルシファーを呼んでもらったと思ってるんだよ? ーーー……“()()()()()”の二つ名に“自称”をつけといた方が良いんじゃない?」


 嫌味も混ぜて言い返されたその言葉に、ルシファーは目を見開いた。


「ーーー……お前、天才かよ! 確かにあいつ等なら、シヴァを止められるかもしれねえな! 一度流れに戻った奴等を呼び出すのは、オレの中でルール違反ではあるが、状況が状況だもんな」


 ルシファーがそう声を上げると、両手を大きく広げた。

 途端に、辺りが淡く青い光に包まれる。



「ーーー集え、過去の栄光、誇り高き騎士達よ。我が力と引換に、今一度その色を取り戻せ」



 途端、辺りからエメラルドのようにキラキラと輝くグリーンの粒子と、黄金の粒子が渦巻き始めた。



「今一度、お前達に、紛い肉の器を授ける。姿を現せ、パーシヴァルを主とした騎士ガラハッド! そして、パーシヴァルの伴侶、ジャンヌよ!」



 ルシファーが光の渦に魔石の欠片を投げ入れた瞬間、光が集約され魔石と融合し、白い光が弾けた。

 そして光が収まった後、そこには二人の若い人間が立っていた。遥か昔に、その生を全うした、ジャンヌとガラフ。

 二人は目を丸め、辺りを見回した。


「「え……」」


 ジャンヌがふと、ルシファーに目を留めて呟いた。


「……ルシア……様?」


「ルシアじゃねぇ。ルシファーだ」


 聖者達の楽園(エデン)へ送られた者は、漏れなく彼の名をルシアと呼ぶよう、マリアから調教されている。


「……いや、どっちでも良いんだが、俺ら確か流れに戻らせてもらったはずじゃ?」


 そう、ガラフとジャンヌは聖者として召し上げられた後、ひと回りエデンを観光して、魂の流れに還っていったのだ。

 ルシファーが、頭を掻きながら二人に言った。


「すまねえな。ーーー……だが、事情がかわったんだ」


 そして有無を言わさず、二人に告げた。



「手伝え。ジャンヌ、ガラハッド。ーーー世界の命運が、お前らにかかってるんだ」



 二人は、訳もわからず顔を見合わせたのだった。




そして、最後の聖戦が始まります……。


今週私用が入り、投稿ペースが少し落ちます。

書きたいのですが、時間がっ……(汗)(´;ω;`)


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